『選ばれし黒衣の救世主』




あなたは、自分を破壊し続ける者を許すことができる?
何度も何度も何度も何度も何度も何度も……
破壊され続ける。
ただ蹂躙され、犯され、壊される。
自分が創り出した存在に破壊され続ける。
たとえ、それが自分の一部分だけだったとしても『それ』は痛みを覚える。
苦痛の中で『それ』は考える。
この苦痛を消すにはどうしたらいいのか、と。
だから、『それ』は生み出した。
自らの破壊を続ける存在から、自分の身を守るために。
『それ』は、自らの苦痛を排除することができるモノを二つ生み出した。






第三章 初授業 初試験






目を開ける。
そこに見えたのは見覚えのない天井。
それを見て、すぐにここがどこであるのかを思い出した。

「異世界……」

夢ではないことは理解していた。
身を起こして、昨日、彼女が現れた窓から空を見た。
おそらくはいつも通りの時間に起きたはずだ。
恭也はとりあえず、ベッドから下りて立ち上がる。
すると、机の上に昨日までなかったものが目に入ってきた。

「これは……」

机の上にはリュックサックが置いてある。そして、その上には一枚の封筒。
恭也は、その封筒を破って中の手紙を取り出す。
そして、読み始めた。

『早いほうがいいと思って、マスターの完全武装を送っておいたわ。
それと武器の方が多くて、一着分だけしか入らなかったけど服も入れておいたから。
レティア

追伸
 男と女、どっちが好き?』

恭也は手紙から目を離す。
 最後の追伸の意味がわからない。

「友人ならば、男の人でも女の人でも好きに決まっているが」

恭也は首を何度も傾けたあとに、そんなことを呟いた。
とりえずリュックを開けて中を確認すると、確かに武装が一通り揃っていた。その中身を全て取り出す。
鋼糸と飛針、小刀などが複数と着替えが上下一着ずつ入っていた。
鍛錬用の木刀などを頼むのを忘れていたが、仕方がない。
それを確認すると、これらをいそいそと準備しているレティアの姿が浮かんできて、少しだけ笑ってしまった。
そして、一緒に入れてくれた服に着替える。
やはり真っ黒だが。
その上にさらにコートを羽織り、武器をしまう。
その武器の重みが少しだけ自分を安心させてくれる。

「さて、鍛錬に行くか」

そう言ったあと、恭也は部屋から出ていった。




恭也は鍛錬のために、礼拝堂の後ろにある森に訪れていた。

「ふっ!」

呼気を乗せて、小太刀で何もない空間を斬りつける。
その状態で少し止まったあとに恭也は剣を鞘にしまう。そして、力を抜いて深呼吸をする。

「一人で鍛錬というのも久しぶりだな」

構えをといた後で呟く。
つい昨日までは、弟子である美由希とともに鍛錬を行っていたが、この世界に彼女はいないため、必然的に鍛錬の内容が変わる。

「やはり、相手がいないのでは打ち合いはできないしな」

そのぶん、今回はイメージトレーニングに力を入れたわけだが。
今日は試験があるということを聞いている。
昨日のようなモンスターと戦うわけではなく、救世主クラスの者たちとの模擬戦であると教えられていた。

「すでに昨日、奥の手は見せてしまったしな。あまり深く考えず戦ったほうがいいか。
 しかし、レティアの話だと……」

 今まで通り臨機応変に戦ったほうがいいのであろうが、如何せん昨日のレティアの話がある。
とりあえず考えは保留にした。
木の枝にかけていたタオルで流れ出た汗を拭く。
そのとき、後方から気配を感じる。

「恭也さん?」
「ベリオ?」

少しだけ驚いたような顔をしたベリオが表れた。

「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「何をしていたんですか?」
「剣の鍛錬だ」
「朝早くからですか?」

ベリオは目を丸くさせる。

「ああ、習慣でな。朝と晩にやっている」

恭也は苦笑しながら、タオルで汗を拭きながら答えた。

「本当に大河君に見習わせたいです」

ベリオは深々とため息をついた。
大河は、その場のノリで苦難を乗り越えるというタイプで、あまり努力というものをしない。それはそれで、才能があるということなのだろうが。
ベリオの言葉に恭也は苦笑を深める。

「そういえば、ベリオはなんでこんなところに?」

大河のためというわけではないが、話を切り替えた。

「私は朝の礼拝があったので。それで後ろから少し音が聞こえてきて、誰かいるのかと思って」
「なるほど、邪魔になったか?」
「いえ、そんなことないですよ。気づいたのは礼拝が終わってからですから」

ベリオは笑って否定する。

「そうか、これからも朝と晩はここで鍛錬すると思うから、邪魔になるようだったら言ってくれ」
「邪魔になることはないと思います」
「それなら助かるが」

そんなことを言い合っていると、ベリオが突然慌てたような表情をとった。

「そ、そんなことより、時間、早くしないと授業が始まっちゃいますよ」
「む? そうなのか?」

 恭也は、授業が何時から始まるとか、そういう説明を全く受けていなかった。今日の午前は座学だということは聞いていたため、興味がなかったのかもしれない。
実際に今の恭也に慌てた様子はない。これもどちらかというと、前の世界からの習慣かもしれないが。

「まあ、少しぐらい遅くなってもいいんじゃないか? 汗も流したいし」
「よくありません! 汗を流す時間もありません! 早くいきますよ!」
「あ、ああ」

ベリオに押されるようにして、恭也は走り出した。






「ふむ、よくわからなかった」

授業を終えての恭也の第一声はそれだった。

「恭也さんは私たちと同じ世界……魔法とかない世界から来たんですから、仕方ないですよ」

未亜が苦笑しながら恭也に言う。
恭也のアヴァター最初の授業は、魔導に関してであったため理解不能であったのだ。
魔法の存在など知らない恭也には仕方ないことかもしれない。もっとも、知り合いに魔法に近いような技を使う者たちがいるが。
とりあえず恭也の中では、次回からこの授業は睡眠に使われることが決定していた。

「心配するな、俺もまったくわからん」

大河は威張るようにして胸を張る。

「お兄ちゃん、やっぱりそれも威張ることじゃないと思うよ」
「大河君らしいと言えばらしいですけど」

未亜とベリオはさらに苦笑していた。
だが、やはりこの人は気に入らないらしい。

「魔法も使えない、召喚器もない。それなのになんで救世主クラスなのよ」

リリィである。
彼女にしてみれば、召喚器を持たない恭也は大河以上に受け入れられないものなのかもしれない。
さらに言えば、恭也が召喚器もなく、救世主候補たちと同等の力があるとされていることが気に入らないという可能性もある。

「俺は別に救世主クラスでなくてもよかったのだがな」
「じゃあどうして救世主クラスなんですか?」
「学園長たちが言うには教えられることがないらしい。だから、救世主クラスで実戦的な授業が多いこのクラスということにされた」

レティアの話だと裏があるかもしれない、とのことだったが。

「俺としては破滅と戦えるなら傭兵科とかでもよかったのだが」

恭也は腕を組んで自分の考えを伝える。

「破滅と戦いたいんですか?」

未亜はどこか怖々とした表情になっている。

「戦いたいというわけではないさ。ただ、破滅が俺たちの世界の……俺の大切な人たちの害になるというなら、俺はそれを斬る」
「本当に恭也さんを見習ってほしいですね、大河君」

と、ベリオは言いながらも、どこかあきらめたような視線を大河に向ける。

「俺だって救世主になってハーレムを作るという大いなる野望が……」
「……私、恭也さんの前でお兄ちゃんが発言するとすごく情けなく見えちゃうよ」
「なっ、み、未亜、それは酷いぞ」
「だったら少しは真面目になろうよ」

そんな兄妹の会話を聞いて恭也は苦笑した。

「野望でもなんでもいいんじゃないか? それで世界が救えるのならな」
「おお、恭也! やはりお前も男! 俺の野望をわかってくれるか!?」
「そのへんはわからん」

恭也の返答に大河はがっくりと肩を落とす。
そんな彼らをリリィはどこか苛立たしげに見ていた。
そして、もう一人の救世主候補は……。




高町恭也。

 彼はなんだ?
赤の書の精霊であるリコは、その疑問が昨日から離れなかった。
力を失わないために長い睡眠を必要とするのに、その睡眠時間を削ってまで、彼のことを考えたが結局答えがでることはなかった。
まだ会って二日ではあるが、邪悪な存在ではないことはわかる。
 だが、彼の存在は異質だった。
赤の書ではないなんらかの書によって召喚された存在。封印されている白の書ではないはずだ。
ならば彼を召喚したのは何なのか?
そして、召喚器を持つこともなく、救世主候補と同等……いや、あんなアクシデントがあった以上、あれが本気であったかどうかなどわかりはしない。
あのとき彼が大きく動いたのは最初の一撃と、あのテレポートのような動き、そして最後の強大な一撃のわずか三回でしかないのだから。
だが、突発事態にも関わらず。あれだけの動きができたのだ、経験という意味でなら他の救世主候補を大きく上回っているだろう。
そういう意味では、救世主候補たちよりも実力は上だと思える。
そして、何よりリコを困惑させていること……。

(なぜ召喚器の力を感じるの?)

長い間、救世主候補、そして救世主を見続けてきたリコ。なにより救世主候補を選別する赤の書の機能を持つ彼女には、恭也の中に召喚器の力を感じていた。ただ、それは本当に小さな力で、本当に近くまで接近しなければわからないほど微弱なものだった。
だが、彼はそれを召喚することはなかった。
自分の勘違いなのか、それとも召喚器の方が呼び出しに応じないのかはわからない。
もし彼が召喚器を呼べたならば、召喚器を持たないでこれだけの力を持つ彼は、間違いなく歴代の救世主候補の中でも最強の部類に入ることになるだろう。
だからこそ異質。
強大な戦闘力を持っていたとしても、信頼に足る性格であったとしても、彼の謎が解けない限り、彼女は彼を監視しなければならなかった。
そして、もう一つ。
彼が使う剣技と技。
あれには覚えがあった。遠い昔に見たことがある剣技だった。
あの二人が使っていたのも小太刀の二刀。
 その二人は、今の恭也に負けないほどの力をもっていた。
二人の流派はなぜか覚えていないが、確かに似ている戦い方だったはずだ。
だけど、あの二人は……。
リコは、そのときのことを思い出して首を振り、再び視線を恭也に向けるのだった。




授業のあとの昼食で、恭也はリコの尋常ではない食事の量に驚かされつつも、午後への授業へと移る。
今は食堂から闘技場への移動中。
リリィはすでに向かっているのでいないが、それ以外の救世主候補が揃って移動する。
リコはやはりじっと恭也を観察するように見つめているのだが。

「たしか、救世主候補同士の模擬試合だったか?」
「ええ、ですが模擬試合と言ってもクラス内での序列を決める大切な試合です」

ベリオの説明に恭也は軽く頷いた。
とは言っても、恭也は救世主クラスではあるが救世主候補ではないので、序列はそれほど関係ないだろうと思っているし、順位を決めること自体をあまり快くは思っていない。

「それと試験で勝った者は負けた者に指導することになります」
「指導?」

恭也が眉を寄せて聞き返すと、ベリオはなぜか深々とため息をつく。そして、未亜もなぜか大河を睨み付けていた。

「試験で勝った者は、負けた者を一日指導すると決まっていて、負けた者はこれを断わってはいけないんです。どんな指導内容でも。
 つまり、試合に勝った者は負けた者を一日好きにしても良いという事になります」

恭也は、さすがにどう反応していいのかわからずに顔を顰めさせた。
ついで大河を見て、未亜の反応の意味を理解したのだった。




闘技場に到着し、ダリアが来たことで簡単な説明がなされた。
そして、対戦相手を決めるのにダリアが出しのは二つのダイスだった。

「大河、あれでいいのか?」

恭也はダリアの説明と対戦相手の決め方に、どこか疲れた表情を見せながら大河に聞く。

「いいんじゃないか、別に誰も文句いわねぇし」

 すでに大河は慣れたものであった。

「なんとなく、ベリオの今までの苦労がうかがえるな」

二人のそんな会話がなされている間に、ダリアは二つのダイスを振る。そして、その出された目を見て笑う。

「一試合目は大河君と……」

いきなり大河の名前が出て、彼は少し驚きながらも挑戦的な顔をみせる。

「リコで〜す」

リコは無言で一歩前に出た。
そして、二人以外が闘技場の真ん中から離れて二人を観戦する姿勢になる。

「では、はじめ〜」

ダリアの緊張感のない合図により試合は始まる。
それと同時に大河は召喚器トレイターを召喚した。
召喚器を初めてみた恭也は少しだけ驚きの表情を見せた後に、二人の対戦をどこか観察するように眺め始めた。




未亜は二人の対戦を心配そうに見つめていた。
それはそうだ。未亜にとって大河は大切な兄で、ただ一人の家族なのだから。
意識を自分と同じ世界から来た恭也に向ける。
彼は真剣な表情で二人の戦いを見ていた。
 その顔に驚きの色はない。

「あの……リコさんの魔法とか見て驚かないんですか?」

何となく聞く。
未亜は、初めて魔法を見た時かなり驚かされた。

「ん? ああ、話には聞いていたからな。それに似たようなことをできる人を何人か知っている」
「え?」

後半の声が、リコの放つ魔法の稲妻の轟音によってかき消され、未亜は聞き返した。

「いや、気にしないでくれ」

恭也は視線を戦闘から離さずに首を振る。

「しかし、大河は運動神経がいいな」

リコは身体に雷のフィールドを纏わせて、回転しながら突進する攻撃を大河は剣の形態で弾き返す。
 その様子を見ながら恭也は言った。

「そうですね。元々お兄ちゃんは運動神経とかよかったんですけど、召喚器がありますから」
「召喚器が?」
「はい。召喚器は特殊能力だけじゃなくて、使用者の体力とか運動能力とかを上げてくれるんです。それもかなり」
「なるほど」

頷く恭也を見ながらも、未亜は驚きを感じていた。
恭也は先ほど大河が運動神経がいいと言っていた。
それは間違いないだろうが、あの戦いは運動神経がいいとか、そんなことでできるようなものではないと未亜は思っている。
簡単に言ってしまえば、未亜にとっては人間離れした動きだった。
少なくとも、大河でも召喚器の力がなくては、まず不可能な動きをしているのである。
たが、恭也はそれを単純に運動神経がいいでいすませてしまったのだ。
彼からすれば、別に人間離れした動きではないということだろう。
自分と同じ世界から来た人。
平和な世界に身を置いていたはずなのに、強大な戦闘能力を持つ異質な男。
だが、未亜は彼を怖いとか疑問とかを持つことはなかった。
彼は兄に似ていた。
まだ会って二日ではあるが、その態度や言葉などで何となく理解できた。
性格などではなく、その在り方が大切な兄と似ているのだ。ならば怖がる必要などどこにもなかった。
そこまで考えてから、未亜は大河の応援をするために視線を前に移した。




恭也は目を細めて二人の戦い見続ける。
 二人は強い。
それは二人の戦いを見ていてわかった。
だが、優勢なのは間違いなくリコだった。
大河は確かに強いだろう。召喚器の力もあるのだろうが、戦い等を知らずに生きてきたとは思えないほどだった。
しかし、彼は基本ができていなかった。
剣も、ナックルも、槍も、斧も……爆弾やらピコピコハンマーやらは恭也もわからないが。
その基本がまるでない。
それでもなお、その才能によってまともに戦っているのには驚嘆させられる。
だが決定的に足りないものがあった。
経験だ。
大河はそれなりに平和な世界から来たのだから、そんなものがなくても当然とも言えるのだが。

 対して、リコの魔法は緻密であった。
稲妻や、粘着質の生物なのかわからないものなどを駆使して、囮に使い大技をしかける。さらにはテレポートなどという魔法まで使っている。
その戦いぶりから多大な経験があることを窺わせていた。




リコの稲妻を大河は横にとんで避ける。その着地と同時にトレイターをランスにかえて突っ込むが、彼女はテレポートを使い一瞬で姿を消す。
大河は突っ込んだ勢いを、足を地面にこすりつけて止める。
だが、足を止めた地面には魔法陣が描かれていた。その魔法陣が輝くと黒い剣が地面から伸びる。
大河は舌打ちしながら後方に跳んでかわすが、その真上にリコが現れた。
虚をつかれた大河に、リコは数枚の本のページを投げつけた。それは大河の身体に張り付くと小さく放電する。
それに感電した大河は、うめき声を上げて身体の動きを止めた。
すぐに上空から小さな隕石が落ちてくる。
それは大河の目の前に落ち、彼を吹き飛ばした。
その影響で大河にまとわりついていた本のページも落ちたが、ダメージは残る。
大河は身体の痛みを押さえながらも立ち上がるが、またもリコが消えていた。

「……わりです」

 リコは大河の背後で手の平を彼に向けていた。動くならいつでも魔法を放つということだろう。

「……まいった」

大河は深々とため息をつき、悔しそうに言った。

「勝者、リコ〜」

二人の試合は、やはりダリアの暢気な声で終わったのであった。




「情けないわね。下から数えた方が早いリコにこうまであっさり負けるなんて」

大河を見ながら言うリリィの言葉に、恭也は眉を寄せた。

「下から数えた方が早い?」
「え、あ、はい。リコさんは下から二番目です。私が一番下なんですけどね」

恭也の呟きに、未亜は苦笑しながら答えた。
その答えに驚きを隠せなかった。
リコは間違いなく強い。端から見ていても、その技量は抜きんでているように見えた。
 その実力が下から二番目?
どうも信じられないことだったが、恭也がそれ以上のことを考える前に、ダリアは次の試合を決めるためにダイスを振っていた。

「次の試合は、まず高町恭也くん」

名前を呼ばれて恭也は顔を引き締めた。
当たりを見てみると、それぞれ妙な顔をしている。
リリィは挑戦的にもう一つのダイスを見ているし、ベリオもどこか真剣な眼差し、未亜は祈るような感じである。
そして、今戦闘を終えたリコはなぜか悔しそう。
大河は、

「くそう、リコにあんなことやこんなことをする計画が〜」

などと言って、あまり気にしてない。
そんな中で、もう一つのダイスは振られる。

「もう一人は当真未亜ちゃ〜ん」

ダリアの言葉にリリィにベリオ、そして当人、未亜もがっくりと肩を落としていた。
リリィとベリオは恭也と戦いたかったらしく、逆に未亜は戦いたくなかったらしい。

「未亜! 負けるなよ!」
「無茶言わないでよ! お兄ちゃん!」
「相手は召喚器を持ってないんだ! 勝てる!」

大河と未亜は、そんなこと言い合っている。
とりあえず、二人を残して全員が離れていく。

「お、お手柔らかにお願いします」

未亜は、どこか引きつり気味の笑顔を見せていた。

「まあ、とりあえずできるだけやろう」
「はい」

未亜は頷いて手を空中に突き出す。

「ジャスティ!」

その言葉とともに、彼女の手には弓矢が表れた。

「これが私の召喚器です」
「弓か」
「はい」

恭也も右の八景を引き抜いて構える。

「では始め〜」

やはりダリアの締まりのない声によって戦闘が始まる。
先手必勝とばかりに、未亜は五本の矢を一気に放った。それは恭也が思っていた以上の速度で彼に殺到する。
だが、恭也はそれを端から見れば無造作な一振りで三本をたたき落とし、残り二つは斬った勢いを利用して、身体を捻らせてかわしてみせる。
一瞬驚いた顔をする未亜だったが、すぐに矢の連射を始めた。
彼女にしてみれば近づかれれば攻撃方法がほぼなくなるために、攻撃の手を休めるわけにはいかないのだろう。
次々と飛来してくる矢を恭也は冷静に弾き返したり、かわしたりを繰り返す。
ボディガードの仕事をしているときには、銃弾さえもかわし、弾く彼にとってはそれほど難しい作業ではなかったが、未亜の放つ矢はそれ以上に厄介なものだった。
前方から来たと思えば、同時に真上からも降り注ぐ。前から上から、次々と矢が襲いかかってくるのだ。
 さらには、ただの矢ではなく、氷の矢や光の矢まで織り交ぜてくる。
これが召喚器を持つ者の力。
それほど戦闘に慣れているように思えない彼女が、ここまで戦えることに僅かなりとも驚嘆していた。
その細い腕から放たれる矢は、豪腕から放たれるような速度と力を持っていた。
恭也も反撃できないわけではないが、どこまで自分の実力を見せるべきか悩んでいる。
レティアに言わせれば、自分はかなり危険な立場らしいから。
前方から来る一つの矢を弾き返す。
だが、その弾き返した矢の後ろに、まったく同じスピード、軌道で次の矢が隠されていた。
恭也は舌打ちしながらもう一刀の小太刀を抜き、それも弾き飛ばした。




二人の戦いを見て、救世主候補たちは驚愕していた。
それは恭也に対してであった。
やはり、召喚器を持つ者の驕りだろうか。いかに一番下の順位である未亜が相手でも、召喚器を持たない恭也では勝てないだろうと踏んでいた。
だが、恭也はあの降り注ぐ矢の雨をすべて無にしていた。
いかに彼女らでも、あれだけの数の矢を全て……それも危なげなく防ぎきるのは難しい。
まあ、そうなる前に攻撃をしかけるだろうが、それでも恭也の能力は目を見張るものだった。
近接攻撃の手段しか持っていない恭也は攻めあぐねているのだろうと思っていた。
だが、未亜の矢がほんの少し止んだ瞬間、いきなり恭也の手がぶれる。

「何か投げた!」

大河だけではなく、そこにいた全員がほんの少しではあるが見えた。
恭也の手がぶれた瞬間、少し大きめの針のようなものが飛び出た。
未亜も気づいたのか、弓でそれを弾き返す。

「遠距離……とは言わないものの、中距離攻撃もできるってわけ?」

リリィも驚きの声を上げていた。
顔などにあたらなければ致命傷にはならないであろう攻撃ではあったが、それでも救世主候補ですら完全には見えなかった攻撃。
全員が本当の意味で認識を改める。
恭也は確かに召喚器を持っていない。だが、その能力は決して自分たちに劣らないと。
いや、それどころか……。



飛針の一撃を弓でガードしたため、未亜の動きが一瞬止まる。それを恭也がみすみす見逃すわけがない。
一気に未亜へと詰め寄っていく。
未亜は体勢の決まらないうちから矢を撃ち放つ。それでもそれは正確に恭也へと向かう。だが、一本では彼の進軍を止めることはできず簡単に弾き返される。
そして、恭也は未亜の目の前へと躍り出た。
未亜は弓を殴りつけてくるが、恭也はそれを小太刀でいとも簡単に弾き飛ばす。
ジャスティは未亜の手を放れて地へと落ちる。
そして恭也は武器がなくなり、無防備となった未亜に剣を突きだした。

「参りました」

未亜は負けたはずなのに笑ってそう言った。

「勝者、恭也く〜ん」

ダリアも恭也の勝利を宣言をする。
こうして、恭也の救世主候補クラスでの初授業と初試験は終了した。





あとがき

戦闘は苦手だあ。
エリス「戦闘『も』苦手の間違いでしょう?」
はい。その通りです。
エリス「ところで、大河がいきなりリコに負けてるけどよかったの?」
それは色々と考えた。勝たせようかとも思ったけど、まだベリオとブラックパピオンぐらいしか戦闘経験がない大河に、本気モードのリコに勝てるのか? と考えたら、無理だろうという結論になった。相手がリリィだったとしても同じ理由で無理。
エリス「で、前回言ってた三人分あるこの話と次の話は、元の通りということだよね?」
 まあ、そういうこと。残りの二つは封印。
エリス「じゃあ次の話もできてるの?」
それどころか、あと三話分くらいできてるけど、まだ完全には修正してないんだなあ。
エリス「とっとと修正して投稿しなよ? じゃないと滅却だよ」
はい、すぐに、エリス様!
エリス「ではまた〜」
 またよろしくお願いします。



未亜との対戦では勝利を収めた恭也〜。
美姫 「これによって、彼の立場はどうなるのかしら?」
まあ、リリィ辺りには睨まれそうではあるかな。
美姫 「一体、どうなるのかしらね」
楽しみだな〜。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待っています〜。



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