あとがき物語 二つの伝説 第2話 ルートB
*
そこは戦場だった。
飛び交う銃声、そして悲鳴。
もはや誰もが本来の目的を忘れ、互いを排除することだけに躍起になっていた。
「……どうなってるの?なんで皆あんな物騒なものばかりもってるんだろう……」
ちゅど〜んっ!!ずががががっ!!
「おいっ!しっかりしろ。救護班、歩兵が一人負傷した手当てを頼むっ」
「大丈夫、まだ息があるわ。私達にまかせて」
そう言って撃たれた生徒(歩兵?)は運ばれていった。
「ここ……学校だよね?」
呆然と立ち尽くしているとそこへ由衣が走ってきた。
「紀衣さんっ!!ここは危険です。早く逃げましょう」
そう言ってわたしの手を取って走り出す由衣。
「ねっ、ねえ?いったいどうなってるの」
「これは戦争です」
「えっ?」
聞き間違いだろうか?今とてもありえないことを聞いた気がするのだけど。
「ですから戦争です。暴走していた生徒たちを生徒会長が統制して、先生陣との間で紀衣さんを賭けて戦争を始めたんですっ!!」
「そんなバカな!?」
「だからここにいたら危険です。いろんな意味で」
「ああ、またあの人達は……」
生徒会長といえば、ぶるいのトラブル好きで有名である。
彼が起こした騒動を数え上げればきりがないほどである。
あの人がこの騒ぎを黙って見過ごすわけがない。
そして、この学校の校長もまた大の悪戯好きである。
執務が退屈で時折会議をサボって校内に騒ぎを撒き散らす。
それなのに何故か両者とも人望が厚いためこうなると誰も彼らを止められなくなるのだ。
ちなみに会長は校長の孫である。血筋とは恐ろしいものだ。
そんな時、前から飛び出してきた女生徒と鉢合わせてしまった。
これはもしかしたらやばいかも……。
「皆っ!!お姉さまを見つけたわ。こっ……っ!?」
他の生徒に知らせる前に由衣が何かを放った。
手に持っていたのは……ハンドガンっ!?
「ゆ、由衣っ。なんて物持ってるの!?それに今……」
「大丈夫です。ラバーボールです」
「で、でもあの子倒れちゃったよ?」
「それは運がなかっただけです。さあ先を急ぎましょう」
「ちょ、ちょっと由衣」
走りながら話しているのでほとんど彼女はわたしの話を聞いてくれない。
しばらく走って由衣が角の手前で立ち止まった。
「どうしたの?」
「……見張りがいます。二人……いや三人か。少しやっかいだけどなんとかなりそうです」
「見張りって……」
いよいよもって映画にでてくる戦争のワンシーンになってきた。
「紀衣さん、囮になってください」
「えっ!?ちゃっと待っ……」
わたしは反論する間もなく押し出されてしまった。
「んっ?……っ、ターゲット発見。急いで隊長に連絡をって……うわああああああっ!?」
わたしは歩兵のぎらつく眼を見て鳥肌が立った。
咄嗟に持っていた何かを相手に向かって投げる。
それはプラズマグレネードと言って相手を感電させて動きを封じる武器だった。
「わたし、なんでこんな物持ってるの?」
「さすがです紀衣さん。やはり乙女に護身武器は必須ですね。さっ、先を急ぎましょう……って、あれ?どうしたんですか紀衣さん」
「……なんでもない」
もうやけだ。わたしはもうどうなっても知らないぞ。会長も校長も後でお仕置きだ。
*
わたしと由衣は校舎の中を駆け回っていた。
迫り来る歩兵兼ゾンビの皆さんを次々と撃退していく。
「なんでわたしを見つけると目の色かえて襲ってくるのっ!!」
今も迫り来る歩兵に向かってグレネードを投げながら叫ぶわたし。
わたしの登場で両軍の統制が崩れたのか生徒と教師が入り混じって襲い掛かってくる。もういい加減にしてほしい。
「なんでたかだかキスくらいでこんな騒ぎになってるのっ!?」
「それだけ紀衣さんの人気が高いからです」
「そんな真顔で答えないで」
わたしは前で痙攣しているゾンビをどかして角を曲がった。
しかしその先にはゾンビの大群が待ち構えていた。
「囲まれてしまいましたね」
「何のんきなこと言ってるのっ!!」
どうやら後も塞がれてしまったようだ。
皆が眼をぎらぎらさせてわたしににじりよってくる。
「ひいぃぃぃぃっ、このままじゃ本当に襲われる」
わたしはもうダメだと思った。
ずがーん!!
「ぐおおおぉぉぉぉっ!?」
一瞬にして後ろのゾンビの群が吹き飛んだ。
「えっ?」
「二人とも伏せてっ!!」
わたしが驚いていると後から鋭い声が飛んできて反射的に伏せた。
ばらばらばらばらばらばらばらっ!!
「うをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ!!」
次々と前方のゾンビがなぎ払われていく。背後でガトリング砲が火を吹いたのである。弾を全部撃ち尽くす頃にはゾンビは山となっていた。
わたしは恐怖と安堵感を覚えて振り返った。
「ふう、ありがとう。助かっ……いっ!?」
「危ないとこやったな、二人とも」
「はい、ありがとうございます。おかげで助かっちゃいました」
後に立っていたのは身の丈の倍はあるだろう巨大なガトリング砲を担いだ柚菜だった。
「柚菜……それ何?」
「なにって、ガトリング砲やで。ストレス溜まっとるときに思いっきりぶっ放すと爽快で気持ちええんよ♪」
わたしは声が出ず、口をぱくぱくさせていた。
自分の親友がこんな恐ろしい物体を所持していたとは思いもよらなかった。
「さっ、ぼさっとしてないで逃げるで。とっておきの脱出ルートを確保しといたから、そこまでの我慢や」
「うっ、うん……」
わたしはぎこちなく頷いて二人の後に続いた。
そう言ってしばらく走って階段を上ってゾンビを撃退しながら進んでいくと一番奥に扉が見えてきた。
その時なぜか柚菜と由衣が目配せして頷きあっていた。
後からは性懲りもなくゾンビ達が追いかけてきている。
「紀衣と由衣ちゃんは先に行って。ここはうちが食い止める」
「で、でも、あんなにたくさんいるんだよ?柚菜ひとりじゃ無理だよ」
「心配無用や。うちとて紀衣を脱がせるまで死ぬわけにはいかへんのや」
なんだかものすごく不純なこと言いながらさらに物騒なものを取り出す柚菜。
それは今まで見たこともない形をしていて、ライフルの先端がやりのようになっていた。
「安心し、うちは絶対死なへん。そのためにわざわざこれもってきたんやから」
そう言って柚菜はわたし達を先に行くよう促した。
わたしは仕方なくそれに従うことにした。
「待ってるからね」
そう声をかけてわたし達はドアの向こうへと消えていった。
「由衣ちゃん、健闘を祈っとるで。紀衣は奥手なんやからしっかりリードしてやってや」
柚菜は親友の健闘を祈り、迫り来るゾンビに向けてプラズマクレイモアを放った。
これで時間稼ぎができる。
柚菜はにやりと笑いソレを構えた。
「この娘を使うのもずいぶんと久しぶりやな。……後で研究所の皆に怒られそうやけどこの際仕方あらへん。非常事態やしな。それにずっとほっとかれたままじゃこの娘が可哀想や」
柚菜は一度深呼吸をして小さく呟いた。
「起動コード“カオス”」
そう言うとソレから女性の声が聞こえてきた。
ロボットのような機械的な声でなく人のそれである。
「識別個体コード検索……クリア。使用者マスター柚菜と認証。R.P.B.Teype―M、起動します」
低い駆動音と共にそれは目覚めた。
「おはようメリア」
「おはようございます、マスター」
「久しぶりにメリアの出番や。ちょいと眼の前におるやばい人達を蹴散らしたいんよ」
「なるほど、確かに挙動が怪しいですね」
「あの人達は紀衣を狙ろとるんよ」
「それは穏やかではありませんね。私も紀衣さんにはお世話になった者として見過ごすわけにはまいりません。と言うことは今回はノヴァを使用してもよろしいのですね?」
「ああ、ノヴァはあかん。ほんまに死ぬから。そうやね……今回は“マイン・ブラスト”がええな。後始末が楽やし」
「しかし、あれは精神操作を主とする広域電磁砲ですよ?」
「ええんよ、今回は。てゆーか、そうじゃないと困るんよ」
「了解しました。ではミリタリーモード起動、モード“バスター”にセット、広域電磁砲“マイン・ブラスト”を使用。チャージまで……後十秒」
そう言うと先端部が中央から二つに分かれてその間に電流が流れ始めた。
「十、九、八、七、六、五、4、三、二、一、……発射します」
ごおおおおおぉぉぉぉぉお―――っ!!
ゾンビ達は光の渦へと一瞬にして飲み込まれていった。
「ターゲット完全に沈黙。周囲への影響はありません」
「うん、ごくろうさま。さてと、そろそろ出てきたらどうです?生徒会長に校長先生」
しばらくの間をおいて左右の角から二人の男が現れた。
「見事だったよ、秋桜君。あれだけの大群を一瞬にして片付けてしまうとは。……生徒会の仕事もこんな感じで片付いてくれればいいのだがね」
「ふぉっふぉっふぉ、これでわしらの負けのようじゃの」
「そのようですね、まあ、今回はなかなか楽しめましたからこのへんでお開きとしましょう。事後処理はいつもの通りにやっておきます」
「うむ、任せたぞ」
いつもこんな騒動の後始末は会長の役目である。
どうやってことを治めているのかいっさいが謎だが。
ただ明日になればいつも通りに戻っていることは間違いないだろう。
「結局おふたりは何がしたかったんですか?」
「なに、ちょっとした刺激がほしかっただけさ」
「そうじゃ、こう毎日が平坦だとたまに無性に強い刺激がほしくなるんじゃ。君もそうじゃろ?」
「いえ、うちの場合はいつも友達から充分刺激をもらってるので、いたって快適な学校生活を送らさせてもろてます」
「そうか、それはいいことだ」
「はい♪おかげで前よりももっと楽しくなりました。正直あの結果には嬉しくもあり驚きもしてます」
「私達としても君のレポートは興味深く読まさせてもらっているよ。だから私としても実験に乗り出した甲斐があるというものだ。……一度死んだ人間を生き返らせる方法、少し予想外な結果になってしまったがかえって面白くなってきたではないか……ふっふっふ、これからしばらくは退屈しないですみそうだよ」
「うむ、これからも彼に期待しようではないか。“プロジェクトR”の要、堀江紀衣君に」
*
扉を開けるとそこは屋上だった。
「えっ?どうして屋上これじゃあ逃げ場がないじゃない」
「いえ、ここであってます」
背後で由衣が扉に鍵をかけて言った。
「なっ、なにしてるの。鍵かけちゃったら柚菜が逃げられなくなっちゃうじゃない」
「柚菜先輩なら大丈夫ですよ。きっともう片付いてますね。今頃、会長と校長先生と一緒に休憩してるんじゃないですか」
「会長に校長先生?」
なんだかすごく嫌な予感がした。絶対あとで問い詰めてやる。
そしてお仕置きだ。びしびししてやる。
なんだか自分がSのようなことを言っている気がするが、この際気にしない。
会長達が悪いのだから。
「そんなことよりも、紀衣さん私と一緒にいいことしましょ♪」
そう言って由衣がいきなり飛び掛ってきた。
「ちょっと待った〜っ」
「どうしてですか?今なら私達の邪魔する人はいませんよ」
「そうじゃなくて……。ああっ!!柚菜め、謀ったな」
「全ては私達のために用意された舞台です。最後は華やかに飾りましょう」
そう言って抱きついてきた由衣がキスを求めてくる。
由衣の視線にそれだけではないということもすぐに気付いた。
「わたし達女の子同士なんだよ」
「紀衣さんは紀衣さんです。それにそんなの気にしません」
「いや、だから……」
わたしが途方にくれていると不意に真剣な眼差しで見つめてきた。
「紀衣さんは私のこと嫌いですか?」
「そんなことないよ」
「それは私が妹みたいな存在だからですか?」
「それは……」
「私は、たしかに紀衣さんみたいなお姉さんがいてくれたら嬉しいです。でも私は紀衣さんのことが好きです。一人の女性として」
「わたしは……」
「私は紀衣さんが望んでくれるのなら、私の全部をあげちゃいます。周りがどんな顔したって関係ありません。私は紀衣さんが好きです。それはいけないことなんですか?」
その瞳はあまりにも真剣だった。わたしはこんなにも想われているんだ。
由衣の気持ちがはっきりと伝わってくる。
だからわたしは彼女に今の気持ちを正直に伝えることにした。
「わたしがもっている由衣への気持ちがなんなのか、正直解からない。だから由衣の気持ちに今は応えられない。でも由衣の気持ち、ちゃんと受け止めたから少しだけ待ってくれないかな?由衣のこと大切に思ってるからちゃんとした答えをだしたいんだ」
それを聞いて由衣はしばらく黙っていたが不意ににこっと笑って頷いた。
「今は妹でもいいです。いつか彼女になれたらうれしいなって思ってます。待ちますよ、いつまでも」
「ありがとう」
わたしは由衣に優しく微笑んで由衣の頬にキスをした。
「紀衣さん……?」
由衣は嬉しそうに頬をそめて抱きついてきた。
「由衣………どさくさに紛れて何してるの?」
由衣は抱きついたままわたしの服を脱がそうとしていた。
「だってせっかく二人っきりになれたんですよ?やらないと損です」
「なっなななな何をっ!?」
「ふふふ、大丈夫です。紀衣さんはじっとしていてください。私が手取り足取り教えちゃいます♪」
「いやあああああああぁぁぁぁぁーっ!!」
こうして今日も一日が過ぎていった。
あとがきのあとがき
麗奈「戦場ね」
佐祐理「はい、戦場ですね」
真雪「なんと言うか……どうやって後片付けするんだ?」
知佳「お姉ちゃん、つっこむところ違うでしょ」
麗奈「それにしても最後の最後で紀衣は貞操を守れなかったわね」
佐祐理「紀衣さん的にはゲームオーバーですね」
麗奈「由衣にとっては大成功なんじゃない?」
知佳「そういえば次はテスト勉強するみたいだけど」
麗奈「そうよ〜♪同じ部屋で二人っきり……ふふふ、面白いことが起きそうね」
佐祐理「はい♪」
知佳「あっあはは……」
こちらは戦場と化してます。
美姫 「こっちのルートでは、何かもの凄い単語が出てたんだけれど」
プロジェクトRって一体?
美姫 「今後、それに関しての説明があるのか、ないのか!?」
ともあれ、ドタバタしそうな感じ。
美姫 「次回も楽しみね〜」
うんうん。次回も待ってます。