外は海に面し内は山に囲まれる日本・海鳴市。
その豊かな自然条件のため、昔から地産地消が盛んであり、いまだに商店街が賑わいを保っている数少ない町である。
そんな訳で近場の主婦たちはその日安い物を求めてよく商店街へと赴くのである。
ともすればご近所の交流が増えるのは当たり前。あちこちで井戸端会議が行われているわけである。
これはそんな一つの主婦グループの何気ない会話である。
冬の寒さも和らぎ、いよいよ春本番を迎える四月始め、道端で話している二人に歩いてきた一人が声をかける。
「どーも」
「どーも」
「こんにちは」
この三人はいつもの井戸端会議メンバーである。
「そう言えば聞きました? 八束神社のふもとの大橋さんとこの旦那さん、入院してたんですって」
「本当に?」
話をふった一人以外知らないらしく、二人は驚いている。
「ええ。もう退院したそうなんだけど、年末に入院してそのままお正月ですって」
「あら〜、それじゃああんまりお目出度い新年ではなかったのね」
「そうでもないんじゃないかしら。だって不幸はなかったわけですし」
「それもそうね」
こうやって各自が収集した情報に好き勝手に意見を言って、楽しむのが日常である。
そして今は春。当然ながら話題にはお互いが知っている家の息子・娘の進路の話になる。
何くんはどこだの何ちゃんはこっちに戻ってきたの、大体は大学入学・卒業の話がメインである。
そんな中、一人が思い出したように話す。
「そう言えば、高町さん家のなのはちゃん。就職するんですって」
「ええ!?」
二人は初耳らしく、非常に驚いている。
「だってなのはちゃん、中学卒業したばかりでしょう?」
「そうよね。高校だってそのままエスカレーターでしょうに」
「なんでもやりたいことが見つかったとか。周りのお友達も一緒だそうよ」
その言葉にさらに驚く二人。
「周りのお友達って――アリサちゃん? あの子は確かすごく頭よかったんじゃなかったかしら?」
「いえ、そうじゃなくて――えっと、なんて言ったかしら?」
「月村さん家のすずかちゃん?」
「そうでもなかったはず……えっと、八神さん?」
多少記憶が怪しいのだろう。二人に確認するように話す。
「ああ、あの子ね」
「へぇ〜、以外ね。……そう言えばもう一人よく一緒だった子居たわよね? あの金髪の……」
「ああ、フェイトちゃんね」
「そうそう。あの子は?」
聞かれた一人は額に指を当てて思い出そうとしている。
「確か……就職は三人って聞いたからおそらくそうだと思うわ」
はっきりとは覚えていないらしいが、この三人で間違いないと言う結論に至った。
「それにしても中卒で就職って……一体何に?」
ぼそりとつぶやく。しかし当然の疑問であろう。他の二人もうーんと悩む。
「ダメだわ、思いつかない」
「あたしはどうしても悪い方向しか思いつかなくて。でも、あの桃子さんが許したんだから……そんなことないわよね」
「そうよね、あの高町夫婦が許したんですものね」
そこで再び考え込む三人。しかしいくら考えても答えは出ない。
「ダメだわ、いくら考えてもこれ以上は分からないわ。この件は判明するまで各自情報収集しましょ」
「そうね」
こうして井戸端会議の議題に“高町なのは”についてが加わったのであった。
井戸端会議。それは主婦のご近所付き合いの一環である。
さて、ある主婦三人の井戸端会議の議題に“高町なのは”が加わってからすでに五年。
おのおの情報収集はしているもののさっぱり確定的な情報は得られていない。
時には兄関係でドイツに行った、時には潜入捜査官、果ては士郎がつくっていた借金のカタだの様々な情報が来るのであった。
そんな中、新たな情報が舞い込んできた。
「奥さんたち、なのはちゃんこの間帰省してきたんですって」
「聞きましたよ。それでなんでも――」
「お子さんが居るとか」
多少興奮気味だった声のトーンもここまでくると落ち着いたものになっていた。
「なんでも小学一年生らしいですよ。八百屋の徳さんが言ってました。一緒に買い物に来たんですって」
「小学一年生ってことは七才になるはずだから……じゅうさんっ?」
逆算した本人が青ざめていく。しかし他の人がたしなめる。
「そんなわけ無いじゃない。なのはちゃん、十五才まで学校行っていたんだから」
「そう言えばそうね。じゃあ、養子ってことかしら?」
「だとしても、どういう経緯で養子にしたのかしら。まだ若いんだし普通はそんなことしないと思うんだけど」
うーんと再び悩みだす三人。
「やっぱりもう少し情報が必要ね。また今度」
「ええ、奥さんたちも健闘を祈るわ」
まるで戦場に向かわんとする勢いで散って行く三人。
まあ、五年も謎だったものが解明できる訳であるから、分からんでもない……か?
さて、前回の集まりから三日後。
ついに判明したと一人から連絡が入り、その家にて集合となった。
「なのはちゃんなんだけど、保護した女の子をそのまま養子にしたらしいわよ」
「保護って……小さい子が一人でふらふらしてたってこと?」
「いえ、どうやら仕事上での話らしいの。だから最初は受け入れ先を探していたらしいんだけど、情が移ったんでしょうね」
「いい子ねぇ」
ふぅとため息をつく。女性の母性と言うものだろう。想像ではあるがなのはに共感しているのだ。
「でもちょっと待って」
養子の件が判明し、一息ついたところに一石を投じる。
「保護したのが仕事上でのことって……なのはちゃん一体なんのお仕事してるの?」
「保護って言うくらいだから――警察関係、もしくはそれに類する仕事じゃないかしら。それか保母さんみたいの?」
「……中卒なのに?」
「あ」
三人が止まった。お茶を飲む手も口を動かすのも忘れた。
時計の針が動いていなければ時が止まっていたと錯覚するくらいに。
「くっ、結局まだまだ私たちは踊らされているのね」
「この謎を解明するまでは諦められないわね」
「ええ!!」
こうして奥さんたちと高町なのはの戦いは続いていく。
しかしこれは一般人には勝ち目の無い戦いなのであった。
あとがき
アニメ・漫画・小説などの創作物は当然主人公や関係者などの視点になるわけですが、
それ以外の人から見るとどう考えても特異な状況になってる場合が大半な訳で。
そんな話を友達と話していたら思いついたので書いてみました。でも、普通に考えたら不思議に思いますよね?
しかしギャグを書くのがこうも難しいとは……。コミカルな感じを文にするのは大変ですね。
もっと精進しますので、これからもお付き合いよろしくお願いします。
2009/03 船貴
奥様方のある種、異様とも言える情報網でも流石に異世界の情報は収集できないわな。
美姫 「まあ、そうよね〜」
しかし、井戸端会議か。
こんな美味しい着眼点があったとは。
美姫 「本当に。まあ、流石になのはに関しては謎のままでしょうけれどね」
だな。投稿ありがとうございました。
美姫 「ございました〜」