あとがき物語 二つの伝説〜運命(みち)を行く者〜
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プロローグ
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暖かい春の日差し。
小鳥の囀り。
それらは新しい季節の始まりを告げていた。
「んっ、ん〜っ……もう朝か〜。ふあ〜」
そんな春のうららかな朝、いつも通りの朝である。
あれ?でも何かがおかしい。何だか頭が後に引っ張られるようなかんじがする。
わたしは思わず頭に触れてみた。
「えっ!?なっなにこれ」
わたしは慌てて部屋の隅に置いてあった大きな姿見の前に駆け寄った。
「誰?これ」
そこに映っていたのはどこからどう見ても自分とは異なる少女の姿だった。
「どうなってるの?昨日なにか変な物でも食べたかな……」
わたしは昨日のことを思い出してみる。あれ?なんだかぼやけてうまく思い出せないぞ。
そもそもわたしは……誰?
う〜ん、あっ!思い出した。わたしは堀江紀衣、17歳の男……だよね。昨日までは確かに男だったはずなんだ。だけど今は女……ダメだ、頭がぼおっとして考えがうまくまとまらない。
「取り合えず、顔洗ってこよ……あっ、その前に身支度しておかないと。家の親って財閥のリーダーなのにおっちょこちょいで、教育方針もそんなに厳しくないからいいんだけど。身だしなみや社交辞令とかっていうのにはやたらと厳しいんだよね。まあ、大事なことだから仕方ないとは思うけど」
そんなことを喋り終えてからはっと気がついた。
「わたし、何偉いとこの子供みたいなこと言ってるんだろ?わたしは一般階級の庶民だったはず……う〜ん、だんだん自分の記憶に自信がなくなってきた」
取り合えず考えるのは後にして妙に大きいクローゼットから制服を取り出す。そして固まる。
「何でブレザーじゃなくてセーラー服なんだっ!」
とここで嘆いても仕方がないので取り合えず、袖を通してみた。
「なんか抵抗なく着れてるってとこが怖い……」
わたしは姿見に映った自分の姿を見て少し引きつりながら、ブラッシングをして、すぐ傍にある洗面台で顔を洗う。
「わたしの部屋ってこんなに広かったっけ?」
疑問に思ったが頭に霞がかかってすぐに気にならなくなった。
「よしっ、身だしなみよし。今日も張り切っていきましょう」
そう言って、鏡の中のわたしに笑いかける。この体が他人ならどんなに可愛いだろうか。
本当にこれ自分の体なんだよね。
「ふう、取り合えず朝ごはんにしよう。確か今日はお父さん達お休みだったはず」
家族が全員そろう朝食というのはとても珍しいことである。
この家にはお手伝いさんやコックさんなどと言った、金持ちの家のお約束的要素が備わっているけど、基本的に家族だけのときはわたしかお母さんが作っている。
わたしが二階から降りてくるといい匂いがした。ちなみに部屋の扉を開けたら、天井には豪華なシャンデリア、床には絨毯といった状態だったことはあえて語るまい。
「あれ、紀衣おはよう。今日はいつもより遅かったわね」
「あっあはは……ちょっとね。それより何か手伝うことない?」
こちらはいつも知っている母親で安心した。やっぱりおかしいのは自分だけなのだろうか?
「ありがとう。もうすぐできるから、じゃあお皿を並べてちょうだい」
「うん、解かった。……ところでお母さん」
「ん、何?」
「今日のわたし変じゃない?」
「どこも変じゃないわよ。いつもどおりの美人さんよ、やっぱり女の子はそうでなくっちゃ」
「……やっぱりわたし、女の子なんだ」
「何言ってるの、あなたは生れたときから可愛い女の子じゃない。……それとも女であることが嫌になった?」
「……わたしは確かに昨日までは男だったんだ。そして今朝眼が眼たら女になってた。やっぱりわたしって変なのかな?」
「……もし紀衣の言っていることが本当だとしたら、男の子に戻りたい?」
「……解からない。戻りたいっていう気持ちもあるけど、この体にもすごく馴染んでるんだ」
「そう……。お母さんはどっちだって構わないよ、男の子でも女の子でも紀衣には変わりないんだから」
「ありがとう」
「いいのよ。あなたが選びたい道を選べばいい。わたし達はいつだって紀衣の味方よ」
「うん……」
「ほらほら、早く食べないと遅刻しちゃうわよ。学園のアイドルが遅刻しちゃったら人気ランキングの順位が変わっちゃうわよ」
「わっ、本当だ」
わたしは掛け時計を見て慌てて、朝食を消化していく。何か気になることも言っていた気もするけど、今は考えている暇はない。
「それじゃいってきます」
「車に気をつけるのよ」
そうしてわたしは大きな玄関で靴を履き急ぎ足で出て行った。
「ふふふ、これからあの子がどんな道を選ぶのかたのしみね。……ねえ、あなた」
いつの間にか隣にはスーツを着込んだ男性が立っていた。
「そうだね。無事男に戻るか、それとも女性として華々しく一生を送るか……」
「わたしは女の子のままでいてほしいわ。磨き甲斐あるし」
「それは同感だな」
「ところであなた、こんなにゆっくりしていて仕事のほうは大丈夫なの?」
「うっ……」
「解かっているとは思うけど、もしも会社が倒産なんかしたら……」
「ひぃぃぃ、いっ行ってきますっ!!」
「あっ、あなたこれ。お昼のお弁当と朝食、会社に着いてから食べてね」
「ああ、ありがとう。それじゃいっていきます」
「はい、いってらっしゃい」
こうして本人の知らないところで陰謀渦巻く、わりと平和な堀江家の一日が始まった。
あとがきのあとがき
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麗奈「なかなか好調な出だしね」
佐祐理「はい♪これからどうなるか楽しみですね」
知佳「それにしても順応するのが早かったね」
麗奈「ふっふっふ、まだまだよ。これからゆっくりと染まってもらうんだから」
真雪「まっ、親がぐるっていうのはお約束だな」
知佳「そうなの?」
真雪「ああ、たいていこういうのは親の趣味に振り回される子供っていうのが相場なんだ」
知佳「へえ、それでこれから紀衣さんはどうなるんだろう?」
麗奈「次は学校ね」
佐祐理「また楽しくなりそうですね♪」
麗奈「あそこには由衣もいるし。ふふふ……楽しみだわ」
知佳「とっいうわけで、次回も紀衣さんの活躍に期待してください」
いきなりの事態にも関わらず、意外にも冷静。
美姫 「果たして、男に戻る事があるのかしら」
それとも、このまま女でいくのか!?
美姫 「お話的には、そっちの方が面白いんだけれどね♪」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」