最早、外の光が届かない程奥の洞窟内。互いの肩を借りる様な形で張角こと秀麗と一刀はゆっくりと、しかし、確かに歩みを進めていた。

 

  ゆっくりな歩みなため、相当な時間をかけても瑠麗達が居る広場まではかなり距離があった。

 

  ドオン!!

 

  ズオォン!!

 

  しかし、それでも張宝こと瑠麗(りゅうれい)の魔術と張梁こと神麗(しぇんれい)の業火がぶつかり合う轟音が響く。

 

「……………。はっ………派手にやってやがるな……」

 

  于吉が左慈を回収した件で、瑠麗のことを心配していたが、この戦闘の音を聞き、一刀は安堵の笑みを浮かべながらおちゃらけた様な台詞を吐く。

 

「………」

 

  しかし、神麗は応えることもなく、未だに神妙な面持ちのままだった。

 

  秀麗は瑠麗が闘っている相手が神麗だとは知らない。だが、相手が誰であれ、秀麗は妹達に闘って欲しくないのだ。

 

「………」

 

  一刀も秀麗の声も無いといった様子に、自分のデリカシーの無さに今更ながら、罪悪感を覚える。

 

 しかし、今の自分にはかけるべき言葉が全く思い付かず、今はとにかく瑠麗と一刻も早く合流するべく歩み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十一話:愛する刻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■――――――!!!」

 

  神麗は雄叫びを上げつつ、業火を放つ。

 

  ドオン!!

 

  それを例の如く、瑠麗は洞窟の一部をシェルターにして防ぐ。

 

「………(くいっ)」

 

  人差し指と中指だけを立てた状態の左手を無言のまま瑠麗は振るう。

 

  すると瑠麗が作り、神麗が破壊したシェルターを形作っていた無数の破片が高速で神麗に飛び掛かる。

 

  しかし、その高速で飛び掛かってくる破片も龍の身体能力を有する神麗は何の苦もなく、業火を以て迎撃する。

 

 そして、神麗の業火はいとも容易く瑠麗の魔術を消し炭へと変える。

 

「ハッ!(くいっ)」

 

  だが、瑠麗は間髪入れずに次の攻撃を放つ。

 

  その攻撃は先程の攻撃より強力で、尚且つ先程とは逆方向からの攻撃であった。

 

 初弾は囮。注意を引き、この攻撃を当てるための囮である。

 

 そして、元からそこまで知力も戦闘経験もある訳ではなかった神麗は見事にその囮に引っ掛かった。

 

「――――■■■!!??」

 

  明らかな困惑の声。

 

  半龍化した状態でも、簡単に解る程動揺する神麗。

 

  ガンッ!

 

  ギィンッ!

 

  それでも、ほとんど反射神経だけで神麗は龍種にしては短い尻尾で一群を払い、鉄の様に強固な皮膚の手で残りを払う。

 

  今現在、神麗の最大の武器は小さな口から放たれる業火ではなく、龍化に伴う圧倒的な身体能力である。

 

  それは神麗とて解っていた。故に先程から遠距離からの魔術による攻撃をしながら決定的な隙を探り、また作ろうとしていた。

 

  そして、今が“隙を作る”好機と判断し、更に瑠麗は攻勢を強める。

 

  ビュン!ビュン!ビュン!

 

  次から次へと魔力の籠められた岩片を神麗に向かい射出する。

 

 そして、その岩片は神麗を中心に円を作る様に飛び続ける。

 

  それはまるで、竜巻の様であった。

 

「――――■■■■■■■■!!!!」

 

  その四方からの攻撃はあまりに完璧で、死角のない全方位攻撃であった。

 

  その攻撃を目の当たりにして、神麗は今まで一番の音量で咆哮すると共に、その小さな口から業火を放つ。

 

  しかし、ただ放っただけでは終わらない。

 

 今までは、一方方向に向けて放つだけで終わっていたが、今回はそこから身体を回転させる。結果、当然の様に瑠麗の放った岩片は全て消し炭に変わる。

 

  端から見れば攻撃は失敗したかに見えた。しかし、瑠麗はこの時を待っていた。

 

  神麗は今まで長時間業火を放たなかった理由は、身体に負荷がかかり僅かな間だが業火を放つことができなくなるからだ。

 

  その僅かな時間が、今の瑠麗には千金に値した。

 

  煙が晴れ、神麗から瑠麗の姿が再び視認できる頃合いになる。しかし、神麗には瑠麗より真っ先に飛び込んできたモノがあった。

 

  それは、彼女が最も得意とする――十八番と言っても良いぐらい得意な魔術――彊戸(きょんしー)の大軍がであった。

 

  その数は10や20などでは到底及ばない。

 

 その数、実に86体。

 

  86体の彊戸は足並みを揃え、進軍を開始する。

 

  ここで瑠麗の恐ろしさを改めて実感する。

 

 86体の彊戸はいずれも意志を持たせていない。

 

  これ程の数の彊戸を一度に操る――それ以前に、これ程の数の彊戸を造り出すのも至難の業であるのだが――となれば、例えば『目の前の敵を倒せ』、『主人を守り抜け』等といったオートプログラム――意志が必要になる。

 

  しかし、瑠麗の造り出した彊戸にはそれが一切合切ない。

 

  つまり、86体の彊戸を一度に全てマニュアル操作しているのだ。

 

  これは凄いを通り越して異常である。

 

  一刀でも、一度に操作できる彊戸の数は精々5体がいいところ。二桁でも充分超一流である。

 

  瑠麗も同じ二桁ではあるが、この二桁は変な言い方だが、正に桁違いのモノだった。

 

  これは一刀が授けた術とは無関係なモノ。つまり、瑠麗の実力である。

 

 

 

 

 

 

 

 

  疑問がある。

 

  瑠麗は『魔力を使わず魔力を使う魔術』を行使している。

 

  そして、それを授けたのは一刀であった。

 

「今更ですが……瑠麗に教えた魔術とは何ですか……?」

 

  先程の無神経な自らの振る舞いを恥じてか、一刀は会話を自粛しながら秀麗の肩を借りながら歩いていた。

 

  そんな一刀に、逆に気を使った秀麗は話題を持ち掛ける。だが、その話題が魔術であるというのは些か皮肉の様に感じられた。

 

「いや……別に………俺はただ足掛けを話しただけだ…」

 

「?……足掛け…ですか……?」

 

  一刀は秀麗には全貌どころか尻尾すら見せていなかった。

 

  それは一刀なりの気遣いであったのだが、本人から訊かれては答えるしかないと思い話し始める。

 

「あぁ……。先ず、アイツの魔術回路は異常だ」

 

 一刀の言うことは正しかった。

 

 それを話す前に、先ず、魔術回路について説明しよう。

 

 魔術を車に例えるならば、魔力はガソリン。魔術回路はエンジン。

 

 エンジンの馬力があれば、車はより速く走る。ガソリンがあれば、車はより長く走るという訳だ。

 

  そして、以前、瑠麗の魔力を数値で表すと8万になるといった。瑠麗は一度の魔術行使で最大2万の魔力を使用できる。

 

  例としてあげるならば、一刀は1000。秀麗は1400。半龍化していない神麗は200。

 

  神麗の200も一刀のいた時代ではトップクラスの数字である。

 

  瑠麗は神麗の実に千倍に当たる。

 

「はぁ……まぁ、そうですが……」

 

  ただ、秀麗とて自分の妹の異常とも言える才能を当然知っている。

 

  なので、今更何を、といった表情で頷く。

 

「瑠麗は無限に魔力が利用できれば、まず誰にも負けない」

 

「………」

 

  次第に何が言いたいのか解らなくなってきた秀麗は首を傾げる。

 

  一刀殿の言っている意味は解る。

 

 瑠麗が自分並の魔力を有していれば、穎川(えいせん)で神麗が于吉に支配された時に間違いなく勝負を挑み、于吉達が介入しないことが前提だが、勝つ可能性も充分にあるだろう。

 

「だから俺は、それを可能にする魔術を使うための“方法”を教えたンだ」

 

「魔術を使用する…“方法”…を………?」

 

 その独特の言い回しに秀麗は思わず訊き返す。

 

  術式などではなく、“方法”……?

 

  一刀殿とは多少なりとも――私はあまり饒舌ではないのでたくさんではないンでですが……――お話して、彼はとても頭がよく、また知識もあると解った。

 

  なので、恐らく今の言い回しにも意図があるのでしょう……。私には解りませんが………。

 

「世界は…“意味”で溢れている。そして、その“意味”は…魔術にも通じる…」

 

  秀麗は頷く。

 

  秀麗も超一流と呼べる魔術師である。一刀の言葉も当然理解できる。

 

「ンでもって、俺が今回教えた“方法”は順列だ」

 

「順列……」

 

  簡単に言い替えれば並び順のことです。

 

  それは、解ります。でも、何の……?

 

「この世で最も大きいモノの順列だ」

 

「最も、大きいモノの順列……?」

 

  俺の遠回しな言葉では聞いても解らないのか、秀麗は反則級の――俺でなくともこの表現は使うぞ!――可愛らしさで小首を傾げる。

 

  まぁ…無理もない……。

 

  この時代に、俺の言っているモノはあまり知られてないし、興味も抱かれてないからな…。

 

「つまり、惑星順列だ」

 

「わく…せ…い……?」

 

  あれ〜?まさか、惑星から教えなきゃならんのか…?

 

 いや、これも仕方ないか……。この時代では、惑星と衛星なんて区別すらされてないだろうし……。

 

「えっとだな……かいつまんで言うなら、星だ」

 

  適当過ぎる気もするが、惑星だ何だのの説明をここでする気はない。

 

  よって、スーパー省略で説明する。

 

  だが、秀麗はそんな俺の説明に「あぁ……」納得した様に頷く。

 

  その純粋な表情を見ると、仕方ないとは言え、厳密には――そこまで厳密に追及しなくても――間違った説明を行ったことに罪悪感を抱きつつも、一刀は話を続ける。

 

「俺も驚いた。ダメモトで惑星を観測したら見事にそれが今日だったンだからな……」

 

  偶然にしてはできすぎ。

 

  そう感じずにはいられない程の奇跡に近い出来事。

 

  何せ、その順列は一般に500年に一回の割合で起こるモノだからだ。

 

「えと……『それ』とは何ですか……?」

 

「え?あぁ、スマン」

 

  話しながら、自ら観測し、それが解った時の興奮――不謹慎であるのは重々承知だがそうならずにはいらなかった――を思いだし、重要な部分が飛んでいたな…。

 

「瑠麗に無限の魔力を与える魔術の順列――生活には、無限に限り無く近い量の魔力を引き出す魔術の順列だ…」

 

「限り無く…無限に近い量……」

 

  星の順列……。

 

  ……成る程。確かに、瑠は星の観察――天文学などできない。

 

  一刀殿の知識があって初めてできる魔術ですね……。

 

  つまり――

 

「天にあまねく星を全て魔力の供給源とする魔術ですね……」

 

  恐ろしい……。

 

  例え、于吉が――いえ、誰が相手でも星の魔力を引用した瑠麗ならば誰にも負けない。

 

「いや……星じゃない…」

 

「え…?」

 

  星じゃないって……じゃあ、何でしょう…?

 

「あ……言葉が悪かった。正確には、他の星は関係なく…この星――つまりは地球だけだ。大地属性の瑠麗は地球からしか魔力を引き出せない」

 

  地球だけ。

 

  だが、それでも充分過ぎる。秀麗もそれぐらい解る。

 

  この世のドコに、地球を越える魔力を有する者が居るだろうか?

 

  そんな者、居るハズがない。

 

「だから……瑠麗が負けるハズない…」

 

  一刀は余裕を感じさせる笑みを口元に浮かべながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

  地球から魔力を引き出す。

 

  これを行うためには惑星の順列と属性が大地であるということが大前提だが、それが整えば無条件でという訳ではない。

 

  天才という言葉すら生温い程の才能を以てして漸く使うことができる魔術だ。

 

  ともあれ、瑠麗は地球という、この星で最大級の単位の魔力を使い、神麗を追い詰めるべく彊戸(きょんしー)の軍隊を進軍させる。

 

「■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

  その群を、敵を視界に捉えた瞬間に神麗は洞窟中に響き渡る様な咆哮をする。

 

  目の前の群を本能的に威嚇しているのだ。

 

  しかし、その行為は当然無駄である。

 

  彊戸達はただ瑠麗によって操られているだけの、中身の伴わない土人形。生物ならば何であろうとも、退却を命じる本能――所謂、恐怖など微塵も兼ね備えてなかった。

 

「――――――」

 

  だが、瑠麗は生物――人間だ。

 

  当然、恐怖が身体に、頭に、心に、魂によぎるかの様に思われた。が、瑠麗の人間としての全機能はそうではなかった。

 

  今の瑠麗に去来する思い。

 

  それは、後悔。

 

(解っている……)

 

  こんな感情を抱くのは間違っている……。魔術師失格だ。

 

  例え話として、他人の子どものために死ねる人間はどれだけ居るだろうか?

 

  そんな物好き、生きている間に一人でも出会えたなら、それは奇跡だ…。

 

  今、私がこの娘を殺すのは、そういうこと……。

 

  この娘がヒトを、世界を殺すなら……私は止める…。それが、他人によるところでも…。

 

  だって、そうでしょ?

 

  一人の人間が死ねば、世界の危機は回避される。そんな状況下において、例え法が何と述べようとも、誰かがその一人を殺す。

 

  世界の、多くのヒトの命が、神麗一人の命で助かる……。ならば、それを実行するのは当然。

 

(――考えてみれば……スゴいことかも……)

 

  姉さんと一刀。

 

  私は……一回の人生で、二人の物好きに出会えた。

 

  他人のために、死ぬ覚悟を持てる物好きに……。

 

  だけど……二人はもう………。

 

「終わりにしましょう………。もう…こんな悲劇は………」

 

  好きなヒトが死に、最後に残った大好きなヒトを殺す。

 

  悲劇の幕は、もうすぐ下りる。

 

「■■■■■■■」

 

  ブゥオオォォオォ!!!!

 

  業火が彊戸の進軍を阻む。

 

  しかし、やられたのは最前線の彊戸のみ。後に続く彊戸は、その残骸をただの地面同様に踏み、歩く。

 

  その上、残骸とされた彊戸は後方からスグに補給される。

 

  キリがないとは、正しくこのことだ。

 

  次から次へと涌いて出る彊戸達を、業火を以て焼き払う神麗。

 

  しかし、全てを灰塵に帰すことなどできるハズもなく、彊戸達はジリジリと距離を縮める。

 

「■■■■■!!!」

 

  そんな状況に神麗は動きを変えた。

 

  わざわざ、近寄って来る敵を遠距離用の武器――業火――で迎撃するのは非効率的、と謂わんばかりに彊戸の群へと飛び込む。

 

  ドスン!

 

  グワァン!

 

  先ずは両手の尖った爪で切り刻むのではなく、その圧倒的な腕力にモノを言わせて一気に7体の彊戸を叩き潰す。

 

 更に攻撃は続き、彊戸達は瞬く間に貌(かたち)を失う。

 

  小さい身体でありながら、巨大な――2mはゆうに越えている――彊戸を力で圧倒する。

 

  それは異様な光景なハズなのに、当然と感じられる。

 

  バゴン!

 

  後ろに回った彊戸を短い尻尾で一薙ぎにする。

 

「■■■■■!!!」

 

  躍動する神麗。

 

  これこそが、龍種の本領であった。

 

 勿論、彊戸達とて攻撃している。だが、その攻撃は全く意味をなしていない。

 

  ニンゲン――いや、他の物体が幾ら懐に入ったところで為す術はない。

 

  神がこの世に与えた、不公平の一つ。

 

  生まれながらにして、覆せないことが確定しているモノ。

 

  それが躍動する。

 

  理屈など不要。

 

  そこにあるのは、ただ純然たる強さの象徴。

 

  ならば、それに挑む魔術師は何だ?

 

  絶望を改めて示すための生け贄か?

 

  否。

 

  絶望を覆す英雄か?

 

  否。

 

  彼女は、たった一人の“妹”を愛する、一人の“姉”だ。

 

「■■■■■■!!!!!」

 

  またも神麗は、彊戸をその右腕で叩き潰す。

 

  彊戸はそれが自然の摂理であるかの様に原型を失う。

 

  その時だった。

 

 ドォオオォォン!!

 

「――――■■■■!!!!!????」

 

  彊戸達がまるで爆弾の様に爆発した。

 

  魔力を逆流させ、彊戸は自爆したのだ。

 

  いや、正確には自爆“させられた”が正しいか。

 

  一つ一つの破壊力は大したことはなくとも、残った彊戸が一斉に自爆すれば話は別だ。

 

  その彊戸達全ての自爆は洞窟を形作る、この山さえも揺るがす威力だ。

 

「―――――――」

 

  反射的に腕を顔の前に組む神麗。

 

  咆哮はなく、ただその爆風を耐えるしかなかった。

 

  やがて、響き続けた轟音は止む。

 

  圧倒的な破壊力があるハズの自爆攻撃を以てしても――効いてはいるだろうが――芳しいダメージを与えることはできなかった。

 

「―――――――」

 

  神麗は喉を鳴らす様に唸りながら視線だけを動かす。

 

  しかし、当たり一面は煙で視界は埋め尽くされ、神麗の龍の目は何も捉えることができない。

 

「ハアアァァアァ!!!」

 

「―――――!?」

 

  すると、神麗の後方からいきなり瑠麗の叫び声が響く。

 

  神麗が慌てて振り向く。

 

  シュンッ!!

 

  シュンッ!!

 

  シュンッ!!

 

  瑠麗を迎撃しようと急ぎ振り向くと、後方から魔弾の様な威力を持った岩片が飛んできた。

 

  瑠麗に完全に気を取られていたために、その攻撃は完全なる不意討ちだった。その上、爆煙のために視界が悪かったために神麗はその岩片をもろに喰らう。

 

「―――■■!!?」

 

  短い咆哮。

 

  例え龍種でも、異常な痛みには耐えきれず、悲痛な声を発する。

 

「シェンーー!!!」

 

「―――!?」

 

  神麗の愛称――シェン――を呼びながら更に懐に飛び込む瑠麗。

 

  その右手には、一刀の切り札――10年間欠かさず魔力を込め続けた一刀の動脈血が詰まった玉が握られていた。

 

  一刀がもしもの時のために予(あらかじ)め渡していたのだ。

 

  属性が違うため多方面に玉に込められた魔力を使うことはできないが、ただ純粋な破壊をもたらす魔弾や回復用に使うことは可能だった。

 

  瑠麗の魔術と一刀の切り札。

 

  この2つが同時に炸裂すれば神麗を倒すことも可能。

 

  自らの生命の危機を感じてか、神麗は迎撃をしようと刃物の様に鋭い爪の右手を突き出す。

 

  しかし、完全に間に合わない。

 

  神麗の行為は悪あがきでしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 瑠麗と合流しようと互いを支えながらゆっくりと歩く一刀と秀麗。

 

 ドォオオォォン!!!

 

 すると、いきなり洞窟どころか山全体が揺れる。

 

 彊戸達の一斉自爆の影響だ。

 

「キャッ……!」

 

「うわっ……!」

 

  何だ、この揺れ!?

 

  瑠麗の奴、派手にやりすぎだ!

 

 この洞窟が崩れたらもともこもねぇんだぞ!!

 

「一刀殿、今のは……?」

 

「瑠麗だろうな……」

 

  地球の魔力を引き出す方法は教えたし、保険として俺の玉も渡したが、瑠麗がどんな戦法を取っているかなど判らん…。

 

  判らんが、これをやっているのは于吉じゃないことは明白だ。

 

  于吉ならば、こんな洞窟を破壊するかの様な無茶苦茶は先ずしない。

 

  ドンッ!

 

「キャッ!」

 

「あ…!?」

 

  ダキッ!

 

 一刀達の極近くからの轟音に驚いた秀麗は反射的に一刀に抱き着いてしまった。

 

 ムニュッ

 

  柔らかい……――じゃなくて!!

 

「て、天井が……」

 

  崩れてきた!?

 

  天井の岩が落ちてきやがった!

 

「ま、マズイ……ですよね………?」

 

「あぁ……明らかに洞窟が崩れ始めやがった」

 

  ったく…もうちょっと計画的に暴れろよ!

 

  このままじゃ、みんな揃って生き埋めだ!!

 

  そうなる前に急がないと!

 

「い、行くぞ、秀麗!」

 

「は、はい…!」

 

  とはいっても、今の俺達じゃあ、急いだところでそう簡単に何とかなる訳じゃない。

 

  だが、それでも、一分一秒でも早く瑠麗と合流せねば…!

 

  二人は僅かばかりだが、歩調を速めて再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ポタッ

 

  ポタッ

 

  水が滴(したた)る音が、異常なぐらいに耳につく。

 

  生温い温度と鉄っぽい臭い。それが地面に水溜まりを作る水が血であると物語っていた。

 

「――――――――――――――え………………?」

 

 バルムンク(龍殺しの英雄の加護)の支配を受け、ニンゲンの声など発することなどできないハズの神麗が半龍化してから初めてニンゲンの言葉を発する。

 

  小さいながらも鋭い爪を持つ右手は自分の大好きな姉の腹部に深々と刺さっていた。

 

「―――――――りゅう………あねさま……?」

 

  状況が理解できないらしく、その右手を抜こうともせず大好きな姉に話し掛ける。

 

  その声を、言葉を聞いて、瑠麗は重傷にも拘わらず、安堵の表情を浮かべる。

 

「………良かった……シェン……ケガ……痛くない……?」

 

  ふんわりと優しく包まれる様な感触。

 

  それで神麗は理解した。

 

 瑠麗は神麗を優しく抱き締めているのだと。

 

  そして、瑠麗の言葉を聞き、背部に意識をする。

 

  すると、岩片によって傷付けられた背部には瑠麗の右手があった。

 

  ただそれだけではなかった。

 

  怪我があったハズの背部にはかすり傷一つすらなかった。

 

「……………ごめん、ね……。痛かった……よ……ね……」

 

「りゅう、あねさま……」

 

  瑠麗は一刀から預かった切り札――玉を攻撃に使っていなかった。寧ろ、その真逆の治癒のために使っていた。

 

  その部分はまるで、戦闘の始まる最初の頃の様に傷一つない状態だ。

 

「なん……で……」

 

  半龍化し、身体の自由が利かなくなった状態でも僅かに意識は残っていた。

 

  故に神麗は自分がヤられるべき状態にあったことを理解していた。

 

  自分は負ける。

 

  それはある意味、神麗にとっては当然の結果に思われた。

 

  何しろ、瑠麗は神麗にとって最強の強さを誇る魔術師だったからだ。

 

  勝負が決まったと思った瞬間に「あぁ……やっぱりなぁ……」と、諦めではなく喜びを感じてしまうぐらいにだ。

 

  なのに、瑠麗は自分を攻撃しなかった。その行動に疑問を持たずにはいられなかった。

 

「ふっ………当たり前、じゃない……」

 

  理由なんて、一つ。

 

「シェンが………大好きだから…………」

 

  決めたのに……シェンのために殺すって…。

 

  だけど……できなかった。

 

  龍の声なのに、シェンの痛がってる声を聞いたら……私には、もうシェンをキズつけるなんて……できなかった……。

 

  笑っちゃう……。

 

  『シェンのために殺す』なんて誓っておきながら、結局……“自分”の為に…シェンを殺せなかった。

 

「……りゅう………あ、ね……さま……!」

 

  龍には涙腺などない。だが、神麗は半龍半人だ。

 

  故に涙が溢れるのも当然だ。

 

  大好きな姉を……文字通り、自分の手で深く傷付けてしまったのだから。

 

 すぅ…

 

 瑠麗は自分の懐で涙を流す小さな女の子――神麗の頬を愛しそうに撫でる。

 

「………泣か、ないで………シェン………。わたし、の………大好き、な………」

 

  必死に作った笑顔で瑠麗は続ける。

 

「……わたしの………大好きな、いも………………と………」

 

  すぅ…

 

  言葉が終わるのと同時に、瑠麗の手は笑顔のまま力なく下がる。

 

 そして、力を失ったのは頬撫でる手だけではなく、身体全体もであった。

 

 バタッ…

 

 瑠麗は力なく倒れた。

 

「――――――りゅ、りゅう、あねさま…………?」

 

  血の水溜まりに倒れた瑠麗に話し掛ける。

 

  しかし、神麗の声に瑠麗は応えない。

 

「―――――いや……!」

 

 両手を頭に当てながら、首を左右に振る。

 

「イヤァァアアァァァアァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

  瑠麗が、倒れた……。

 

  見た限り、于吉の姿はなく、瑠麗は何故か半龍化状態の神麗と闘っていたようだ。

 

  理由は解らない。

 

  だが、瑠麗は神麗の手でひと突きにされていた。

 

「リュウ!シェン!」

 

  一刀が状況把握できずにいると、秀麗が上手く動かない身体で真っ先に走りだした。

 

  一刀もボロボロの身体に鞭を打ち歩調を速める。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…………シェン!リュウ!」

 

  秀麗は地面に横たわる瑠麗と両膝を地面に着く神麗のスグ傍に辿り着く。

 

「……っ……っ………ぁ………っ!…………っ………ぅ……」

 

「シェン………」

 

  見る限り、神麗には外傷はない。

 

  けれど、泣きじゃくる神麗を放っておくことなどできるハズがない秀麗は、一刀がスグに瑠麗の傷の治療に取り掛かったのを確認すると、先ずは神麗を泣き止ませようと近寄る。

 

「――――! いやっ!」

 

  しかし、近寄ってくる秀麗から拒否の言葉を口にしながら距離を取る。

 

「シェン……?」

 

「もうイヤぁ…!!また……っ!あねさま、まで……!!」

 

  リュウに続いて自分まで傷付けてしまう。シェンはそう言いたいのでしょう…。

 

 普段から口下手で、上手く他者との会話ができないシェンですけれども…私達には判ります。

 

  シェンはもう自分が信じられなくなってるみたいです……。

 

「シェン……大丈夫ですよ………。貴女は、私を傷付けたりしません…!」

 

  何の根拠もない、ただのハッタリに近い言葉です。

 

  でも、私が、シェンが自信を持てないなら、せめて…私がシェンを信じてあげます…。

 

「………」

 

  怯えた様な目。

 

  それは、自分自身に対する怯え。

 

  だが、神麗は何の根拠もない秀麗の言葉と笑顔に引き寄せられる。

 

「貴女は…………私達の、自慢の妹なんだから………」

 

「…………あねさ、ま……」

 

  今度は逃げない。

 

  神麗は秀麗の腕に、優しく抱き締められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――」

 

  玉を左手に治癒の魔術を朗々と一刀は口ずさむ。

 

  空拭き雑巾から絞り出た様な魔力を使用し、瑠麗の深い傷を癒す。

 

「――――――あ―――れ………?」

 

  瑠麗は僅かに目を開き、不思議といった声を上げる。

 

「…………か、ず……と……?」

 

「良かった……目が醒めたか……」

 

  キズは深かったが、切り札をフルに活用すればスグに傷口は塞がり、本人の生命力もあって無事なようだ。

 

「姉さん………それに、シェンも………」

 

  秀麗が神麗を抱き締めているのを視界に捉えると、瑠麗は安堵の表情を浮かべる。

 

  そして、自分とは違い、素直に自分の意思を遂行できる秀麗の凄さを改めて感じる。

 

「みん、な……無事………?」

 

「あぁ…そうだ。皆、無事だ。だから、お前も今は寝ろ。な?」

 

「う…ん……」

 

  そうして、瑠麗はとにかく安心したといった表情を浮かべながら目を瞑る。

 

  ほとんど目を瞑ったのと同時に可愛らしい寝息を響かせる。

 

「………」

 

  さて……最後だ。

 

  最後の仕上げだ……。

 

  一刀は立ち上がり、ゆっくりと神麗の本に向かった。

 

 

 

 


あとがき

 

いやぁ〜、大変だった。

 

ども、冬木の猫好きです。

 

今回も理屈の通らない奇跡が満載でした。

 

前回の左慈の気力というのは、まぁ、火事場の馬鹿力ということで何となく処理できますが、今回は違います。

 

神麗(張梁、末妹)がバルムンクの支配を抜け出したことです。

 

作中ではさらっと流しましたが、そんなこと通常あり得ません。ですが、姉妹の絆――特に瑠麗(張宝、次女)と神麗との――というモノを表すのに最も重要なシーンだったので悪く言えばご都合主義的な展開にせざるを得ませんでした。

 

墓穴を掘っていると充分解っていますが、ここは重要なシーンだったので理屈などはできるだけ無視して下さいと伝えたかったので、自ら書かせて頂きました。

 

それは先の方に書いとけというツッコミもなしの方向でお願いします………。

 

さてさて、長らく続いた張三姉妹編も次回で閉幕です。

 

次回は短いお話になると思いますが悪しからず。

 

話は変わって、真・恋姫†無双〜乙女繚乱☆三国志演義〜が今冬に発売予定とのことらしいです。素晴らしい!!

 

今作は、魏・呉・蜀の三陣営から選べるとのことで、これまた素晴らしい!!

 

ついでに、孫策も存命中のご様子で、孫策ファンの私――故に、先ず最初は呉に一刀を降りたたせた――としては更に嬉しさ倍増!!

 

そして、当然の如く新キャラも登場!

 

お返しディスク――謝謝†無双で公開されていた武将に更に多数が加わるとのこと。ンで、私は――全部か不明だが――公開された新キャラを拝見しました。それについて――謝謝†無双に乗っていたキャラは省きます――のコメントを勝手ながら書かせて頂きます。

 

先ず、蜀。

 

ホウ統

 

ロリですか……?軍師はどうしてもロリなんですか…?私は、あまりロリを語れません。ですので、中々可愛らしいです、とだけコメントいたします。

 

劉備

 

………………。うん……。可愛い……ですよ……。何か、見た目的には中々清楚そうで……正に正統派ヒロインといった感じでしょうか。ストレートのお御髪がまたいいですね………。ていうか、出るなら最初の恋姫†無双に出して欲しかったとちょっと思ったりします……。勿論、私の描いた劉備とは全く違ったイメージです………。イメチェンでストレートにしたってするかな……。

 

魏延

 

……………。か、カッコいい……!髪を一部だけ銀髪――かな?――にしているところがまたいい味出してます。武器の棍棒も違和感なし!当然ながら、この小説で私の描いたキャラとは外見では一切かぶるとこ無し!!流石です。

 

続いて魏。

 

程イク

 

………………。ほ、ほほぉ……。程イクですか……。製作者様は意外に三國志に詳しくていらっしゃったのですね……。まさか程イクという――割りと――マイナー路線でくるとは、やりますね!!コイツは後々、恋姫†無双が展開したとしても出る可能性が低いと――特に――勝手に描いたのに、畜生!!これまた、割りとロリっぽい感じで、何かおっとりとした雰囲気を感じれます……。

 

魏は謝謝†無双で多数描かれているのでこの程イクのみ。続いて、呉です!

 

黄蓋

 

……………。大人な女性……その一言に尽きます。恋姫†無双に何人かいる魔乳に近い爆乳キャラですね。私が超勝手に描いた黄蓋とは違い、年長者としてしっかりしてそうな感じですね……。

 

呂蒙

 

………………。メガネっ娘!!!服装も文官っぽい。ほとんどのキャラがそうであるように、私の描いた呂蒙とは似ても似つかない。寧ろ、騒ぎを涼しい目で傍観してそうな、そんなキャラかな……?

 

以上で呉は終了……。いやはや………凹む……。

 

あ、そういや南蛮勢もでるらしく、猛獲もいました。

 

着ぐるみみたいな服装のこれまたロリっぽい可愛らしい女の子でしたよ。

 

ほんで、自分の中で意外だったのが袁術軍がいたことですね。某一騎当千型三國志ゲームでは全くと言っていい程に触れられていなかった袁術ですが、歴史的に見るなら自ら皇帝を自称するも、諸侯からの賛同を得られなかった所謂KY――勿論、読めてない方――という御仁ですね。

 

袁術

 

……………。うん……ロリだね。民に圧政強いてるアホ君主には見えない女の子だね……。董卓みたいに、操られているみたな感じか?まぁ、今の段階では全く解らないので、予想で話すしかないですが………。でも、ロリである以外は結構袁紹に近い感じかな?

 

劉勲

 

人選が渋い……。これで確信したね。製作者様は三國志に詳しい。だってコイツ、出番3、4回くらい――私の知っている範囲では――しか登場しない、超が付く程マイナー武将のハズです。袁術軍出すなら紀霊かと思っていたが……。見た目は顔良みたいな控え目な様子をかもし出す藍色(黒か?)のショートカットの女の子ですね。

 

そして、私が最も凹んだのが………張三姉妹!!!

 

………出すんだ…?劉備の時も言ったが、どうして最初の恋姫†無双に出さなかった…?

 

張角

 

結構胸があるご様子で…。失礼だが、あんまり思慮深そうには見えない。無邪気な笑顔が似合う可愛らしい女の子です。

 

張宝

 

次女にしてロリ。見た目の歳相応に快活そうな印象を受ける可愛らしい女の子です。

 

張梁

 

次女がロリなのに、三女は何気に乳がある。メガネっ娘ということで、三人の中で唯一知性を感じれる少女。末っ子なのに……。

 

公開された全キャラ真名も発表されていましたが、当然私が考えた名前とは全く違います……。個人的には公孫賛に白蓮(ばいれん)という真名があったのは嬉しかった。

 

いやぁ…俺が出したキャラも何人か『真』の方で出るみたいですね……。

 

覚悟はしていたさ……。アニメ化、コンシューマー化でまだまだ人気が上がる様子を見せる恋姫†無双。ならば更なる展開もあるだろうと……。一ファンとしてはこの展開はこの上なく幸せで、また望んでいた報告です。

 

でも、ただでさえ、オリジナルな雰囲気のこの小説が更にオリジナルの風味が強くなると思うと…………凹む…。

 

原作あっての二次創作。原作の設定であるからこそ魅力的――書いてる本人はこの小説に魅力がある気がさらさらしていない――であると思っていたので、凹んだ……。

 

でも、まぁ、今は一原作ファンとしてこの展開を心底喜んでいるのもまた事実なので、すんっごく嬉しんですがね……。

 

まぁ、この小説は「恋姫†無双」の二次創作なので、「真・恋姫†無双」はまた別物という風に認識してください。マジでお願いします。

 

長くなりましたが、では今回はこの辺で。また次回にお会いしましょう。




ようやく一区切りかな。
美姫 「長い戦いだったわね」
最後は姉妹の思い合う心が。
美姫 「あとは本ね」
一刀がどうにかしようとしているけれどな。
美姫 「それは次回みたいね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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