「はぁ…」

 

 久しぶりの長期休暇。

 久しぶりに帰ってきた海鳴市。

 そんな中、元近所の奥様たちとの久々の会話を終えたシャマルは、

一人翠屋のカウンターでティータイムを楽しんでいたのだが―

 

「はぁ……」

 

 思い浮かぶのは仕事のこと。

 頭を悩ませるのは、言うことを聞き入れてくれない患者。

 彼女の想い・言い分は分かるのだが、やはり医者としては言うことを聞いて欲しい。

 

「はぁ………」

 

 本日何度目になるのか分からないため息をつくのであった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

 久しぶりのオフシフト。

 ゆっくりできるはずの休暇。

 そんな中、読みたかった本を読み終えてしまったフィリス=矢沢は、

ぶらぶらとウインドウショッピングをしていたのだが―

 

「ふぅ……」

 

 思い浮かぶのは仕事のこと。

 頭を悩ませるのは、多少の怪我(ニュースでは重症と言われる)では病院には来ない困った患者たち。

 病院の待ち時間が無駄に感じると言うのは分からなくもないけれど、医者としては怪我をした時くらいはきちんと来て欲しい。

 定期健診すらサボるのだから。

 

「ふぅ………」

 

 結局ショッピングを楽しめない彼女は、大好きな甘い物を求めて翠屋に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   『医者の憂鬱』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カランカラン

 ドアを開けると来客を告げるベルが鳴る。

 その音に反応して、バイトであろうウエイトレスが声をかける。

 

「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」

 

「はい。あ、カウンターでいいです」

 

 そう言ってフィリスはカウンター席へと向かう。

 勝手知ったるなんとやら。迷うこともなく席に着く。

 

「ふぅ…」「はぁ…」

 

 席につき注文をした後、ついつい漏らしてしまったため息が重なる。

 ふとその方向を見ると、どこか見たことのある顔が。

 相手側も気づいたのかこちらを見ている。

 

「えと、病院の方…ですよね?」

 

「ええ。フィリス=矢沢と言います。

あの、失礼ですけれどお会いしたことありましたか?

なんだか見たことあるような気がしてるんですが…」

 

「えっと、大分昔なんですが家族がお世話になっていたことがあるので、その時かと。

石田先生のお世話になっていたんですが」

 

 そこまで言うと思い出したのか、ポンと手を合わせる。

 

「ああ! 八神さんの。ご無沙汰してます。あれから何ともないですか?」

 

「いえいえこちらこそ。もうすっかり。時々私も見ていますから」

 

「そうですか、良かった」

 

 本当に嬉しそうにそう言うフィリスに好感を持つシャマル。

 とそこでフィリスがそう言えばと尋ねる。

 

「私も見ていると仰りましたけど、同業ですか?」

 

 しまったと思いながらシャマルは何とか返す。

 

「え、ええ一応。医者と言っても体調管理指導などのほうがメインですけど」

 

「そうなんですか」

 

 そこへフィリスの注文品が運ばれて来る。

 それを気に二人は会話を止め、お互いカップの中身に口をつけるが―

 

「はぁ…」「ふぅ…」

 

 カップから口を離した瞬間、再びため息が重なった。

 思わず見つめ合う二人。

 フィリスが先に口を開く。

 

「どうかなされたんですか? 悩みごとでも?

これでも人の話を聞くのは慣れているので、よかったらお話聞きますけど…」

 

 同業と言うこともあり、同意を得れるかも知れないと思ったシャマルは口を開く。

 

「それが…何度注意しても聞き入れてくれない患者さんが居まして…。

どうすれば言うことを聞いてくれるのかと頭を悩ましているんです」

 

 言葉の後にはやはりため息がついてくる。

 反応がないために不思議に思ったシャマルがため息の際に背けた顔を上げると、フィリスは驚いたような顔をしていた。

 どうしたのか尋ねようとした瞬間、シャマルの手はフィリスにがっちりと握られていた。

 

「この苦労が分かってくれる人が居たなんて…。

分かります、分かりますよ、その苦労」

 

 半分涙ぐみながら同意するフィリス。よっぽど苦労しているんだなぁとシャマルは不憫に思う。

 

「私の方は注意を聞いてくれないどころか、病院にさえ来てくれないんですよ」

 

「それは酷い!!」

 

 さすがにそれはびっくりしたシャマル。

 ついつい興奮してしまう。

 

 

 

 同じ職業、同じ悩みに悩まされる二人の女性はすぐに仲良くなり、お互いに愚痴をこぼす。

 それぞれこんな事があった、あんな事があったと次々と不満に思う事例が出てくる。

 分かるわ、とお互いに同意し合い慰めあう。

 そして最後にはお互いぽろっと漏らしてしまう。

 

「なんとかならないかしら、なのはちゃん」

 

「なんとかできないかしら、恭也さん」

 

………

 

「「ん?」」

 

 このとき二人の心はさらに結束したと言う。

 その後、シャマルの治療室では(色んな意味で)効果的なマッサージが行われるようになり、

フィリスの治療室に来ない患者(主に高町家関係者)には、異世界に居る末っ子から病院に行くように懇願するメールが届くようになったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

「あら? 士郎さん、カウンターに出ないんですか?」

 

「……桃子、今出るわけには行かないんだ」

 

「??? どうしてですか?」

 

「俺が袋叩きにされそうだ…」

 

 と言う会話がバックヤードでされていたとか。

 

 

 

 


あとがき

 

 どーもー。

 再び短編です。

 StSSS4のなのはとシャマルの会話聞いてたら、ふと思いつきました。

 

 それにしても高町兄妹、本当に医者泣かせですね。

 まあ、なのははちゃんと行くだけ恭也よりましですが。

 

 そんなこんなで同じ悩みを持っているフィリス先生とシャマル先生。

 仲良くなれるんじゃないかなー、と思って書いてしまいました。

 いかがでしたか?

 

 ではこれにて〜。

                      08/01/21    船貴





あ、あははは。
美姫 「見事に同調したわね、二人」
まあ、ちょっ困った患者を持つもの同士、その大変さも分かるって所か。
美姫 「本当に大変ね」
だな。短編、ありがとうございました。
美姫 「ありがとうございま〜す」



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