不破特断ファイル~信じ続ける勇気を下さい~
9話#1-StrikerS編-TAKE-ME-HIGHER-
信愛―――信用してかわいがること。
信愛―――信仰して愛すること。
<0071年 4月29日 ミットチルダ臨海第8航空>
その頃の俺は、まだ、精神的に疲れていたのだろう。大火災が目の前で発生しているのに、ただ、燃え上がる建物を見ていた。
「ここは危険です。一般の方は離れていてください!」
―――声を聞いて、俺は、反射的にその場を去ろうとした。
ふわっ
―――だが、何かに後ろから抱き抱えられれ、離れようとしたその場に止まってしまった。
「『氷先輩』」
―――懐かしい声色だった。母親に似た、俺を温かくする声。
ディバイスを通して人に聞こえる声と念話で頭に直接響く声、知っているのは一人しかいない。
「『氷先輩! 手伝って、手伝ってください』」
―――そんな必死にすがるように声と同じくして強く抱きしめられる。
「俺は一般人だ」
管理局、聖王教会を出た俺は、一般人でしかない。
自分でリミッターをかけて戦うのに疲れたからもう動きたくない。
「『大隊指揮官がいなくて、現場が混乱してます。あなたしかいないんです。』」
ここで、戦うことを選択するなら、、、俺はまたあんな思いをすることになる。かといって、俺はこの子の思いを見捨てるなんてでき
そうになかった。
「待宵執務官! こっちの消火手伝ってください!」
「はい」
待宵は俺を追ってきたんだな。レスキューから執務官なんて全く分野が違う職種にこんな短期でなっているんだから。
だから、再び最悪の道を歩ませるのは嫌だ。
「―――どうしてだ。お前は信仰しなくなっただろう。再び信仰するなら、もう、後戻りできないぞ」
昔の俺ならまだしも、もう、この後輩の未来を切り開くこともできなくなってしまうだろう。
「『………それでも救いたいんです! 『人の命は惑星(ほし)の未来』先輩の口癖ですよ』」
「わかった。待宵、お前の夢、奪わせてもらう」
そんな戯言をほざいてたと懐かしさが蘇ってきた。
もう、俺には彼女の運命を回避するだけの思いを抱けなかった。だから、信仰心が足りなくても力だけは与えようと思った。
―――当時、待宵の夢はピアニストになって世界中を駆け巡ることだったらしい。
ただ無邪気にピアノを弾いて、父親が褒めてくれるのが嬉しくて、一生懸命に練習する。
そんなささやかな夢を、俺は壊した―――彼女の願いを叶えるため、彼女を救うために。
あのとき、ゼストやクイントを見捨てたけど、どうしても全員一致で助けたかったのは、まだ、俺の2歳年上の待宵だった。
だから、信愛の騎士の力のほとんどを適正があった当時の待宵に与え、危機を脱した。
その時使った力は、聖王教会の騎士としては異端だか王は認める力、管理局では極めて非情な力だ。
力を与える代わりに夢を奪う。
待宵は、その後戦闘以外は手の握力がなくなり、声も出せなくなった。
元に戻した後も、名残からか声が出せなくなっている。
正式にはゼスト隊は全滅とされているが、生き残ったのは、待宵と俺。―――その時に気づいたことがある
夢っていうのは、呪いと同じで、呪いを解くには夢を叶えるしかない。
けど、途中で夢を挫折した者は、一生呪われたまま……だと。
―――挫折する以前に、夢を叶える可能性を奪う俺は、呪われた存在なんだろうな。
そんなことを考えながら、俺は待宵に付いていった。
「そのまま左へ」
「はやてちゃん。現場執務官さんから緊急要請です」
車体の上で、スクリーンを見ながら指示をする指揮官は、俺より年下と見える女性だった。
「『今、指揮を取っているのはあなたですか?』」
「はい、陸士部隊で研修中の本局特別捜査官八神はやて一等陸尉です。臨時で指揮をとらせていただいてます」
「『待宵執務官です。私の隣の方は、節黎氷さん。既に管理局を引退されていますが、大隊指揮やレスキューマスター等上級資格を取
得しているので、私の権限で、現場復帰してもらうことになりました』」
「よろしく」
「よろしくお願いします……節黎……氷? もしかして、信愛の騎士はんですか?」
「……そう言えばお前は守護騎士の主か。はぁ、それで、現場に統括官はどれくらいで来る?」
「あっ、はい。あと、10分でゲンヤ・ナカジマ三佐が到着します」
……ゲンヤか、実力はあるが、時間はない。こうなったら、かなり強引だが使うしかない。
「節黎さん、現場指揮をお願いしてもよろしいでしょうか? 広域型なんで、空から消火のお手伝いを」
「ああ」
後は、現状把握だな。
「『氷先輩、あれを』」
「ああ」
俺は眼鏡を取って、携帯型ディバイスを開いて2525+ENTERキーを押した。俺の顔に眼鏡が転送される。
その眼鏡を待宵は強奪し、俺は眼鏡を掛け直した。
「『眼鏡かけるの1年ぶりですね。セットアップ』」
俺が現場を離れて既に4年は経っているが、待宵がこのバイザーをかけるのは1年ぶりらしい。待機モードは伊達眼鏡だが、起動し
ていると目元を覆うバイザーになり、解析を瞬時に行うディバイスだ。
このディバイスは、情報戦略に特化しているが、俺にしかカスタマイズ出来ない。
また、待機モードの眼鏡にすることが他人には出来ない仕様なのを差し引いても億単位の金が動くので、待宵は3年で壊してしまった
のだろう。強度は普通の眼鏡とそんな変わらないからな。
弁償しろって脅そうか?
「『氷先輩、どうやらこの炎、普通の炎に見えますが、構成されているのはすべて魔力です』」
「封印術式をファイヤーレスキューに転送してくれ」
「『了解』」
その間にファイヤーレスキューの部隊全面に氷属性の魔力の壁を作り、時間を稼ぐ。
「『後、一般人の方の場所なんですが、最悪です』」
「どういうことだ」
「『炎の勢いが酷くて、現状では、誰も中には入れません。高ランク魔導師でも、能力によっては救助場所を選ぶことになります』」
「『……それに、建物の損壊状況が著しく、まだ中にいる可能性があります....この火災を引き起こした者との戦闘になるかもしれま
せん』」
「救助が必要なところが火災が酷い。魔法で有効なのは氷結魔法のみか...水や科学消火剤を使った消火に効果がない以上、使わざるを
得ないんだが」
「……どうやら、やがみんのお友達が手伝いに来てくれたみたいだぞ」
「へっ、やがみんって...なのはちゃん! フェイトちゃん!」
「ったく、いやなことも続くもんだな。待宵、探索魔法をかけたら高濃度のAMFに妨害されたぞ。どうやら敵さんがオーバーSクラ
スわんさかいるな」
―――待宵を救出時の記録を思い出す。
待宵も航空火災の被害に会ったが状況が特殊だった。管轄外世界の航空火災の中で見つけた次元漂流者と管理局の言葉では言える。
あの頃の特断のマシンにはレスキュー装備は皆無で、ほとんど出たとこ勝負だった。
ブレッツジェットのレスキュー装備、ミサイル型の消化弾は、酸素を分解する性質を持つが効果はなかったらしい。
このブレッツジェット、恭也が知り合いの民間警備会社?社長から貰ったものだ。設計・製作したのは社長の祖父がやったらしい。
10年たった今でも現行の飛行機器の性能に勝ち続けている。
もう、現場では性能的に不利な状況になることが多く、破棄するなら―――という経緯だ。
このブレッツジェット、基本性能が現場で役にたたなくなってきた頃からレーダー等の補助系の装備を充実させていたこともあって、
戦闘メインのはずがレスキューの現場でかなり重宝する存在になり、待宵の反応を検知できた。
生体反応を検知した段階で反応のあった空間に向かうのはいいが―――
この規模の火災なら、空は夜だというのに真昼のように明るく、冬だというのに暑いアベコベな空間を形成することになっただろう。
当時の恭也の判断は、消火は後回しにして人命救助優先だったらしい。
俺もそう判断するはずだ....少数精鋭、魔法使用制限有りなら。
『物理と魔力の複合で凍結させたいのが本音だな』
ああ、俺もそう思うよ。
救助者がいるなかでの広域の上級魔法と物理の併用及び隠蔽は難しいので、作業は捗らず、人員は揃わなかっただろう。
そういえば、この頃から恭也は体に異常がでていた。
バイタルを見ると血圧が一定しない不整脈に近い値を示している。
『よく分らないが、違和感を感じた。周囲を見ても何も違和感を感じるようなものは見当たらない。』
『その違和感に気づいた俺は、驚愕した。御神流を使う俺は右でも左でも文字を書ける。だが、実際は右利きであるからして微妙に右
から抜刀するように体の重心も微妙にずらした構えを取っているはずだった。
いつものように構えていたつもりだったが、なぜか左に重心が傾いていた。』
後でわかったのは、重力と気圧の局所的異常が発生していた。バイタルの異常値もこのせいだと思っていた。―――この時は。
目的地はブレッツジェットでは入ることはできない。ブレイクジェットで救助に向かう。
ブレイクジェットの全長は約180センチ。大柄な人間位のステルス型ジェット機だ。
―――――――――待宵side―――――――――
『父さん、母さん、私もうダメみたい』
私の後ろには、私を守って焼け死んでしまった両親がいる。父さんは私と母さんを守る盾になった。母さんは必至で私を抱きしめなが
ら父さんが亡くなるまで体を震わせていた。
何で母さんは魔法を使わなかったのだろうか分らない。緊急事態なのに魔法を使わなかった。
母さんは魔法を嫌っていた。でも、何で私に魔法を教えてくれたんだろう。今となっては分からない。
「っ」
手の痛みがだんだんと酷くなってくる。だけど、最初で最後の両親に聴いてもらった曲の楽譜は離さない。それを離したら、何もかも
持って行かれそうで怖かったからだ。
余程精神的に追い詰められていたのか、私は周囲の警戒どころではなかった。だから、目の前に倒れてくる天使の象に、魔法を使用す
る時間もなかった。
「バーーーーッン、ポロ、ポロ」
「?」
硬い何かが当たる痛みはない、たださっきからポロポロと小さくて固い何が降ってきて当たっている。
飛行機のエンジンのような音が聞こえたので、音の方向、像があった場所を見上げてみる。
「どうやら、間に合ったか。さすがに、管理局もこの狭い不安定な空間に存在する生命反応は探知できないようだな」
空中に男の人が浮いていた。父さんに聞いたことがある、空を飛ぶことが出来るのは、魔導師の中でも一握りだと。
でも、特有の魔法陣が展開されてないのは何故だろうか。
【realyze】
機械音声が聞こえた後、男の人の下に、飛行機が現れた。
何が起こっているのかパニックに陥った私は、目の前に、何もないはずの場所に亀裂が入っていたのに気づかず、動いてしまい、服が
触れると同時に服が切れた。
「のんびりしている暇もないか」
「ブレイクジェット」
【FORM UP】
「バトルジャケット実装完了」
男の人の目の前に、両足に装着されている何かが発射されて、二つが一つになる。
「ブレスターキャノン」
名前の通りのキャノン砲みたいなものを手に取った男の人、胸のdeviceコアに周囲の魔力が集まっていく。
「ファイヤ」
その時に輝いた光は黒くて怖いはずなのに、なぜか見続けていた。
「バトルジャケット強制排除」
助け出されて見上げた空は、やさしい光を放っていた。
「こちら不破」
「Missing-people一名を救助した。」
『わかった。こちらで、処理はすませる。』
「君はこれから生きることになる。楽器を弾くことを諦めて普通に生活するか……」
恭也は、重度の火傷を負っていた少女の手に握られている一篇の楽譜を見て、少女が楽器を扱う者だと瞬時に判断する。
「そうだな、俺と一緒に仕事をするか?」
そのときの男の人の顔を忘れられなかった。
飛びっきりの笑顔に顔が真っ赤になる。
『おいっ、まさかお前』
……このとき、私は、この人に、呪いを掛けられた。恋の呪をを
―――――――――待宵side out―――――――――
「氷君、この人の想い、もう一回僕が受け止めるよ」
俺の横に守護騎士の1人が現れた。4人いる守護騎士の中で、唯一、契約破棄、再契約をしてくれる騎士だ。
本人も既に名前を思い出せないので歴代の信愛の騎士はその力から『友愛の雪』と読んでいる。面倒だから俺は雪と呼んでいる。
信愛の騎士は、他のベルカの騎士とは違い王ではないが騎士が配下に付く。初代の騎士は4人であったが、初代以降4人全員そろうこ
とはなく、俺の父親の代は2人しかいなかった。
その中でも必ず契約を結んでくれる騎士が彼女……雪だ。
因みに、守護騎士全員女性であることが絶対条件らしい……詳しくはわからない。
雪はその名前の通りに雪の使い手で、ベルカの騎士の中では珍しいロッドを使った接近戦を得意とする騎士だ。
『雪さん……、もう一度、お願いします』
「氷君も言った通り、もう契約破棄はできないよ。いいの?」
『はい』
「わっかった。よろしくね」
「はい!」
再契約を結んだ為、声が戻った待宵の声にドキドキしながら言葉を放つ。
「友愛の雪、待宵」
「はい」
待宵は、周囲を見渡し、雪を降らせる。すると、炎は次第に静まり全て消えるまで数分とかからなかった。
―――――――――なのはside―――――――――
執務官が雪を降らせて炎を静めた時に、寒気がした。
その寒気は最近感じたような気がして―――
―――――――――なのはside out―――――――――
氷「この後のことは、原作基準に則ってます」
緋翔「炎は鎮火したが、建物が崩壊していることに変わりないしな」
氷「編集、だいぶ変わってるぞ」
緋翔「それは仕方ない。何回か読み直してから書き直してたらこうなった」
火災救助は同じだけれど、騎士とか契約とかが出てきているのかな。
美姫 「結構前とは違う話しになっているわね」
だな。
美姫 「それはまた次回~」