それから二日後……私は海底レリクスに足を運んでいた。小型のマイシップを使い、最寄りの駐船場――駐車場のマイシップ版――でハウリングギアを駆り海底レリクスの入り口付近にまで移動した。ちなみにハウリングギアは海底レリクスに到着してからはナノトランサーに収納している。
 MAW社の人間であることを悟られないよう服もエスプレンドスカラーと言う中世の貴族風の高級スーツではなく、社章を消した赤を基調としたレザータイプのジャケットを身に纏っている。
 入り口付近にいた依頼者から地図を受け取り、私は集合場所にもなっている大広間らしき場所へと足を踏み入れることにした。

「……ふむ」

 ウォザーブルグ・レリクスのような古城の地下や、モトゥブに存在する古代遺跡を模したような『ナスカ・レリクス』とは違い、よく知られている『一般的なレリクス』に似ていたので、私は若干落胆していた。まあ、ハウリングギアを走らせることはできるかもしれないが、人がいる中で走らせる事もあるまい。
 続けて周囲を見ると、集められた傭兵の多くが単独行動を好むのか纏まろうともせずに広間にいる同業者を値踏みしているように見えた。
 大半が筋骨隆々とした大男で、その次に多いのは細身の男、続いて女子供が極僅かだった。特に細身の男や一部の女性の顔立ちは美の女神にわがままを言ったのではないかという程の美貌を持ち合わせていた。
 だがこうして同じような顔立ちが大勢いると、わが社にいる『白饅頭』とあだ名をつけられている太めの男の方が愛嬌のある気がしてくる。
 しかも彼らは彼らで私を含めた周囲を見下しきったような表情で見据えてきている。自分の方が存在そのものも各上だと言わんばかりの表情だった。正直以前捕縛した男を思い出してしまい不快さが高まってきた。

 「……フン」

 私が顔を奴らから逸らし、ふと黒を基調とした細身のフルフェイスメットを被った男と目があった。

 『これだけの人数と質のいい傭兵が集まっているって事は大手のスポンサーがついているようだな』

 自分の前にいた男が周囲を見渡しながら声を上げる。だがその声は機械質で、合成音声に近いものを持つ。キャストに多くみられる特徴だ。
 私自身が話題を欲していたのか周りにいる“奴ら”を見たくないのかわからないが、私は見ず知らずのキャストに向かって声を上げた。

 「大手のスポンサーがついているって事は儲けられそうだ、と言うところか?」
 『ハハハ。どうやら台詞を取られてしまったようだな』

 目の前のキャストはそんな声を上げると周囲を見渡して言った。

 『周囲の傭兵の輪に加わろうとしない事からフリーなんだろ? 大したものだな』
 「……昔チームを組んだ事があったがリーダーが死んだ上、残った仲間たちが行方不明になったりして自然消滅だ」

 私は声を上げると、目の前のキャストは申し訳なさそうに声を上げた。

 『……すまない。軽率だった』

 流石に今回は嫌味に聞こえてしまったのだろうか、若干気まずい雰囲気が流れてしまう。だが、そんな気休めの言葉など私には煩わしいだけだ。過去を振り返ったところで、戻りはしないのだから。

 「気にしないでくれ、よくあった話だ」

 SEED事変ではガーディアンズだろうが傭兵だろうが。メンバーが死んだりチームが解散したりするなどは吐いて捨てるほど良くあった話だ。
 私たちの場合もウォザーブルグ事変は終わった後だったが、リーダーが死んだのはガーディアンズコロニーが落下した時の事だったから嘘ではない。
 そして私自身、あの事件の後八つ当たりをするかのように廃墟となったローゼノムシティの地下デュエル場を荒らしまわっていたのだ。当時ゴロツキ集団のリーダーだったジストと会ったのもちょうどその時期だ。
 今にして思えば若気の至りという奴だったな……『闇デュエルの絶対王者』だの『暴炎のライダー』と呼ばれたり私のパートナーマシナリーからは『黙示録の炎』と呼ばれるわ散々だった、あれが俗にいう『黒歴史』という奴なのだろう。

 「それに私たちが悔やんだところで死んだ者が蘇えるわけでもあるまい……」
 『君は仲間の死を簡単に受け止めているのか……?』
 「そうしなければ、やってられなかっただけだ」

 やってられなかった結果が、デュエルギャングでは話にもならんがな。私はそう言うと他のヒトを見渡す。キャストの男も気が滅入ったのか話題を変えてきた。

 『まあ、海底レリクスの調査もあって腕利きを集めているのかもな』
 「もしくは人海戦術を選んだか、だな」

 私が周りで女性傭兵に粉をかけている連中を見据え、軽蔑し切った表情で私が言い放つと、男性キャストもまた呆れ返ったかのような声で賛同した。

 『まぁ……君がそう言いたくもなるのは分かるが……』
 「私はここに研究や調査できたんだ。奴らやスポンサーが何を考えていようと関係ないさ」

 そう言って私はナノトランサーから本を取出しそれに目を落とした。

 『ほう、傭兵を辞めて学者になったのか? だったらココは宝の山だぞ』
 「別に辞めた訳でも学者になった訳でもないが……あと『宝の山』とはどういう意味だ?」

 その台詞に食指が働いたのか私は彼に向かって声を上げた。

 『この海底レリクスはつい最近発見されたものだ。調査はまだ、殆どされていない……この意味は分かるか?』
 「システムはまだ動いているからソフト面の解析が出来るし、お宝もまだ残っているから旧文明の技術の粋を集めたモノも手に入る……といったところかな?」
 『ああ。あとこれは極秘情報なんだが……』

 キャストの男は私に向かって耳打ちする。

 『どうやらこの海底レリクスには何か異常なものが存在するらしい。何でも『カードゲームのモンスターが突然現れた』と言う話が数件出ているらしいんだ』

 その言葉を聞き、私の表情が強張ったのが自分でも分かった。自分がココに来た『本命』らしきものの情報が出てしまった以上、ココに留まる必要もない。

 「興味深い情報をありがとう。では私はそろそろ奥に向かうよ」
 『そうか。気をつけろよ、この辺りはまだ安全なようだが奥は正に『未開の地』って訳だからな』
 「気をつけていくさ。お互い運があったら、また会えるかもしれないな」

 さて、一応渡された地図を見ながら進むか。
 そう思って奥へ進み始めた矢先、ある諍いが耳に入った。

 「帰ろう!! 帰ろうって!!」

 僅かに目を向けると、そこではめんどくさそうにしていた短髪の男性ビーストに向かって声を上げたヒューマンらしき金髪の少女――恐らくハーフか養子か何かだろう――の諍いが眼に映った。

 『……何だ、あの子供は? 腕利きの傭兵や学者のようにはとても見えないが……』

 先程まで一緒だったキャストの男が怪訝そうな声を上げたが、私にしてみたら興味が無い事だったので気にせず奥へと進む。
 だが何歩か進もうとした矢先――

















 「――!!」

 突然心臓が強く鼓動し、私の足を止めた。

















 (バカな……あり得ない……!!)

 真っ先に思い浮かんだのは自分達の一族に伝わる、行方不明になった片割れが言うには『呪い』と呼べる代物だった。だがそれは一族の極僅かな“女性”にしか発現しないはずのものだ。
 私は男であるからあり得ない。もちろん同一性障害ではない。押さえつけた心臓が熱い、まるで強い熱が心臓を焼き尽くさんばかりだ。
 その熱さに耐え切れずに膝を折って蹲った瞬間、突然視界が揺れた。だが今は心臓の熱を鎮めるのが先決だがどうすればいいのか検討がつかない。

 「う……ぐ……」

 視界の揺れが治まるとようやく心臓を燃やさんとしていた熱は矛を収めた。触れてみても先程の熱さが嘘のように静まっていたのだ。これは一体なんだったと言うのだ……?

 (一体なんだと言うのだ……そう言えば先ほど物凄く揺れたようだが……)

 周囲を見回すと、あれほどいた人が私を除き誰一人いなくなって……

 「え……あの……」
 「だ〜か〜ら〜!! エミリアは俺と一緒に行くんだよ!! モブは黙ってろ!!」
 「はぁ!? そりゃこっちの台詞だってぇの!!」
 「フヒヒ……エミリアタンハァハァ……」
 「これだから男はダメよね。さ、お姉さんと一緒にこっちへ行きましょ」

 ……私を除き誰一人いなくなっていたかと思ったのだが、どうやら一人の少女を大多数の男と少数の女が囲んでいたようだった。

















PHANTASY STAR IGNITE 〜決闘者と傭兵の協奏曲〜
EP1 1st UNIVERSE
ACT1 翼を抱いた少女との邂逅


















 一人の少女を複数の人間が取り囲む。しかも地震があったのにもかかわらず、彼らは先ほどの地震を何も感じないかのような気楽さで少女に接していた。
 しかも男は何人か殴りあって喧嘩を始め、少女がその隙に逃げ出すとそれを阻むかのように、一人の男が何故か歪んだ笑みを浮かべながら彼女の頭を撫でようとした。

 「やだぁ!!」

 そう言って彼女が手にしたロッドで撫でようとしていた手を叩き落とした。まあ、いきなり不気味な笑みを浮かべながら撫でようとしたらこうなるのは自明の理だろう。

 「ば、馬鹿な……何でニコポとナデポが……」

 そして響き渡る侮蔑と嘲笑の渦。あざ笑っていないのは私と彼女と奴の3人だけだから何が起こったのかわかりやしない。
 それにしても、なぜ奴はありえないような物を見たかのような表情を浮かべていたのだ? 別にこういうこともあるだろうに……

 「無様だな〜このモブキャラが!!」
 「身の程を知りなさいよ!! あんたは主人公の器じゃないってことでしょ!?」
 「上等だ!! てめえらからぶっ殺してやるぜ!!」

 そう言って暴れだす男たちを見た彼女は唖然としながら距離を離す。その時、彼女と私の目があった。

 「あ……」

 とっさに彼女は警戒の表情を浮かべる。まあ、私を先ほどの男達と同類と思われているのだろう。

 「おい!! てめえ、何勝手にエミリアに嫌らしい眼を向けてんだ!!」

 その声に周囲の人間が一斉に私と少女……“エミリア(名前を何度か言われているわけだし、彼女がエミリアなのだろう)”の方へ顔を向ける。どいつもこいつも黙ってさえいれば一人を除いて絶世の美貌を持ち合わせているというのに、もったいない話だ。

 「調子に乗るなよ、脇役のくせに!!」
 「ふざけたことしてくれんじゃない……」
 「僕のエミリアタンに触ろうとするな!! この変質者!!」

 敵意と殺意を一斉に私に向ける。というより私を変質者扱いした奴は鏡を見ろ、そこに絵に描いたような見本がいるぞ。

 「待ってくれ。今の状況で我々が戦うメリットなどない。ここはまずどうやって脱出するか話し合おう」

 フィランディアシティで戦った男を思い出しながら、私は彼らと話し合おうとする。この状況下だ、この段階で我々が潰しあうメリットなどどこにもないのだから。

 「グダグダ喋ってんじゃねぇ!! 邪魔するならてめえからぶちのめしてやる!!」

 すると男の1人が突然私に襲い掛かってくる。それを切っ掛けに次々と“エミリア”を除いた面々が襲い掛かってきたではないか。

 「なっ!?」

 私は思わずハンドガンで応戦するが、どうにも相手が次々と襲い掛かってくる。幸い相手は連携などは取っておらず、漁夫の利を狙う者に対しても攻撃しているため何とか戦いになってはいる。
 もし連携を取っていれば確実に私は数に飲まれたであろう。とは言えこのままでは敗北してしまうのは明らかだ。相手は威力の高い攻撃をしてくる上、武器の質もあちらの方が上だ。
 「やば……ここは逃げた方がいいわよね……ね、ねぇ……あんた、あたしの事知ってる?」
 「知らん。だが逃げた方がいいと言うのは賛成だ。後キミがこの場から逃げたいのならば私の言う事に従ってもらうぞ」

 彼女の言うとおり、ここは逃げの一手しかない。彼女も助かりたいのか首を縦に振るのを見てから左手のナノトランサーから閃光手榴弾を取り出す。

 「目を瞑れ」
 「え?」

 彼女の返事を聞かずに手にしたそれを投げつけ、私の眼を遮光バイザーで覆わせた直後に閃光が解き放たれる。周囲を巻き込み一瞬のタイムラグを生み、その一瞬のうちに私は右手のナノトランサーからハウリングギアを出現させ跨ると“エミリア”を荷物のように持ち上げる。

 「ちょ、ちょっと!?」
 「済まないが暴れも話しかけもしないでくれ!! 放り出されたり舌を噛んでも責任は持たん!!」

 そして急発進。シティモードではなくハイウェイモード――歩道のある街中で走らせてはいけない速度で走らせる。片手で彼女を担ぎ、もう片手で操縦――明らかに免停物の状態で操縦するが、我々にとって片手操縦など出来て当然と言うレベルなのだ。襲い掛かる原生生物やスタリティアも機体を制御して避けていく事もできる。
 両腕に刃を持った二足歩行の緑色の鮫の様な原生生物が襲い掛かるが小刻みに進路を若干変更することで、突進してくる小型のスタリティアやそれが放つ弾丸はそれ以上の速度で避ける。
 だが私は彼らの事を侮蔑する事はない。そもそもこのマシンはSEED事変時に私がカードや旧文明の研究と同額の金額と技術者たちの髄を集めて開発させた代物だ。
 しかもハウリングギアの原型になったのは、あまりの高性能故に乗り手を選ぶと言う曰くつき、競技決闘時に事故を起こして大惨事を起こした物件だ。フォトンリアクター……エンジンもそのチェイサーに使う物の他に追加で2つ積んである。街中を走らせるだけなら普通に予備リアクターで走らせることもできるが、ハイウェイモードはそれをフル稼働してこの加速力。しかもフォトンリアクターを使っているため、自分の精神力次第で限界以上の力を引出しての走行も可能。
 車体が紅く、それ故につけられたのが『暴炎』の称号……私がそれの真価を発揮させた事によってSEED事変時に敵を悉く轢殺していった事からついた異名だ。斬った撃った燃やしたなどよりも私がSEEDに対して行ったのは文字通りの轢き逃げだ。
 例え彼らがあの状態から回復しても海底レリクスに住み着いている原生生物とスタリティアと交戦する以上、追い付くなどまず不可能――

 「……嘘」
 「何が嘘だと……!?」

 彼女が呆然とした様子で声を上げ、私がミラーを確認する。そこにあったのは原生生物とスタリティアを無いものと同然に扱うかのような獰猛な人間の群れが私たちに向かって追いかけると言う異常な光景であった。

 (ば、馬鹿な!? 何故ハウリングギアに追従できる!?)

 さらに我々は現在騎乗中、常識で考えても人の足がチェイサーに追いつけるはずがない。だと言うのに奴らは息も切らさずにこちらに向かって追従できているのは異常でしかない。本来は叫びたかったが、叫んだら運転どころではなくなってしまう。

 「待ちやがれぇぇぇ!!」
 「エミリアを連れてどこ行く気!?」
 「フヒヒ……エミリアタンの縞々おぱんつ……」

 その光景に私は以前捕縛した男を思い出した。以前あの男を捕縛できたのは、私が路地裏を把握しており、仲間もいたという状況下だったからだ。あの時と同じことをしろと言われても、私にはできないのだ。
 故に逃げる。準備もなしにあんなSEEDも裸足で逃げ出しかねない連中を相手にするつもりなどない。逃げの一手を使うしかないのだが……

 (これ以上の速度を出したら彼女に危険が及ぶ!!)

 結局のところ、彼女の存在が足かせになってしまうのだ。二つの予備リアクターのみならず、封印していた本来のリアクターを使っての加速力は触れたものを肉塊ないし残骸に変える最早災害そのもの。
 生と死の境目の二律背反。このままでは奴らに追いつかれる。しかしこれ以上速度を出したら彼女の身に危険が迫る。彼女の保護者を敵に回してまで速度を上げる事はできるのか?

 (結局のところ、ハイウェイモードを持続させるしかないか……!!)

 ギリギリの限界までハウリングギアの予備リアクターを酷使して速度を上げるしかない。奴らのうち何人かはスタミナが不足しているのかレースから脱落していくのがミラー越しでわかる。

 結論。このままでも行ける!!

 (行くぞ、ハウリングギア!!)

 そして私は思考を再び操縦へと向ける。徐々に奴らもレースから脱落していき、そして突如背後からハウリングギアの物ではない駆動音が響き渡る。

 (この音は……ロードローラーか!!)

 恐らくレリクスに設置されていたものが起動したのだろう。後ろの方で断末魔の声が響き渡り、ミラー越しにその巨大な物体が僅かに映った。そして前方にはロードローラーが入れないような通路の入り口が控えている。

 「ギャアアアアア!!」

 そして断末魔の声が響き渡り、ついに残ったのは私達のみ。逃げる必要は無くなったが……

 (速度が落ちない!! 念じすぎたか!!)

 精神次第で限界を超える出力を出すことができるフォトンリアクターの弊害がここで出てしまった。私はとっさに右腕のナノトランサーから2枚のカードを取り出し、それを前方に投げつける。

 「サモニング・ザ・モンスター、ダークリゾネーター!! イクイップ・ザ・マジックカード、巨大化!!」

 その声を合図に手に音叉を持った小型の悪魔のようなモンスターが姿を現す。これこそが我が血脈に宿る真の力……カードに描かれたモンスターを実体化させ、効果を実際に引き起こす“テクニック”ではなく“マジック”に近い力。
 その力故に人々に恐れられ、五百年戦争――SEED事変より六百年近く前に引き起こされた大戦では初期に他種族によって鎮圧され迫害されることになった。今ではその事を隠して生きている者が多いし、私もその一人だ。
 その力によって実体化したダークリゾネーターが通路の途中を遮るかのように巨大化する。そしてハウリングギアはその巨大化したダークリゾネーターに衝突し、運動エネルギーと衝撃を吸収してくれた。

 「と……止まった……」

 それによってハウリングギアは動きを停止させ、私たちもようやく降りることができた。ここまで動かしたのはSEED達の群れを突き抜けた時以来だ。気分が悪い。現に“エミリア”の顔色は悪く、手で口元を押さえているのがわかる。
 だが彼女はそれでも私の方を見据えてくる。正確に言えば私のハウリングギアを弾き飛ばしたダークリゾネーターの方をだが。そのダークリゾネーターも私が指を弾くと同時にカードに戻り、地面に落ちる。

 「……あれ、何なの? デュエルモンスターズのモンスターが実体化するなんてありえないんだけど」
 「事故防止のために備えた機能だ」

 カードを拾いながらとっさに考えた言い訳だったが、やはり彼女には通じず首を横に振った。

 「そんな言い訳、通じないわよ……アンタの素性、話してもらうわよ。流石にこういった奴は初めて見たわけだし……」

 ……仕方がない。緊急事態とは言え我が一族に伝わる真の力まで使ったのだ。腹をくくるしかないか。

 「……遊戯皇と言うアニメは知ってるか?」
 「それってデュエルモンスターズの販促アニメでしょ? 実はSEEDはカードの邪念から出来たとか、カードを実体化させて戦ったりとか何でもかんでもデュエルで解決させる有名なトンデモアニメじゃない」

 トンデモアニメ……世間一般ではそう言う評価を得てしまっていると言う事か。

 「で、そのトンデモアニメとアンタにどんな関係が……」
 「さっき自分でも言っていただろう? 『カードを実体化させて戦ったり』と」

 そう。それが答え。

 「少なくとも、我々はそのような人間だと言う事だ」

 そう言って私は彼女を見据えて宣言する。そして彼女は唖然としながら私の話を聞いていた。

 「まあ、色々話さねばならんがいくつか覚えておいてもらいたい事だけを話そう」

 一つ、我々は今のグラールの影に隠れて生きる存在だと言う事。
 二つ、今のグラールに危害を加える気はないと言う事。
 三つ、我々はカードの力が無ければただのヒトと変わりない事。
 四つ、我々の存在をおおっぴらに話さないでほしい事。

 「我々の様な存在の総称や暗黙のルール等があるが、今はその四つを重点的に覚えてもらいたい……後、この機会だから言わせてもらうが私の本当の狙いはこのレリクスに眠っていると言うカードを回収する事だ。その事も秘密にしてもらいたい」

 そう言って私は彼女に頭を下げる。彼女は訝しげだったが、すぐに私の方を見て呆れ顔でいう。

 「……ま、あたしとしちゃさっさと出たいから別にいいわよ……あんな運転されるのは絶対に、二度とごめんだけど!!」
 「ああ……本当に済まない。後済まないが私の力の事は……」
 「秘密にしててくれっていうんでしょ? 言われなくてもわかってるわよ」

 エミリアの顔には『義理』と言うより『付き合いきれない』と言う感情の方が強かったが、むしろ後者の反応の方がうれしい位だ。義理感情で巻き込んでしまったらどうしようもない。

 「……でもさ、これからどうするの?」

 どうするのと言われて、私はようやく現状に目を向ける。
 そう。私たちは奴ら(途中からロードローラーに変わったが)に追われていたのだ。あそこから先は微塵も開拓されておらず、その開拓されていない通路を私たちは走りぬいていたのだ。
 結果、私たちはものの見事に遭難した。しかも帰り道もロードローラーが塞いでいる始末で、戻る事すら出来やしない。私は奥に用があるので好都合だが、彼女はそうではない。

 「おっさんがいない間に地震が起きて、変な連中には絡まれるし、挙句の果てには遭難……ここで待ってても救助が来るかどうか怪しいし……ホントどうしたらいいんだろ……」
 「……救助を待つのなら……奥へ進むか?」

 ある程度呼吸を整えた私がそう言うと彼女は表情を変えて声を張り上げて叫んだ。

 「無理無理!! やだやだ!! 危ないって!! ココは未開のレリクスなんだよ? すっごい危ないんだよ!? いくらあんたの目的がカードでもあるかどうかわからないんだよ!?」
 「……嫌なら来なくてもいいぞ。安全は保障できないがな」

 私がそう言うと奥へと進む。しばらくすると彼女が声を張り上げながらこっちへ向かって走ってくる音が響いた。

 「行くから!! あたしも一緒に行く!!」

 その言葉を聞いて私は小さく笑みを浮かべた。これで心臓が熱を持ってしまった時の保険は出来た。

 「そうか……すまないが名前は何と言うんだ?」

 一応同行する事になるので、名前だけは聞いておこうかと思って問いただした。既に名前は聞いているようなものだったが、あれと同類にされたくない。

  「ふぇ? あたし? あたしはエミリア。エミリア=パーシヴァル」

 エミリアはきょとんとした表情で自分の名前を答えたが、即座に表情を変えて問いただした。

 「それでアンタはなんて名前なの? あたしに名乗らせてアンタは名乗らないんじゃ話にならないわよ」

 彼女の問いは尤もだ。私は心臓の熱を気にしながら声を上げた。

 「そうだな……私の名前はギュスターヴ。ギュスターヴ=ウィンストンだ」

 私が自分の名前を名乗ると、エミリアが再び声を上げる。

 「それじゃギュスターヴ……その……これからしばらく一緒だから……よ、よろしくね」

 彼女がそう声を上げると私も声を上げた。

 「了解した」

 私がそう言った次の瞬間――

 「あ。それともう一つ……」

 エミリアがロッドを手にしながら私に近づく。そしてロッドを振りかぶり――

 「助けてくれたのはいいんだけど、あんな担ぎ方とかあんな暴走行為は無いでしょぉ!!」

 先端部分を私の顔へ向けて叩きつけ、私はその衝撃でのけぞって後頭部をハウリングギアの装甲部分にぶつけたのだった。

















 しばらく先へ進んだ(ハウリングギアは収納済み)矢先、先程の広場より小さい部屋に行き着く。するとそこには先ほどと同様に二足歩行の鮫の様な原生生物が腕を振り上げながら歩いていた。

 「あぁー、やっぱり原生生物がわんさかいる……見逃したり――」
 「そうならば傭兵など必要ない」

 叩きつけられたロッドの痕と後頭部を気にしながら私は彼女の発言に呆れながら声を上げた。

 「だよねぇ……」

 エミリアの言葉を私は一刀両断する一方で、ナノトランサーを起動してツインハンドガンと自作のシャドゥーグ……先のダークリゾネーターを模した自動射撃道具を取り出す。

 「あれ? ドゥーグとハンドガンを使い分けるの?」
 「……そうだ。私の都合ですまないが今回は遠距離主体で行く。先の無茶な走行と急停止でハウリングギアに異常が出ていないとも限らないしな」

 あの発作が元凶で今回は遠距離主体の攻撃方法を取る事にした。ならハウリングギアに乗ってスピードを出すなと言われても文句は言えないが、あれはあれで命の危険を感じたから目を瞑ってもらう。
 だが私の様子を見てエミリアの様子がおかしくなる。確かにツインハンドガンとシャドゥーグを同時に使うのは珍しいとは思うが、別に法律で禁じられているわけではない。
 大体、あの原生生物も奴らと比べれば雑魚同然……

 「あの……その……」
 「何だ?」
 「あのね……えっと、えっとね……直前で言うのもなんだけど……」

 しどろもどろに言い出すエミリアだったが、意を決したのか声を上げた。

 「あたし、武器は持ってても実は戦闘経験なんて殆ど無いの」

 その言葉に対して私は一瞬だけ眼を見張った。自信なさ気だった彼女は先程の言葉の影響か、活力に満ち溢れていた。

 「……だから、頑張って!! あたしは応援してあげるから!!」

 その言葉に対して私は一瞬ハウリングギアに再び乗せようかと考え、大きく溜息を吐いた。

















 その時私は気付いていなかった。その溜息がSEED事変の時、仲間たちの喧騒や見当はずれな発言に呆れていた時の物と同じだった事を。


あとがき
今回でようやく名前を名乗らせてもらえた主人公のギュスターヴさん。自分の中ではカードを使った戦闘ならともかく、通常の戦闘は中の上程度しかないと言う設定です。
しかも相手は悠長にカードを引いてセットする手間を与えるとも限りません。つまり直接戦闘を行う事になるのですが、斬ったり撃ったり魔法を使うのでは芸がない……
考えた結果、私はとんでもない行動に出ました。
別に斬ったり撃ったりせずに轢いちゃえばいいじゃない♪
その結果、暴走ライダー・ギュスターヴ誕生と相成りました。あ、もちろんタイマンやデュエルではそんな事しませんよ。



エミリア、大人気……?
美姫 「あまり嬉しくない感じの人気もあるみたいだけれど」
あ、あははは。
美姫 「ギュスターヴとエミリアの出会い、って所かしら」
戦闘はギュスターヴに任せた、の状態で。
美姫 「まだまだ最初の方だし、これからどうなっていくのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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