『極上とらいあんぐる!』




私立宮神学園には教職者達よりも権限を持つ美しき乙女達がいる。
 私立宮神学園極大権限保有。
 最上級生徒会。

 略して――。

 極上生徒会!



第三話 有罪!?無罪!? 極上裁判! つ☆づ☆き☆

 法廷の再開を示す木槌が講堂に響いた。
「さて、それでは新たな事実が出てきました。実は高町さんは下着泥棒はしていなかった。そして下着を撒き散らしたのはプっちゃんだった」
 纏められた事実に、傍聴人が一気にざわめき立つ。
 それを再度木槌によって静かにさせると、落ち着き払った久遠に視線を向けた。
「さてそれではこの後の検察側の方針をお願いします」
「はい。休憩前のやり取りで、下着については彼のせいではないとはっきりしました。しかし、それが彼の下着泥棒の疑惑を晴らす訳ではありません」
「と、いうと?」
「何故女子ロッカールームにいたのか? これが晴れない限りは彼はどうみても下着泥棒以外に考えられません」
 それ以上の回答が出てこないと踏み、小さく頷いてから奏は今度は奈々穂を見た。
「では弁護人。同じく今後の方針をお願いします」
「弁護側の意見は検察と正反対だ。前にも言ったように、あれだけの運動神経を誇る彼が何もない場所で寝ているのは不自然以外のなんでもない。だからこそ、後半で彼の無実を掴み取る」
「……わかりました。では久遠さん。証人をお願いします」
 あからさまに誰が出てくるのかわかりきったやり取りだが、それでも要求を待っていた久遠は奏の隣に戻ったりのを見直した。
「では下着をばらまいたと自白した、プっちゃんを証人として召喚します」
「おう。さっきの打ち合わせ通りだな」
「こ、コラ! 余計な事はいうな!」
「……いきなり暗雲が立ち込めているんだが」
 容疑者席にいる恭也がたらりと汗を一筋流しているのを苦笑で見つつ、赤星もまた親友の運命が決まる後半に意識を集中させた。
「さて証人、名前と職業をお願いします」
「ああ。俺の名はプっちゃん。ちょっといなせな人形さ」
「では証人、証言をお願いします」






〜証言・プっちゃん。下着をばら撒いた時の状況〜


 りのと一緒に俺が仏頂面を見つけた時、刀を持ったまま完全に熟睡していやがった。もう刀を放りだしてもうはしたないったらありゃしないぜ。

 それ以上話す気がないのか、言う事を言い終えると憮然と大きな欠伸をした。
「プっちゃん、ありがとうございます」
 奏が証言を終了させた。
 奈々穂の隣で付き添いを交代した飛田小百合が、正面でほくそ笑む久遠の表情に疑問を感じた。
「副会長」
「ん? 何だ小百合」
 正直、奈々穂にはそれ以上の手立ては見つからなかった
 プッちゃんの証言に矛盾は存在しない。
 つまり恭也は最初からその場に留まっていた。彼が本当に下着泥棒を行うために来たのかはわからないが、このままでは濡れ衣であっても被せられるだろう。
 そんな考えが頭の片隅をよぎっていた時だったため、少しキツく小百合を一瞥する。しかし小百合の視線の方が力が強かった。
「彼は一流の剣士です。そんな彼が剣を放りだしているというのは考えられません」
「? どういうことだ?」
「時代劇で見た事はありませんか? 剣を抱え込んで休む姿を」
「弁護人。尋問を」
 そこで小百合との会話を打ち切られた。
 だが大まかな話は既に聞き終えていた。
 後はタイミングを間違わないだけ。










〜尋問・プっちゃん。下着をばら撒いた時の状況〜

 りのと一緒に俺が仏頂面を見つけた時、刀を持ったまま完全に熟睡していやがった。もう刀を放りだしてもうはしたないったらありゃ……

「まったぁぁぁぁぁ!」
 激しく机を叩き、プっちゃんの証言を停止させると、奈々穂はビシィ! と指を突きつけた。
「なんだよ?」
「剣士が剣を放していた。間違いないか?」
「ああ。絶対にな」
「なら、その証言が検察側の主張を完全に打ち崩すものとなる」
「何だと?」
「剣士というのは剣を身近から放す事はしない。それが放れている時点で普通ではない!」 自信を漲らせた言い回しに、傍聴席の生徒達がざわめきだすのを木槌の一打ちでおとなしくさせると、奏はちらりと奈々穂へ視線を向けた。
「その根拠は?」
「今回付き添いとしている飛田小百合。彼女もまた一角の剣士」
「剣士故に剣士を知るですか。なるほど」
「裁判長。少しよろしいですか」
 そこへ、それまで沈黙を保っていた久遠が挙手した。
「何?」
「今のは意義を申し上げますわ」
「何だと!」
「確かに立派な剣士であればそうかもしれません。しかし、高町さんがその癖を持っているかどうか? というのは別の問題ですわ。特に弁護人の付き添いの方では証言責任に落差があります」
 確かに付き添いとなれば身内扱いとされる。
 いくら別であると言い続けても、公平さを指摘された場合にどうしてもレベルが落ちる。「だ、だが……」
「そうですね。久遠の言われるとおりです。完全に第三者からの意見であれば認めます」
「く……」
 一言で逆転しかけた立場を覆され、奈々穂は苦々しく唇を噛み締めた。
 久遠は証言責任を持ち出したが、高町恭也レベルの剣士が刀を放り投げているのはどう考えてもやらないだろう。
 だが、ただの弁護側からの意見ではゆさぶりにもならない。
 どうしたらいい?
 必死に頭の中の神経シナプスをフル稼働させる。しかし――。
「チクショウ……」
 苦渋の呟きが、全てを物語っていた。
 弁護人の握り締めた拳が痛々しいが、それでも裁判長として締めなければならない。
 奏はりのの隣で小さく息をつくと、木槌を大きく振りかぶった。
 奈々穂に敗北感が漂い、久遠に勝利の不敵な微笑が浮かぶ。
「待ったぁぁぁぁぁ!」
 その時!
 傍聴人席からたった一人の男性が、大きな声を上げた。打ち木の直前で止められた木槌は、奏の心を投影するようにふらりと傍聴人席へと先を向ける。
「赤星さん?」
「ああ、さすがに無実だとわかっている人間を有罪にされるのは、ちと気分が悪いんで。それに、高町は絶対に今回の罪のような事はしない」
「それは友人としての意見ですか? それならば、今回の法廷に必要な意見にはなりません」
「いえ、一人の剣士として彼が剣を放り投げるという愚行を行わないと宣言できます」
 別にクリスチャンではない。
 しかし海鳴に残してきた天使の歌声と称される友人が歌う賛美歌に誓うべく、赤星は胸に手を当てた。
「それなら……第三者ですね」
「裁判長。彼も友人です。証言に信憑性がないと提言いたします」
「裁判長! しかし剣士として、彼以上の証言者は存在しません。彼の発言の受理を!」
 弁護と検察が同時に動いた。
 この発言が通れば、間違いなく高町恭也の無罪が決まり、通らなければ間違いなく高町恭也の有罪は決する。
 それまで余裕が僅かに見え隠れしていた久遠の表情にすら、薄らと焦りが浮かんでいる。 そして瞼を閉じて長考してた裁判長が、決意を秘めた瞳を開いた。
「検察の言うとおり、赤星さんも身内であり、普通は証言に信憑性を持つ事ができない」
「その通りです」
 腰付近で腕を組み、ほっとした表情を久遠が浮かべる。
「しかし――」
 それもつかの間だった。
「二人の剣士が同じ意見を述べているという事実も見過ごせません」
「裁判長!」
「よって、被告人に当時の証言をしてもらうように裁判長として要請いたします」
「く……」
「奈々穂さん!」
「ああ。これでいける。おおよそ会長の心象は良い方に向いている。ここで高町が変な証言をしなければ……」
 対照的な雰囲気を醸し出す二陣営を他所に、手錠をされた恭也が証言台に立った。
「高町さん」
「はい」
 奏の呼びかけに、落ち着いた様子で恭也は一言返事をした。
「貴方の発言で、全てに決着がつきます。よろしいですね」
「はい」
 









〜証言・高町恭也。あの日の出来事〜

 あの日。俺は一人山の中で修練を積んでいた。その帰りに学校に忘れ物をとりに戻り、そのまま気付いたら手錠がかけられていた。

「具体性に欠ける証言だな」
 それが奈々穂の第一感想だった。
 だがそれ以上は恭也も口を開こうとしない。
「尋問で探り出すしかないか」











〜尋問・高町恭也。あの日の出来事〜

 あの日。俺は一人山の中で修練を積んでいた。その帰りに学校に忘れ物をとりに……。

「意義あり!」
 それは奈々穂の決意とも言えるべき速攻の異議申し立てであった。久遠はさっきのプっちゃんまでで勝負を決めたかった筈だ。それは珍しく浮かべた焦りからも読み取れる。だからこそ! 奈々穂はトドメをさすために、疑問点を全て明らかにするつもりだった。
「何を取りに戻ったんですか?」
「ん……」
 そこで一旦口篭ると、改めて恭也は口を開いた
「実は鞄に入れていた筈の手紙がなくて、入れ忘れたのかと思ったんだ」
「手紙?」
「ああ。新聞部から取材申し込みの手紙だ」
 ふむ?
 嘘はついていない。ついていないが、取材の手紙がないだけで夜中に取りに戻るだろうか?
 若干の違和感を感じながら、それ以上の追求をせずに先を促す。



 そのまま気付いたら手錠がかけられていた。

「まった! 気付いたら手錠を?」
「ええ」
「校舎の何処まで入りました?」
「教室に入って机の……ところかと」
「自信がなさそうだな?」
「すまない。確か教室に入った付近までは覚えてるんだが、それ以上を覚えていないんだ」
「? どういう事だ?」
「校舎に入ってから誰かにつけられていたが、校舎に入れるのであれば関係者だろうと放置しておいたんだ。それで教室に入ってから急に意識が遠くなって、気付いたらあそこで捕まっていたな」
「ああ、なるほど……ってちょっと待て!」
「ん?」
「つまり、薬を使われた?」
「ああ、そうとも言えるな」
「……何でそれを早く言わないんだ?」
「言ったところで信用される状態じゃなかったらな。なら流れに任そうかと」
 超がつくほどの責任放置に、弁護側だけではなく検察側もがっくりと肩を落としている。 見ると奏も少々頭痛がするのか、額に指を当てて小さく息をついている。
「……どうやら、一番話を聞かなければならない人達が浮き彫りになったようですね……」 それが裁判の終焉を告げる合図となった。





自らの弁護をすることなく、時の流れに身を任せ〜。
美姫 「って、流石に任せすぎでしょう!」
まあ、恭也らしいかもな。
美姫 「さて、大分確信へと近づいてきたみたいだけれど…」
うんうん。まだまだ真相は謎。
美姫 「一体、どんな結末が待っているのかしら!?」
続きが非常に気になります。
美姫 「次回も楽しみにしてるわね〜」
ではでは。



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