皆様こんばんわ。
Bar『Betrayers』へようこそ。
ここは俺の世界です。
ちょっとそこ、痛い人を見るように見ないで。
本当の事なんだらから。
「ムームー!」
あぁ、ごめん、もうちょっとまっててな?
お嬢ちゃん達の出番は、もう少しあとなんだ。
だぁから、蹴らないでくれって、パンツ見えちまうぞ?
ふぅ……
ま、元気なのは良い事だ。
いきなり俺の世界なんて言っても、よくわからないのが当然だよな。
ま、一言でいえば、『俺の思い通りの現象が起こる場所』だとおもってくれればいい。
だからこそ、このお嬢ちゃん達をここに『出現』させた訳だが……
さてと、一体全体何が起こると思う?
いや、正直に言えば何が起こるかは『分かっている』んだけどよ?
偶には王道的なセリフだって言ってみたいんだ。
さてと、まずは口に貼ったテープを剥がしてやりますかね。
「お嬢ちゃん、すまんかったな」
「ト、トイレーーーー」
……だ、大丈夫だよな?
リリカルなのは クロスSS 『過去との遭遇』
「さすがに今回はやりすぎだ」
周囲を見渡せば、全周囲に渡ってヒビだらけになった壁が見える。
「面目ございません」
大きなため息ひとつと、深々と頭を下げる私に一枚の紙が差し出される。
「ま、とりあえず大人しくしとけ」
−訓告書−
今回の行為により、3日間の休養を命ずる
公式ではない証明に、その文は良く見なれた、言いかえれば目の前の人物の筆跡で書かれていた。
「ま、上と掛け合ってこれで収めて貰ったんだ。この機会に、お前さんは少し休む事も覚えろ」
「はい。お手数おかけしました」
そう言って、再度頭を下げるのだった。
「はぁ……」
辞令という名の、心遣いを貰った帰り道。
さすがに溜息の一つも出したくなった私は、当てもなく繁華街を歩いて行く。
有名なレストランに入る気分ではないし、ファーストフードもちょっと。
そんなどっちつかずな気分を抱えていてはショッピングを楽しめるはずもなく、結果的にはふらふらと繁華街を彷徨っていた。
「私だって、好きでやってる訳じゃないんだけどなぁ……」
航空戦技教導隊に所属してから、各種の新技の開発に余念がない。
今回の一件は、その新技の失敗による物。
だれも怪我する事なく、自身の負傷のみで済んだのだからとも思うが、やはりそうは問屋が卸してくれなかった。
「はぁ…… もう二一時か」
気がつけば、時計の針はそんな時刻を指しており、いい加減お腹も空いている。
どこをどう歩いたのか、見た事もない裏路地。
まわりは雑居ビルで固められており、人気もほとんどない。
さてどうしたものかと、足をとめた時だった。
ビルに挟まれた細い路地の奥に、ぽつんと佇む看板を見つけた。
『Bar Betrayers』
「偶にはいいかな?」
普段飲む事のないアルコール類ではあるが、その時はなぜか無性に欲しくなった。
自分に言い訳するように呟くと、ふらっとそちらへと足を向ける。
これが、『エースオブエース』と呼ばれる、高町なのはが『Bar Betrayers』と出会った時の情景であった。
カランカラン。
ドアを開けると同時に、取りつけられた鈴が軽やかな音色を立てる。
「いらっしゃいませー」
「え?」
どこか聞きなれた声が店内から響いて来る。
この声って……?
こちらの疑問などどこ吹く風と言わんばかりに、姿のない声の主が言葉を続ける。
「お好きな席に座ってくださいね〜」
「あ、はい」
好きな場所に、と言う割には、店内はバーカウンターが一つと席が六つ。
見回しても、あるのはそれだけ。
これじゃ、好きな場所も何も、どこに座ろうと同じだと思うんだけど……
そうは思いつつも、とりあえず奥から二つ目と言う、我ながら微妙な位置に座ってみる。
理由は簡単。
席の一つ一つに模様がつけられていて、奥から二つ目が青と白で模様が描かれていたから。
同時に、奥から出てきたのは……
なぜか巫女さんが着るような、白と朱色の式服を着た、獣耳をつけた何とも変わった美人さん。
使い魔なのかな……?
席に着くと同時に、カウンターの向こうから小皿が差し出された。
まるで、ここに座ることが分かっていたかのように。
「これは、私からのサービスです」
「え?」
目の前の女性は口を開いていないのに、どこからか声が聞こえてくる。
よくよく見れば、カウンターの高さギリギリに、ぴょこぴょこと揺れる髪の毛。
どうやら二人居るらしい。
「今日初めてのお客さんですから♪」
もう二一時なのに、初めての客……
このお店ってやばいんじゃ?
私の疑問もどこ吹く風で、先ほどと同じように目の前にグラスが差し出される。
先ほどから顔を見ようとしているんだけど、ここから見えるのはバーテンダーの頭頂部のみ。
紅茶色の髪を緑色のリボンを使ってピッグテールに括った頭。
そこから先はカウンターで隠れてしまっていて、さすがに覗きこむ訳にもいかず、そこまでしか確認が出来ない。
「ね、ねぇ?」
「ひゃい!」
コースターに載せたのを見計らって、声をかける。
「あなた、ここのマスターさん?」
「ち、ちがいます!」
「だよねぇ……」
もしそうだったら、このお店は絶対につぶれている。
差し出されたのは……
『ホワイト・レディ』
ジン 30ml
ホワイトキュラソー 15ml
レモンジュース 15ml
「注文してないけど?」
「マスターさんから、これを出すようにって言われてるんです」
……あー、うん。
何なんだろう、物凄いもやもや感。
確かに今私はコレを頼もうとしてたけど、先手を打って出されるってのは気に喰わない。
「……あれ?」
「どうしました?」
空腹を満たすために何かを頼もうと、メニューを探してみたがどこにもない。
「メニュー表ってないんですか?」
「マスター曰く、『お客様が頼んだ物は全て出す』がモットーらしいですから」
そう言いつつ、先ほどと同じように皿が差し出される。
だから、注文前に注文しようと思った物を出さないんで欲しいんだけどな……
そこにあったのは、出来たてを主張するかのごとく湯気を立たせたピザ。
生ハムとルッコラが綺麗にトッピングされていて、見た目からしておいしそう。
とりあえず一口食べてみると、ルッコラのゴマに似た風味と生ハムの塩味、それにオリーブオイルの香りが口の中一杯に広がる。
「ん、おいしい」
「お粗末さまです」
これまで食べた中では、一番のおいしさ。
先ほどまでの空腹もあり、自然と食が進んでしまう。
また、カクテルの方もレモンを使っているだけにさっぱりとした口当たりで、これも飲みやすい。
気がつけば、市販Sサイズ相当はあったと思われるピザを綺麗に食べきっていた。
カクテルの方もすでに空になっており、次は何にしようかと思った時だった。
「あ、あの……」
バーテンダーの方から話しかけてきた。
相変わらず姿は見えないけど、どこか気遣いを含んだ声。
「はい?」
「どんな悩みを持ってるんですか?」
「え?」
謎だらけの主は、やはり謎だらけの質問が好きらしい。
「どういうこと?」
「ここは、ちょっと変わったお店で、普通じゃ入れないらしいんです」
「え?」
どういうこと?
私は普通に歩いて入って来たんだけど……
「えっと、マスターから教わったんですけど、このお店は、お店が人を選ぶそうなんです」
「店が人を選ぶ?」
「はい」
バーカウンターから聞こえてくる声は真剣そのもので、一切の冗談や嘘を含んでいない。
だからこそ、良く分からない。
「訳もなく酔いたい、騒ぎたい、そんな人は入れないんだそうです」
「へぇ……」
「だから、どんな悩みを持ってるのかなって……」
悩み、ねぇ……
「あなたはどう思う?」
「え?」
「私が、何に悩んでると思う?」
我ながら意地悪な質問だと思う。
なんたって、質問に質問で返すんだから。
いきなり見ず知らずの人間の悩みが何か当てるなんてのは、絶対に無理。
正直、私自身、最近感じる胸のわだかまりの正体が分からない。
それでも、いや、だからこそ、この質問をぶつけてみたい。
この、どこか懐かしさを感じる声の主に。
「……」
しばらくの沈黙の後に出されたのは見た事のないカクテルだった。
『』
ホワイトブランデー 7/12
ピーチツリー 3/12
ブルーキュラソー 2/12
カルピス 1tsp
レモンジュース 2tsp
「これは、私の思いこみかもしれないですけど……」
「名前は?」
「まだ言えません」
まだ、ね。
「寂しいんじゃないですか?」
「寂しい?」
「はい」
これまでにない、はっきりとした口調で返事をするバーテンダーさん。
寂しい、か。
思いもよらない言葉に、溜息を一つ吐く。
「私の周りには、おにーちゃんやおねーちゃん、フィアッセさんや忍さん、くーちゃん」
「くぅん?」
「あ、くーちゃんを呼んだ訳じゃないよ?!」
「わかったの」
あ、そういえばこの少女だけじゃなったんだっけ……
気がつけば、獣耳を生やした女性は、カウンターの端っこで何やら作業中。
呼ばれたと勘違いしたのか、一度顔をあげたが、すぐに下を向いてしまった。
私達の邪魔はしないという事らしい。
「私には、甘える事が出来る人が一杯います。
でも、あなたにはそう言った人が、ほとんどいないか、今会えない状態だと思うんです」
驚いた。
見事なまでに核心をついてきてる。
「ん〜。
どうしてそう思うの?」
「だって、この時間に一人でこんなお店に来るんですよ?
普通だったら、家でのんびりして居る時間のはずです。
でも、貴女はそうしなかった。
つまり、貴女は家に居たくない、何らかの理由があった。
そう考えたら、家で帰りを待ってくれている人が居ないんじゃないかなって」
そう、私は今一人暮らし。
玄関を開けても、まっくらな部屋が待っているだけ。
フェイトちゃんも、はやてちゃんも、それぞれの目標に向けて努力の真っ最中。
私自身、自分の技量を生かしたいと言う目標はある。
だけど、具体的にと言われると、まだあやふやのまま。
「わたしのおにぃちゃんとおねーちゃんって、剣術をやってるんです」
やっぱり……
「そのおにぃちゃんが口癖のように言っているのが『守る者が居る限り、俺達は負けない』」
守る者が居る限り、ね。
陳腐な言葉だと思う。
守る人が居れば最強になれるなんてのは、マンガの話でしかない。
「私も、確かにあなたの思う通りだと思います。
守りたいって思う意志だけでなんとかなるなんてのは、子供の夢と変わらない、理想ですよね」
もう思考を読まれる展開には驚きを覚えない。
だが、バーテンダーさんの声が硬くなった事にやや驚きを覚える。
「でも、それを忘れちゃいけないと思うんです。
おにーちゃんは、昔自分の理想を見失って、一生残る怪我をしちゃいました」
「一生残る怪我?」
おかしい……
私の思っている人じゃないって事?
忍さんの名前が出て、剣をやっていると言った所で、大体の想像がついたつもりだったけど、その予想は違ったらしい。
「そのせいか、おねーちゃんやみんなに良く言うんです。『人を守るのなら、自分を大事にしろ』って。
おねーさんは、自分を大事にする事を忘れていませんか?」
「そうねぇ……
じゃあ、自分を大事にして、出来るかもしれない事を諦めちゃうのは良い事?
そんなわけないよね?
どこかで無理しないと、出来ない事もあると思うけど?」
レイジングハートを手にしたあの日から、がむしゃらに進んできた。
絶対に間違っていない。
間違っていたなんて言わせない。
自分が傷ついた事なんて数知れず。
でも、それを後悔なんてしていない。
「うん、私もそれは思います。
でも、怪我をしたのは自分だけだから問題ないなんてのは、ちがいます」
「ミスした代償を払っただけだよ?」
「それで痛い思いをしなくても、悲しむ人が居たら同じなんです。
おにぃちゃんなんて、フィアッセさんからコンサートのあとにどれだけ悲しい顔されて、お詫びに走り回った事か。
いいですか?
人を守って死ぬなんてのは、自己満足なんです。
守られる方も笑顔じゃなければ、守った意味ありますか?
あなたが死んだら、悲しむ人は居ないと言えますか?
怪我したって同じなんですよ?
大切にしたい人が今目の前に居ないからって、無茶していい訳じゃないんです」
しずかな室内に、小さな涙声が響く。
なんだろ……
物凄く、胸が痛い……
「おにぃちゃんは、守る人の為に傷つく事を嫌がりません。
でも、私が泣くと凄くこまった顔で、謝ってくれるんです。
おねーさんは、誰かにそんな思いをさせたいのですか?」
その時、カウンターの中から溶けかけの氷の割れた音が響いてきた。
「それと、もう一つ。
おねーさんは、人に技術を教える為の部隊に居るんですよね?」
「うん」
「先生が『自分はどうなっても良いから人を守る』って教えていたら、生徒さんはどうなっちゃいますか?
口で『自分の事も考えろ』って言っても、行動が伴って無ければ、理解はして貰えないと思いますよ?
おねーさんは、誰かを助ける為に自分を犠牲にする人を育てたいと思いますか?」
とどめの一撃だった。
結局、私は私の事に精一杯になって、周囲が見えていなかった。
それを今、はっきりと自覚させられた。
まだカウンターから顔がでないぐらいの子供の言葉が、やけに心に響いていた。
「ねぇ……」
「はい」
どうしたらいいんだろう……
はっきりとした結論はまだ出ない。
でも、言わなくっちゃいけない事は分かった。
「ありがとう」
「……」
「どうしたらいいのか、どう変わるべきなのか、まだはっきりとは分からないけど、変わるべきってのは分かったかな」
「……はい!」
きがつけば、先ほどのカクテルはすでに空になっており、時間も良い具合。
そろそろかと思った時だった。
「ごめんなさい、もう一つだけ」
そう言って差し出されたカクテルは……
『ギムレット』
ドライ・ジン 45 ml
ライム・ジュース 15 ml
ラストにはお約束とも言える一杯。
このカクテルは、正直好きではない。
でも、今出されたこれは、不思議とおいしい。
「それで、どうしたの?」
「はい、おねーさんは、航空戦技教導隊なんですよね?」
「うん、よく知ってるね」
うん、何度も言うけどいまさらだよね。
もう驚かない。
「人に教えるって、どんな気分ですか?」
「う〜ん、まだ教える立場に居る訳じゃないけど、正直怖いかな」
「怖い?」
「そりゃ当然。
だって、私の教え方が悪かったら才能をダメにしちゃうんだし、責任重大だよ。
それに、私自身は誰かに教わって出来るようになった訳じゃなく、才能と努力だけでここまで来ちゃったからね」
そう、それが人に教えるって事。
私の年齢と経験では、正直誰かに教えるって事は荷が重いのではと思う事もある。
「だったら、おねーさんの家族を頼ってみたら良いんじゃないでしょうか」
「家族?」
「はい」
こっちに来てから半年。
連絡はすれども、一度も帰ってはいない実家。
正直、あのなかに私の居場所があるのか今でも自信が持てない。
「大丈夫ですよ」
「あっさりと言い切ったわね?」
「バーテンダーですから」
「理由になってないよ」
自信満々の返事に、思わずツッコミを入れる。
「ん〜、信じて貰えるかわからないですけど、おにーちゃんが私に勉強を教えてくれた時、物凄く分かりやすかったですから」
「へぇ……」
「それに、私のおにーちゃんは、おねーちゃんに剣術を教えているんですけど、おねーちゃんが言うには『物凄く分かりやすい』って言ってましたから」
「ねぇ……」
「その疑問には、答えられないですよ?」
またしても先手を取られる。
でも、それは半ば予想していた事。
それでも、聞かざる得ない。
「どうして?」
「マスターに、言われてますから」
「……そっか」
「それはともかく、おねーさんも、ちゃんと家族の一員です。
帰れば、喜びますよ。
それに、おにーさんやおとーさんを頼ってあげてください。
必ず、答えてくれますから」
「うん、ありがとう。
それも、変わらないといけない事なのかなって今なら思えるよ」
「うん、がんばってください」
カクテルを飲み干すと、そっとカウンターに置く。
これで、おしまい。
私の事を、多分誰よりも理解できるバーテンダー。
ここを出たら、もう会う事は無い。
うすうす感づいている正体。
さっきの返事で、それははっきりとした。
名残惜しいけど、いつまでもこうしてはいられない。
「さてと、この辺にしておくわね」
「はい、ありがとうございました」
「お代は?」
「今日は要らないです。
悩み人からはお代を取らないのが、マスターの姿勢だそうでして」
「はいはい、ありがと」
そして、さようなら。
ゆっくりと席を立ち、出口へと向かう。
そこにはすでに、先ほど『くーちゃん』と呼ばれた女性の姿。
「ありがとうございました」
「ごちそうさま」
完璧なタイミングで開けられるドア。
一歩踏み出した時だった。
「あ!」
「なに?」
カウンターから聞こえてきた慌てた声に、足を止める。
「先ほどのカクテルの名前ですけど……」
「あ、いいよ」
「ふぇ?」
「いまの私には、もう関係のない事だから」
今の私は、するべき事が分かっているから。
「……おねーさん」
「なぁに?」
「私も、話せてうれしかったです。
お礼と言うか、私からのお礼を受け取ってください」
「……」
「そこから出たら、十歩、まっすぐ歩いて振りかえってください」
「分かったよ」
「それでは、また」
「またね」
ゆっくりと一歩を踏み出す。
一歩、もう一歩。
ゆっくりと歩いて振りかえった先に見たものは、入口に立つ先ほどの女性と、紅茶色の髪の毛をピッグテールにした、多分小学生高学年程度と思われる少女が、小さく手を振っている姿。
やっぱり、ね。
小さく手を振り返すと、勢いよく振りかえる。
未来(まえ)に進むには、先を見て歩かないとダメだから。
同時に、ポケットから通信端末を取り出すと、迷うことなくある番号を押す。
「もしもし」
「なのはか?」
「うん、おとーさん。元気してる?」
「あぁ、どうした?」
「明日から、2日ほどそっちに行っても良いかな」
「何を言ってるんだ、ここはお前の実家なんだぞ?
好きな時に戻ってこい。
悩みがあるなら聞いてやるぞ」
「うん、ありがとう」
胸のもやもやは、既に無い。
こうして私は、振り返る事なく帰途についたのだった。
「はい、ごくろーさんやったな」
「はわわわ!」
「おいおいどうしたよ?」
「背後からいきなり話しかけられたら、びっくりして当然です!」
プンプンという擬音そのままに、怒った顔をした少女の頭を、そっと撫でる。
「すまんかったな。
で、どうやった?」
「う〜ん……
なんだか複雑です」
「というと?」
「おにーちゃんを知ってる身としては、あの人は絶対に無理をする時が来ると思うから」
「あー、そうやな。
でも、それは今じゃ無い。
もっと、大切なものが出来た時や」
「おにーちゃんみたいにですか?」
「あぁ、そうや。
それとな、俺から質問一個いいか?」
「あ、はい」
「なんで、俺の言う事を聞いてくれた?
自分で言うのも何やけどさ、いきなり連れてこられて、『自分が危ないから説教したってくれ』で、自称神様の言う事聞いてくれるのはめずらしいで?」
「あ、自覚はあったんですね」
「……」
「う〜〜ん、なんて言えばいいのか、目が真剣だったから、かな?」
「へぇ……」
「私のおにーちゃんは、意外と嘘つきだったり悪戯好きだったりするんですけど、目を見てると大体わかるんです」
「で、俺の目が真剣だったから、良くわからん俺を信じて、事情もよく聞かんと話に乗ったと」
「はい」
あー。
うん。
完敗です。
この少女は、俺の苦手なタイプです。
まっすぐで、純粋で、穢れを知っている俺にはまぶしすぎる存在。
「あっかんなぁ、俺の負けだね」
「へ?」
「いや、こっちの話や
さて、お礼代わりと言っては何だけど、お嬢ちゃん達にはこれをあげよう」
「これは?」
差し出したのは二枚の真っ白なカード。
「ここの、マスターキーみたいなもんや。
お嬢ちゃん達が来たいと思えば、いつでも来れるで。
ただし、二人一緒が条件な?」
「いいんですか?」
「あぁ、いいで。
そのかわり、また呼ぶかもしれんから、その時はよろしくな」
「はい、できれば、私ももっとあの人とお話がしたいです。
それと、今さらですけど、あなたの事はなんて呼べば?」
「あー好きでええで?
実際名前なんて、覚えとらんもんで」
「じゃあ、次回までに考えておきますね」
「あいよ、帰る時はそこの出口からな。
大丈夫、出る場所は嬢ちゃんの部屋の中やから」
「そんな事が出来るんですか?!」
「神様舐めんな。
時間も、こっちに来てもらった瞬間にしてあるから問題ないで」
「はい、ありがとうございます」
「さ、はよ行き」
「はい!」
扉が閉まる音を合図に、カウンターの上にカクテルが出現する。
それは、先ほどなのはに出した物と同じもの。
カクテルネーム『lonely night lonely way 〜ロンリーナイト・ロンリーウェイ〜』
「さてと、次は誰にしますかね……」
一人つぶやくその口元は、どことなく楽しげな笑みを浮かべていたのであった。
―あとがき―
こんばんわ。
ここまでお読み頂きまして、誠にありがとうございます。
気が付いたらこんな物を書いてました。
MyHPで執筆中の、Bar『Betrayers』シリーズ番外編です。
お酒には、普段言えない事を言わせる、出来ない事をさせる、そんな力があると思います。
もし良かったら、HPに遊びに来てくださいね。
まだまだSS少ないですが、頑張っていきたいと思います。
そして、相互リンクを快くOKしてくださった氷瀬 浩様、誠にありがとうございます。
これからも、よろしくお願いします。
短いですが、これをもって、あとがきとさせて頂きます。
それでは、また。
Betrayers専属バーテンダー響より
変った感じのバー。
美姫 「こういうのも良いわね」
だよな。何か読んでいてこっちも不思議な感覚を覚えました。
美姫 「うんうん。響さん、投稿ありがとうございました〜」
ではでは。