ぶつかり合う二つの星は、その輝きを極限まで高めなお加速してゆく。その先にあるものが破滅であると知りながら、しかし互いに向けた矛先を納める術を知らぬが故に。

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 勝負は互角。機体の性能ならばギャラクシーエンジェルが僅かにコスモを上回ってすらいるだろう。無限のエネルギーを得たタクトを前に、アヴァンは真正面から斬り込んで行く。

 虚空の果てまで伸びた切っ先が振り下ろされる、その刹那……

 

「!?」

 

 ありえない――――いや、在ってはならない事態が発生した。

 

 ミシミシミシ……メキメキ……ベキャァァァァッ!

 

 コスモの左腕が、ついに反動に耐え切れずフレームごと引き千切れたのである。一瞬のことだったが、間違いなく腕のフレームが捻じ切れ、連鎖的に関節や装甲が剥がれて吹き飛んでいく。

 機体の加速による重圧もさることながら、今の自分達に正面から突撃してくる巨大なエネルギー体――――タクト駆るギャラクシーエンジェルの放つ高エネルギー波が大きな要因だろう。

 

「ううっ!」

 

 機体がバランスを崩す、その一瞬目掛けてタクトの鋭い一撃が決まる。蹴りなどという生易しいものではない熱と衝撃が私達を襲い、

 

 そこで、私の記憶は途切れた。

 

 

銀河天使大戦 The Another

〜破壊と絶望の調停者〜

 

第三章

第五節 時空の果て(後編)

 

「ば、馬鹿な――――――!?」

 

 何もかも跡形もなく消滅してしまった戦場を目の当たりにして、闇舞北斗は我が目を疑った。つい今しがた間で自分達と交戦していたゲルググや近衛軍団の艦艇は一つや二つではない。百もある巨大兵器を一瞬のうちに消滅させることなど、よほどの広範囲兵器(例えば、フィアネスのブレス・オブ・ゼウスや、ラッキースターのハイパーキャノン)を用いなければ不可能なはずだ。

 まして、味方だけを都合よく巻き込まない攻撃手段など―――――

 

(制限解除した―――――俺か奴か、そのどちらかのはずだ)

 

 だが戦場を制圧した輝きの中心に立っていたのは他でもない。

 

「タクト……お前は、一体?」

 

 我等が英雄、銀河天使である。

 過剰運転の影響だろうか、機体各部の装甲が展開し緊急冷却を行なっている。それほどのエネルギーを制御・放射したというのだ、あの機体は。

 そしてどれほどレーダーを走査させても、アヴァンとコスモの反応は戦場の何処からも感知できないのだ。

 

『みんな……』

 

 通信から聞こえるのは、弱々しくも確かなタクトの声だ。しかし勝利したはずの彼は暗い表情を浮かべたままである。

 

「タクト……終わったのか?」

『まさか。まだ生きていると思う』

 

 あれほどの攻撃を受けながらコスモは―――――アヴァンはまだ存命しているというのか。確かにアヴァン……いや、リフレジェント・クリスタルが噂通りならば充分あり得るだろう。

 

『それでもすぐには出てこないと思うよ。今のうちに皆は休んでいてくれ』

「了解だ。エンジェル隊、一時帰投するぞ!」

『了解!』

 

 フィアネスを反転させ、エルシオールとの合流を果たすべく移動を開始する。一度だけ振り返ると、ギャラクシーエンジェルの双眸は遥かアビスフィアの大地へと向けられたままだった。

 

 

 

 

「っ……くぅ」

 

 果てしなく広がる無色の荒野。その一点に大きく穿たれたクレーターの直径はおよそ数十km。ちょっとした隕石が地表に落下したぐらいの破壊力を発揮する事となったコスモは、大穴の中心に埋もれていた。

 

 だがその姿は無残である。

 左腕は上腕の付け根から先を失い、装甲は膨大な熱量に原形をとどめていない。それは他の部位も似たようなもので、全身の装甲のいたる所は溶解するか、ひびが入っている。頭部は損傷が酷く、左半分は外装が吹き飛んで内部機構が露出してしまっていた。

 頼みの綱であるフラッシャーエッジもタクトの一撃によって粉砕され、手元にはグリップ部分しか残っていない。

 背部のスラスター類はかろうじて無事だが、もう一度戦えるかと聞かれれば――――無謀な話でしかないだろう。

 

「俺は……生きていて当然、だよな」

 

 アヴァンは自分の無事を当然のように受け入れ、後ろを振り返る。案の定、アンスは意識を失い、ぐったりとしていた。シートのエアバックとグラビティ・スタピライザーの緊急安全機構のおかげで落下のGで圧死することはなかったが、それでも人体にとって大きな負担である事に変わりはない。

 アンスの呼吸と脈拍が正常であることを確認し、初めて安堵の息を漏らす。彼女を機体に同乗させたまま戦闘を行なったことを後悔しつつも、コックピットのハッチを開放し(奇跡的に機能は生きていた)、目の前に降り立つ救援に視線を注いだ。

 

「早かったな。ユキ」

『ユウだよ。また間違えたね?』

「う、悪い」

 

 コスモの正面に着陸するRCSレッドに向かってバツが悪そうに答える。

 普段はまず間違えないのだが、こうやって機体に乗っている時の彼女達はまず区別がつかないのだ。声も殆ど同じ、戦闘中は口調も似てしまうので、映像付きの通信回線を開かない限りは分かるはずがない。

 片膝をつき、コックピットから乗り出したユウはいつもとは違う、やや真剣な声色で尋ねてきた。遅れてRCSブルー……ユキもコスモの隣に着地し、コックピットから姿を現す。

 

「それで、どうするの?」

「動けるなら何とかしたいが、無理なら計画を早めるしかない」

「じゃあ動けるの?」

「これから試す。まずは……」

 

 一度言葉を切って、アヴァンはコックピットに引き返した。後部座席で眠ったままのアンスを抱き上げ、RCSレッドのコックピットまで跳躍する。

 

「彼女を頼む。お前たちは艦まで辿り着いたら、そのまま離脱しろ。時間稼ぎは――――任せる」

「ん………」

「しばらく会えなくなるが、しっかりな」

 

 また長期間の別行動を取る、という意味なのだろうか。しかし二人の顔には明らかに不満の……それ以上に不安の色が浮かぶ。

 

「でもさ……源流の修正なんて……アイツに任せればいいじゃない」

「今回だけは、俺がやらなきゃならない。過去に決別する意味でもな」

「私もユウも、アウの過去は受け入れた……!」

「俺自身の為なんだ。この世界に俺の過去の遺物が残っていた以上、何としても」

 

 ハーネット……そしてクリスタルの神殿……かつて愛した女の記憶が眠る星。

 

「でなけりゃ、お前たちを本当に愛せなくなりそうだから……な?」

「アウが愛してくれなくても、ボクたちは―――――んっ」

 

 ユウの体を抱き上げて、少女の唇を、アヴァンは問答無用で塞いだ。上唇、下と丁寧についばみ、そしてゆっくりとキスをする。幼い舌を絡めとり、優しく撫でていく。

 

「アウ……うんっ……ん」

 

少女にはあまりにも過激すぎる接吻を二人に与え、アヴァンはいつも通りの不敵な笑みを浮かべた。

 

「ちゃんと帰ってくる。俺の帰る場所は、ユウとユキとアンスのいる場所だからな」

「……分かった。例のものは、置いていくから」

「はいはい。でもよ〜く考えてみると贅沢なシチュエーションだよね〜」

 

 一言余分だ、とアヴァンはあえて口には出さずにコスモのコックピットへと戻る。今の二人にしてやれることはこれぐらいしかない。ここから先は自分でも本当に生きて帰れるか分からない、未踏の領域なのだ。

 それほどまでに、タクトとヴァニラは強くなった。単純な力だけではなく、そういうことだ。

 

「さて……ん?」

 

 機体のシステムを再起動させようとスイッチに手を伸ばして、しかしその指が触れる前に画面が点灯した。アヴァンが何もしないにもかかわらず、あらゆる機能が立ち上げられていく。

 最後にメインモニターに表示されたメッセージは、

 

Last Scramble…Ready?

 

 なるほど、気の利いた演出だ。ここまで来ると憎さ余って可愛さ百倍……いや、逆かな。

 

「いいだろう。これが最後の出撃だ」

 

 機体を軋ませながら四肢に覆い被さる瓦礫を力ずくで跳ね除け、満身創痍の戦士が立ち上がる。背中の翼を大きく広げて、ありったけの推力を巻き起こす。

 

 

 かつてこの地で行なわれた悲しき決戦の記憶が過ぎる。

 愛した女をこの手に掛けねばならない、そんな戦いだった。

 あの時、自分にほんの少しでも力があったなら……そういう後悔は後を絶たない。失うたびに力を求め、得た力を振るえば振るうほどまた何かを失っていった。時には人を愛することを恐怖さえした。

愛するが故に失うことは運命が定めるところなのか。そうやって世界を呪い、全てを滅ぼそうとした事もある。

 

「だが、これで全てを終わらせる。下らんジンクスなどクソ喰らえだ」

 

 俺の為に命を捨てた者、俺の未熟さえ故に命を失った者……その想いに応えるならば今しかない。そう確信できる。それがエゴによるものでも、償いだけはしなければならないのだ。そして……自分に未来を託した彼女の想いに応えるためにも。

 

「俺の我侭にもう少し付き合えよ、コスモ!」

 

 一際高くエンジンが叫びを上げる。機体の損傷など微塵も感じさせぬ、力強く気高い咆哮だ。

 一歩、二歩と踏み出し、三歩目で宙へと舞い上がった。さらに推進器を限界まで酷使して加速し、一気に惑星の重力圏を離脱する。今やコスモの背には一対の翼がある。返り血で限りなく黒く染まった、紅の翼。

 しかしコスモは先ほどの攻防で唯一の武器を失っている。武器もなく挑める相手ではないはずだ。アヴァンもそれは重々承知の上。

だがそれも、

 

「タクトォォォォッ!」

 

 ユキたちが残してくれた、一振りの白刃があれば問題はない。かつてのエオニア戦役でRCSブラックと共に幾多の敵艦を斬り捨てた対装甲刀剣・ムラクモは今、主の手に戻った。

 今一度、決闘の場を目指す紫紺の剣士。

 その隻眼に迷いはない。

 

 

 

 

『レーダーに感! RCS二機と――――――コスモです!』

 

 戦域を監視していたアウトローが叫ぶ。モニターには地表から離脱し、先行するRCSと、それに続くコスモの機影が映し出されていた。

 ようやくエルシオールと接触できるところまで接近したというのに……ここまで敵の反撃が早かったとは予想外だ。恐らくアヴァンはタクトとの一騎打ちを挑み、RCSは事を成し遂げるまでの時間稼ぎといったところか。

 

RCSブルーが進路変更! こちらに突っ込んできます!』

「ブルー……ユキ・ルースか! 全機反転、迎撃用意!」

 

 北斗がフィアネスを振り向かせ、迫るRCSと対峙する。続けてエンジェル隊も旋回しつつ警戒態勢に入った。敵は単独とはいえ、艦隊一つを完全に壊滅できるだけの戦闘力を持っている。エルシオールに近づかせるわけにはいかないのだ。

 

「む……?」

 

 しかしRCSは彼らの手前で停止し、腰のウェポンラッチからビームセイバーを引き抜いた。それをこちらに突き付けるように構える姿は、西洋の騎士を髣髴とさせる。

 

『これより二人の邪魔は、させない。進む意思がないのなら、補給も撤退も好きにすればいい』

 

 退くことは認め、されど進むことは許さず……ただ傍観に徹しろと蒼い髪の少女は告げた。彼らとて、あの間に入ることは人には出来ぬ領域だと理解できるはずなのだ。

 

「確かに、あの戦いは我々に介入できるものではないな。間に入れば一瞬で消し飛ぶことになる」

『ですが少佐! この戦いは無意味です、やめさせなければ……』

 

 どちらかが死ぬことになるだろう。それは間違いない。命を賭して戦う二人には当たり前のことだ。だが反論する烏丸ちとせは違う。

 

『二人はこれからの時代に必要です! どちらも大切な人なんです!』

 

 しかし、アヴァンに従う少女は冷酷だ。

 

『それは、エゴに過ぎない。アウは自らの意思で、貴方達と戦うことを選んだ。そして戦うことでのみ、得られるものがある』

『そんな……!』

『私達は、アウに自由でいて欲しい。だから、アウの意思を最優先にする』

『だからって、こんなこと……悲しいだけです』

 

 自分の想う人と、信じる人がぶつかり合い血を流す。その現実は悲しく、若い心に痛みを刻み込む。

 

『それが、貴女のエゴ』

『エゴでも構いません。私は二人を止めます!』

 

 ユキもまた、己の想うが故の行動。互いに突き動かすものが感情である以上、方向性が異なれば離れるか、あるいは激突する以外道はない。

 

『だから、私と貴女は敵になる!』

 

 戦列を飛び出し加速するシャープシューターにユキのRCSが迫る。たちまち尋常ならざる格闘戦が始まった。こうなれば強行突破するしかない。

 

『仕方ないね。ちとせを援護するよ!』

「駄目だ」

『北斗!? どういうつもりだい!』

「俺たちが戦う相手はアヴァン・ルース、ただ一人。目的を履き違えるな」

『でも北斗さん、ちとせ一人じゃ……!』

「信じろ……ちとせと紋章機、H.A.L.O.の力を」

 

 

 

 漆黒の闇を駆けるシャープシューターに隼の如き鋭さでRCSが迫る。背後を取り、右手のレーザーライフルを照準し――――察知したちとせが機体を大きく左右に揺さぶりをかける。

 

「っ!」

『くぅっ!』

 

 マニューバのGに顔を歪め、それでも二人はスロットルをさらに開放し、加速。複雑な戦闘機動と必殺の攻撃、それらを潜り抜けるための回避行動が綿密で流麗なタペストリーを織り成していく。

 不意にちとせの耳を警告音が打った。サブモニターには『減速限界域』の表示がある。このまま加速を続ければ機体の速度は紋章機の機動制御能力を超えてしまい、二度と自力で制動することができなくなる。何がしかの天体……障害物に激突するまでシャープシューターは停まらなくなるのだ。

 

『もうやめて! 私達も、アヴァンさんもタクトさんも、この戦いに意味はないはずでしょう!?』

 

 限界を近くに感じながら、ちとせはユキに訴えかける。

 

「意味は、ある……ちとせには見えないの? あの二人の間にひしめく因果の鎖が……憎悪と悲哀の呪縛が」

 

 自分の愛する少女の命を奪い去った男のことを。

 友の愛する少女の命を奪ってしまった自分のことを。

 忘れられるはずがない。人の歴史において果てなく続く、醜い闘争の中で起こった悲劇は、二人の男に互いに殺し合うことを宿命付けてしまった。

 

「戦わなければ決着がつくことはない。どちらかを撃たなければ、どちらかに撃たれなければ、互いの感情が終着を迎えることはないの」

『そんな……そんなの、酷すぎる』

 

 タクトは、ヴァニラを殺したアヴァンへの復讐を。

 アヴァンはタクト、そして殺してしまったヴァニラへの贖罪を。

 

「手を取り合えば憎しみは消え去り、彼女の死は過去のものとなる。結果としてヴァニラ・Hが蘇ったとしても、あの日の悲しみは紛れもない現実なのに」

『過ちを風化させないため……記憶に刻み込むために……戦っている?』

「そう……そしてすべてを見届ける義務は、仲間である貴女たちのもの」

『……それでも』

 

 いつしかユキとちとせの戦いは制止していた。明かされた英雄達の非情の決意、その重さが二人の手を止めてしまっていたのだ。

 

『それでも、私は二人を止めます! エゴでも構わない、身勝手でいい……でも二人が傷つけあうのを、黙って見てはいられない!』

 

 シャープシューターの両翼から光の翼が出現する。爆発的な加速によって生じる衝撃波でユキを振りほどき、一陣の風となって駆け抜けていった。

 

『止めるのではなかったのか』

「ふ……構わない」

『だが、それでは奴との約束を違えることにならないか?』

「感情で行動することは、正しい。彼女が自分の意思で動いているなら、止めるのは無粋よ」

 

 ユキの口元に微かに浮かぶ笑みに、闇舞北斗は彼女なりの優しさを感じた。それは同じ男を愛したが故の、報われぬ想いに対するせめてもの応援なのかもしれない。

 

 

 

 

煌く白刃と光輝く拳が激突するたびに宇宙が悲鳴を上げている。切り裂かれ、打ち据えられ、なおも立ち向かわんとする心が悲しみに震えているのだ。

 コスモの残された右腕が白刃を巧みに操り、無数の斬撃を放ちギャラクシーエンジェルの懐へ斬り込んでゆく。しかし、その悉くは受け止められ、弾かれてしまう。

 

(刃が通らない……まさに『主の御加護』というわけか)

 

 EMX01GAの装甲防御機能『エネルギー粒子流体膜』は戦艦の主砲さえ容易く防ぎ切る。片腕での攻撃、しかも機体は活動限界をとっくに越えている状態ではとても突破できる代物ではない。

 

『アヴァン! お前のやり方じゃあ、誰も救えない!』

「何!?」

 

 斬り合い、ぶつかり合いながら二人の問答もまた激しさを増していく。

 

「お前に何が分かる!」

『お前は独りで戦っているだけだ! 真実を隠して、宇宙の片隅で何かをやろうとしたって駄目なんだ! みんなで手を取り合って、一緒に成し遂げなければ……過ちは何度だって繰り返す!』

「俺はいつだって独りで戦ってきた! 大切な者を護るために、独りで傷つくことを選び続けてきた!」

『それでどれだけ大切な人たちを失ってきたんだよ! いい加減間違いに気づけ! お前だけが傷ついて、周りが納得するわけが無い!』

「タクト、貴様……」

HSTLが……ヴァニラが教えてくれる。お前の心は虚しさで満ちている。自分の命に価値を見出せない。だから、そうやって自分を追い込むことしか出来ないんだ……』

 

 不死不滅の存在。

 すべてを圧倒する強大な力。

 リフレジェント・クリスタルがもたらした物は、それだけではない。あまりに強すぎる力を得たアヴァンは同時に、すべての世界から居場所を失った。

 存在するだけで周囲はその力を求め、争いを引き起こす。その現実から逃れようとしたアヴァンに残された道は、クリスタルの力を封じ、あらゆる他者との繋がりを絶つことだった。

 だが世界は彼に対し余りに残酷だった。人々は逃れた先まで彼を追い求め、彼の周囲は否応なく闘争と略奪の嵐に巻き込まれる。数億という年月の中で得た伴侶は何人も殺され、絶望の淵で彼はそれでも生き続けた。

 

「確かに……そうかもしれない」

 

 アヴァンは自らを窮地に追いやることでしか、贖罪の方法を見つけることが出来なかった。血を流し、苦痛に吼えながらも生き続ける。それこそが自分のために死んだ者たちへの、僅かながらの哀悼だった。

 その中でユウとユキに出会い気付いたのだ。孤児だった二人に生きる術と場所を与え、独立できるまで成長を待っても、危険を承知でアヴァンの側を離れようとはしなかった二人を見て……。

 自分だけで戦おうとしながら、自分はずっと誰かを頼って生きていたのだと。

 

「でもな、タクト……」

『アヴァン?』

「今の俺は独りで戦っているんじゃない―――――」

 

 だから、生き続ける。そのために、戦い続ける。

 

「俺だけでなければ、いけないからだ!」

 

 

 

 

「ん……んっ?」

「アンスお姉ちゃん? 良かったぁ、気がついたぁ」

 

 広がる視界には安堵した様子のユウの姿がある。何故かゴテゴテのナース服(貴族風)を着ているが、あえて気にしないでおいた。

 

「ここは? アヴァンは……つぅっ!?」

「だ、駄目だよ寝てなきゃ! 地表落下の衝撃で脳震盪起こしてたのに」

「地表落下?……っ!」

 

 起き上がろうとするアンスをユウが押さえ込む。

 そうだ。自分はアヴァンと一緒にコスモに乗り込み、タクトとヴァニラのGAと戦って、そして……

 

「ここは私たちの艦。お姉ちゃんは落っこちたコスモから収容したの」

「では、アヴァンは?」

「まだコスモで戦ってる。ユキも私が離脱する時間を稼ぎに……」

「無茶だわ! RCSはともかく、コスモは機体の消耗が限界値のはずよ!」

 

 機体の加速だけで腕のフレームが千切れるほどだ。もう一度宇宙空間まで出られただけでも奇跡的なのに……

 

「分かって、お姉ちゃん。時間が無いの」

「時間?……何があるっていうのよ」

「クロノ・クエイクだよ。新しい時代という歪に耐えられない宇宙を浄化する、世界の最後の自衛手段。そしてそれを阻止するために、アウとコスモが必要なの」

 

 ユウが何を言っているのか分からない。必死に情報を整理しようとするアンスを、いや艦全体を激しい揺れが襲った。それも一瞬ではない。

 

「始まった……破滅への激震が」

「じゃあ、これがクロノ・クエイクなの?」

「うん。そしてその中心こそが、アウとタクト」

 

 

 

 その異常はエルシオールや武蔵三型でも確認されていた。

 

「空間振動係数増大! アビスフィア周辺に重力異常! 間違いありません、この宙域の重力が一点に収束しています!」

「場所は!?」

「アビスフィア衛星軌道上……大佐とアヴァンの交戦地点のすぐ側です!」

「くっ……タクトたちに後退指示を出せ!」

「駄目です! 重力異常で通信は一切不能です!」

 

 重力異常によって空間そのものが歪んでいる以上、一切の通信機能が麻痺することは当然だ。データのやり取りはどんなものを媒体としていても空間を通ることに変わりはない。その空間に異常が生じれば機能に何らかの支障をきたす。

 

「エンジェル隊、一番機から四番機まで収容! フィアネスも艦首モジュールに着艦しました!

「六番機は……ちとせはどうした!」

『タクトとアヴァンのところに向かっている。二人の戦いを止めるために』

 

 レスターの問いに答えたのは、格納庫に戻ったばかりの北斗だった。艦首格納庫からの通信ですら重力異常の影響でノイズが入っている。それでも聞き取れないほどではなかった。

 

「少佐、何故彼女を止めなかった」

『仕方が無い。アヴァンの身柄を確保することが我々の任務である以上、誰かが二人を止めなければならない。そして彼女ほどあの二人と密接な関わりのある人物は他にいなかった』

「……状況が状況だ。ちとせを連れ戻さなければならない」

『ああ。だが他の紋章機は再出撃まで時間がかかる。俺のフィアネスも補給が終わっていない。エルシオールもここから退避しなければならんだろう』

 

 ここから先は何が起こるかわからない。エルシオールだけでも安全圏まで後退する必要があった。もっとも、どこなら安全なのかは分からなかったが……

 

「か、艦長! 武蔵三型が発進を……!」

「何!? まさか、ちとせを連れ戻す気か!?」

 

 困惑しているのはレスターだけではない。艦隊司令である烏丸提督もまた同じく、突然の行動に驚きを隠せないでいた。優秀な部下達が何故、命令も無く艦を動かしているのか……

 

「針路クリア、防御シールド最大出力!」

「索敵怠るな! まだ敵が潜んでいるかもしれないぞ! デコイのスタンバイ急げ!」

「このままじゃ追いつけねえ! 緊急ブースターを使うぞ!……何、点火まで三分かかる? 馬鹿言うな、一分以内に用意しろ!」

「退艦希望者は速やかに脱出艇へ移動! 手の空いている者は誘導しろ! 間もなく安全圏を離脱するからな!」

 

 ブリッジでは一刻も早く現場へ駆けつけんと艦を動かしている。だがこうしている間にもちとせは戦闘宙域へ進入しようとしていた。とても追いつけるものではない。

 

「諸君、自分達が何をしているのか分かっているのか!? このまま進めば轟沈するやもしれんのだ!」

 

 どんな理由であれ、艦とクルーを危険に晒すわけにはいかない。提督が制止の声を上げるのに時間は掛からなかった。

 

「水臭いですよ、提督。あの紋章機のパイロットは提督の娘さんでしょう?」

「俺たちは何度も提督に命を助けられてきた。今度は俺たちが、提督の大切な者を護らせて下さいよ」

「そうです! 必ず無事に連れ帰って見せます!」

「任せてくださいよ! これでも今まで提督に叩き上げられてきたのは、伊達じゃないですからね」

 

 彼らは自らの危険も顧みず、自分がかつて捨てたも同然の愛娘のために助けに行こうというのだ。

 

「……すまん。万が一に備え、各砲座は砲撃態勢をとれ!」

 

 

 

 

 コスモとギャラクシーエンジェル。二機の機動が描き出す相克の螺旋の中で、無数の閃光が走り、宇宙に散っていく。拳と刃がぶつかり合う度に生まれる光だ。

 

「この戦いにどんな意味があるというんだ! お前が世界を滅ぼす以外に、どんな!」

「毒をもって毒を制す、そういうことだ! 救世のためには時として、滅びの笛が必要なのだ! 利口なお前には理解できないだろうがな!」

「そんな革命者の理屈―――――!」

 

 革命者。

 かつて惑星アトムで戦った男も、アヴァンと同じだった。何かを護るために戦い続けていた。護るものが異なれば互いにぶつかり合うしかない……彼はそう言っていた。

 

「お前には覚悟がない! 自分の拠って立つ物にその身を委ね、自らの意思で行動することを忘れていった……違うか、タクト!?」

「くっ!」

「その迷いは全てを殺していく……さあ、決めろ! この場で俺を倒すか!」

 

 先ほどとは打って違い、コスモの振るう刀の鋭さは段違いに増していた。一本だった刃の軌跡は今や三本となり、縦横無尽にGAへ襲い掛かる。いかにサイズがスケールアップされているとはいえ、所詮は刀。纏う光の鎧を穿つことは叶わないのだが……

 

(攻撃を―――――ずらされる!?)

 

 その刃は決して天使を傷付けることは無い。しかし天使から放たれた数多の拳は悉く、コスモの剣戟によってその軌道を変えられてしまう。さらにあろうことか、拳を掻い潜りながらもGAの懐へと侵入を開始していた。

 気付いた時にはすでに遅く……下からの斬撃にガードを弾かれ、懐を晒したGAの喉元にコスモの刃が突き付けられる。

 

「――――――それとも、俺に殺されるか」

 

 未来は二つに一つ。

 自分の死というありのままの現実を目の前に示されて、タクトの思考は純化していく。真っ白になった頭の中に、様々なものが去来する。

 マイヤーズ家の養父母。

 シヴァ。

 エルシオール。

 エンジェル隊の皆。

 レスター。

 ……どれも護りたいものだ。けれど、自分に全てを守ることなど出来はしない。どれだけの力を得たとしても、できることなど自分の手が届く狭い領域でしかない。

 

(護りたいもの……俺が護るもの……)

 

 全てを護ることはできない。

 けれど、全てに共通する一つを護ることで満たすことはできるかもしれない。

 

(そうだ、俺が護るものは―――――――)

 

 皆が暮らす場所。

 皆の進む未来。

 護りたいものが存在する、この世界だ。

 

 世界を滅ぼそうとする存在は倒さなければならない。如何なる理由があろうとも、それを認めるわけにはいかないのだ。

 つまり、敵である。

 

(敵は……俺の敵は―――――っ!)

 

 

「タクトさん……見えたんですね?」

「ああ。アヴァン……アイツが俺の敵だ。そして――――――」

 

 HSTLはその性質上、時として搭乗者の未来そのものを見せることがある。戦場においてあらゆる要素を演算した末に求められる結果。それは敵の存在の排除であり、己の勝利に他ならない。

 しかしタクトとヴァニラが求める結果は勝利ではない。二人は勝者となってはならない。銀河天使の往く道は即ち守護であり、ただ其の身を以って護り続けるのみ。他者を排して未来を掴むことはないのだ。

 

「俺たちはこの宇宙に必要無いんだ。クリスタルの力はあまりに強すぎる」

 

 それこそが、アヴァンがエルシオールから離反してまで戦い続けた本当の理由。

 リフレジェント・クリスタルは皇国に、宇宙に新たな戦火を呼ぶ。大きな力を得れば権力者はそれを支配に使おうとし、反対するものを全て消し去る……国家は疲弊し、民衆は国を離れていく。所属する都市群は徒党を組んで強硬派に反乱し、いずれ皇国は廃墟同然の世界となるだろう。

 そして皮肉にも、現実にティティガ・エルドゥルという権力者がクリスタルを支配のために求め、一つの戦火を作り出そうとした。阻止されたとはいえ、一つ間違えれば皇国は再び混乱の時代に逆戻りしていただろう。

 

「もうあの頃には、戻れないんだね……ヴァニラ」

「はい。だから、進みましょう。新しい世界なら、またきっと――――」

 

 それにはまず、目の前の敵を倒さなければならない。

 他ならぬアヴァン・ルースがそれを望んでいるのだ……!

 

「いくぞ、アヴァン!」

「やっと吹っ切れたか……だがそれでいい!」

 

 二人の戦士が間合いを取り、再び激突する刹那、

 

『駄目ぇぇぇぇぇっ!』

「!?」

「ええいっ……ちとせか!」

 

 GAとコスモの間を遮るように現れたのはシャープシューターだ。補給無しでここまで辿り着けただけでも奇跡に近いのだが……やはり燃料切れを起こして行動不能になって漂うだけ。

 

「ちとせ、君はこんなところに来ちゃいけないだろう!」

「邪魔をするな……俺たちは決着をつけねばならない」

『私は止めに来たんです。二人に傷つけあってほしくないんです! アヴァンさんもタクトさんもこれからの時代に必要な人だから……』

 

 切なげに語るちとせは今にも消えそうなか細さだ。繋ぎ止めなければ消えてしまう、そんな危うささえ感じさせる。

 

『だから、みんなの側に居て欲しいんです。ずっと、ずっと――――!』

 

 それができるならば、きっとタクトもアヴァンもそれを望んだろう。誰もが笑いながら穏やかに過ごせる世界はきっと、誰もが夢見る世界なのだから。

 

「ありがとう、ちとせ……裏切り者の俺にそう言って貰えるなら、嬉しい」

 

 答えるアヴァンの顔に微かなほほえみが浮かぶ。

 

「けれど、今はまだその時代じゃない。俺たちが夜明けの鐘を鳴らす……そして新しい世界を作り上げるのは君達だ……」

 

だから『さよならだ』と告げようとするアヴァンの顔が硬直し、険しさを増していく。目の前で無数の触手に貫かれた天使の姿を映す蒼い瞳に殺意が宿り、さらに蒼さは深みを増した。

 まだ残存していた機体があったのだろう。戦艦の残骸に隠れる半壊状態のハーネットが、大量のワイヤークローを伸ばしてシャープシューターに襲い掛かったのだ。

 

「う、く……うおおおおおぉぉぉぉっ!」

 

 なおも群がるワイヤークローをムラクモで切り払い、アヴァンはシャープシューターを安全な距離まで移動させる。先ほどから続いている重力異常と空間振動が幸いして、ハーネットは思うように身動きが取れないらしい。ワイヤークローも本来の半分の距離も伸ばせていない。

 

「ちとせ、無事か!? 返事をしろ、ちとせ……!」

 

 手にヴァニラを殺した感触がよみがえる。仲間をもう死なせないつもりだったのに……あれで最後にするはずだったのに、これはいったいどういうことだ?

 

『アヴァンさん、アンスさん……以外でも、そうやって呼んでくれるんですね? よか、った』

「ちとせ!? 無事なのか!」

『はい。コックピットと……生命維持装置はなんとか大丈夫です』

 

 外部からのダメージチェックでも、主翼と推進系が破損しただけで機体中枢に損傷が無いことが分かるのだが……いわゆる早とちりというやつだ。まさかヴァニラの時のことがフラッシュバックしたなど、誰にも言うつもりは無いが……

とりあえず安堵の息を漏らすアヴァンにちとせが語りかける。

 

『私は、信じています……アヴァンさんを、信じていますから』

「……ちとせ」

『だから、行かないでください。置いていかないで、ください』

 

 信じている、行かないでくれ……自らの立場を顧みず、そう伝える少女は泣いていた。そう言ってくれるだけで、この心の重責がどれほど楽になっただろうか。無論、アンスやユウ、ユキを忘れたわけではない。しかし孤独な戦いを続けるアヴァンにとって、純粋に信頼を寄せてくれる人はかけがえのない存在なのだ。

 

「ちとせ」

『はい』

「君に心からの感謝を」

『アヴァンさん……』

「そしてさよなら、ちとせ」

『え?』

 

 信頼に対する礼、そして決別の意思。

 ゆっくりと押し出されたシャープシューターはゆらゆらと宇宙を漂って――――タクトはずっと待っていてくれたのだろう。ギャラクシーエンジェルに護られるように受け止められた。

 

『タ、タクトさん? お願いです、アヴァンさんを止めて下さい!』

「無理です。今ちとせさんを残してここを離れることは、あまりに危険すぎます」

 

 答えるヴァニラも表情が暗い。もはや伝えることは無い、とシャープシューターへの通信回線は一方的に閉ざされた。ちとせへ返ってくるのは一定のノイズだけだ。

極端な重力異常でただでさえ移動が困難になっている状況だ。ここから先に何が待っているか分からない以上、ちとせだけでも護らなければならない。いや、そもそも……

 

「タクト、俺の機体は耐久強度が限界だ。推進系も半分潰れている」

「奇遇だね……こっちも無理。何せ俺の体が寿命だからさ……」

 

 タクトの命はすでに尽きている。もはや指を動かすこともままならず、ナノマシンの延命処置で意識をかろうじて保っているに過ぎない。対してアヴァンのコスモも、ダメージコントロールでかろうじて機能を保っているだけだ。とても本来の戦闘力を発揮することなど出来ないだろう。

 そしてこうしている間にも、ハーネットは徐々にこちらへ移動を続けている。あのワイヤークローの射程に捉えられるのも時間の問題だ。

 

「こういう奥の手は好きじゃないんだがな」

 

 ぼやくアヴァンはコスモに最後のコードを入力していく。コックピットの証明が一瞬明滅し、今度は暗い赤のランプがアヴァンの顔を照らし出した。

 

「ごめん、ヴァニラ。こんな終わり方じゃ……」

「きっと、皆さんなら分かってくれます。それに私には、タクトさんがいます」

 

 最後にもう一度だけ、とタクトとヴァニラが互いの温もりを確かめ合う。指が絡み合い、唇を重ね、ゆっくりと離れる。

 

 

 

 

さようなら、ちとせ

さよなら、ちとせ

さようなら、ちとせさん

 

 

 半ば叩きつけるようにハーネットへ取り付くコスモ。それを払い落とそうとハーネットはワイヤークローを振り回して暴れるが、その装甲に深く突き立てられたムラクモは決して抜けはしなかった。

 後方でシャープシューターを安全な方向へ送り出したタクトとヴァニラは、GAのエネルギー翼を展開させてちとせをハーネットの砲撃から庇い続けている。

シャープシューターの機影が見えなくなって彼女を巻き込む心配がなくなると、アヴァンは高らかに叫んだ。同時にムラクモをハーネットへさらに深く突き刺していく。

 

「タクト、お前の言っていたことはあながち間違いではなかったぞ!」

「アヴァン!?」

「だが俺は生き抜いてみせる……俺の生き方で誰よりも強く、俺の帰りを待つあいつらのために! さらばだ我が友……タクト・マイヤーズ、また会おう!」

 

 友への言葉を最後に、閃光が全てを包み込んで行く。

 

 そう、全てを……優しく包んで―――――

 

 夜明けの鐘が鳴り響くのだ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼前で炸裂した巨大な閃光は、武蔵三型のブリッジを照らし上げた。とっさに光学センサーを遮断したが一部のカメラが焼き切れるなど問題が発生し、重力異常による空間歪曲で甲板の一部が吹き飛ぶなどの損害が相次いだ。

 それでも数分の後にはレーダーも含む索敵機能も復旧し、再び紋章機とちとせの捜索を開始しようとした、その時だった……

 

「レーダーに感! こちらに接近する光源があります!」

「ようし、生きている光学カメラで確認しろ! 最大望遠だ!」

 

 ブリッジのメインモニターに映し出されたのは、救難信号を発信し続けるシャープシューター。

 

「機体は損傷していますが、生命反応を……確認しました! 間違いありません、生きています!」

 

 ブリッジに歓喜の声が沸き上がる。すぐさま収容準備が整えられ、さらに艦を接近させていく。

 

「?……前方、距離10万に高エネルギー反応です!」

「レーダーでも感知―――――でかい、こいつは……直径数十キロはあります!」

 

 未だ先の閃光は前方の空間の大半を覆っている。まるで何かを隠しているのか、護っているのかは分からないが……

 

 

 少しずつ、現れていくそれは……

 

 

「巨大な……リング!?」

「ゲート、でしょうか」

「わからん。それよりマイヤーズ大佐は見つかったか!」

「駄目だ。レーダーがあのデカブツのエネルギー波で阻害されて探知できない! 光学センサーも回しているが感知できない!」

 

 

 新たな時代への扉。

 

 

「……光が広がって、アヴァンさんが………時空の果てに消えて行く……」

 

 

 その代償はあまりに大きすぎる。

 

 

「行かなくちゃ……私が、作らなくては……ふふっ……新しい時代を―――――」

 

 

 信じるものを失った少女の心は……この宇宙のように歪んでしまった。

 

 

 

 

 

第一級封鎖区域・惑星アビスフィア周辺における戦闘において、

エルドゥル近衛艦隊は完全壊滅。反乱勢力の一掃を確認。

この戦闘において離反者アヴァン・ルースは戦死。

追跡任務を担当した皇国防衛特務戦隊・戦隊長

タクト・マイヤーズは行方不明。

また戦闘後にアビスフィア衛星軌道上に出現した

リング状の巨大建造物は後日調査隊を派遣する予定。

 

以上をもって、アヴァン・ルース追跡任務の完了を報告する。

 

トランスバール皇国暦413年12月25日

皇国防衛特務戦隊・戦隊長代理レスター・クールダラス

戦闘終了直後のブリッジにて

 

 

 

 

 

かくして宇宙に平和は戻った。

トランスバール皇国は解体され、

シヴァを元首とする銀河統一国家『EDEN』が誕生する。

あらゆる組織、勢力、国家が女皇の下に集い、

新たな平和を維持するべく邁進していくことになる。

 

一方でアビスフィア衛星軌道上に出現した謎の建造物は、

後に調査にて平行世界を繋ぐ『クロノゲート』であることが判明。

異なる宇宙文明との接触を求めてEDENは調査団を派遣。

異空間『アブソリュート』にて

ゲート管理中枢施設『セントラルグロウブ』と、

遥か太古に機能を停止した無数のクロノゲートを発見する。

その中で唯一機能を保持していたゲートの先に、

調査団は新たなる世界を見るのであった。

 

 

トランスバール皇国暦416年。

新世界『NEUE』との交流は政治、文化、経済とあらゆる方面で活発化。

武力を一切用いないEDENの外交政策は多くの支持を集め、

二つの宇宙は平穏と呼ぶに相応しい時代を築いている。

 

しかし、平和を享受する者たちのどれほどが、

それを勝ち得、受け継ぎ、護り抜く辛さを知っていようか。

 

今ある平和を護るために命を投げ打った者達を……

腐敗の一途を辿る世界に変革をもたらすべく戦いに身を投じた者達を……




筆者たちの必死な解説コーナー(どうするの、コレ?編)

 

ゆきっぷう「銀河天使大戦第三章五節後編、お読みいただきありがとうございます!」

 

アヴァン(頭に十字架)「………」

 

タクト(頭に三角巾)「………」

 

ヴァニラ(頭にエンジェルハイロゥ)「………」

 

ゆきっぷう「無事佳境を乗り越え、物語は完結を迎えようとしています! 苦節二年半の創作活動もこれで節目なのです! ヤッタネ! かんぱ〜い!」

 

アヴァン(頭に十字架)「………」

 

タクト(頭に三角巾)「………」

 

ヴァニラ(頭にエンジェルハイロゥ)「………」

 

ゆきっぷう「およ? どうしたのさ、元気ナイネ?」

 

北斗「貴様のせいだ、馬鹿者ッ!」

 

ゆきっぷう「え? なんでさー」

 

北斗「当初のプロットと全然違う結末を書きおって……一体どういうつもりだ!?」

 

ゆきっぷう「現場の判断です」(某刑事風)

 

北斗「なに?」

 

ゆきっぷう「創作は現場で起こっているんです!」(某刑事風)

 

北斗「意味が分からん」

 

ゆきっぷう「要するに、書いている途中で路線変更?」

 

北斗「そんなことは分かりきっている! タハ乱暴も40ページのシナリオを勝手に120ページ以上に増量したりしたからな! そのためにどれだけの罪無き人が犠牲に……」

 

ゆきっぷう「分かっているじゃないか。さすが我が友の息子だけあブラッ!?」

 

北斗「だ・ま・れェェェッ! タクトとアヴァンの一騎討ちにちとせを絡ませたら、どうしてこんな風になるんだ!? え? 言ってみろ! この野郎!」

 

ゆきっぷう「どうしてと言われても……俺の量子電導脳がスパークしてだなぁ」

 

北斗「お前の妄想癖など聞いていない!」

 

ゆきっぷう「ま、まあ落ち着け。とにかくこれで銀河天使大戦は完結なんだ。なんか次に繋がるような作りだけど完結なんだよ」

 

北斗「こんな終わり方が認められるか、クソッタレめ! タハ乱暴でもこんなオチはつけないぞ!」

 

ゆきっぷう「馬鹿な!」

 

北斗「その台詞はお前にそっくりそのまま返す!」

 

ゆきっぷう「そんなことは全然ないんだぜ?」

 

北斗「貴様ァァァァァァッ! 死ねッ! 死んでか○ん先生と水○良先生に謝れェェェェッッ!」

 

ゆきっぷう「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 

 

 


あとがき

 

 どうもご愛読ありがとうございます。ゆきっぷうでございます。

 ともあれ三つの章に渡ってお届けしてきました銀河天使大戦もこれにて簡潔と相成りました。ゆきっぷうの突拍子も無い思い付きに端を発し、盟友・タハ乱暴氏を巻き込み、とてつもなくビッグスケールなストーリーに発展し、ゆきっぷうも非常に驚いております(←オイ)。

 正直、この銀河天使大戦はかなりイレギュラーなクロスオーバーSSとなったと反省しております。オリキャラにメインヒロインを惨殺させるなど、さすがにマズかったかなぁ……とか感じておりますが『やっちゃったもんはしょうがない』と開き直る今日この頃です。

 

 いざ終わってみると色々と報われないキャラが多かったです。特にちとせなんかヤバいぐらい報われていないですね……最後に壊れ入っちゃったし。タクトもいつの間にやら人造人間に仕立て上げられた末、寿命が短くなってしまったし。ヴァニラに至っては一度死んでしまいました。

 メインキャストが片っ端からこんな感じになってしまったのには一応理由があります。原作のギャラクシーエンジェルは戦争を取り上げている割に、身内の死があまり描かれていないのです。あってもペットのウサギが死んだりとか、あとは悪役がやられて『一件落着』みたいなノリが目立っていたのです。

 間違っても主人公の親友の父親が目の前で戦死、とか。

 今や珍しい、年配のライバルキャラの壮絶な最期、とか。

 敵のボスが本当はタクトの実の姉だったのに殺しちゃった、とか。

 そういう『戦争』に付き纏う痛み―――――悲劇があんまり無かったのです。まあ、原作は典型的なハッピーエンドの恋愛シミュレーションですから。そういう暗い空気は作りたくなかったのかもしれませんね。

 

 なので銀河天使大戦では原作とは逆に『戦争の悲劇』を前面に押し出す形になりました。勝利の影にある敗北や、信念を貫く犠牲といったものが、上手く表現できていればと思います。

 まあ、それに必要な汚れ役は全てアヴァンに押し付けましたが(笑

 

 ちなみにこの話が本当に続くかどうか、ゆきっぷうにも分かりません。続くにしても、そのためには色々とやらなければいけない事が沢山ありますので、いつになるかは皆目見当もつきません(汗) MUVLUV Refulgence2007年公開って銘打っちゃったし……

 

 うーん、続編は二年後ぐらいかな?(爆

 

 長くなりましたが最後に。

 

 ゆきっぷうの無謀すぎる投稿を快く受け入れてくださった浩さん。

 クロスオーバーに必要な原作を創り上げたクリエイターの方々。

 多方面に渡って応援(という名の洗脳)をしてくれた我が盟友・タハ乱暴氏。

 そして読んで下さった全ての方に心からの感謝を……

 

 

20071218日 クロノ・クエイクが発生した自室にて

ゆきっぷう





遂に完結……。おめでとうございます。
美姫 「ひとまずはお疲れ様でした」
感慨深いな〜。とは言え、ちさとはどうなっちゃったんだ。
美姫 「最後の最後でまさかああなるとはね」
うんうん。ともあれ、投稿ありがとうございました。
美姫 「ました〜」
それでは、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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