『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』




朝の鍛錬を終えてシャワーを浴び終わると、丁度朝食の時間だった。

「みんな〜!朝ごはんができたよ〜!!」

明日香ちゃんの声が家中に響いた。

「あっ!恭也お兄ちゃん、おはよう!」

「ああ、おはよう。明日香ちゃんは、朝から元気だな」

「うん!……それにしても恭也お兄ちゃんって、お兄ちゃんと違って早起きさんなんだね!」

「……六介さんも言っていたが、猛はそんなに朝が弱いのかい?」

俺は気になったことを聞いてみた。

「そ〜なんだよ〜。だから、毎日私がボディプレスして起こしてるんだよ♪」

「ボ、ボディプレスというと、もしかして飛び掛ってるのかい?」

「うん!そうすると一発で目が覚めるんだよ♪」

な、なんて恐ろしい子なんだ。
そんな起こされ方をされたら、目が覚める前に意識が飛んでしまいそうだ。
寝坊なんてほとんど無いが、これで絶対にできない理由ができてしまった。

「と、ところで、猛はもう起きたのかい?」

僅かな期待を込めて、明日香ちゃんに聞いてみた。

「ううん、一度お姉ちゃんが起こしに行ってるんだけど、まだなんだ。
 だから、これから私が起こしに行くんだ♪」

明日香ちゃんはそう言うと、猛の部屋へ行ってしまった。

「(……猛、骨は拾ってやるぞ……)」

薄情とは思いつつも、食堂へ向かった。
しかし……

「ぎゃああああ〜〜〜〜!!」

すぐに、そんな声が聞こえてきた。





第三話 いざ、出雲学園へ(前編)





食堂に着くと、台所の方では琴乃さんが料理をしていた。

「おはようございます、琴乃さん」

「おはようございます、恭也さん。昨夜はよく眠れましたか?」

「ええ、おかげ様で」

いつもなら、ここで席に着くところだが、如何せん今は居候の身だ。

「何か手伝いましょうか?」

「大丈夫ですよ。あとは盛るだけですから、席に座ってて下さい」

こう言われたら、黙って座るしかない。
ふと食卓の方を見やると、既に六介さんが座っていた。

「恭也君は気が利くのう。猛とは、大違いじゃ」

「(六介さん、それは違います。俺も本当は、猛と大差ないんです)」

そう……高町家は二人の料理番によって守られているので、俺のやることは何一つない。
もっとも、そのおかげで朝の鍛錬に時間が割くことできるのだが。

「そうじゃ、恭也君。今日は君の転入手続きをするから、学校に行っておくれ」

「わかりました……ところで、学校はどこにあるのですか?」

「ここから、山道を十五分位登った所じゃ。猛は今日部活があるから、案内させよう。
 手続きが済んだら、ついでに校内の見学をしてきたらどうじゃ?」

「わかりました。そうさせて頂きます」

こうして昼間の予定が決まったのだが……


「……おはよ〜ス……」

その後ろでは、心底疲れた声の主が食堂に到着しようだ。

「遅いぞ、猛。それに何じゃ、その朝から疲れ切った顔は?」

「……ちょっと台風が通り過ぎただけだよ……」

台風(明日香ちゃんによるボディプレス)に襲われた猛は、力なく答えた。

「お待たせしました。ごはんができましたよ」

琴乃さんはそう言うと、ご飯を運んできた。

「それじゃあ、いただきます」

『いただきます!!』

六介さんが食べ始めたのを皮切りに、みんなが食べ始めた。
昨日の夕飯の時にも思ったが、やはり琴乃さんの作ってくれた料理はどれも美味い。
和食ということで、晶の料理とつい比較してしまうが、甲乙付けがたいぐらい美味い。

「恭也さん、お味はどうですか?」

いつもと違う人間がいるせいだろうか。琴乃さんは俺に、自分の料理の評価を聞きたいようだ。

「ええ、とても美味しいです。それと昨日は言えなかったですが、昨日の夕飯も美味しかったです。
 約束通り、美味い飯をご馳走になりました。ありがとうございした」

そう、昨日知ったことだが、白鳥姉妹は朝飯は塔馬家で摂るが、夕飯は自分たちの家で摂る。
これは、彼女らの母親が昼過ぎに起きてくることと、塔馬家の悲惨な食事状況を見かねてのものらしい。

「い、いえ!?お口に合って良かったです/// 」

む、何だか分からないが、またも琴乃さんの様子が変だ。
しかし、昨日何でもないと言われたから、俺の勘違いかもしれない。

「何か、昨日と同じようなやり取りじゃな……恭也君、君はもう少し周りの目を気にした方が良いぞ」

何故か呆れながら、六介さんにそう言われた。そして、何故か周りのみんなも頷いていた。



「そうじゃ、猛。さっき恭也君には言ったんじゃが、今日の部活に行くついでに、
 恭也君を学校へ案内してやってくれ」

「へ、なんで?まだGW中だぜ?」

「編入手続きをするためじゃよ。わしは先に行って書類などを揃えるから、お前が案内してやれ」

「あ〜、そっか。分かったよ……どうせ俺も学校に行くからな」

「頼んだぞ」

六介さんと猛のやり取りは終わったようだ。

「(編入手続きか……これで正式に、出雲学園の生徒になるんだな……)」

多少の不安はあるものの、これで出生探しは一歩前進といったところだ。
出雲学園の生徒は、この付近に住んでいる人がほとんどだと聞くから、
何かしらの情報が手に入るかもしれない。




『ごちそうさま(でした)〜!』

みんな食事が終わり、それぞれの行動に移る。

「(この後は学校に行くから、今のうちに準備をしておいた方が良いな)」

そう考えながら準備に取りかかる……といっても、服装を整えるぐらいだしかないが。



「それじゃあ、行くぞ?」

「ああ、頼む」

猛が部活に行く時間になり、俺たちは塔馬家を後にした。

「そうだ、恭也は剣をやるんだよな?だったら、剣道部に入らないか?」

剣道部か……鍛錬の相手がいない今の状態では、正直ありがたい申し出だ。
しかし、俺の剣は活人剣である剣道とは対極にあるもの。
そう、殺人剣だ。如何に速く効率よく殺せるか……それを突き詰めた剣だ。
そんな剣を剣道部に持ち込む訳にはいかない。

「いや、三年のこの時期にいきなり入部したら、みんなが混乱するだろう。
 ……折角のお誘いだが、遠慮させてもらう」

当たり障りのないことを言って、誤魔化すしかないな。

「そっか、残念だな。『剛』も強い奴と闘れて、喜びそうなのにな……」

『剛』?話からすると剣道部員のようだが……

「ああ、『剛』っていうのは『大斗剛』て言って、俺の幼馴染兼親友なんだ」

俺の顔が怪訝そうに見えたのだろう。猛が説明してくれた。

「そいつも剣をやるんだけど、俺はそいつに勝ったことがないんだ」

「ほう、それは凄いな」

「あぁ!うちの学校から全国に行ってるのは、そいつだけなんだぜ!?」

全国か……少なくとも赤星クラスといったところか。

「俺の親友にも全国に出てる奴がいるぞ。赤星というだが……知ってるか?」

「あ、赤星!?知ってるも何も、全国大会の常連じゃないか!」

「ああ、そうらしいな」

「……恭也。お前って凄い奴と知り合いなんだな……」

「良かったら、今度あいつと闘ってみないか?あいつならすぐに了承すると思うが」

「えぇ!?、マジで!!それじゃあ、頼む!剛以外で強い奴と闘れるなんて久しぶりだからな……」

「そうなのか?六介さんはどうなんだ?」

「じいちゃんは別格だよ。いまだに一本も入れられないだぜ。しかも、その筋では伝説扱いされてるんだぜ」

やはりそうか……只者ではないと思ったが。
今日の夜にそんな達人と闘れるなんて、俺はなんて幸運なんだ。



そうこうするうちに、学校の門の前までやってきたようだ。

「ちょっと待っててくれ。さっき言った『剛』と待ち合わせてるんだ」

猛がそう言い終えるか否かのタイミングで、一台のリムジンが校門の前に横付けされた。

「おはよう、猛。珍しい、お前の方が早いなんて……今日は雪でも降るんじゃないか?」

「今日はお客さんがいたからな……いつもより早めに家を出たんだよ」

猛がそう言うと、『剛』君がこちらも向いた。

「猛、こちらの方は?」

「ああ、GW明けから出雲学園に転入することになった、『高町恭也』さんだよ。
 あと、うちで下宿することになったんだ」

猛が説明してくれた。

「こんな時期にか?それに高町さんは何年生なんだ?」

「自分は三年生になります、ちょっとした理由があって、半端な時期の転校になりました。
 よろしくお願いします」

「そうなんですか……俺は大斗剛と言います。俺の方が学年が下ですから、敬語は不要です」

「そうか……では、『剛』と呼んでも構わないかい?」

「ええ、構いません」

「それと、俺の方も呼び捨てで構わない。堅苦しいのは苦手なんだ」

「そんな!?年上を呼び捨てにするなんて……」

どうも剛は真面目な性格をしているようだ。もっとも俺が剛の立場だったら、同じく迷っているだろうが。

「良いじゃんか。本人がそうして欲しいって言ってるんだから」

「しかし……」

猛の助け船にもあまり効果はないようだ。

「……では、『恭也さん』で。それでお願いします」

どうやらこの辺が、彼の妥協のラインらしい。

「わかった。じゃあ、それで……これからよろしく」

「はい、よろしくお願いします」

しかし、彼が剛か……猛の話通りかなりできるようだが……

「剛、そろそろ時間がヤバいぞ!」

「本当だ!恭也さん、それでは失礼します。猛、行くぞ!」

二人はそう言うと、駆けていってしまった。

「ああ、二人とも気を付けてな」

そうして、二人の姿が見えなくなるまで見送った後、あることに気付いた。

「……編入手続きはどこでやれば良いんだろうか……?」










あとがき

猛のライバル、大斗剛の登場です。
彼は礼節を重んじる性格なので、恭也に似ているところが多いです。
ただ、結構恭也には薄情なところがあります。たとえば、今回猛を見捨てたり……
そこが両者の差かもしれませんね(笑)

前回、今回と次の回は前後編だと宣言しましたが……
ごめんなさい。色々と変更点があって、前後編では収まらなくなりそうです。
その分、いくつか仕掛けを用意するつもりなので、ご期待(?)下さい。

それでは、失礼します。





転入手続きに訪れたまでは良かったが…。
美姫 「いきなり迷子の子猫ちゃん状態」
まあ、迷子ではないんだがな。
美姫 「行き先不明なのよね」
一体、どうなるのかな。
美姫 「誰かに案内してもらうのが妥当だけれど…」
GW中。果たして、運良く通りかかる生徒はいるのか。
美姫 「次回も楽しみに待っていますね」
待っています。



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