ここで、ある事柄を引用することを許して頂きたい。
『プレシア式』という言葉が昨今の時空管理局でもまだ時々使われることがある。このプレシア式、という言葉の意味とは『自分の要求を強引にまかり通す』という時に使われる文句であるが、その意味の由来が、かの大魔道士にして偉大なる発明家、プレシア・テスタロッサから取られているということを知る者は意外に少ない。
では、この意味の発端とは何だろうか?
詳しく知る者は言う。彼女がまだ一端の魔導工学の研究開発者に過ぎなかった、三十を越える頃に受けた、新型の大型魔力駆動炉から全てが始まっている、と。
そもそもの始まりはその魔力駆動炉の開発責任者が過労で倒れたことによる。当時、地味ながらもキャリアを積み重ねたプレシアがその後任者に抜擢されたのだった――と、名目上は、そうなっている。しかし、彼女が晩年に出した自伝から読み取ると、左遷だったかもしれない、と推定している。それは事実かもしれなかった。駆動炉の開発現場は杜撰すぎる管理。複雑すぎるシステム。無茶な要求、命令を乱発する無能な上層部。利益を得ようと必死になるメーカー側が入り乱れて、大変なことになっていたからだった。
当初、彼女はこの無茶苦茶な(としか言い様のない)状況に悩んでいたようだった、と当時の同僚の一人が証言している。しかし、ここで彼女は唐突に苛烈な決断を下した。それは彼女を知る者全てを驚かせる意見だった。
今まで決まっていた事柄何もかも、片っ端からを全て放棄し、自分の中のみに存在する、自分の明確な規則にのっとって、一から駆動炉を設計し直し始めたのだ。
当然のことながら、上層部は激怒し、プレシアに抗議した。が、彼女はその全てを無視し、開発を継続する。その内、上層部が自ら現場に乗り込んできたが――個室で『丁重にご案内』された彼らは数時間後に真っ青な顔をして出て行き、そして二度と現場に寄り付くことは無かった。彼女が『何を』したのか、とは誰も言わないが『何か』したのは明白である。(開発チームの一人が勇気を出して尋ねてみたが『ちょっとした爆弾をね』などと意味不明な言葉が返ってきた、という逸話もある)
彼女は駆動炉の開発に関わる前は物腰柔らかな美人開発者としてちょっと名の知られた存在だった。そんな彼女が何故突然『自分の要求を強引にまかり通す』ようなことをしたのか? そのきっかけは現在では永遠に謎である。(未だ存命の彼女の有名な友人が知っているかもしれない可能性はあるが)
何にせよ、これで上層部はこの件以来、一切口を出すことがなくなった。同時にメーカー側の意味不明な要求の乱発も控えられた。更に、プレシアは自分の命令に従わない人物は容赦なく更迭した。プレシアにはその権限がある。何故なら、彼女は開発責任者だからだ。
こうして新型の大型魔力駆動炉は無事に完成した。ただ魔力の効率化と安全と、使用する者のことを充分に考えた、単純な構造の故障しにくい魔力駆動炉は開発、生産が終了した現在でも、各所でまだまだ使用が見られる。これも違う意味での『プレシア式』として一般に有名である。
こうして、『プレシア式』という言葉を内外に知らしめた彼女であったが、その行動で酷い目にあった上層部に睨まれた彼女は地方の魔導研究所に飛ばされた。しかし、ここでも彼女はその独特の安全管理と『プレシア式』で有名になる。
しかし、そんな彼女にもやはり失敗はある。地方で彼女が計画責任者を負った中での、代表的な失敗の計画として、『F.A.T.E』計画があるが、もっともこれの原因は彼女には…(以下中略)
* 時空管理局歴史編纂部、資料著作発行科の著作『偉大なる魔導工学者――プレシア・テスタロッサ』第三版、第一章から抜粋。(なお、この一般にも販売されている、本著作内で公開されている計画は現在の時点で時空管理局機密認定が消失したもののみ、である。現在も機密に属されている開発計画の事項を含めれば、プレシア・テスタロッサの功績は更に三割ほど増えるのではないか、とすら言われている)
魔法少女リリカルなのは“+”
第四話「トゥルー・チェンジ」
高町なのはとフェイトの戦闘衝突の寸前に両者の間に入った『時空管理局執務官心得、アリシア・テスタロッサ』と名乗った人物は言った。
「事情を聴取します。まずは二人とも武器を下ろしてください」
アリシアが二人を交互に見る。場の空気に従って、なのはとフェイトは武器を下げ、地上に降りた。
そして、アリシアが何かを話そうとした時、光の矢が降ってきた。アリシアは『シールド』を展開し、それを防いだ。
「フェイト! 撤退しましょう、急いで!」
それはリニスの魔法攻撃だった。突然の衝撃に呆然としていたフェイトに今何を成すべきなのかという思考が蘇る。リニスの魔法の着弾の影響で砂煙と爆炎が巻き起こった。フェイトはその隙にジュエルシードを奪取しようとし――そして、自分に何が向かってきているのかを察知して慌てて身を引いた。フェイトの体から一センチも離れてない場所を閃光の刃が通過する。
再び地面に着地する。『ブローヴァ』をサイズフォームにして、構えた。対面にアリシアが砂を踏みにじる音を立てて足を地面に設置させ『バルディッシュ』を同じ様にサイズフォームにして構えた。
こうして睨みあう二人は「間に鏡か何かがあるのではないか」と思いたくなるほどにそっくりだった。鎌を持つ構えも。緊張した表情のさまでさえも。
先手を取ったのはアリシアだった。サイズフォームの『バルディッシュ』左に構えて、振り上げ、突進する。フェイトは右に『ブローヴァ』を傾けて攻撃を受けた。高町なのはを何度も圧倒したフェイトの表情に焦りのような物が見える。当然かも知れなかった。連続した異常事態の発生と目の前の余りにも奇妙な光景によって、彼女は徐々に混乱し始めていた。フェイトは、まだ、あくまでも、九歳の少女でしかないのである。
鍔迫り合いのような状況を打破するために、アリシアが左に移動しながら切り掛かる。今度はフェイトはシールドで防いだ。雷光の煌きと、電気が放電した時の独特の音が周囲に広がった。
突然に、とは言わないが、精神面で負けているフェイトがこのままでは負けてしまうのは明白だった。リニスがその状況を改善しようと行動を起こそうとした時――ジュエルシード、シリアル『07』が光った。共鳴するかのように、フェイトの胸元が青く光った。
「う、あ、あああああああああああああ!」
フェイトの絶叫が響いた。
「な、何…?」
既に完全に傍観者となっていたなのはが光を腕で遮りながら呟いた。光が晴れる。
フェイトがそこにいた。しかし、さっきと様子は大きく変わっている。目に光が無くなっている、と同時に彼女の周囲の空気が帯電して音を立てていた。魔力が溢れているのだ。有り得ない状況だった。個人の使える範囲には限界が絶対に存在する魔力が溢れるなどとは。何かから、魔力の供給を受けでもしない限りは、有り得ない。
その原始的な恐怖すら感じる悪夢のような光景の中、フェイトが『ブローヴァ』を構え、攻撃動作を取ろうとした。
「フェイト! それ以上はいけない…!」
そう叫んだのはこれまでの状況を全て傍観していたリニスだった。
「リニス!」
その姿を見たアリシアが叫んだ。しかし、リニスはアリシアをちらりと一瞥した後、無視する形で急いで何かの呪文を詠唱、魔方陣を展開した。発動した呪文は強制転移の魔法だった。ただし、対象はフェイトと自分自身である。瞬時に二人の姿は掻き消えた。
「現地の戦闘行動、完結した模様。対象は転移魔法で逃走」
巡洋艦アースラの艦橋の中にオペレーターの言葉が響いた。
「追跡は?」
リンディが尋ねる。
「…駄目です。大遠距離の転移魔法を連続して行ってます。追い切れません」
「そう」リンディは艦長用座席に腰を下ろして言った。「でも、戦闘行動は迅速に停止。ロストロギアの確保にも成功、ね。どう、クロノ執務官。今回のアリシア執務官心得の行動は」
「…まぁ、上々だと思います。僕でもあれ以上の行動をするには、難しいと思います」
リンディはあら、珍しいと思った。身内と言って良いアリシアにはかなり辛い評価をすると艦内でも有名なのに、こんな(クロノにしては)好評価をするなんて。しかし、当然かもしれないとも思う。あの青い光が漏れた瞬間の彼女の魔力は――
リンディはその事を思いながら、艦長用座席の左の方に配置されているコンソールに手を伸ばした。操作をすると、艦橋の中央の大きいスクリーンにアリシアの顔が出た。
「アリシア執務官心得、お疲れ様」
リンディはそのままスクリーンに向かって話しかける。
「すいません、もう1つの対象に逃走を許してしまいました」
アリシアが申し訳なさそうに謝る。その傍らにはきょとんとした白い魔法使いの少女がいる。他に、全身黒ずくめの格好をした青年と使い魔(のように見える)動物がいた。
「大丈夫。心配しないで。今回のアリシア執務官心得はよくやった――ってクロノ執務官も褒めてるくらいよ」
クロノがその言葉を聞いて、少し顔を赤くし、リンディを見て軽く睨んだ。もちろん、睨まれたリンディは気にもしなかったが。
クロノも褒めてる、と聞いたアリシアの顔が少し緩みそうになるが、すぐに緊張した顔つきに戻す。
「ま、それはいいの。で、ちょっと話を聞きたいから、そちらの方達をアースラに誘導してくれないかしら」
「了解しました。すぐに帰還します」
アリシアが返事をして通信は切れた。リンディは思った。さて、一体どんな状況が飛び出すかしら。
と、言うわけでなのは、恭也、ユーノの三人はアースラの艦内に転移で入った。転移が完了すると、目の前に広がっていたのは幾条にも光の帯が床を通っている場所だった。
なのはは不安そうな顔をして念話でユーノに色々聞いている。恭也は外見は平然と――中身は思考を高速で巡らせていた。ユーノはなのはに対する念話の返答を、配慮して恭也にも入れてくる。
時空管理局、か…
そう思いながら、扉をくぐる。明らかに
『船』
と感じるような光景が目の前に広がった。
目の前のアリシア執務官心得、さっきと名乗ったフェイトにそっくりな少女が口を開いた。
「ああ、いつまでもその格好というのも窮屈でしょう。バリアジャケットとデバイスは解除しても平気ですよ」
なのははフェイトと同じ声で言われ、一瞬ビックリしたが「そうですね、それじゃ」と取り繕うように言って普段服に戻り、レイジングハートを宝石の形態に戻した。
「そっちのあなたも、元の姿に戻って良いと思いますよ」
「あ、そうか。そういえばそうでした。ずっとこの姿なんで忘れてました」
なのははへ? という表情をする。恭也はこの前に温泉に行った時にその姿を見たことがあるので知っている。ユーノが光に包まれた。光が晴れた時には少し長髪の金色の髪をした少年がそこに立っていた。
直後、なのはの絶叫が辺り一帯に響いた。
その後の説明によってユーノはでなのはと出会った時からあった『何故、なのはは自分と一緒に風呂まで入るのか?』という疑問が解けた。
その一悶着が終了し、アリシアに艦長室に案内される過程でユーノは思った。
もっと早く言っておけば良かった…
そして、四人は艦長室に入る。目の前にまず盆栽が入ってきた。床には赤毛氈。部屋の奥には抹茶をいれる道具一式。それに――制服のような服をきっちり着こなした緑色の髪を持つ女性と、黒い肩にトゲがある服を着た少年。見た感じ、なのはよりいくらか年上そうに見えるな、と恭也は思った。
「巡洋艦アースラへようこそ。さぁ、どうぞ。楽にお座りください」この艦――巡洋艦アースラの艦長をやっております、リンディ・ハラオウンです、とリンディは名乗り、三人は靴を脱いで赤い毛氈に座った。アリシアはクロノに「ご苦労」と一言労われ、艦長室を去った。
会談が始まった。ユーノがジュエルシードのことを説明し(何故かリンディはやっぱりと頷いていた)リンディがジュエルシード…ロストロギアについてなのはと恭也に説明する。
――使いようによっては世界どころか、次元空間を滅ぼす力
――特定の方法で起動させれば次元断層さえ引き起こす力
なのはと恭也にはスケールが大きすぎて、その話が良くはわからなかった。ただ、自分達が大変なことにいつの間にか巻き込まれてしまっていた、ということは判った。
話が終わり、リンディは三人に向けて口を開いた。
「これより、ロストロギア、ジュエルシードの回収に付いては時空管理局が全権を持ちます」
なのはとユーノが息を呑む。
後を受けて、クロノが言った。
「君達は、今回の事は忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすと良い」
「そんな、でも」
なのはが口を挟む。
「次元干渉に関わる事件なんだ。もう民間人レベルでどうにかできる問題じゃない」
「でも」
なのはが口を開こうとしたとき、これまで黙って控えていた恭也が口を開いた。
「ジュエルシードについては、そうかもしれません。ですが」恭也はリンディとクロノを真っ直ぐ見て言う。「あのフェイト、という少女についてはどうなんですか」
アースラ側の二人が難しそうな表情をする。今度は恭也の番だった。続けて言う。
「さっき、あの戦闘の場に介入した――アリシアでしたか、あの人とフェイトは無関係ではないのでしょう? まぁ、あんなに『何もかも』似ているのに無関係、と思うほうがおかしいですが。つまり、私が何を聞きたいかと言うと、こうです」恭也は一度言葉を切って言った。「あなた方『時空管理局』はフェイトとどのような関係なんですか?」
恭也はどうなんですか、と言う様に二人を見て黙る。リンディはしばらくどう言うべきか迷っていたようだが、やがて意を決して言った。
「わかりません」
「それは、どうゆう――」
「それ自体が、そもそもわからないのです。それが何故さかさえも」
リンディは説明を始めた。長い、長い、事情を。
そもそもの、原因は『F.A.T.E計画』というプロジェクトだと、リンディは言った。
その『F.A.T.E計画』とは『ミッドチルダ』という世界で行われた魔導研究で最終的に『人の生命を造りだす』計画だった。二年という歳月とかなりの費用を注ぎ込んだその研究は『人造生命』という新たな事象の地平に到達しようとしていた。その第二号が、この計画の主任責任者のプレシア・テスタロッサの娘であるアリシア・テスタロッサを元に『製造』された――
「それが、フェイトですか」
恭也が言った。ええ、とリンディが返事をした。クロノは目を瞑って黙っている。なのはとユーノは呆然としていた。話を続ける。
「しかし、そこまで順調に行った、その計画にある日、事故が起きました。彼女に記憶の植え付け作業を行っていた時、その研究室に――局所的で大規模な次元震が起きたのです。そして、その次元震が起きたのが」
「まさか、それは」
ユーノが言った。思い当たることがあったらしい。リンディがこくりと首を縦に振ってそれを肯定した。
「あなたが、ジュエルシードの事故を起こした日です」
ユーノに驚愕の表情が貼りつく。恭也はさっきのジュエルシードについての説明を思い出した。特定の使い方をすれば、次元断層すら…
「――そして、その次元震が収まった時、彼女は消えていました。『人造生命』の『第一号』である『リニス』と一緒に。第一号のリニスは既に記憶の植え付けを完了していました。第一号として、リニスは造られましたが、あくまでも、メインは第二号のフェイトでした。フェイトの教育を人造生命が担当した場合どうなるか、というのも実験の1つだったのです」
リンディは真相を語った。そこには明らかに一般人には語ってはいけない機密が少なからず含まれていた。まぁ、彼らがそれを周囲の人間に話したとしても彼らの世界の文明レベルでは誰も信用しないだろうという見解があったからこそではあったが。
「しかし、それだと、おかしいですね」
恭也が口を開いた。
「お兄ちゃん、何が?」
「確かに、ジュエルシードが(おそらくは)原因でフェイトとリニスは姿を消したのかもしれない、しかし――」
「それだと、ジュエルシードをあの二人が集めてる原因にはならない、ですね」
ユーノが言う。
「これまでは、そうでした。しかし、今日、それがおぼろげながら見えました。恭也さんも、なのはさんも、ユーノくんも、クロノも見たでしょう? 『あれ』を。シリアル『07』のジュエルシードが光った時、フェイトの胸元が――」
「そういうことでしょうね」クロノが後を引き受ける。「おそらく、フェイトはジュエルシードに取り付かれています。もしかしたら、リニスも」
場に沈黙が下りた。ユーノは自分が起こしたことに対する影響の範囲の広さに驚き、なのははフェイトがそんなことになっていた、ということに驚いた。
「まぁ、とりあえずは、こんなに急に色々言っても整理が付かないでしょうから、一旦この場をお開きにしましょう。一回家に帰って一晩三人で考えてください。これからも手伝うのか、もう手を引くのかについても」
ユーノが三人を送るべく、艦長室を出て行った。残されたリンディはため息を付きつつ、隅の方に設けてある通信設備に向かう。
まず、時空管理局の本部に繋ぎ、それから地方に繋ぐよう要請する。目的の人物が目の前にでてきた。
「報告、見た?」
ざっくばらんな口調でリンディがモニターに映った人物に話しかけた。
「たった今、見たわよ。ややこしいことになってるわね」
「まったく、それもこれも皆あなたのせいよ。今回の事件が突然発生したおかげで一週間の休暇が取り消されちゃったじゃない。そりゃ、もちろん、担当にされたからには全力で解決に傾注するけど…よりによってあなたのとこが起こした事件とはね。ここまできたらいよいよ本格的な縁を感じるわ」
「その、よりにもよって、という言葉をそっくり返させてもらうわよ、リンディ」
「お互い様、としか言い様がないわね…プレシア」
たった今、親しげな会話を交わした、リンディ・ハラウオンとプレシア・テスタロッサはとどのつまる所、親友だった。
その縁とは、三年前に遡る。
当時、リンディは巡洋艦アースラではない他の艦で副長をしていた。その時の艦の艦長はこれ以上ないくらい――無能だった。
そして、その艦からリンディはアースラの艦長に転属することに内々に決まり、一人でちょっとした祝杯を挙げることにした。普段、リンディは下戸で酒など飲まないのだが、その時ばかりはそんな気分になったのだった。(それくらいその艦の艦長が嫌だった、という感情もあったのだろう)
そして、リンディは気まぐれに立ち寄った飲み屋で座った席の横に彼女――プレシアがいた。最初、二人は地味に孤独に酒を飲んでいたのだが、リンディが酔っ払うにつれ、何故か意気投合し(外で言うには危険すぎる)上層部の無能に対する罵倒の言い合いとなった。その内、リンディは無能な上司など弱みを握って脅してしまえば良い…、と言ったらしい。リンディはそのことを覚えていなかった。(後にプレシアに絶対に言った、と言われる)現実にリンディはそのように無能に対処をしたことが数度あったが。
そして、リンディはその事を酔っ払っていたため、すっぱり忘れていた。
それから、一年の月日が経った。リンディはアースラの艦長に就任し、有能で頼りになる艦長、と乗組員から評価されるようになった。そして、ある任務が完了した褒章で一ヶ月の休暇が与えられることになった。丁度、その時は珍しくクロノとの休暇も重なっていたので久しぶりに親子水入らずで楽しめると思い、自宅に帰ると、隣家にテスタロッサ一家が越してきていた。そして――
「で、アリシアをリンディにとられたのよね…、不覚だったわ」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、アリシアちゃんがクロノにちょっと懐いただけじゃない」
「あのねぇ、どこがちょっと懐いただけだって、言うのよ、あれが。おかげでアリシアが執務官に憧れて家を出ちゃったじゃない!」
リンディはそのプレシアの態度に苦笑した。それは事実だった。
休暇で二週間ほど家にいたクロノにアリシアは何故か驚くほど懐いていた。そして、クロノが時空管理局に戻った途端、アリシアはリンディに執務官にどうやったらなれるのか、と聞いてきた。リンディがそれについて詳細に答えた、その二年後(つまり、現在だ)にアリシアは時空管理局執務官心得として巡洋艦アースラにやってきたのだった、それも、腕利きの――魔力AAA魔導士として。
驚くべき早さ、と言うしかなかった。ちなみに、クロノは魔法や体力のトレーニングから始めたので、執務官になるのに六年以上かかった、といえばアリシアがどれだけ凄いかわかるだろう。
「でも、その寂しさで『F.A.T.E計画』での元をアリシアちゃんにしたってわけではないんでしょう?」
「当たり前でしょう。見損なわないでよ」
(大体、私がアリシアの体細胞を計画に使ったのは)
プレシアは一人ごちた。そもそもアリシアが家を出て行く前からだ。寂しいとか以前の問題だ。それに、正直、プレシアは絶対にこの計画が途中で破綻すると思っていた。彼女はこの計画にそれほどの熱意を持って取り組んでいなかった。『何かの間違いで』プレシアが熱意を持って取り組んでいればこの計画はもっと早く成功していたかもしれないが、現実はそうではなかった。プレシアはさほどの熱意を持って計画を遂行していなかった。プレシアがこの計画を自分から放棄しなかったのは一介の魔導工学者としての義務にすぎなかった。
しかし、この計画は生命を作るとこまでは、無事に成功してしまった。
「で、プレシア。あなたフェイトちゃんを連れ戻したらどうするつもり? 『F.A.T.E計画』の素材にでも使うつもり?」
「何言ってるのよ、馬鹿馬鹿しい。今回の事故でもう『F.A.T.E計画』は完全に解体が決まったわ、元々金食い虫的な計画の上に、人道的な批判も多い計画だったしね。だから、もうフェイトが例え連れ戻されたとしても、もう実験する必要も無いわ。それに、私はもう決めたの」
プレシア・テスタロッサは宣言するように言った。
「フェイト――フェイト・テスタロッサはアリシアに似てるとか、似てないとか、そんなことは全く関係無く、私の、かけがえの無い娘であり、子供よ。誰にも邪魔させるものですか」
「そう」リンディは笑顔を浮かべながら言った。「すまないわね、変な問いかけをしちゃって」
「良いわよ、別に。私とあなたはそういう仲じゃない、初めて会った時から」
プレシアも笑いながら返す。
「そうね、そういえばそうね。忘れてたわ」
その時、モニターの横のスピーカーからエイミィの声が聞こえてきた。本部から通信です、と言っている。そう、すぐ行くわ、と返答する。
「そろそろ切るわ、じゃあ、またね。この事件が解決したらまたあの時のようにお酒でも」
「楽しみに待ってるわ」
モニターがプツリと切れて、映像も消えた。
さて、急いで艦橋に行かないとな、とリンディは思い、体をうん、と伸ばしてから艦長室を出て行った。
あとがき
長い長いお話をここまで読んだ上に、このあとがきを呼んでいる読者様有難う御座います。
こんにちは、向日葵です。
今回の第04話は、トゥルー・チェンジ――真相の改変の種明かしでした。その分、盛り上がりに欠けているのが難点かもしれませんが…
私は伏線、などと大袈裟に言っていましたが、この展開は実に単純です。
過去の大きな歴史をただ一点改変しているだけです。一応、小規模な改変も連続的に起こしています(笑)
あと残ってる伏線はおそらく2,3のはずです。それも謎とは言えないくらい陳腐な謎ですが、それを皆様に楽しんで頂けるように書いて参ります。
ちなみに、今回は、一番含みある人物に一番言わせたい台詞を言わせることができたので大満足です。これがSSを書く醍醐味かもしれません。
また第五話であいましょう。では〜
フェイトに付いての真相が明らかに。
美姫 「リニスもね」
いやー、こんな風になっていたとは。
美姫 「さ〜て、恭也たちは今後どうするのかしらね」
一体、どうなるのか!?
美姫 「次回も待っていますね〜」
待ってます!