『選ばれし黒衣の救世主』











 いつもならば、昼のこの時間は喧噪に包まれている食堂。だがこの日は、それほど騒がしい者がいない。
無論、喋っている者がいないというわけではないが、全体的に静かな感じで、どこか暗いイメージがあった。
 そして、一つのテーブルに座る救世主クラスの者たち。彼らもどこか暗い雰囲気で食事をしていた。

「傭兵科クラスの人たちも何人か戻って来ていないそうです」

 どこか沈痛な面もちで、ベリオは呟いた。

「確かセルも言ってたな、そんなこと」

 それを聞いて、大河もため息をつきながら言う。
あの村へと救世主クラスが向かっていた時、他の科の生徒たちも、同じく任務を言い渡されていたのだ。
だが、どのクラスも数人の犠牲者を出すことになった。
そして救世主クラスの者たちは、犠牲者こそ出ることはなかったものの、任務の半分は失敗したようなものだった。それが本当に後味の悪いものとなってしまった。
恭也と大河が、今日の昼食はみんなで食べようと言い出したのだが、あまりいい結果にはならなかった……というよりも、帰り際に励まされ、幾分か良くなっていたはずなのだが、この食堂の空気に触れて、ぶり返してしまったのだ。
そんな一同を見て、大河はため息をつきながらも、肘で恭也の脇腹をつつく。

「なあ、なんかいい励ましないか?」

 さらにそう聞くと、恭也は少しだけ考えたあとに頷いたのだった。






 第二十六章 昔語り






「みんな」

 とりあえず恭也が呼びかけると、全員が彼を見た。
 自分に言えることなど少ない。今から言う言葉も励ましの言葉ではない。
 だが、それでも言おう。
 あの時、あの人が自分に言ってくれたことを、自分なりの言葉で。

「気にするなとも、忘れろとも、割り切れとも言わない。だが、無駄にするな」
「え?」

 恭也の言う言葉の意味を、誰もが理解できないのだろう、不思議そうな声が大河を含めて全員の口から出た。
言われた言葉は違うものの、自分もそうだった、と恭也は心の中で苦笑する。

「死んでいった人たちの犠牲を……無駄にするな」

 かつて教わったことを自らが言う。
 もう一度自らにも言い聞かせるように。

「犠牲を無駄に……ですか?」

やはり意味がわからないのだろう、リコが聞き返した。
 それに恭也は頷いて返す。

「俺が元の世界では護衛の仕事をしている、というのは話していたか?」
「初めて聞いた」

 未亜の他にも初めて聞く者たちは、僅かに驚いているようだった。そんな仕事をしていれば、確かに戦闘経験が豊富なのも頷けるという感じであった。
 もっとも護衛の仕事というのは、何も起こらず、護衛対象者に張り付いているだけで役目が終わるということの方が多いし、本来はその方がいいのだ。
 だが恭也が言いたいのはそんなことではなく、これは前置きにすぎない。

「自慢にもなりはしないが、一応、まだ護衛任務を失敗したことはない」
「そうですか」

ベリオはあまり関係のなさそうな話だからなのか、どこか話に集中していないように見える。
 護衛と今回の件では全く意味が違う。モンスターがあの村に来ると知っていて、救世主候補たちが護衛をしていれば、あんな事にはならなかったかもしれないが、そんなことは不可能な話だった。

「だがな……」

 恭也は、そう言ってからしばらくの間を置いた。
それは本来、話すべきではないことなのかもしれない。
 心の中で、すまない、と一言呟いてから再び口を開く。

「俺は、ある女の子を救えなかったんだ」
「救え……なかった、でござるか?」

 カエデの問いに、恭也は深々と頷いた。

「何かあったら必ず助けると誓ったのに、俺はその娘を救えなかった」

 それは未だに癒えることなく、恭也の心を蝕む過去。
彼女は自分を恨んでいるだろうか、憎んでいるだろうか……いや、死んだ者は何も感じない。
 もし霊としてでも現れ、恨んでいると、憎んでいると言うのなら……。
それでも、あの二度の光景が、幻でなかったなら……。

「恭也が救えなかった……?」

 信じられない、とばかりに呟く大河。
 だが、それは救世主候補たち全員が同じなのだろう、驚いた表情のまま固まってしまっている。さらになのはも聞いたことがなかったらしく、同じく驚いていた。
 今回の件では、救世主クラスの者たちが村に着いた時には、村人は殺されていた。だが間に合っていたなら、恭也ならば……無論、自分たちでも……救えたと思っているのだ。
恭也は視線を天井へと向ける。

「今のなのはよりも、少し歳が上の娘で、太陽みたいに明るい笑顔を見せてくれた女の子だった。俺はその娘に、護衛の任務の時に出会ったんだ」

 結局、幻影以外で彼女の笑顔を見たのはそのときだけ。だが、その笑顔は未だ色褪せず、恭也の心の中にあった。

「俺の護衛対象者が訪れたパーティー。そこにその娘はいたんだ。無論、俺の任務には全く関係のない少女だ。だが、その父親が護衛対象者の知り合いでな、少し話をしたんだ」

 自分を怖がっていたのか、俯きがちに話しかけてきた少女を思いだし、少しだけ苦笑する。
 
「おにーちゃん……」

 その姿を見て、どう思ったのかはわからないが、なのはが呼びかけてくる。しかしそれ以上何も言わない。
 それならばと、恭也は先を続けた。

「俺がボディガードの仕事をしていると教えた時……彼女は驚きながら凄いって言っていたな」

 目を輝かせながらそう言った少女。
 おそらくは、自分を守ってくれる白馬の王子でも想像したのだろう。

「そして言ってきたんだ」

 それは今でも忘れない言葉。

『きょ、恭也さん、あの、その……私が危ない時にも……助けに来てくれませんか?』

 顔を真っ赤にしてそう言ってきた少女が、本当に微笑ましくて……。

「約束した……誓ったんだ。必ず助けるって」

それは些細な約束だったのかもしれない。だが恭也にとって、それは確かな誓いであった。
だがそれは……違えることになってしまった誓い。
表情は変えない、だが強く、強く、拳を握りしめる。

「恭也、そのへんでいいわよ……」

それを見て、恭也を気遣うようにリリィは言うが、彼は首を振る。
 無駄にしないと約束した。
 あの時、あの森で、あの綺麗な月が出ていた夜に、あの人に言われ、幻影のあの少女に約束したのだ。
彼らに聞かせることが……いずれ世界の驚異と戦うことになる彼らに聞かせることが、その約束を守ることになると思うから。

「そのときはそれだけだ。携帯電話の番号を教えて……ああ、携帯電話というのは、離れた場所にいる人と会話をするためのものだ」

その番号を教えた時の少女の嬉しそうな顔を思い出す。
それは本当に嬉しそうで、彼女は自分の携帯に恭也の番号を登録したはずなのに、何度も何度もその番号を確認して……。

「その護衛の任務が終わって、しばらく経った日のことだった。突然、その娘から電話がかかってきた」

登録していた番号と少女の名前が画面に出てきた時は、正直世間話か何かをするつもりなのではないかと思っていた。
 だが……。

『恭也さん! 助けて!』

 それだけだった。
 本当にそれだけだった。

「それだけですぐに電話は切れた。そしてその娘の声を聞いたのも……それが最後だった」

悪戯だ、などと恭也が思う訳もない。

「俺は仕事の仲介をしてくれている人に連絡をとった。すでにその人も知っていた。
 その娘は誘拐されていたんだ」

少女は犯人の目を盗んで、何とか恭也に連絡をしてきたのだ。

「誘拐?」

静かに頷く。
 そう、身代金のためでもなく、何かしらの要求があった訳でもない誘拐。
 その目的は……。
本当は、この事件は後に起こる事の準備でしかなかったのだ。
 だが、それは今の話とは別の話。

「居場所はすぐに見つかった」

 すぐにとは言うが、それは彼女が……仕事の仲介をしてくれていた人が、能力などをフル活用して見つけだしてくれたのだ。
好都合とでも言うべきか、場所は恭也がいた大学からそれほど離れていなかった。

「俺は誰よりも早く、その現場に辿り着いた」

 だけど……そこにあったのは……

「それでも……遅かったんだ」
「恭也さん……」

その言葉だけで、何があったのかを理解したのだろう、全員から気遣うような視線が向けられているのに気づいていた。
 だが、それでも恭也は続ける。

「そこにいたのは、変わり果てたあの娘だった」


今でも目に焼き付いている。
血だまりの中に倒れていた少女。
 全身を……顔すらも無惨に切り刻まれていた少女。
 自分が助けてくれる、救ってくれると信じていたはずの少女。
もう二度と、あの輝くような笑顔を見せてくれることのない少女。


 間に合わなかった。
 結局、遠く離れた場所にいる者を相手に、自分の剣など通用するわけがなくて。
 剣などまったく意味もなくて、守れなかったのではなく、ただ救えなかった。


「犯人は誰だったんだよ」

話を聞いただけなのに許せないと思ったのだろう、歯ぎしりまでして大河は問う。

「他の者に雇われた人間だ。そいつは快楽のために人を殺す、そんな腐ったヤツだ」

正確に言えば、腐ったヤツ『だった』
だが、だからこそ、この事件で雇われたのだろう。

 そんな犯人の話を聞いて、一瞬ベリオが震えたのに気づいた者はいない。
 
恭也は、ただ天井を眺め続けていた。

「実際のところ、俺に電話をかけた後、すぐに……」
「それって、恭也さんは悪くないよ!」
「そうでござる!」
「悪いのは全て……その犯人です」

 未亜とカエデの叫びと、静かながらも怒気を発して言うリコに、他の者たちも大きく頷く。

「おにーちゃんは助けようって、救ってみせるって、がんばったんでしょ?」
「そうですよ、それならその娘も……」
「貴方は……悪くないわよ」
「恭也は必死だったはずだろ、ならその娘だって許してくれるさ」

他の者たちも言ってくれる。
 だけど……。

「お前たちは、それで納得できるか?」

 視線を戻し、恭也は聞いた。
 それに全員が、あっ、と声を漏らして俯く。
 みんな思っているはずのだ。もっと早く、一日だけ早く、あの村に行けたならと。
そうすれば救えたはずだと。

「そう、どうしようもなかったと理解はできても、納得はできないんだ。割り切ることなんかできないんだ」

俯く一同を見ながら、恭也はもう一度言う。

「俺は気にするなとも、忘れろとも、割り切れとも言わない」

 その言葉をもう一度告げる。

「だが、犠牲と死を無駄にするな。それがいつかきっと、自分の糧に……他の誰かの役に立つと思え。それが残された者にできることなんだ」



それを聞いて、全員が理解する。
 恭也がなぜこんな話をしたのか。
 恭也は、その少女の死を無駄にしないために、自分たちに教えるために、傷を開きながらも語ったのだと。
 彼は事前に少女と会っていて、約束までしていたのだ。
 その死に顔まで見ていたのだ。
 村人の顔も知らない自分たちよりも、ずっとずっと辛かったはずなのだ。
 それでも恭也は、その犠牲を無駄にしないために、自分たちに考えることを促すために、今もこうして話してくれた。




 恭也は何かを思案する一同を見ながらも立ち上がった。
 今、自分はここにいるべきではない。これ以上は考えの邪魔にしかならないだろうから。

「考え方は人それぞれだろう。この考え方もある意味、犠牲を……救えなかった人をずっと忘れずにいるということだから辛いかもしれない。だから押しつけるつもりはないが、それでも……」

 続きは語らず、席から離れた。
そして、生徒たちの間を歩きながら、食堂を後にしようとした。

「恭也君」

不意に呼び止められる。
 声と呼び方で誰であるのかわかる。
振り返れば、思った通り知佳がいた。
 彼女は心配そうに恭也を見ていた。
 おそらく話を聞いていたのだろう。

「大丈夫です」

 それ以前に、彼女はこれをすでに知っているはずだ。あの時、自分が不甲斐なかったばっかりに、自分の過去などを視せてしまったのだから。
彼女の能力でどこまで視れるのかは知らないが、自分が大事だと思っていたことは、全て視せてしまっていた可能性がある。

「あの言葉、半ば受け売りなんですけどね」

 恭也はわざと苦笑しながら言う。
それも知っているかもしれないが、それでも口にする。
それが自分の記憶を無理矢理覗いてしまったと思っている彼女のために、唯一できることだから。
知佳が知らないと仮定して会話をする。
少しでも、彼女が負い目を感じないように。

「みんなも、きっと大丈夫です」
「うん。そうだね」

知佳は、どこか寂しげに微笑みながらも頷いてくれた。
 どうして寂しそうなのかはわからない。
なんにしろ、いつまでもここにいるのは迷惑だろう。彼女もまだ仕事があるはずだ。
恭也は頭を下げて、今度こそ食堂を出ていこうとした。

「恭也君も、背負いすぎちゃダメだよ」

また足が止まってしまう。

「大丈夫です」

答えになっていない答えを、振り返らずにもう一度告げて、今度こそ恭也は食堂から出ていった。




「敵わねぇな……」

 大河は全身の力を抜いて、ため息をつきながら呟いた。
励ませとは言ったが、まさかあんな話を聞くことになるとは思っていなかったのだ。
そんなことよりも……彼の剣の重みがまた一つわかって、少しずつ追いついていけていると思っていたのが馬鹿らしくなってしまった。
 まったく追いつけてなんかいない。
傷を抉りながら……自分たちに考えの一つを語る恭也は大きすぎた。
だから……だからこそ、必ず追いついてみせる。いつまでも後ろから背中を眺めているつもりなどない。
 いつかきっとあの男に追いついてみせる。そして、隣に立って……いや、あの背中を守れるぐらいになってみせる。



「無駄にしない……か」

 リリィもポツリと呟く。
彼女もあの村の人たちだけでなく、自分の世界の人たち……破滅の滅ぼされた人たちの死を背負っているのに、そんなことは考えたこともなかった。
忘れるでもなく、気にするでもなく、嘆くのでもなく……それはきっと辛い道なのかもしれない。
 それでも恭也はそれを実践している。
 ならば自分は……



「……私は」

ベリオは俯きながら呟く。
 快楽のために人を殺す者……それは同じではないか。
 あの話はつまり、あの人がやっていたことと同じ。恭也は残された者。彼は恭也のような人を量産しているのではないか。
 残された者に深い傷跡を残し続けている。恭也の雰囲気を見て、それを深く思い知らされた。
ならば自分はどうすればいいのだろう。
いや、そんなことは決まっている。
 村の人たち犠牲を……あの人が生み出した犠牲を無駄にしないためには……



「犠牲……」

 自分はどうなのだろう、とカエデは心の中で自問する。
目の前で父を殺され、血を恐怖するようになった。
 それは父という犠牲を無駄にしているのではないか。
あの者を必ず倒すと誓いながらも、欠陥を抱えた精神。
忍でありながら、簡単に揺らいでしまう心。
あの村の人たちと、父と母の死を無駄にしないためには自分はどうすればいいのか。



「……マスター」

その呼び名が誰にも聞かれないように、リコは本当に囁くように呟く。
 恭也の言葉は、長い時を生きる彼女の心をも揺さぶった。
村の一件のこともある。
だがそれ以上に、自分は今まで犠牲にしてきた主を無駄にしていないだろうか。
今の自分は、彼の従者として正しいことをできているのだろうか。
 あの本当に強い心を持つ主の従者として、自分は相応しくいられているのだろうか。

 

「本当に……凄いな……」

 未亜はため息をつきながら言った。
 恭也の覚悟は揺らがない。
辛いこと、悲しいことを全て飲み込んでも揺らいだりしない。
それに引き替え自分はどうだ?
あの人たちにもらった覚悟で戦えると思えるようになったのに、簡単に揺らいでしまう。
 こんなことでは覚悟ができたなどとは言えない。
あの人の隣で戦うには、もっと強くならないといけないのだ。
 身体も心も……



「おにーちゃん……」

なのははただ兄を呼ぶ。
 先程の恭也の顔……いや雰囲気と言った方が正しい。
どこかで見たことがあると思った。
あの時だ。
 あの日、恭也が人を殺したと告げた日。
あの時も表情を変えなかったものの、雰囲気は今日の恭也と一緒だった。
 悲しそうで、辛そうで、寂しそうで……
 ……こんな事ではダメだろう。
 自分は兄の心を護るのではなかったのか?
 それなのに今の自分はなんだ。
 兄の……最愛の人の心を護りたいのなら、自分の心も強くならないといけとないのだ。
 それができなければ、護るなんて言えない。




 席から立ち上がったのは同時だった。
全員が全員、一寸の狂いもなく同時に立ち上がった。
それにやはり全員が驚く。
そして、顔を見合わせた。

「くっ、ははっ」

 少しの間を置いてから、なぜか大河は笑った。
だが大河だけではない。

「ふっ、ふふ」
「クス」
「あはは」

 全員が笑ってしまった。
たぶん……みんながわかるから。
 それぞれがなんで立ち上がったのかを理解できるからだ。

「いくか?」

大河が親指で食堂の出入り口を指さすと、やはり全員が同時に大きく頷いた。
  




「…………」

恭也は、ただ空を見上げていた。
食堂を出て、すぐに恭也は次の授業場所である闘技場に来た。
 だが授業時間まで、まだしばらくの時間があった。
 その間、恭也はずっと空を見上げていた。
犠牲になった村の人たち。
 恭也とて思うところがなかったわけではないのだ。だが、その死を……犠牲を無駄にしないと誓った。
 再び同じことを繰り返させないと。
 あの少女に誓ったように。
それは死んだ者たちにとってはなんの慰めにもならないだろう。だが、自分はこれからも生き続けていく。そんな自分にできることなど……死んでいった人たちのためにできることなど何もない。
 死んでいった人たちにできることはなく、返すこともできない。
 だから、それを他の人たちに返さないといけない。死と犠牲を無駄にしないために。
あの時からそう思って、今まで戦ってきた。
その考えも半ば受け売りで、正しいのかどうかもわからない。
 あのときとて、憎しみが微塵もなかったわけではない。だけど、自分はこれからもそうして戦っていく。
あの話を聞いて、彼女らはどう思っただろう。
何かを感じただろうか、何かしらの考えを見つけるために役立っただろうか。
いや、それは自分が気にすることではない。考えなど人それぞれで、自分はその考えの一つを語ったにすぎない。
ただ、彼女らが間違った答えを出すことはないとわかっている。
ふと気配を感じた。
 振り返れば、闘技場の入り口からこちらへと向かってくる仲間たち。

「よう」

 大河が片手を上げて、軽く挨拶してきた。

「ああ」

恭也も軽く頷いて返す。
 何を言うべきか、何を聞くべきか。
 だが全員、先程のような雰囲気はなくなっていた。ならば、やはり聞くことなど何もなかろう。

「あの、恭也さん……私」

 何かを必死に言おうとする未亜に、恭也は手を突き出して、その先を制する。そして、同時に首を振った。

「どんな考えが出て、どんな答えに至ったのかは、俺に言う必要はない」

 そう言って、全員の顔を眺めたあと、恭也は少しだけ笑った。

「それが何であろうと、もうお前たちは進めたのだろう?」
「あ……」
「顔を見ればわかる」

 あの村の件について、自分の中でどんな決着をつけたのかはわからないが、顔を見ればわかる。
 それが村の事だけではないことも。

「それを口に出して言う必要はない。後は、自分が出した答えを貫き通せ」

 まだ迷いがあっても、それでもその答えを持っていれば、道が開けるときもある。
大河たちは真剣な表情で、恭也の言葉に頷いた。
 それにやはり恭也も頷き返した。
 そこに……

「は〜い、みんなぁ、お待たせしましたぁ! 今日も楽しい授業を始めましょ〜う」

 いつもの間延びした声で、ダリアがやってきた。
本当にいいタイミングでダリアが現れ、さらにその緊張感のない声を聞き、全員が同時に笑う。
それにダリアは、訳がわからず首を傾げるのだった。





 あとがき

 今回は、またも恭也の過去の一部がちらっと。
エリス「幕間だったはずなのにまた重い話を」
 う、仕方がないじゃないか、この話は書きたかったんだから。この話を書く直前にやった、あるゲームの影響もかなり受けてもいるが。
エリス「まあいいけど、恭也にも救えなかった人がいるんだね」
 そう、別に恭也が悪かった訳ではないけど、それでも助けると約束して、その約束を果たせなかった。本当は回想シーンも入れたかったんだけど、やはり泣く泣く断念。どんなに強かろうと、何もできないことはある、というのを大河たちにも伝えたかったんです。そして、そこからの僅かな成長も。
エリス「なるほどね」
 あと快楽のために人を殺す人は、デュエルのあの人ではありませんので。
エリス「今回の過去話、なんか訳のわからないところがいっぱいあるんだけど」
 そのへんはいつか語ります。あとちょっとした外伝もあって、そちらでも少しだけ絡んでいて、そのうち送らせてもらうと思うので。
エリス「そう。それじゃあ、今回はこのぐらいかな」
 そだね。
エリス「それではみなさん、ありがとうございました」
 また次回で。






うんうん。ちょっと悲しいお話だね。
美姫 「本当に。でも、それさえも抱えて更なる強さを手にするのね」
恭也の体験談から、それぞれが何を思い考えたのか。
美姫 「それは各自の胸の中に確たるものとして」
これが今後、成長する糧になると良いな。
美姫 「うんうん。それじゃあ、また次回で」



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