刹那、破壊の嵐が自分を貫いた。
四肢が一瞬のうちに麻痺し、五臓六腑が飛び散る。
激痛に喉が震えて声が出ない。
逆流する鮮血が口から零れ出る。
蒼い光の渦に巻き込まれて、気付けば漂う闇の底。
『 オマエハ ダレダ 』
私はヴァニラ・H。トランスバール皇国宇宙軍、エンジェル隊所属。
けれどそれは過去の話。今はもう暗闇を堕ちていく心だけ。想うのは皆のこと、シスター・バレルのこと―――――そしてタクトさんのこと。もし死んでしまってもきっと自分の心は彼の側に在ると信じていたのに、私が居るのはこんな深い闇の底。
私が死ぬ時、微かに見えたものがある。
泣き崩れるエルシオールの皆さん。
砕け散るランファさんのお守り。
そして光が弾けて……
天に向かって吼えるタクトさんと、それに重なるアヴァンさんの姿。
同じように涙を流し、
同じように悲しみを噛み締め、
同じように力の無さを憎んでいる。
理由は分からないけれど、それには何か大切な意味があるのかもしれない。
闇という、死という檻の中では私に出来ることは何も無い。ただじっと、繰り返す悲しみの連鎖を見つめ続け、私もまた自分の無力さを悔やむことしか……
◇
胸を締め付けるのは悔しさだけでした。
あとはわけも分からずに混乱するだけで、私はヴァニラを助けてあげられなかった。タクトさんもボロボロになりながらずっと戦っていて、私達は後ろでそれを見守ることしかできなかった。
今日までアヴァンさんとはずっと仲良しでした。一緒にお料理をしたこともあるし、シミュレーターの訓練も手伝ってもらったりもしました。とても陽気で、でも厳しい、いい人でした。アヴァンさんが敵として私達の前に立ちふさがった時、信じられないというよりも怖かったです。
冷たい瞳。
冷たい声。
冷たい言葉。
裏切ったことは許せないです。ヴァニラを死なせてしまったことはもっと許せないです。それでも、心のどこかでまだ私はアヴァンさんを信じています。きっと何か訳がある、そう思います。
私が目を覚ました時、もう全部終わっていて愕然とした。
だってそうでしょ? 起きたらアヴァンさんは行方をくらまして、ヴァニラは戦死して、タクトは壊れたように泣き叫んでた。そんな光景を目の当たりにしたら、どうしようもない。
その全てがアヴァンさんの所為だっていう事は間違いない。けれどそれを阻止できなかったあたしたちの無力さだって、事実だもの。もっとしっかりやっていれば、そうしたら……こんなことにはならなかったかもしれない。
アヴァンさんだって、ヴァニラを殺さなくてもどうにかする方法だってあったはず。そうしたらきっと……
ずっと胸の中でくすぶっていた不安が的中することほど、嫌なものはありません。
どこまでも完璧だったアヴァンさんは、むしろそうであったが故にその意思が見え難かった。私のテレパス能力でも表層的な思考しか拾うことが出来なかったことが、こういう場面で響いてくるなんて思いもしませんでしたわ。
兎にも角にもアヴァンさんは恐ろしいほどに優秀な方でした。結局、テレパスという周囲よりも突出した異能者だった私ですら彼の前ではただの少女だったんですもの。嬉しさ半分、悔しさ半分ですわね。
けれど仲間に手をかけたことを許すわけには参りません。必ずその報いを……
あたしらは軍人で、戦争をやるために生きているようなもんなんだ。いつかとはいえ、理不尽な死に方をすることを、一応覚悟はしていた。命令ならば、どんな過酷な戦いにだって身を投じることは出来る。少なくとも、今の仲間たちとなら大丈夫だ。
それでも……それでも許せないものはある。仲間をだまして、裏でコソコソやっている奴なんかがそうだ。まして、平然と仲間を殺せるような奴は絶対に許せない。
アヴァンはそういうあたしのタブーに触れたんだよ。何を狙っているかは知らないけど、あいつの思い通りには、絶対にさせやしない。絶対にだ。
どうして……どうしてですか、アヴァンさん?
裏切ることなんて何もなかったはずなのに、つい何時間か前まではいつも通りの日常だったのに。いつもの優しいアヴァンさんだったのに。一体何があったんですか? ヴァニラ先輩を殺してまで、成すべきことなど……
分からない。その意図が、真実がまったく見えないんです。貴方が何をしようとしているのか、その理由も、何もかもが私達の理解の範疇を超えてしまっていて……
それでも私は信じています。あの厳しくて優しい貴方が、本当のアヴァンさんなのだと―――――
銀河天使大戦 The Another
〜破壊と絶望の調停者〜
第三章
第二節 壊れた絆
「なるほど……事情は把握しました」
アヴァン離反から明けた翌日の昼過ぎ、艦長室で闇舞北斗少佐はゆっくりと頷いた。デスク越しにレスターはあくまで冷静に告げる。
「タクトは未だ昏睡状態のままだ。しばらくは少佐が指揮官を代行して欲しい」
「まあ、無理もないでしょう……了解です」
結局あの後、ヴァニラの亡骸を抱き上げたままタクトは倒れてしまった。ケーラの診察ではHSTLシステムのリミッターを解除した反動とヴァニラの死のショックが相まって、精神面にかなり深いダメージを受けたらしい。パイロットに復帰するどころか人としてこれから生きていけるかどうか、それすら危ういというのが彼女の見解だ。
「しかし信じられん。まさかルフト大臣が更迭され、シヴァ陛下までも軟禁状態とはな」
「事態はかなり切迫していますが、エルシオールが本星圏から離れていたのは幸運でした。しばらく時間を稼ぐことは出来る」
彼が持ってきた情報によれば、今まで存在していたエルシオールの後ろ盾は完全に無力化されてしまったという。ルフト大臣とシヴァ女皇の軟禁、白き月の完全封鎖、皇国軍の統帥権の行政府委譲。向こうの目的はエルシオールの拿捕というから、このままノコノコと戻れば相手の思う壺である。
そしてその相手は皇国軍総司令部。なんとも厄介な話だ。今度は身内が敵になったのだから。
「しばらくは小惑星帯で艦の修理とクルーの休息に専念する。今後の行動はそれから決めよう」
「分かりました。では、失礼します」
エンジェル隊などの資料を受け取り、北斗は艦長室を後にした。
まずはエンジェル隊のメンバーの状態を確認する必要がある。あれだけの事件があった後だ、およそ他人と話をする気力など無いかもしれないが……それでも会っておかなければならない。真相を知る上でもそれは重要なことである。
彼がまず訪れたのはティーラウンジだ。エンジェル隊に限らず、ここがよくクルーの溜り場になっているという話だ。
「あれ? え〜と……」
早速ミルフィーユを発見。しかしこちらの名前をまだ覚えていなかったらしく、どう声をかけたらいいか悩んでいる様子。
「闇舞北斗だ。ミルフィーユ少尉」
「ミルフィーでいいですよ」
「そうか。ではミルフィーはここで何を?」
すると彼女はさも当然のように答えた。
「みんなでお茶しようと思って。でもやっぱり無理ですよね。あんなことあったばっかりだし」
用意されたカップは七つ。今のエンジェル隊とタクトの数を考えると、一つ多い。
「あ、一個多かったですね。あはは……」
「気にしなくていい。……とりあえず今日は俺が付き合おう」
結局、三時を過ぎて四時になっても他のメンバーは顔を出さなかった。心の整理が付くまではやはり時間がかかるようだ。確かに殆どのメンバーは士官学校を卒業している。しかし実戦における死と直面した経験のある人間がはたして何人いるか……
「今日は退散するか」
「ですね〜。じゃあ北斗さん、また明日」
「ああ。ミルフィーもよく休むんだぞ」
「は〜い」
昨日の今日で変わらぬ日常を過ごせる彼女は、精神的にとてもタフなのだろう。だが言葉の端々に僅かながらも暗さが見て取れる以上、少なからずショックは受けていることは間違いなかった。
さすがにメンバーの部屋まで押し掛けていくわけにもいかない。
北斗は一呼吸置くと、宛がわれた自室へ歩いていった。
◇
宛がわれた自室を前にアンス・ネイバートはこめかみをひくかせていた。理由はいたって単純で、そこがアヴァンの部屋だからだ。散らかった書類とディスク、床を半ば覆いつくすほどのケーブルや機材が2×3mの小部屋に溢れ返っている。
あの後アヴァンたちはエルシオールのレーダー圏外へ離脱し、無人惑星に予め隠してあった宇宙高速艇に乗り移った。今彼女が居る場所はその船内である。高速艇の外見は市販の(それでもかなりの値段はするが)物とほとんど同じだが、アヴァン曰く『中身はまったく別物』らしい。
とりあえずRCS二機とコスモを格納できるハンガーが存在する時点で、皇国に普及している宇宙艇とは完全に異なっていることは確かだ。
「寝泊りはユウたちの部屋にします」
「……それがいいです」
ユキがうなずく。ここまで淡々と船内の案内をしてきた彼女が眉をひそめるほど、アヴァンの部屋はひどく散らかっていた。ちなみに今のユキの服装は黒のゴスロリドレスという、およそこの場には似つかわしくないものだったが、似合っているのであえて口に出さないでおく。
二人は再び歩き出した。エンジンルームと倉庫はすでに見たから、次はブリッジかハンガーだろうか。
「ねえ」
「?」
「率直に聞くけど……彼のこと、どう思ってる?」
不意にアンスが問いかけた。確かに彼女にとってこれは避けては通れぬ命題である。対するユキは表情を変えることなく、振り返ってアンスを見つめたまま停止する。
「……………」
「べ、別にいいのよ。言いたくないなら、それでも」
「ううん、そうじゃない……やっぱり、気になるの?」
アンスがうなずく。お互い上手くやっていく上でも、拒絶する上でも、理解を深めることは必要だ。
「私達はアウを愛している」
「……」
「でもそれ以上に私にとって、ユウにとって……アウはすべてなの。尽くすべき主、果たすべき使命、貫くべき信念……そして、守りたい人」
「アヴァンが間違ってる、と思うことはないの?」
ユキはいいえ、と首を横に振る。
純真無垢な少女であるが故に、彼への絶対的な信奉は揺るがないとアンスは思った。しかしそれは大きな間違いである。
何故なら……
「確かに馬鹿と思うことはあるし、やり過ぎと感じることもある。でもアウは自分の過ちを絶対忘れない。いつも心のどこかでそれを悔やんで、苦しんでる。それに最後には必ず正しい形で決着を付けてくれるから」
彼女の思っている以上に二人の少女は、
「なんだかんだで皆を考えてる事知ってるからね〜。っていうか、だから惚れたんだけどさ」
彼の人となりや弱さを見ているから。その事実にアンスは驚きよりも半ば恥ずかしささえ覚えていた。自分が彼女達を侮っていたことは紛れもないこと。それ故にアヴァンへの信頼さえ揺らいでしまっていたことは何より、目の前の二人の少女に対する侮辱に他ならない。
一方、最後に出てきたユウはどこか不機嫌そうにユキを突っついていた。こういう光景は本当の歳相応の姉妹らしく、見ていて微笑ましい気持ちになる。
「お〜そ〜い〜。全然来ないから、何をちんたらやってるか見に来てみればまったくぅ」
「………ごめん、アウの部屋が散らかってたから」
「じゃあ、しょうがないね。アウの今夜のメロンは抜きで決定!」
しかしその一言で場が凍りつく。まずアンスの表情が固まり、事情をなんとなく察したユウとユキがつられるように振り返ると、一気に絶対零度・マイナス256℃に突入。思考と言う名の分子運動が停止、哀れ少女たちは真っ白になった。
「ほう? 誰のメロンを抜くって? オイコラ」
「え?」
「あ……ぅぅ」
そりゃそうだ。矛先を向けた本人が後ろに立っていれば当然である。
アヴァンにそれぞれ頭を掴み上げられて、ユウとユキがギャアギャアと喚きだした。彼が今やっているのは世に言うところの『アイアンクロー』という奴で、やられると結構痛い。
「んなアホなことを考える頭はこうだっ! ふん! ふんっ!」
「アウいたい〜…いたい〜…いたい〜…いたい〜…いだい〜…いだい〜…いだい〜…いだい〜…いだい〜…」
「いたっ! いだだだっ!? このっ、アウの分際でぇ……わぎゃっ!? ゴメン、ゴメンナサイ! ゆるじでぇぇぇぇ」
普段は温厚(?)で陽気(?)なアヴァンがここまで怒るあたり、彼にとってメロンは死活問題なのだろう。宴会の時もメロンばっかり食っていた気がするし。DVっぽいが気にしてはいけない。普段のアヴァンは今の十倍以上の折檻を、この二人から受けているのだから。
少女たちの頭に☆が五つほどくるくる回り出して、ようやくアヴァンは二人を解放した。といっても床にペイッと転がしただけである。頭に怒りマークが浮かんでいるところからして、本気で怒っていたようだ。
ある意味話しかけ難い雰囲気ではあったが、アンスは意を決して口を開いた。
「あの、アヴァン?」
「ん?」
「ヴァニラのこと……よかったんですか?」
上手い言葉が見つからない。それでもアンスの意を感じ取ったのか、アヴァンは少しだけ愁いの表情を浮かべ、
「分かってる。けじめはつける」
それだけ答えて、再びユウとユキを吊るし上げた。
この馬鹿騒ぎを見ながらアンスはふと感じた。あの子を殺してしまったことを悔やんでいる彼だから、こうして表向きにでも大丈夫であることをアピールしているのではないか。
そうしなければ、ユウとユキが不安になってしまうから。
けれどそれでは根本的な解決にはならないとも思う。結局、問題は先送りにしたままなのだから。
(アヴァン………)
目の前で少女達と戯れる彼を見つめ、しかしアンスの心はまだ晴れない。
◇
翌日、北斗が訪れたのはミント・ブラマンシュの部屋だった。資料によればエンジェル隊の中でも特に策謀に優れた隊員で、今回の一件について客観的な意見が聞けると思ったのだ(本人が聞いたら激怒しそうな評価である)。
「ブラマンシュ少尉、いるか?」
応答なし。代わりに何やら衣擦れの音がする。着替え中と納得するが、それならば何か一声あってもよさそうである。ともすれば、彼女は着替えながらにして声の出せぬ状況なのか? それはつまり、乙女のピンチを意味しているわけで(意味不明)
『何しているんですか、マスター』
「む、アウトロー? 別に何もしていないぞ。ただブラマンシュ少尉に話を聞こうと思っただけだ」
「ならちょうどいいや。あんたの話も聞かせておくれよ、アポリオン?」
皮肉たっぷりにフォルテが言う。彼がルフトお抱えの諜報員だったという事実に、少なからず反感を持っているのかもしれない。
「あら、どうなさいましたの?」
そこへ着替えが終わったと思しき(今の彼女の姿はまさに、その、フェレットだった)ミントが姿を見せた。ならばちょうどいいと、そのままミントの部屋で談話会という運びになった。
・
・
・
「なるほど……そんなことが」
事の顛末を一通り聞き終えた北斗はしきりに頷いた。自分が目撃した光景の裏側にこれほど大きな悲劇が隠されていたとは、今さらながら驚いている。
しかし逆に言えば、もしかしたら阻止できたかもしれない事態でもある。
「すまない。俺がもう少し早く合流できていればあるいは……」
「いいんだよ。本当は、あたしらでなんとかできなきゃいけなかったんだ」
「少佐の謝ることではありませんわ」
そう言う二人の顔は暗い。やはりあの時、成す術もなく仲間の死を見なければならなかったことが堪えているようだ。隣のアウトローも落ち込んでいる様子。犬耳と尻尾を垂らしてしょぼくれている姿はなんとも哀れ……
「……………………ん!?」
そこで北斗はようやくある事実に気付いた。彼の知っている限り、アウトローはバイクである。間違っても犬耳と尻尾をつけた美少年であるはずがない……ッ!
「どういうことだ……これは! 一体何が、どうなっている!?」
「あー、これはそのだね」
「なんと申し上げればよいのでしょうか、いろいろとありまして」
『僕は生まれ変わったんです、マスター』
そこでアウトローが威風堂々と宣言する(宣言させているのはゆきっぷうだが)。
「う、生まれ変わっただと!?」
『そう、ローテクの塊でしかなかった僕は過去のことです。素晴らしき“おーばーてくのろじー”で僕は愛と勇気を守る、正義のヒーロー・エンジェル隊の戦士にGet onしたんです!』
「なんだと!?」
『だからもう、僕のマスターは……ご主人様はフォルテご主人様なんです!』
「ぬぅわんだってぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
ショックのあまり表情が劇画タッチに変化した挙句、大仰な仕草で仰け反る北斗。しかもフォルテを『マスター』ではなく『ご主人様』と区別している事にも注目だ。
一方のフォルテは照れ半分、嬉しさ半分でにやけている。
「フォルテ……どういうことだ、説明してもらうか?」
「そうですわ、フォルテさん。アウトローさんはエルシオールのスーパーアイドル、そしてかけがえのない人類の財産として共有していくと話し合ったではないですか」
「チョットマテ。君達は人の相棒を何だと思ってるんだ?」
好き勝手言い放題のエンジェル隊にもう北斗は爆発寸前だったりする。
結局、その場は爆笑の渦に流されてしまったが逆にそれでよかったのかもしれない。少なくとも北斗にはそう思えた。
(二人の顔に笑顔が戻ったのなら、それで良しだ)
屈託のない笑顔を浮かべるフォルテとミントをしばし見つめ、北斗は部屋を後にした。
無論、部屋に戻ってからアウトローの問題を思い出して四苦八苦する羽目になったが……
◇
「まだ、見つからんのかね?」
業を煮やしたように、片眼鏡の老人が呻いた。
皇国宇宙軍総司令部・最高会議室。政界からシヴァを排除したことによって事実上、トランスバールの政権を握った彼らの次の行動は至って明確であった。
「奴らを押さえぬ事には、我々の安全は保障されん。分かっておろうな」
「それは重々承知のこと。しかしルフトが、リフレジェント・クリスタルの探索という名目でエルシオールをあのような辺境まで遠ざけていたとは……」
すでにエルシオールが音信不通になってから一週間が経過している。もし彼らが自分達に弓引くことになれば、民衆は果たしてどちらに付くか。政に携わる人間ならばその恐ろしさは目に見えている。反旗を翻した民衆は政府さえ打ち倒す力を持つ。かといって弾圧すれば著しく国力が低下する。如何にそれを味方に引き込むかが重要なのだ。
そしてリフレジェント・クリスタル。
接収した白き月の研究資料から、それがもたらす恩恵の数々は判明している。無尽蔵のエネルギー、膨大な量の超技術、そして……
「あれの存在は我々の未来を約束する。計画の遅延はまかりならん」
「すでに第三、第四艦隊に追跡を命じております。今しばらく、ご辛抱を」
「急ぐのだ。そして光り輝く神の知恵を我らの手に」
『ははっ』
◇
一週間で判明した事実として、特に大きかったのはエンジェル隊のこうむったダメージが大きかったという点だ。なんだかんだでアヴァン・ルースは彼女達と深い信頼関係を構築しており、その離反による崩壊は並ならぬ衝撃であったようだ。
そしてアヴァンの離反と時を同じくして、アンス・ネイバートもまた姿を消していた。EMXシリーズの開発データなどはそのまま残されていたことから、アヴァンの行動はかなり突発的だったように思える。
とはいえこれだけ時間をかけて判明した事実がこれだけであることに、彼も内心焦っている。闇舞北斗は自室を出るとブリッジに向かった。艦の修理状況も把握しておきたかったし、今後の方針もそろそろ考えねばならない。
だがブリッジにレスターの姿はなかった。ココに尋ねると、艦長室にいるという。
「艦長、よろしいですか?」
「少し待て」
デスクの前でレスターは何やらマップと睨み合っていた。北斗ものぞいてみると、それはエルシオール周辺の宙域の概略図で、ここ数日分の観測データも横に表示されている。
「すまないな。それで、どうした?」
「状況の確認を」
なるほど、とレスターは頷き背後の大型スクリーンに先ほどのマップデータを表示させた。
「ここ数日間で、本艦に接近する移動物体は特に観測されていない。まだ我々はアヴァンからも、皇国軍からも発見されていないと考えられる」
「修理はどうなっていますか? そろそろ移動を開始しなければ危険でしょう」
「そちらに関しては、問題ない。スラスターは起動テストもクリアしたし、クロノ・ドライブ機能復旧の目処も立っている。今日の夜までに出発できるだろう」
「では、これからどうするか……」
行動を起こす準備は整いつつある。
しかしその行動次第では国家反逆罪に該当するだろうし、下手をすれば国賊として銃殺刑も已む無し。そういうレベルで何も知らされていないクルー達を巻き込んでしまうことになる。
それはレスターも北斗も重々承知だ。だからこそ、全てを明かした上で今後の方針を全体に問うべきだということも。
レスターが言うには、すでにエンジェル隊の意見はすべて集まっており、後はクルー達と北斗だけなのだそうだ。タクトは未だ昏睡状態のため、除外するとのこと。
「それで君はどうだ? 闇舞少佐」
「………そうですね。まずアヴァン・ルースを見逃すわけにはいかないでしょう。彼の追跡及び捕縛ないし撃破、これは必須です」
「ふむ」
「そして国家元首たるシヴァ女皇陛下が拘束され、軍部がそれに成り代わろうという事態も見過ごせない。政局の安定化はある意味、アヴァンよりも優先される。したがって我々は第一に陛下の救出と不穏分子の排除。そうして足場を確保した上でアヴァン・ルースの追跡を行うべきかと」
レスターはしばらく吟味した後「追って決定事項を伝える」と言って北斗を部屋から退出させた。北斗もそれに異存はなく、ただ頷き部屋を出て行った。
あとは責任者である彼の領分だ。優秀な軍人という点では北斗もレスターを認めている。この絶望的な状況下で的確な指揮を行えること、それが如何に難しいかを知っているからだ。
帰りがてらトレーニングルームに寄ることにした。この艦にそういった設備があることは資料で知っていたが、実際に目の当たりにするとその充実振りには彼も舌を巻いた。
「練習用の瓦まで置いてあるのか……」
ボクシング用のサンドバッグならともかく、瓦である。いったい誰がこんなものを持ち込んだというのか、正直気になって仕方がない。
「あ、アポロ……じゃなくて、北斗さん」
「ランファ? これからトレーニングか?」
ええ、と答えるランファはサンドバックを一蹴。一瞬浮き上がったかに見えたサンドバックは次の瞬間、ここから5メートルはあろう部屋の壁に叩きつけられていた。
「………荒れているな」
「え、そうですか?」
笑う彼女だったが、その拳も脚も巻かれたテーピングさえもズタボロだった。血さえ滲んでいる。この一週間、どれだけ打ち込み、蹴り込み続けたか……それは想像に難くない。
それだけ、あの一件がもたらした衝撃は大きかったのだろう。
「もうやめておけ」
新しいサンドバック(中から「助けてタハ乱暴!」なる悲鳴が聞こえてくる)をセッティングしようとするランファの右手を、北斗が掴んだ。
「でも……」
「闇雲に体を酷使しても、鍛えたことにはならない。休むことも重要だ」
「でもっ!」
掴まれた手が震える。
「あたしはっ……何も出来なかったんです。アイツを取り押さえようとしたとき、何も出来ないで……」
格闘術ならばエンジェル隊随一といわれ、フォルテですら認めるほどの彼女だ。その実力と自信を根底から打ち砕かれたショックは並みのものではない。それがあの男ならば――――――皆の信頼を獲得していた奴ならばなおのこと。
「あそこでアイツを取り押さえていれば、ヴァニラだって死ななかったかもしれない! そう思うと、悔しくて……だから、強くならなきゃいけないんです。もう負けちゃいけないんです!」
激しく取り乱すランファを、北斗は咄嗟に抱きしめることで押さえた。しかしこの様子だと、もしかしたらここ数日はろくに睡眠もとっていないのかもしれない。よく見れば目の下にクマが出来ていた。
だがそれも仕方ないことだと、北斗は思う。
記録映像とエンジェル隊の証言を合わせれば、あの時のアヴァン・ルースの戦闘能力が人知の及ぶものではないことは明らかだ。それと相対したエンジェル隊の誰もが、ランファと同じ思いに駆られていることは間違いないだろう。
「とにかく今は休むんだ」
「もっと強く、強くならなきゃ……強く……」
自分の腕の中で眠りに落ちるランファを抱き上げ、北斗は彼女の自室に向かった。ちょうど夕食時だったおかげか、途中の通路で誰かと顔を合わせることはなかった。
さすがに眠っている彼女を着替えさせるわけにもいかず、着の身着のままの状態で部屋のベッドに寝かせると、ランファが目を覚ました。とはいえ半分ぐらい眠っているらしく、虚ろな瞳が北斗を見上げていた。
「すまない、起こしたか?」
「………」
「まだ寝たほうがいい」
「………う、ん」
「よし……また後で様子を見に来るから、おとなしくしていろ」
そう言って立ち上がる北斗の手を、ランファの指が掴んだ。
「側に」
「?」
「側に……居て、くれなきゃ………い、や」
そこで言葉は途切れ、ランファの意識は再び眠りに落ちていった。
「……」
北斗は思う。
軍人という立場にある彼女は、ともすれば忘れがちだがまだ成人前の少女にすぎないのだ。
◇
「二番艦、轟沈! 六番艦は応答無し、第一艦橋が潰れています!」
「四番艦がEMX−02と接触!……通信途切れました!」
「三番艦と五番艦が対応中! 駄目です、敵の機動力が高くこちらの攻撃がまったく命中しません!」
「ああっ! よ…四番艦が!」
エルシオール捜索の任を受けた第三艦隊、その司令官は道中でよもやこんな化け物と遭遇するとは予想だにしていなかった。ましてEMX-02は友軍(と称すべきではないが)であるエルシオールの搭載機であったはず。それに攻撃を受け、こうして艦隊壊滅の危機に晒されていることはまさに悪夢としか言いようがない。
しかも戦闘を開始してから十分と経っていない。その事実は彼とその部下達を驚かせ、恐怖させた。彼らの胸の内―――――この戦況に対する思いは一つだ。
『エオニアやヴァル・ファスクの時の方がよっぽどマシだ!』
過去に交戦した経験のある二つの勢力には、まだこちらも成す術は在った。最終的には物量の差で押し切られても、まだこちらの攻撃も通用していたし、その光景は戦闘と呼べるものだった。
だがこれは違う。これでは一方的な虐殺だ。
抗う事すら叶わず、断末魔と共に宇宙の塵となることしか許されない。
「三番艦、沈黙!」
「第一、第二副砲大破! 対空防御、稼働率が60%を切りました!」
「おのれ……ぇっ!」
もはやこの悪夢から逃れる術はない。
このまま奴に頭から齧られ、激痛にのた打ち回りながら死を迎える。
そんなイメージが、その場にいた全員の脳裏に過ぎった。
それが現実。
アヴァン・ルースという、
EMX-02:COSMOという、
リフレジェント・クリスタルという化け物を相手にした者たちの末路だった。
・
・
・
それから程なくして、第三艦隊の音信不通は皇国軍総司令部に知らされた。
最後に第三艦隊が送信してきた極長距離通信に記されていた戦闘記録から、総司令部はエルシオールに国家反逆罪を適応し、全軍にその鹵獲を命じた。
◇
暗澹とした意識の中に、僅かな光が差し込む。
そんな感覚に刺激されて、ランファはまだ気だるさを感じる体を起こした。まだ疲れが取れていないのだろう、頭の重さに視界が揺らぐ。
「あれ?」
自分の右手はしっかりと、大きな誰かの手を握っていた。太すぎず細すぎず、しかし屈強な男の手だ。
「やっと起きたか……まあ、朝の七時前なら健康的ということで良しとしよう」
「あう、あうあうあう……」
脳細胞が爆発的なスピードで活性化し、ぼんやりとしていた思考が物凄い勢いで回転をし始めた。車で言うなら停止状態からいきなりトップギアを通り越してターボである。
「しかし、おかげでシャワーを浴び損ねた。君の部屋のを借りてもいいか?」
「あうあう、あうあうあうあうあうあう……!」
「ああ、その前に手を放してもらえるとありがたいんだがな……聞いているかランファ?」
「あうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあううううううっ!」
紅蓮に染まった顔全体やら、頭やら、耳の穴から高温のスチームを噴き出してランファはベッドから飛び上がった。その勢いで天井に激突し、さらに加速してベッドに落下する。北斗が咄嗟に飛び退くと、ベッドはランファの熱と落下の衝撃でめちゃくちゃに壊れて熔けてしまった。
「ほ、北斗さん!? な、なな、何でここにいるんですか!?」
「………」
「いや、でも、まさかやっぱり!?」
「………」
「あたし、あたし……越えてはいけない一線を―――――はぶぶっ!?」
そこでようやく北斗の鋭い空手チョップが入ってやっとランファは停止した。
「誤解されそうな単語を連発しながら取り乱すな。君が側に居ろと言って、俺の手を掴んで一晩中放さなかっただけだ」
「ああ、そういえば」
一気にクールダウンして納得する彼女を見て、北斗は物凄く否定したいデジャビュを感じていた。彼にとってそれは不幸と絶望と破壊をもたらす前兆なのだ。
そして案の定、唐突に現れたミルフィーユ桜葉が……
「らんららん、らんららん♪ ランファ〜、起きた〜? あれ、北斗さんも一緒なんですか? わぁ〜、手を繋いで仲良しさんですね! うんうん、お似合いですよ〜。あ、ミント〜。あのねランファと北斗さんが手を繋いで―――――」
「わざわざ通信機使って報告しなくていい!」
「わざわざ通信機使って報告しなくていい!」
北斗が一喝し、ランファが飛び蹴りを頸椎(人体の急所。死ねます)にヒットさせつつ通信機であるクロノクリスタルをぶんどった。その目に留まらぬ超高速コンビネーションは華麗としか言いようのないものである。
「わー、びっくりした〜」
頸椎に飛び蹴りを喰らって平然と起き上がるミルフィーユの生命力も恐ろしい限りだが……ここはあえて気にしないでおく。
「それでミルフィーユ、いったい何の用だ?」
壊れたベッドを直しながら北斗が尋ねる。
「はい。ブリッジから午前七時までにクルー全員に自室待機命令が出たんです。私はそれを言いに来たんですよ」
「自室待機? クルー全員にか?」
「そうなんです。何なんでしょうね?」
その時、おなじみのアラームと共に艦内放送が始まった。通常なら戦闘配置などの指示を知らせるために使用されるものだ。
『早朝にすまない。私は皇国宇宙軍特務防衛戦隊、旗艦エルシオール艦長、レスター・クールダラス中佐だ。現在療養中のマイヤーズ戦隊長に代わり、これより本艦の採る今後の行動スケジュールを発表する』
「こ、これって……」
「わあ〜」
「どうやら答えを出したようだな」
だが一つ間違えれば大反乱になる。下手をすればエルシオールが瓦解してしまうだろう。
『我々の第一目標は皇国中枢を掌握した軍事政権の打倒及び政府機能の回復。これには女皇陛下の救出も含まれる。第二目標は本艦より離反したアヴァン・ルースの追跡及び確保。状況に応じて実力行使も許可する』
「なるほど、まず足場を確保するというわけか」
悠長なことを言っているようにも聞こえるが、自分達の後ろ盾を確保することはアヴァンの追跡に専念するには必要だ。
しかしこの様な切り出し方をするということは、全てのクルーに現在の情勢をすべて教えたのだろう。軍の指揮官としてはかなり大胆な(場合によっては無謀な)判断だ。
だが総員の了承を得たからこそ、こうして堂々といられる。
『第一目標達成に際し、その軸となるのは陛下の救出だ。女皇救出作戦はエンジェル隊などの機甲戦力を中心に実施する。作戦名は『リカバームーン』。各セクションへの詳細なスケジュール等は追って伝える。
また本作戦はすでに発動している」
「陛下……無事だといいですね」
ミルフィーユがつぶやく。一国家の元首である以上、身命の安全は確保されているはずだが……
『それに伴いまず本星到達までのスケジュールを伝える。本日○九○○をもって本艦は現宙域より発進、針路をトランスバール本星に向ける。〇九一五、周辺の安全を確保次第、クロノ・ドライブに突入。ドライブアウトは6時間後の一五一五を予定している。この間に詳細なブリーフィングを行う』
「それでも、ここから本星までは結構時間かかるわよね……」
本星とのリアルタイム通信が不可能なほど離れているのだ。どんなに早くても一月はかかるだろう。
『皇国の未来は我々の双肩にかかっている。これ以上民衆に軍の都合で不安定な生活を強いることは許されない。まして皇国に軍事国家の道を歩ませるなど以ての外だ。必ず阻止せよ! 各員の尽力に期待する! 以上だ』
◇
「残存艦隊の殲滅を確認。残骸でレーダーが使えない。離脱した艦艇はあるか?」
『交戦前に確認した敵ユニット数と、撃破数は一致。でも、極長距離通信をおこなった痕跡が見受けられる』
「了解だ。しかし第三艦隊どころか第四艦隊まで投入していたとはね」
『うん……よほど欲しいのか、消してしまいたいのか』
モニターの向こうで答えるユキの表情は明るくない。
総司令部はエルシオールの探索任務に艦隊を二つも投入してきたのだ。もしこのままエルシオールと接触していれば、考え難いとはいえ、彼らは呆気なく拿捕されてしまっていた可能性もある。
ましてこの大戦力である。あの男がいるとはいえ、力ずくで突破すればタダでは済まないだろう。
「まあ、機体の慣らしにはちょうどよかった。帰艦するぞ」
『了解。メロンを用意しておくね』
「冷蔵庫の上から三段目、左から二段目の奴が食べごろだ」
『……』
ただでさえ暗かったユキの顔がますます曇ってしまった。何がいけなかったのか首をひねりながら、アヴァンはコスモを母艦へ引き返させる。
とはいえ向こうも艦隊を二つ失った以上、そうそう手は出せないはずだ。仮に手を出せたところで動かせる戦力もたかが知れているし、それぐらいなら現状のエルシオールでも対処できる。
それにこっちも本星に向かうのだから、横槍を入れてやることも出来ないだろうし。
「もう半月過ぎた。そろそろ急がないとな」
何よりこれ以上時間を浪費するわけにはいかない。この世界に残された猶予は残り少ないのだから……
・
・
・
アヴァンの離反から一月が過ぎ、白き月ではついに皇国軍による武装占拠が始まった。軍の行動開始から一時間で基地施設のある第1層はすでに彼らの占領下にあり、技術研究・保管セクションのある第2層も時間の問題だった。
だがここまでスムーズに進んでいるのは、施設内に白き月のスタッフ達の姿が無かったからだ。当然抵抗運動などあるはずも無く、部隊の面々も拍子抜けした様子だった。
だがここから先―――――G Planの要となっている第3層とアーカイブ・テリトリーへ続くゲートだけは堅く閉ざされている。表からロックシステムへのアクセス回線は全て遮断されており、内側から解除するか破壊するか、選択肢は大きく狭められていた。
何せ第3層以下は第1、2層と違い完全に独立した構造になっている。エアダクトなどから侵入しようにも、途中で設置された各種トラップによって阻まれてしまう。解除しようにも電力供給は全て中からで、こちらも強引に突破する以外ない。しかもエアダクトの数が非常に少なく、計三つ。内一つは完全に充填封鎖されてしまいアウト。
この状況に制圧部隊は一歩も先に進めなくなってしまった。
「それで、首尾はどうなのだ? ルフト」
モニターから目を離したシヴァが尋ねた。ここは第3層に特別に用意されたシヴァ用の客室である。各種モニターやコンソールによって白き月内部の状況を瞬時に把握できるようになっている。
彼女の前で老将軍は眉をひそめた。
「あまり思わしくありませんな。ようやくエンジン出力が予定の六割に達したばかりで、戦闘にはまだ耐えられんでしょう」
「機体の組み上げは済んでおるのだろう?」
「そちらは抜かりなく。改良型のHSTLも搭載済みですな。ただ使用可能な兵装はまだ用意できておりませんぞ。何せ人員をエンジン調整に取られておりますゆえ」
「奴さえ来れば何とかなるというに……」
エルシオールは依然として消息不明。いつの間にやら国家反逆罪でお尋ね者にされている。いくら完全封鎖されていてもこれぐらいの情報は手に入るのだ。
何より今、白き月の要員すべてを投じて造り上げようとしているのは、ようやく完成する『真の象徴』である。そしてそれはタクト・マイヤーズがいて初めて真価を発揮するのだ。
『シヴァ、ルフト! ちょっと零番ハンガーまで来なさい!』
モニター越しに二人を強い口調で呼びつけるのはノアだ。言われるままに駆けつけると、ノアどころかシャトヤーンまでもがその姿を見せていた。そして彼女たちの視線の先にあるものは、未だ目覚めぬ『銀河天使』である。
「何があったというのだ?」
「あったも何も、ねえ」
「今しがたエンジンが起動したのです、ひとりでに。それも今まで以上の出力を放出、維持しています」
シャトヤーンの言葉にシヴァは何かを確信したように頷く。
「奴だ」
「え?」
「奴が、マイヤーズが帰ってきたのだ。そうに違いあるまい」
偶然か必然か、駆け寄ってきたスタッフもまた同じ報せを持っていた。
それを聞く一同の前で一際高く、機械仕掛けの天使が咆哮を放つ。
まるでこれから始まる戦いに嘆くかのように……
まるで遠く離れた愛しい片割れを呼ぶかのように……
◇
『……ト…ん……』
俺は、もう駄目だ。
たった、たった一人さえ守れなかった俺には……もう皆に合わせる顔なんかない。まして、ヴァニラにどんな顔をすればいいって言うんだ。
『タク…さ………』
誰もが仕方ないって言う。
誰もがよくやったって言う。
誰もが頑張れって言う。
けど俺は何をできたんだ? 仲間に守られながら戦って、変な意地を張ってパイロットなんかやってみて、挙句アヴァンには成す術も無く負けて、ヴァニラを死なせてしまった。
正直、このまま何も無かったように生きることは苦痛だし、不可能だと思う。だからといって自分で命を絶つことはできない。こんな俺に「生きろ」と言ってくれたヴァニラのためにも……
でも俺に何が出来るだろう。アヴァンと決着を付けようにも、その技量の差は歴然としている。
いや、そういう理屈はもう関係ないんだ。
『タクトさん……』
だからせめて、けじめをつけよう。
現実に甘えていた自分に。
迷っていた心に。
そして……巻き込んでしまった全ての命に。
ブレーブ・クロックスの生き様が今になって蘇る。その本当の意味を今さらながらに理解した。
何を捨て、何を拾うか。その過程で生じるあらゆる障害や軋轢。そして、それを成し遂げるだけの覚悟の重さ……
だから俺はもう一度乗り越えなければ。
「タクトさん……!? まだ起きては……!」
起き上がる彼をちとせが押しとどめた。見回せばそこは医務室のベッドで、傍らにいるのはちとせとケーラ先生だ。
「この土壇場で目を覚ますなんて、さすがは司令官ね」
「ど……土壇場?」
もう見慣れた紫の髪をかき上げ、タクトが聞き返した。
「今エルシオールは本星の第二防衛ラインにいます」
「え!? もうそこまで帰ってきていたのか!」
「はい。タクトさんはあの後ずっと昏睡状態で、もう一ヶ月近くになります」
「そうか……それで?」
自分が今までずっと眠っていたという事実に半ば驚きながらも、ちとせに先を促す。彼女から現在に至るまでの話を一通り聞き終えると、タクトは眠っていたブランクなど何も無かったかのように立ち上がった。
「た、大佐!?」
「これから最終ブリーフィングなんだろ? 俺も行く」
「しかし大佐! まだその体では……!」
「ヴァニラが生かしてくれた命だ、そう簡単にくたばるものか」
そう言って医務室を出ようとするタクトをケーラが呼び止めた。
「はい?」
「今軍服をお持ちしますから、それまで待っていて下さい。さすがにその格好ではブリーフィングには出れませんよ?」
改めて自分の体を見下ろせば、
「あー、いや、なるほど。本調子にはまだ遠いかな」
パンツ一丁だったりするのである。溜息をつくケーラ先生の隣で赤面していたちとせは、そそくさと医務室を退出していった。
◇
「まったく……おいしい登場とはこういうことを言うんだな。 え、タクト?」
「困ったもんだよ。まあ、だからあたしらの指揮官が務まるってもんだけど」
レスターとフォルテに半ば呆れられながらもブリッジに現れたタクトに、拍手が巻き起こる。一時期は回復の見込みも薄いと言われていただけあって、途中顔を合わせたクルーの中に涙ぐむ者もいたぐらいだ。
まあ現に、ミルフィーユは大泣きしているのだが。
「よがっだぁぁぁぁぁ、よがっだよぉおぉぉぉぉランファァァァァ」
「はいはい、分かったから……あたしの服で鼻かむな!」
「びぃぃぃぃぃんっ」
「あ、あんたはっ! あんたって子はぁぁぁっ!」
どこかの主人公になりそこなった反抗期の少年みたいにブチ切れるランファ。感動の場面が台無しどころか、これではいつまでたってもブリーフィングを始められないではないか。
これにはレスターも困った様子だったが、そこへ北斗が発言を求めて挙手をした。
「ど、どうした?」
「ブリーフィングの前に、大佐に自己紹介を」
「ああ、まだだったな。許可する」
「はい」
自分の前に立ち敬礼する北斗を見上げるタクト。実はタクトよりも身長の高い北斗なのだった。
「新たに配属になりました闇舞北斗少佐であります」
「ああ、堅苦しいのはいいから普通にタクトって呼んでくれ。よろしく北斗」
「了解です。しかしタクトに北斗とは……」
「偶然かな。あははは」
握手と共に笑いあう二人。参戦をお願いした最大の理由は名前が似ているからなのか、ゆきっぷう!?
「では、最終ブリーフィングを始めるぞ」
レスターが改めてメインスクリーンに視線を向けると、一同がそれに倣った。先ほどまでの浮かれた雰囲気は微塵も無い。
「現在エルシオールは第二防衛ライン上で静止している。これに対しすでに本星防衛艦隊が展開を始めており、その中にはEMXの正式採用型と思しき機体も確認されている」
『!?』
無理もあるまい。ヴァル・ファスク戦役から三ヶ月あまりで実戦投入とは、かなり早い段階から開発が始まっていなければまず不可能なことだ。
だが北斗だけは別段驚いた様子も無い。
「EMS‐01なら戦役終結から一ヶ月の時点で試験的ではあったが、すでに実戦投入は始まっていた。試験部隊の報告書を見る限りでは、かなりの傑作機らしい」
「知っているんですか!?」
「もちろんだ」
さらに驚くちとせに北斗は軽くウインクしてみせる。無論、胸がときめいたのはちとせではなくランファだったが。
「コードネームは『ヘクトール』だ。最も今回は艦隊支援が目的だからレールキャノンと対艦ミサイルが主兵装と推測できる。直撃すればエルシオールも危険な威力だ。ただし機動力は紋章機とは比べるべくもない。射程内に入りさえしなければ何とかなるだろう」
「というわけだ。従って今回は作戦を四段階に分ける」
言ってレスターはスクリーンの映像を切り替えさせた。白き月を中心にした戦力配置図が表示される。
「作戦第一段階では、闇舞少佐とトリックマスターを護衛につけたエルシオールが敵陣に正面から突入を試みる。だがこれは無論陽動だ。少佐とミントは可能な限り敵戦力をこちらへ引き付けろ」
「了解だ」
「了解ですわ」
ミントと北斗が頷く。だがこれはかなり危険な任務だ。たった二機でエルシオールという巨大な目標の護衛はカバーしきれないだろう。
「陽動が成功し、白き月への突入路が確認され次第、作戦は第二段階に移行する。敵陣突入前に予め出撃し、月の裏側へ回りこんでいたカンフーファイターが別方向から敵陣に突入、かく乱を行う。同時に残り全ての紋章機は出撃し、白き月へ突入するエルシオールを援護せよ」
「了解です!」
「分かったわ!」
「任せな!」
「了解しました!」
これで逆にエルシオールは完全に敵艦隊に包囲されてしまう。とはいえ稼動状態にあるすべての紋章機と北斗が防衛に当たることである程度安心は出来る。そうなると第一段階でどこまでエルシオールの損害を押さえられるかがポイントになるだろう。
「エルシオールが白き月のドッグに突入し、接舷した時点で第三段階に移行。マイヤーズ及び俺が指揮を取るクルー臨時編成のAチーム、Bチームの歩兵部隊が上陸、陛下の探索及び救出を行う。状況次第でフォルテとランファはこちらを優先。ここで時間を食うと後が厳しくなるぞ」
『…………』
「この間、エルシオールの指揮はアルモ副長に一任する」
「りょ、了解!」
まさか艦長であるレスターまで戦闘に出るとは、誰も予想していなかった。とはいえ部隊を指揮できる人員は限られている以上、仕方が無い。
「説明を続けるぞ。救出した陛下がエルシオールに乗艦したら作戦は第四段階だ。これは二つにプランがあり、まずプランAから説明する。プランAは広域回線で陛下による説得を試みる。成功すれば停戦、エルシオールはそのまま白き月に駐留し、以後警戒態勢を継続。敵勢力の対応に備える」
「じゃあ、説得に失敗したらどうなるんだい?」
「それがプランBだ。そう焦るな」
レスターに茶化されてフォルテも思わず口をつぐんだ。
「説得に失敗、若しくは陛下がエルシオールに乗艦できる状況を確保できなかった場合、第四段階プランBに移行する。エルシオールに全戦力を集結させ、徹底抗戦。陛下が乗艦できなかった場合は、この間も乗艦を試みろ。手段は問わない、絶対に諦めるな」
『了解!』
「最後に本作戦を実行する上で一つ、注意事項がある」
『?』
「敵対勢力の艦艇は可能な限り無力化に留めろ。彼らは一時的に相対するだけで、本来は友軍艦だ。むやみに撃沈し、被害を拡大することは認められない。歩兵部隊の不必要な殺傷も同様だ」
確かに作戦後のことを考えれば重要なことだ。いくら女皇のため、国のためと言ったところで、友軍を撃沈したりすれば反感を買うのは当然だろう。それに加えてこれ以上の皇国軍の戦力低下は望ましくない。
「ただしこれは、あくまで可能ならばの話だ。戦況によっては止むを得ない場合もある。それは各自の判断に任せる。質問はあるか?」
「はい」
手を挙げたのはミントだった。
「北斗さんの機体について説明がありませんわ。あの一件以降、艦首格納庫へは機密保持の名目で立ち入りは禁じられておりましたし」
「それについては俺から説明しよう」
北斗の言葉に全員が固唾を飲んだ。
彼の機体に関しては様々な憶測が飛び交っているのだ。曰く、『白い四枚の翼が付いたロボット』だとか、『全長200メートルの対異星人用決戦兵器』だとか、『どんなに派手に壊れても修理費が10』だとか。
だが一番ひどいのは『大型のヨーヨーとコマを装備し、電磁力を操り、頭部からビームや冷凍光線や硫酸の竜巻を放ち、ハイオク1?で三時間動き、ビーチルームの海を割って発進するスーパーメカ』だろう。
「俺の機体は……」
『……機体は?』
緊張の一瞬だ。皆の視線が北斗の口元に集まる。
「G Planの三号機。EMX‐03、通称フィアネスだ」
『がくっ』
「何故そんなにがっかりするんだ?……まあいい、俺の機体は紋章機の特殊兵装を再現するコンセプトで開発されていてな。中距離から遠距離の射撃戦を得意としている」
それには全員が首をひねった。紋章機の特殊兵装といえばハーヴェスターのリペアウェーブ機能や、トリックマスターのフライヤー、カンフーファイターのアンカークローといったところか。
「あとは見てのお楽しみだ。少なくともミントとは相性がいいと思うぞ」
「あら、わたくしと? それは楽しみですわね」
不意に警報が鳴り響いた。同時にココが矢継ぎ早に報告を始める。
「艦長! 最外周の敵艦隊がこちらに接近中! 数は戦艦3、巡洋艦6、ヘクトール12機! さらに白き月の向こう側から増援艦隊多数!」
ここに来て増援とは、相手は各駐留艦隊から戦力を抽出しているのだろうか。もしそうなら各方面の守りが手薄になってしまうし、第二、第三のブレーブ・クロックスを生み出す要因にもなりかねない。
そして何より、ここの突破が難しくなる。
「いまさら引き返すことは出来んぞ! 総員第一種戦闘配置! 全砲門開け! 機甲部隊は発進準備だ! 歩兵部隊は即応体勢!」
『了解!』
ブリッジから飛び出していくエンジェル隊。その中でレスターは親友を呼び止めた。
「タクト。お前は歩兵部隊の陣頭指揮を執れ。俺は直前まで顔は出せんからな」
「了解、了解。レスターもすっかり指揮官が板に付いちゃって」
「お前がいつまでも寝ているからだ」
「はいはい」
最後に互いに、にやりと口元に笑みを浮かべてそれぞれの場所に戻っていく。この戦いは通過点に過ぎないのだと、再認識したかのようでもあった。
◇
『第一種戦闘配置が発令されました。作業要員以外は至急、格納庫より対比して下さい。繰り返します、第一種戦闘配置が―――――』
宇宙服を着込んだ整備員達が慌しく動き回る中、北斗は落ち着いた様子で自分のコックピットに滑り込んだ。紋章機と同じ全天周モニターであるそのシートに、北斗は体を沈めていく。
心地良ささえ感じるほどの一体感。自分の意識が機体に吸い込まれていくような感覚を覚えながら、一度目を閉じ、再び開く。
「敵が近いな……」
北斗は機体のシステムを立ち上げると、そう呟いた。
『リニアカタパルト、準備よし! システム・オールグリーン! フィアネス、発進位置へ!』
「了解だ」
言われるままに機体をカタパルトに固定する。油圧系が駆動し、その振動が北斗にも伝わってきた。発進が近いことを感じる。
「状況はどうだ?」
『作戦通りカンフーファイターは別ルートで進行中。展開中の敵戦力はこちらの予測のプラス36%です』
「かなり厳しいな」
エルシオールでの初陣がよもやこれほどの戦いになるとは思っていなかった。だが、だからこそ彼の闘志は燃え盛る。戦闘者としての血が騒ぐのだ。
『敵前衛との距離が2万を切りました!』
「よし」
『進路クリア! ご武運を!』
「闇舞北斗、EMX‐03フィアネス……発進する!」
◇
「君達は……!」
歩兵部隊の待機室として宛がわれたロビーで、北斗は意外な面子と再会していた。それはいったい誰であろう、他ならぬヴァニラ親衛隊の面々であった。
「大佐! お体はよろしいのですか?」
「ああ、おかげさまでね……すまない、俺のもっと力があれば」
俯くタクトに親衛隊たちは首を横に振った。
「謝らないでください、大佐!」
「あの時何か出来ていればと……我々一同、大佐と同じ思いです!」
「そうです! 我々こそ、親衛隊の役目を果たせなかったこと、悔やんでも悔やみきれませぬ!」
「ゆえに我々はこうして戦いに臨むのです! ヴァニラ様が残した世界を守るために! この胸に抱く信念に恥じぬよう、死力を尽くすのです!」
「それは大佐も同じはずです! だからこそ、今このときに目覚められたのでしょう!」
「みんな……ありがとう………ありがとう」
がしっ、と肩を組み、涙を流し合う男達。
同じ少女を愛した彼らは今、気高き決意の元、戦友になった。もはやその行く先を阻むものは何もありはしないだろう。
『リカバームーン、フェイズ1に移行します! 戦闘の衝撃に備えて下さい! 繰り返します! リカバームーン、フェイズ1に――――――』
戦いが始まった。
これは結末に至るまでの小さな通過点に過ぎない。だがしかし、立ちふさがる壁は全身全霊を以ってしなければ乗り越えることなど、できはしない。
◇
困ったことに、どうやら相手はEMXシリーズとの交戦を想定していたらしい。群がるヘクトールたちは皆、レーザーライフルとシールドで武装しており、レールキャノンなどの大型兵器装備時に比べ小回りが利くようになっていた。
ようするにちょこまかと飛び回るのである。おかげでエルシオールの対空防御は思ったように効果を挙げていない。
「とはいえ!」
北斗はフィアネスに持たせた巨大な薙刀『ヘリオン・グレイブ』を横に薙いだ。戦艦の装甲すらバターのように切り裂くその一撃を受け、三機のヘクトールの頭部が宙に舞った。
「こうも近接戦闘を知らぬのではな!」
さらに接近してくる二機のヘクトールを身の丈ほどもあるグリップで弾き飛ばす。バランサーの調整が今一歩だったのか、なかなか姿勢を回復できない獲物に北斗はヘリオン・グレイブの切っ先を向ける。
「失望の天使の前に跪け、機械人形ども!」
刹那、グリップに内蔵されていたレーザー砲が火を噴き、一瞬のうちに二体のEMを粉砕した。
知る人ぞ知る、『失望』の天使。その名を冠するグレイブは、戦場において死神の鎌と同位であった。
フィアネスのシルエットは今までの二機とは違う、異様なものだった。頭部のデザインこそ似てはいるが、両肩に搭載されたカノン砲、背部には大型ブースターパック。各部の装甲はギャラクシーよりも強固なもので、何より携えるヘリオン・グレイブが並ならぬ威圧感を与えていた。
『北斗さん! エルシオールにミサイル多数ですわ!』
「こちらでカバーする! 君はそのまま艦隊をかく乱しろ!」
『了解しましたわ!』
エルシオールへと飛翔する誘導弾、その数およそ60基余り。
だがこの程度、と北斗は動じない。
「忌々しい名前だ……だが、今は頼りにさせてもらうぞ」
フィアネスの両肩に装備されたレーザーカノン砲が機体から分離し、独自の推進機関でまるで意思を持ったかのように宇宙の闇を走る。これこそ、トリックマスターのフライヤーのシステムを擬似的に再現した半自律制御兵装。
「ヒュペリオン・ランチャー、一番基、二番基、射出!」
宙を縦横無尽に駆け抜け、放射される拡散レーザーがミサイルを悉く撃墜していく。爆発が重なり、重厚なファンファーレを奏でた。
炸裂する閃光は遥か後方の艦隊でさえ視認できた。
これぞまさに、戦の狼煙である。
孤高な戦士達の、勝利への叫びであった……
筆者たちの必死な解説コーナー(第二回 孤独なマンマミーヤ編)
ゆきっぷう「ぜぇぜぇ……第三章二節……ぜぇ…ぜぇ…お読みいただき……ぜぇ、ぜぇ……ありがとう、ございますぅ……ゲホゲホッ」
北斗「大丈夫か? いつもどおり死にそうだな」
ゆきっぷう「いつもどおり、言うな……マブラヴ・リフレジェンスと同時進行で死にかけとるんじゃい」
北斗「ところで今回は、タハ乱暴は来ないのか?」
ゆきっぷう「毎回呼んでいたらあいつの体力も持たないと思うぞ」
北斗「まあ、構わんが。それでようやく前回危うく……というかバレてしまった俺の搭乗機について解説してくれるんだな?」
ゆきっぷう「YES……と言いたい所だが、俺はもう気力の限界だ。あとはアヴァンに任せたぁ………あぁ、千影が見えるぅぅぅ………」
北斗「最近輪をかけて意味不明だな」
アヴァン「仕方あるまい。コイツにも人並みの悩みがあるらしい。信じられんことだが」
北斗「とにかく解説しろ。あんまり引っ張るな」
アヴァン「へいへい。まずは画像だな……
相変わらず下手くそだよ。っていうか描いたのが確か三年前だっけかな? 当時のゆきっぷう曰く、『まさか本編に登場するまでこんなに時間がかかるとは思わなかった』らしいよ」
北斗「無計画だな。だからこそ、お前みたいな『あんぽんたん』キャラが生まれたのだろうが……」
アヴァン「失礼なやつめ。
さてこのフィアネスはG Planによって開発されたEMXシリーズの三号機。01と02をアシストし、制空権の確保と遠距離砲撃による面制圧を目的としているが、単独での戦闘能力も高い。
機体自体はEMX‐02と同時期に開発が始まっていたが、各兵装及び推進系を起動させるだけの動力を確保できなかったこと、特殊兵装『ヒュペリオン・ランチャー』『エンジェルスレイブ』に対応できるパイロットがいなかったことにより建造が大幅に遅れていた。ヴァル・ファスク戦役後、ルフトの命により皇国宇宙軍第二方面・第零番艦隊によって機体は接収され行方知れずになっていた。この時、第零番艦隊には白き月の技術者が多数合流しており、彼らによって完成されることになる。その後、ルフトの特命を受けた闇舞北斗が受領し、搭乗機としている」
北斗「ルフト大臣と烏丸提督の先見の明は素晴らしい。改めて感謝せねば」
アヴァン「本機最大の特徴はその固定武装にある。高エネルギーライフルが組み込まれた近接戦闘用実刃薙刀『ヘリオン・グレイブ』、両肩に搭載された有線操作によってオールレンジ可能なレーザーカノン砲『ヒュペリオン・ランチャー』、胸部の大出力電磁パルス加速砲『ブレス・オブ・ゼウス』、対空制圧用オールレンジビット『エンジェルスレイブ』と、かなり特殊な仕様になっている。
特にエンジェルスレイブはトリックマスターの『フライヤー』を小型化した試作品であるが、パイロットの技量によってはオリジナルと同レベルの戦果を挙げることも理論上可能だ」
北斗「ミントと相性がいい、というのはこういうことだったのだ」
アヴァン「また機体装甲のほとんどは『ブレス・オブ・ゼウス』の発射に耐えるために新素材『超々エンゼル鋼』を採用しており、対熱対衝撃ともに高い防御力を発揮する。この金属は『ヘリオン・グレイブ』にも使われており、戦艦の高出力ビームすら弾き返すことが出来る。
ヒュペリオン・ランチャーはコンピューターによる半自動制御によってフライヤーを一般兵士でも運用可能とする目的に開発されたが、まだ試験段階のシステムを急遽搭載したため、まだ人を選ぶ代物になっている。
これらの武装は、コスモと同じくRCR(リフレジェント・クリスタル・レプリカ)ジェネレーターを採用していることによって初めて運用が可能となるんだが、肝心のクリスタルの出自は不明ってことでヨロシク!」
北斗「RCRは滅多に手に入らないという設定だしな」
アヴァン「もともと本機とコスモはユウとユキが構築した基礎設計案を基にしており、本来フィアネスは俺の搭乗を想定していた。しかしヴァル・ファスク戦役にロールアウトが間に合わず、仕方なく完成間近だったコスモに搭乗し出撃したのだ。逆にコスモは北斗の搭乗を想定していた機体で、こちらもパイロットの想定と噛み合わない組み合わせとなっている。
ちなみに武装の名称にいくつか神々の名前を使っているのは、神を敵視している北斗に対する、俺のささやかな嫌がらせだ。えっへん!」
北斗「威張るな。というか、お前の差し金か!」
アヴァン「ふふん。だがヘリオン・グレイブは気に入っただろ? あの男の息子ならNoとは言えないはずだ」
北斗「ぬぅっ……(汗) だが、ヘリオンとはまさか、やっぱり……あれなのか?」
アヴァン「ああ、そうだ。知る人ぞ知る恐怖の戦闘シミュレーションゲームの、当初の立ち絵は一般キャラの使い回しだった……しかし今はメインヒロインクラスに昇格(ここ重要)! 『失望』の天使(タハ乱暴の超推奨)だ。気になった人はタハ乱暴さんにメールすると熱く語ってくれるかもよ?(それはナイ)」
北斗「では原作のあんな技やこんな技は使えないのか?」
アヴァン「使いたきゃ、自分の作品で使えよ……こっちで使ったら、今まで積み重ねてきた(と思しき)ゆきっぷうの苦労(あるかどうかも分からない)が無駄になっちまう(でも本当はそうなればいいと願っているアヴァン)」
北斗「たくさんカッコが付いて本心丸見えだが?」
アヴァン「気にすんな」
北斗「そうか。ところで」
アヴァン「ん?」
北斗「ヴァニラはどうするんだ。まさかこのまま回想シーンしか登場しないということはないだろうな?」
アヴァン「ゆきっぷうなら充分ありえるぞ」
北斗「思い出とは斯くも悲しきものか……それで読者が納得すると思っているのか!? メインヒロインだろう?」
アヴァン「さあな。だがプロットには俺がタクトとヴァニラの結婚披露宴をコーディネートするというシナリオがあったらしい」
北斗「嘘だな」
アヴァン「第二章番外編は最初、そういう話だったそうだ。それが紆余曲折を経てあんなものになってしまった……」
北斗「……すまんな。ウチの馬鹿親が横槍を入れよってからに。しかし、お前にコーディネートなど出来るのか?」
アヴァン「資格なら持っているぞ。なんなら貴様の披露宴も取り仕切ってやろうか?」
北斗「やめてくれ。お前に取り仕切られたら将来が不安になる。まあ、それ以前に結婚は当分先だろうし、な」
ランファ「その時はぜひあたしを!」
アヴァン・北斗「「ウヲッ!?」」
ミルフィーユ「じゃあわたしがお料理作りますね!」
アヴァン・北斗「「ウヲヲッ!?」」
ミント「会場はわたくしが貸して差し上げますわ」
アヴァン・北斗「「ウヲヲヲッ!?」」
フォルテ「飾りつけとかは任せな」
アヴァン・北斗「「ウヲヲヲヲッ!?」」
ちとせ「会計処理なら、大丈夫です」
ヴァニラ(霊体)「胃薬、持ってきました」
アヴァン・北斗「「ウヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!? 何かとり憑いてるッ!?」」
ちとせ「え? きゃ、きゃあああああああっ!?」
ヴァニラ(霊体)「待ってください、ちとせさん」
タクト「ははは、これでランファの将来も安心だな!」
アヴァン(どうするよ? けっこうマジな話になってきてるぞ)
北斗(ぬう、いかんな。このままではまずい)
アヴァン(逃げるか?)
北斗(逃げるか)
アヴァン(では皆さん。また次回お会いしましょう)
北斗(今回はこういう形で申し訳ないですが、失礼します。ではまた!)
アヴァン(………)
北斗(………)
ランファ「北斗さ〜ん! さあ、熱いベーゼを交わしましょ……ってあれ? 北斗さん? 北斗さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
・
・
・
アウトロー『フォルテさん……僕は……そのぉ』(赤面)
フォルテ「心配いらないよ。披露宴はキチッと成功させてやるからね」
アウトロー『そうじゃなくて……えっとぉ……』(激しく赤面)
フォルテ「はっはっは、何照れてるんだい! あたしとあんたはずっと一緒だろ?」
アウトロー『は、はイッ!』(超絶的に赤面)
北斗(やはり逃げるのはまずかったか……)
アヴァン(これが子供の成長って奴か。いいね、うんうん)←チョット違う
とんでもない事態が続々と。
美姫 「ヴァニラもそうだけれど、シヴァ陛下とかも大変だな」
まあ、何とか無事みたいだけれど。
しかし、これからどうなっていくのだろうか。
美姫 「アヴァンの動向も気になるわね」
いやー、一体どうなっていくんだろう。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。