トランスバール本星 外周第二防衛ライン上

第一級危険指定遺跡『黒き月』

 

 エオニアの反乱終結後、黒き月はクロノ・ブレイクキャノンの一撃によって機能を停止した。以降、何人たりとも近づけない、軍の厳重な管理態勢が敷かれていた。当然その中は無人のはずなのだが―――――――

 

「よいこら……せっ、と」

 

 床のエアダクトの金網を外し、一人の少女がその穴からひょっこりと顔を出した。短めに切り揃えられた蒼い髪についた埃を払い落として穴から出る。くるっとした丸い眼をきょろきょろと動かして安全を確認すると、今しがた自分が出てきた穴に向かって問いかけた。

 

「ユキ〜、まだ〜?」

「ユウ、もうちょっと待って………」

 

 返答から五分、ようやく穴から這い出てきたのは先のと同じ蒼い髪の少女だった。違いがあるとすればその髪の長さと、やや鋭い瞳。二人とも白のゴシックドレスを身に纏い、大きなリュックサックを背負っている。

 

「もう、アウったら………どこにいったのかな」

「分からない。けど、たぶんあそこに向かっていると思う」

「だよね」

 

 二人は頷きあうと背中のリュックサックを背負い直して走り出した。通路を曲がること幾数回。床の抜けた穴を何度も飛び越え、突き破った隔壁が十枚を越えたころ、二人はようやく目的の場所にたどり着いた。

 

――――――――最深部・機密管理区画

 

 ユウとユキが幾重にも重なり合った隔壁をくぐると、その前に一人の青年が立っていた。見まごう事なき蒼の髪をなびかせ、彼女たちを待っていたのだ。

 

「あ〜っ、居た〜!」

「もう着いていたのなら、連絡をくれてもいいです」

 

 二人がそれぞれに不平をこぼす。それに謝罪しながら青年は自分の背後に鎮座する巨大な宝玉を見上げた。妖しい赤色の光を放つそれを見つめながら、

 

「迎えに来たぞ、もう一人の管理者よ」

 

 厳かに告げる。

 同時に誰もが眩む閃光が走った。

 徐々に消えていく光の中、彼は確かに微笑を浮かべていた……

 

銀河天使大戦 The Another

〜破壊と絶望の調停者〜

 

第二章

第五節 愛と憧憬

 

 これでよかったのだろうか。これが正しかったのだろうか。

 果てぬ自問に行き場を失ったタクトは一人、エルシオールの通路を歩いていた。倒すべき敵は自分たちが思い描くような悪の権化ではなかった。むしろ彼こそがこの世の正義なのではなかったのか。

 どうしても彼を討ったことに胸を張って誇れずにいる。罪悪感で押しつぶれそうだった。

 一週間前に惑星アトムから帰還したエルシオールは現在、白き月の警護任務に就いている。RCSの襲撃の件もあり、本星圏の警戒態勢はかなりのものになっていた。今のところ何も起こってはいないが、むしろその静けさがどこか危険なもののように感じられてならない。

 

「マイヤーズ大佐!」

 

 不意に呼びかけられて振り向くと、ぜえぜえと息を切らせるちとせが立っていた。どうやらここまで全力疾走してきたらしい。

 

「どうしたんだ、ちとせ。大丈夫?」

「はぁっ、はぁっ………だ、大丈夫です。それより、これなんですけど……」

 

 そう言って差し出されたのはレポート用紙の束である。めくってみるとここ数回の戦闘におけるシャープシューターの報告書だった。紙面いっぱいにびっしりと書き込まれたデータとグラフに一瞬目眩を覚えたが、それでもこれが非常にしっかりしたものだということがタクトにはよく分かった。

 

「う〜ん、ちゃんとしてるな〜……数値換算もばっちりじゃないか」

「い、いえ大したことないです! まだまだ未熟で先輩方にいろいろご指導いただいてます。この間は―――――――」

 

 それはフォルテがちとせを彼女愛用の穴蔵に招き入れられた時のことである。古の銃たちを誇らしげに紹介するフォルテに言われて、普通の女性でも撃てる小型拳銃による射撃にチャレンジしたのだ。

 

「ああ、フォルテが筋が良いって褒めてたよ」

「それほどでもないですけど……」

 

 頬を赤らめて照れるちとせ。彼女は生まれて初めて握った拳銃で命中率60%という結果を叩き出したのだ。それ以後、何かにつけてフォルテに射撃の練習を見てもらっているという。

 

「練習どころか弾薬まで面倒見てもらってしまって………」

「あ、ああ。いいんだよ、ちとせ。気にしないで」

 

 ちとせは知らないことだが、フォルテは『新人の育成に必要な経費だ』と主張して、膨大な量の弾薬を軍の経費で発注していたりする。注文リストの中には『ウィンチェスター対装甲弾』『成形炸裂弾』といった明らかに関係ないものまで入っているのだ。どうやら彼女はちとせに対戦車ロケットまで教えるつもりらしい。

 

(一度フォルテに釘を刺さないとな)

 

 笑顔のちとせを見ながらタクトは内心そう決意した。このままではエルシオールの経費だけで皇国の財政が崩壊しかねない。

 

「他にもミルフィー先輩が………」

「ミ、ミルフィーがどうかした?」

「いえ。ミルフィー先輩にお料理を教わっているのですが」

「ですが?」

 

 どことなく嫌な予感がしてならない。生唾を飲み込みながらタクトは聞き返した。

 

「この間ですね、ハンバーグを一緒に作ったんですけれど……」

 

 何でもちとせが言うには、そのハンバーグ作りは順調だったのだという。途中、ミルフィーがボウルをひっくり返すまでは。

 

「あ、思い出した」

「そうですか?」

 

 言われて記憶が鮮明に蘇ってきた。ブリッジで転寝していたらいきなり警報が鳴り出して叩き起こされたのだ。確認してみると居住区で爆発事故が起こったというので急いで現場に駆けつけてみると……

 

「真っ白になった二人が廊下で気絶しててびっくりしたよ。小麦粉の粉塵爆発だったっけ? よく無事だったなぁ」

「はい、死ぬかと思いました」

 

 ミルフィーがボウルをひっくり返した拍子に側に置いてあった小麦粉の大袋を蹴飛ばしてしまった。舞い上がる白色の粉はまるで煙幕のようで、視界を奪われたちとせとミルフィーは当然パニックに陥った。二人が何とか部屋のドアを開けると、つけっぱなしだったコンロの火が飛び散った小麦粉に引火して爆発が起こったのである。そのため一時的にエンジェル隊全員の部屋が小麦粉まみれになってしまったのだった。

 互いに苦笑するちとせとタクト。

 そこへ突然呼ぶ声がかかった。

低く、重く。

 

「タクトさん…………伝言です………」

「お、ヴァニラ?」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!!!!

 確かに今、タクトを呼んだのは彼の背後に立っていたヴァニラであることに間違いはない。だが思わずちとせはびくりと体を震わせた。だがヴァニラの全身から発せられる凄まじいプレッシャーはただ事ではない。息が詰まって呼吸ができないほどなのである。

 

「クレータ班長が格納庫まで来てほしいと仰っていました」

「分かった、すぐ行くよ。ところでヴァニラはどこに行くんだい?」

「クジラルームです。ウサギたちの世話をしなくてはなりません」

「そっか。じゃあ俺も用事が済んだら手伝いに行くよ」

「ありがとう、ございます」

 

 何の差し障りもなく会話をこなすタクトを見てちとせは驚愕に目を見開いた。こんな重圧感の中で平然としていられるとは、さすがは皇国の英雄だ。

 

「あ、大佐。こんにちは」

「やあ、どうも」

 

 クルーが笑顔で挨拶をしてその場を通り過ぎていった。そのあまりの爽やかさにちとせは混乱していた。ええい、この艦のクルーは化け物か? いや待て、待つのだちとせ。いくらなんでも一般人がこの空気に耐えられるはずがない。ともすれば、このプレッシャーは一つの指向性を持って放たれているのではないか?

 そう、この自分―――――――烏丸ちとせに!

 

「はっ! 大佐? マイヤーズ大佐!?」

「ちとせ、タクトならもう行っちゃったわよ」

「ラ、ランファ先輩っ!?」

 

 突然呼びかけられて思わず声を上ずらせる。確かにあのプレッシャーはもう感じない。どうやら二人はちとせが悶々と悩みこんでいる間にどこかへ行ってしまったらしい。

 

「マイヤーズ大佐、いったいどこに――――――」

「ところでさー。ちとせ、これからちょっと付き合ってくんない?」

「え? ええ、はい。でもどこへですか」

「トレーニングルームにちょ〜っとウェストをシェイクアップしに、ね。ちとせにも教えてあげるわよ。結構効くんだから」

「は、はあ、でも効くって何がでしょうか?」

 

 ランファは屈託のない爽やかな笑顔で答えた。

 

「宇宙ヨガ」

「うっ、宇宙ヨガですか!?」

 

 もともとヨガはインド独特の精神統一法である。座禅のような姿勢をとり、呼吸を整えて行うものであり、そもそもは苦行の一種なのだ。それがいつしか健康法として広く普及するようになったのである。美容と健康に良いという事で皇国中のセレブにも人気が高い。

 ちなみに宇宙ヨガとはそれをより発展させたものである(トランスバール本星のヨガ講座は予約待ちで三ヶ月とか)。

 

「さ、行くわよ〜!」

「はい!」

 

 いつの世も女性の美に対する憧れは変わらぬのである。

勇み足で進む二人はどこか怖かった。

 

 

 

 

「首尾はどうかしら? カミュ・O・ラフロイグ」

 

 女のヒールの床を叩く音が耳に障る。だがカミュは顔をしかめることもなく振り返った。薄暗いその場所は格納庫らしかった。様々な機材がせわしなく稼動する音が体を揺さぶるような感覚がして、妙な気持ち悪さが漂っている。

 

「問題はない。これならば忌々しいエルシオールなど――――――!」

「それならいいわ」

 

 返答を聞いて女は満足したのか、ぐにゃりと口元を吊り上げた。

 

「うふふ、もうすぐよ。もう間もなくこの世界は私の手の中に還るわ。そうしたら貴方にも――――――」

「いらないよ」

「そう?」

「でもただ一つ、タクト・マイヤーズの首だけは」

 

 憎悪に顔を歪ませるカミュ。その血走った眼が見据えるのは漆黒の巨人である。その姿形はあまりにも――――――――

 

 

 

 

「お待ちしておりました、大佐」

「ああ。ところでクレータ班長、用事はなんだい?」

「はい、ギャラクシーの関節制御モーターが――――」

 

 クレータがハンディ・ディスプレイを片手に整備の経過を報告していく。

 初の重力下での実戦によってギャラクシーが受けたダメージは意外にも大きかった。特にライフルの連射による反動で右腕のフレームが歪み、肩から全交換しなければならないほど。他の各関節部も消耗が激しく、重力が機体にもたらす負担の大きさが伺える。

 とはいえ得られたものもある。実弾兵器の稼動データは今後の研究開発に大いに貢献するだろう。さらに人型機動兵器同士の格闘戦データはかなり貴重である。皇国側には一機しかなく、データを思うように収集できないのだ。現状では過去にテラス4でエオニア軍残党とRCS、つい先日には惑星アトムでの交戦記録のみである。

 

「んー、やっぱり自重を支えきれないかな」

「構造上、フレームの強度に限界があります。かといってフレームを補強すると今度は重量がかさんでしまいますし、やはり設計段階から見直す必要があるかもしれませんね」

 

 しかし、たった数回の戦闘で使い物にならなくなっては兵器として大問題である。せめて一年は現役で活躍してもらわないと困るのだが、試作機なのだから仕方がないといえばその通りだ。

 

「ところで………彼女はいったい何をしているのかな?」

 

 タクトは先ほどから格納庫の隅で何やら怪しげな作業を続けているアンスを見つけて首をかしげた。ぱっと見ただけではよく分からないが、アンスは頬をにやつかせて「もうすぐ、もうすぐよ」「うふふふふうふふふ………」とこれでもかというほどの不審者ぶりなのだ。

 しかしクレータはあっけらかんと答えた。

 

「アウトローの修理とバージョンアップです。今度はアウトロー自身の要望を基に白き月の技術力を総動員しました」

「へ、へえ……例えばどんな?」

「百聞は一見にしかず、です。実際に見てみましょう」

 

 そのままクレータに(半ば引きずられる形で)アンスの側まで連れて行かれる。正直、怖い。

 

「アンス、終わった?」

「班長? ええ、今最後のシステムを起動させています」

「じゃあもう終わりね。今日は大佐がアウトローと話がしたいって言うから来てもらったのよ」

 

 何気なく会話する二人の横でタクトが激しく首を横に振っているが、もちろんスルーである。

 

「それならちょうどよかった。今作業が終わりましたから」

 

 アンスが言い終わるや否やアウトローのボディからハードディスクやら何やらが回転する音が発せられ始めた。そのまま待つこと一分、

 

『おはようございます、アンスさん。クレータさん………あれ?』

「こ、これは!?」

「やりました! 成功です、班長!」

「嗚呼、これで私たちの長年の夢がようやく叶うのね―――――!」

 

 アウトローは見た限り何ら変わったところはない(ボディの塗装が迷彩柄に変更されていたが)。だが以前までの機械的な人口音声がアニメ系美少年風ボイスに変更されているではないか。心の奥をくすぐる甘い響きにアンスとクレータはメロメロである。

 

『アンスさん、クレータさん。これはいったいどういうことですか?』

「うん、俺も聞きたい」

 

 一人と一台が頷きサスペンションを上下させる。するとアンスが分厚いレンズの渦巻き眼鏡を装着して、実に真剣な表情で語り始めた。

 

「実はですね、我々整備班一同は前々からアウトローの人工音声をヴァージョンアップできないかと考えていました。私の知人にプロの声優さんがいまして。彼女にお願いしたんですよ、声を」

 

 整備班一同と言うが、実際に思い悩んでいたのはアンスとクレータの二人だけである。

 

「まあ、声優だからね。声を頼むのは当たり前なんだけど………なんで?」

「た、大佐!? この素晴らしさが分からないんですか!?」

「あ、ああ……あまり、よくは」

 

 アンスが激しくため息をついてうつむく。クレータはクレータでこの世の終わりみたいな表情でタクトを見つめている。

 このままだと何を言われるか分からない。タクトは疎い脳みそをフル回転させて話題の転換を試みた。

 

「それで、他に何か新しいものは?」

「とりあえず武装一式を取り外して四本のマジックハンドをつけました。このハンドは様々なツールを内蔵していて、その名も『十得ハンド』。ナイフやピンセットはもとより、ツールを交換することで泡だて器やドライヤー、ヘアブラシにレーザービーム砲まで取り付けることができるんです」

「あー……そう、なんだ」

「はい。特許も申請中です。ちなみに外した武器はまとめてフォルテさんに預かってもらいました」

 

 胸を張って誇らしげに語るクレータの横でアウトローが何本ものマジックハンドをわきわきと動かして見せた。いつの間にこんな開発が進んでいたのだろう。というよりもここに費やされる情熱と労力をギャラクシーに回して欲しいタクトだった。

 

 

 ウサギたちに餌をやり終えると、ヴァニラは温室で植物の世話をしているクロミエに声をかけた。

 

「何か、手伝うことはありますか?」

「いいえ。もう十分ですよ」

「そうですか」

 

 実際仕事はもうないのだ。クロミエが宇宙スイセンに水を上げている間にヴァニラは温室を掃除し、壊れていたジョーロを修理し、過去の栽培記録を整理しながら必要な肥料の注文までしていた。最近はワークシェアリングが進んでいるが、このままでは仕事量の比率が逆転しかねないクロミエである。

 

「ふう……」

 

 仕事が一段落したからなのか、ヴァニラは遠い目で深いため息をついた。その表情は年頃の少女のものとは思えないような愁いを帯びている。まるで胸を焦がす行き場のない思いをどうすることもできない、そんな様子だ。

 近づきたいのだけれど、近づけない。

 伝えたいのだけれど、伝えられない。

 もっと親しくなりたいのに、今ある関係を壊したくない。

 複雑に絡み合う感情を解けずに、ただ毎日を過ごすしかできない。

 

「ヴァニラさん、ちょっといいですか?」

「なんでしょうか」

「宇宙クジラがあなたに伝えたいことがあるそうです」

 

 そんな彼女を見かねたのか、クロミエがそんなことを言ってきた。断る理由もないので頷くと、彼はいつもの笑顔を浮かべた。

 

「迷わずとも答えは直に出る。だから今は普段どおりで大丈夫だ、そうですよ」

「そうですか。ありがとう、ございます」

 

 礼を告げたヴァニラは温室の出口に向かって歩き出した。そこはかとなく足取りが軽い。問題はまったく進展していないがそれでも何らかの助けになったようで、クロミエの抱く子宇宙クジラの表情も穏やかだ。

 と和むのも一瞬で、

 

「きゃっ!」

「おっと。ごめん、大丈夫?」

 

 問題を起こしている張本人がやってきた。見ればご丁寧に温室の出入り口でヴァニラと出会い頭にぶつかっている。尻餅をついた彼女を助け起こしながらクロミエにも軽く会釈する。

 

「タクト、さん」

「ああ、怪我はない?」

「大丈夫です。問題ありません」

「よかった。ところで手伝いに来たんだけど―――――――」

 

 すっかり整理された温室を見回してタクトはがっくりと肩を落とした。

 

「もういいみたいだね」

「はい、すっかり片付いてしまいましたよ。ヴァニラさんのおかげです」

 

 笑顔でクロミエが止めを刺す。こういうところはミントとそっくりなクロミエである。るー、と涙を滝のように流しながら項垂れるタクトのマントの端をヴァニラがくいくい、と引っ張った。

 

「お腹が、空きました」

「あ、そうだね。じゃあ食堂に行こうか」

「はい。今日はミルフィーユさんが食堂で料理のお手伝いをしています」

「おっ、楽しみだな〜」

 

 二人連れ立って歩いていく後姿を見送りながら、クロミエは思わず苦笑した。子宇宙クジラが不思議そうに見上げてくるので、

 

「困ったお二人だなぁ、って思っただけだよ」

「きゅ〜」

 

 とだけ答えておいた。

 

 

 

 

 ミントとランファが食堂に向かっていつものように歩いていた。何気ない会話をしながら食堂のドアをくぐると、二人は漂うただならぬ空気に思わず足を止めた。

 

「な、なによこれ……」

「まあ、これは!」

 

 死屍累々、食堂のテーブルにはオーラに押しつぶされたクルーたちがばたばたとうつ伏せている。その中には歴戦の勇者たるエンジェル隊の一人であるフォルテ・シュトーレンの姿もあった。

 

「フォルテさん、何があったんですか? しっかりしてください」

「あ、ああ……ランファ、ミント。あ、あれを見るんだ」

 

 言われて向けた視線の先には―――――――――

 

「大佐、玉子焼きはいかがですか?」

「俺はいいんだ。ちとせが食べなきゃ」

「タクトさん、卵より野菜を食べてください」

「いや、だから俺のことは気にしなくていいんだって……」

 

 ヴァニラとちとせ、両サイドから執拗なまでの奉仕を受けるタクトがいた。男ならば誰もが夢見る(?)シチュエーションだが、当人のタクトはどこか辛そうな表情をしている。そしてそこから放出され続ける薔薇色の放射能がこの惨状を作り出していたのである。

 

(ミント、これって……)

(全面戦争が勃発したみたい、です……わ、ね)

 

 どたん、と音がしたそのときにはすでにミントの体は床に転がっていた。

 

「ミ、ミント!?」

「も、もうだめですわ……」

「ミント――――――――――!」

 

 ランファの叫びも虚しくミントの顔は力なくうなだれた。また一人、犠牲者が増えてしまったのである。だがそんなことなどお構いなしなのか、二人の少女の戦いはさらにヒートアップしていく!

 

「大佐、こっちむいてください」

「ふごっ!」

「タクトさん、よそ見、しないでください」

「ふぐっ!」

「マイヤーズ大佐」

「タクトさん」

「ふぎゅっ!? ふぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぅぅぅっ!?」

 

 ごきり……

 不気味なまでにはっきりと音がして、タクトの首があらぬ方向に曲がってしまっている。

 

「た、大佐?」

「タクト、さん……?」

 

 返事なし。哀れ、タクトはそのまま担架で医務室へ運ばれていったのであった。

 

 

 そうなると当然問題を起こした二人は艦長に呼び出されるわけで。

 

「……で、何かいいわけはあるか?」

『ありません』

 

 異口同音に答えるヴァニラとちとせ。レスターの眉根は変わらず寄ったままだ。うんざりした様子でレスターは艦長室のデスクから立ち上がった。

アトムでの任務が終わった頃からヴァニラとちとせの仲が悪化の一途を辿っているのはレスターの耳にも入っていた。エンジェル隊はタクトの管轄だが、レスターも一時的に指揮権を預かっていたこともあってそういう情報にも敏感にならざるを得なかったのである。

 とはいえ実際に問題が表面化したのはこれが初めてだ。しかもよりにもよって最高責任者であるタクトが負傷した(怪我の程度はともかく)となると、最悪部隊の活動に支障が出る。

 

「自分のしたことがどういうことか分かっているな?」

『はい』

「これより二十四時間、自室での謹慎を命じる。少し頭を冷やせ」

 

 傍らで待機していたフォルテに連れられて二人が出て行ってから五分後、入れ替わるようにタクトが部屋に入ってきた。首には冷湿布が貼ってある。

 

「怪我はもういいのか?」

「大丈夫だよ。軽く骨を鳴らしただけだから」

 

 タクトは鳴らしただけで首が二百四十度回転するらしい。

 

「まったく……これじゃあまるで子供がやる玩具の取り合いだぞ。どうするつもりだ?」

「どうするっていってもなぁ」

 

 他人事のように欠伸をかますタクトをレスターはただ呆れた様子でため息をついた。

 

「ほとぼりが冷めるのを待つか?」

「まさか。答えは出すよ……ちゃんと」

 

 どこか遠い彼方を見つめながらタクトはつぶやく。男としての自分と指揮官である自分。二人と二つの立場に板ばさみにされて身動きが取れなくなる前に決着をつけねばならなかった。

 

「失礼します。艦長、定時報告……あれ?」

 

 不意に艦長室のドアが開き、入ってきたのはアルモだった。手に持ったトレイには熱々のホットコーヒーが二つ載っている。

 自分がここにいることが予想外だったのか、呆然としている彼女を見てタクトはピンときた。いや、これはもうピンとこなきゃいけません。

 

「レスター……職権濫用もほどほどにしとけよ」

「おっ、お前に言われたくはないっ!」

「何言ってるんだ、顔真っ赤だぞ」

「やかましい! ほらさっさと行け!」

 

 飄々と艦長室から出て行ったタクトを恨めしく睨んでから、レスターは改めてアルモと向かい合った。冷やかしのせいか、彼女は耳まで真っ赤だ。

 

「顔赤いぞ、大丈夫か?」

「はい……でも」

「どうした」

「艦長も、赤いです」

「っ!?」

 

 一瞬で沸点に到達したレスターの頭からぼふっ、と湯気が噴き出した。ぐるぐると思考が回転して何が何だか分からなくなる。と、その隙をついて、

 

「艦長……」

「アル、モ。お前――――」

 

 デスクを越えてその柔らかな唇が頬に触れるか触れないかのところで囁く。甘い香りが鼻腔をくすぐり、鼓動が一際高く胸を打つ。

 

「誰も、見てないですよ」

「そういうことじゃあなくてだな」

「もしかして嫌ですか?」

「……意地悪だな、アルモは」

 

 二人の唇がもうほとんど離れていない距離を縮めていく。吐息が重なり、互いの温もりが交わろうとした、その刹那――――――――

 

『艦長、第三ライン上に正体不明のドライブアウト反応です。至急ブリッジまでお願いします』

「わ、分かった。すぐ行く」

 

 回線が開くと同時にバッ、と離れてレスターとアルモは安堵の息を漏らした。どうやらギリギリで見られなかったようである。二人の関係はもう公然の秘密なのだからわざわざ隠す必要もあるまいに。

 

「さて、行くぞアルモ」

「はぁい……」

「そんな露骨に不満な顔をするな」

 

 アルモがしてない、と反論する前にその額に軽く口付ける。

 瞬間、二人の時間が停止した。

 

 

 

 

「状況は? 軍の観測局はなんて言っている?」

「第二防衛ライン上に所属不明のドライブアウト反応多数、向こうはジャミングが酷くて詳細は不明だと。今、黒き月の警護艦隊に問い合わせています」

「確かにこちらでも上手く見えない。ともかくエルシオールは発進だ。何かあってもすぐ対応できるようにしてくれ」

「了解です、大佐」

 

 レスターに追い出されたタクトは止むを得ずブリッジにいたのだが、それが功を奏したようだ。困惑するオペレーターを取りまとめ的確に指示を出し、状況の把握に努めることができたのである。ちなみにちゃっかり艦長席に陣取っているのはご愛嬌である。

 とはいえ場所が場所だけに警戒しなければならない。第二ラインには一年前の大戦の折、そのまま残された黒き月があるからだ。

 白き月のドッグから発進したエルシオールは針路を修正しながら新たな情報を待つ。程なくして黒き月の警護艦隊から偵察隊が出されたと報告があった。

 

「これで一安心、かな」

「ですね」

 

 安堵の息を漏らす一同。だがその直後、

 

「大佐! 黒き月の艦隊からの通信が途切れました!」

「何だって!?」

「続けて第二防衛ラインよりこちらに接近する艦影多数! ジャミングのため形式の照合ができません!」

 

 味方ならわざわざジャミングをかける必要はない。いや、警護艦隊が音信不通になった時点で敵の襲来と判断するべきだったのだ。

 そこへようやくレスターとアルモが息を切らせながら戻ってきた。

 

「状況は!?」

「遅いってレスター。今こっちに敵さんが来てる」

 

 答えるタクトを艦長席からつまみ上げると、レスターはいそいそとそこへ腰を下ろした。

 

「俺は猫か何かかい?」

「気にするな。総員第一種戦闘配置! エンジェル隊は出撃準備だ!」

「エルシオール、全システムを戦闘モードへ移行します!」

「ファイア・コントロール、オールクリア!」

「レーダー・コントロール、クリア!」

 

 ブリッジが慌しく動き出した。その中でぽつねん、と立つ奴が一人。

 

「おいタクト、なにボサっとしてるんだ」

「へ、いや。なんでもない。じゃ、行ってくる」

 

 ブリッジを後にしたタクトはそのまま艦首格納庫へ直行した。

 言われなくとも自分のすべきことぐらい分かっている。そのつもりだったのだが、久しぶりにブリッジで指揮を執った彼は懐かしさと、微かな喪失感を覚えていた。

 

(俺は今、パイロットなんだよな)

 

 確かにエルシオールの運用の決定における最大の権限を持っているのはタクトだ。だがそれはあくまで決定の話であって、実際に動かすことができるのは艦長のレスターに他ならない。

 

「駄目だ、駄目だ」

 

 もう振り返らないと決めたはずだ。

 二度とあんな後悔だけはしたくない。誰も死なせたくはないと誓ったのは事実だし、それを覆すわけにもいかない。

 だから自分はここにいる。パイロットに志願し、仲間と共に戦える場所にいる。

 

「大佐、出撃準備はできています!」

「ありがとう。すぐに行く」

 

 格納庫の入り口で何人かのスタッフと声を交わし、颯爽とタクトはギャラクシーのコックピットに滑り込んだ。流れるような動作でシステムを起動させていく。

 

「メインエンジン点火、動力伝達97、98、99……起動完了!」

『各システムチェック完了。ギャラクシー、カタパルトへお願いします』

「了解!」

 

 三度目の出撃だがオペレーターを務めるアンスの声にはまだ慣れない。もともと整備班の人間だからなのだろうが、この艦でもっともこの機体に精通しているのだから仕方がない。

 ギャラクシーにシールドとレーザーライフルを持たせて格納庫の端にある隔壁をくぐると、そこは発進用のカタパルトだ。お馴染みのリフトに機体を固定させるとリニアレールが展開し、誘導用のガイドビーコンが灯る。

 

『最終シーケンスに移行します。大佐、ご武運を』

「OK、手早く終わらせるさ。ギャラクシー、発進する!」

 

 リフトの下で火花が散り、押し出されたギャラクシーはわずか二秒でトップスピードに到達する。カタパルトから分離したのもつかの間、宇宙へ放り出される機体を安定させるため、タクトは操縦に集中した。

 すでにHSTLのセンサーは接近するそれらを敵だと認識している。所属不明の識別信号、内部のエネルギー反応の増加、編隊を組んでの高速進攻。そして今しがたエルシオールから届いた黒き月の駐屯艦隊壊滅の報がそれを裏付けていた。

 

『タクトさ〜ん、待ってくださ〜い』

 

 後ろから遅れて出撃してきたエンジェル隊が追いついてきた。だがその中にハーヴェスターとシャープシューターの姿はない。緊急時とはいえ自室での謹慎を解くわけにもいかない。

 

(どのみち、今の二人じゃあ戦闘に耐えられないだろうし)

 

 あの状態の二人では戦闘に集中することなどできないだろう。無理して出撃させた挙句、撃墜されてしまっては元も子もない。

 

「っ! みんな、回避だ!」

 

 誰よりも速く接近する熱源を感知したタクトが叫んだ。緊急回避に機体が揺れると同時に幾筋ものレーザービームの砲撃が通り抜けていく。

 

「こんなに高い精度の射撃を、あの距離から!?」

 

 まだ敵はこちらのレンジに入っていない。にもかかわらずあわや直撃というほどの正確さで狙ってきた。どうやらこれまでの海賊とはわけが違うらしい。

 タクトはギャラクシーにライフルを握り直させ、まだ、見ぬ襲撃者の姿を睨む。第二射を待たず敵艦隊は我が物顔でこちらへ向かってきている。先手を取った自分たちにもはや敵はない、というつもりか。それともまだ次の手を控えているのか。

 ようやくこちらのレンジに入った、その時だった。タクトたちは艦隊の中に見つけたものに目を見開いた。三隻の戦艦と併走するそれは、

 

「人型、兵器か……!」

『見たことのないタイプが六機、それにこれは――――――――』

『ギャラクシー、ですわね』

 

 何故目の前にもう一機のギャラクシーが存在するのか。こちらのデータをコピーしたのか。それともまさか、別の工場で組み上げている先行量産機を奪ったのか。だが今はその事実を追求している場合ではなかった。

 こちらへ接近する黒の塗装を施されたもう一機のギャラクシーはおそらく隊長機なのだろう。それに従うのは、屈強な装甲と大型化した脚部の推進器が目立つ黒と紫を基調としたカラーリングの一つ目のロボットたちだ。武装は右肩に担ぐ巨大なバズーカ砲に統一されており、黒のギャラクシーに至っては両肩に一基ずつ携行している。

 

「くそっ、黒き月の艦隊はこいつらにやられたのか!」

 

 あれほどの重火器なら戦艦の装甲もただではすまない。ブリッジをピンポイントで狙われた日には一撃で決着がつくだろう。

 

『どうすんのよ、あんなのがたくさんいたら狙いのつけようがないじゃない!』

「俺が相手をする」

『無理ですよ、そんなの!』

「やってみなきゃわからない。それよりランファとミルフィーは戦艦を押さえてくれ。ミントとフォルテは援護を」

 

 指示を告げるその声はただ冷たく、平静だった。だが同時にそこからは一切の迷いも感じられない。ならば従わぬ道理もあるはずもなく、

 

『分かった。いくよみんな!』

『了解!』

 

 

 

 

 謹慎を命じられてから程なくして下された出撃命令にヴァニラとちとせは食い下がった。自分だけがただ何もできず、じっとしているなど考えられるはずがない。結局はフォルテに諭され、今は自室に篭もっている。

 タクトは、みんなは無事だろうか。どうやっても不安を拭い去ることができない。共に戦う、ということがどれほどの安心感をもたらしていたのか実感させられる。

 

(タクトさん……)

 

 焦燥が胸を焼く。認めたくはないが、おそらくちとせも同じ気持ちなのだろう。最後まで出撃の許可を求めていた姿が脳裏にちらつく。

 その時、一際大きな衝撃がヴァニラの体を揺さぶった。エルシオールが直撃を受けたようだ。やはりエンジェル隊を二人も欠いた状況は不利なのか。

 

「やっぱり、だめ」

 

 もう耐えられなかった。

 命令違反でも何でもいい。これ以上、タクトを守るという誓いに反し続けることなどできるはずがない。意を決して部屋のドアのロックを解除し、外へ飛び出すと、

 

「あ」

「っ」

 

 偶然なのか。二人は互いの顔を見て硬直した。

 おそらく相手も焦燥と不安に耐え切れずに飛び出してきたのだろう。交差する視線がすべてを物語っていた。どうしようか悩む。だがそれも一瞬、互いにすべきことは同じであり、そのためには一時休戦もやむなしか。

 

「行きましょう、ちとせさん」

「はい!」

 

 二人は駆け出した。行く先は無論、格納庫。クレータの制止さえ振り切って愛機のコックピットに踊り込む。

 

「ハッチを開けてください。でなければ、自力で突き破ります」

『自分たちのしていることが分かっているのか!?』

「戦況は把握していますし、命令違反は承知の上です! 艦長!」

『ああくそったれ! ハッチを開放しろ! 五番機と六番機、発進だ!』

 

 開かれていくハッチの先に広がる戦場。迷う必要はない。行き先は決まっている。

 目指すは戦場の最前線。

手には剣を、背には翼を。

 ただ、愛しいその人を守るために二人の天使は羽ばたいていった。

 

 

 

「でやぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 タクトはシールドに内蔵されたビーム発振機を起動させ、その巨大な光刃を薙ぐように振り回す。突然の荒技を回避しきれず、二機の一つ目が胴体を横一文字に切断されて爆散した。

 しかしまだ四機が残ってエルシオールへ肉薄せんと加速し、それを阻むギャラクシーにその凶悪な銃口を向けた。

 

「っ!」

 

 敵の無反動砲から吐き出された形成炸薬弾が虚空を疾走し、とっさに突き出したギャラクシーのシールドを爆発が弾き飛ばした。衝撃から逃れるために後方へ脱したギャラクシーへさらに二発の弾頭が迫る。

 コンマ数秒の世界。

 視界が色調を失い、

 全身の神経が体の外へ引きずり出され、

 世界のすべてが緩慢になる。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 咄嗟に機体を捻った。装甲を掠めた砲弾はそのまま飛び続け、先ほど飛んでいったシールドにぶつかって爆発した。

 シールドを失った今、ただの一発たりとも被弾するわけにはいかない。強力なエネルギーシールドを持つ紋章機ですら危ういのに、装甲の薄いギャラクシーが直撃に耐えられるはずがなかった。

 

『下がりなタクト!』

「すまない!」

 

 言うや否やハッピートリガーのレーザーがなおもギャラクシーへ迫る一機を撃ち落とす。残った三機は後退を開始するが、

 

『逃がしませんわ!』

 

 向けられた背中にホーミングミサイルを叩き込むトリックマスター。どれだけ優れた運動性を誇っていても、敵に背を向けては形無しである。

 一方のミルフィーたちは少々苦戦気味だった。思ったより戦艦の守りが厚く、さらにあの黒いギャラクシーの妨害もあり攻めあぐねているのだ。二人は一度体勢を立て直すために距離をとり、タクトたちと合流する。

 

『撃っても撃ってもぜんぜん当たらないんですよ〜!』

『一体どうなってんのよ、あの連中。あの黒いギャラクシーだってどこから持ってきたんだか!』

 

 二人が困惑するのも仕方ない。ギャラクシー自体極秘裏に開発が進められていた代物で、タクト自身他に存在するかどうか知らないのだ。少なくともあれが間違いなくこちらと同等の性能を持っていることだけは、確信できる。

 

「二人とも落ち着くんだ。手ならある。一か八か、だけどね」

『一か八か……どうするんですの?』

「連携攻撃だ。多方向からの波状攻撃で相手の隙を狙うしかない」

『ま、この状況じゃそれにかけるしか無さそうだね』

 

 エンジェル隊のエネルギー残量は半分弱。二人が抜けている分、交代で補給するには戦線を維持する戦力が足らず、一斉に戻ればエルシオールを危険にさらしてしまうため、なんとしてもここで敵を押さえ込まなければならないのだ。

 

「みんな、いくぞっ!」

『おおっ!』

 

 今一度天使たちが羽ばたく。

 その先陣を切るのは、

 

「ランファ、先制頼む!」

『おっけ〜! どぉりゃああああっ!』

 

 連続で迫る砲弾を圧倒的な機動力で潜り抜け、その鉄拳を打ち込まんとカンフーファイターが飛翔する。だが相手もそれを見抜いていたのか、容易く回避し次の瞬間にはランファのバックと取っていた。

 

「ミント!」

『おまかせくださいな!』

 

 構えなおしたバズーカ砲をフライヤーのレーザービームが撃ち抜く。爆風に煽られて姿勢を崩した漆黒のボディは、ミントへの反撃を忘れない。放たれた炸薬弾はまっすぐに目標めがけて飛んでいく。

 

「やらせるものか!」

 

 判断は一瞬、操作は一秒。攻撃直後の反動で動けないトリックマスターを庇うように立ちはだかり、タクトは抜き放ったビームセイバーで迫る凶弾を払い落とした。

 相手のギャラクシーも攻撃後の硬直で隙だらけだ。しかしそこへとどめの一撃を撃つ最後の一人はいなかった。

 だがこれでいい。十分に艦隊から引き離したのだから。

 

「ミルフィー、今だ!」

『はい! ハイパーキャノン、いっきま〜っす!』

 

 敵艦隊の側面から一筋の光が突き刺さる。攻撃に三隻の戦艦はまったく対応できなかった様子で、力なく沈んでいく。だがこの窮地に至ってなお漆黒の機体は攻める姿勢をやめようとせず、むしろ激しさを増していく。

 

『何よ、こいつ……きゃああっ――――――!』

「ランファ!?」

 

 左主翼にバズーカの直撃を食らったカンフーファイターはそのままきりもみ状態で弾き飛ばされていく。

 すべての通信回線に嘲笑が響き渡った。発したのは他ならぬあの漆黒の機体。

 

『やれやれ、戦艦を潰したぐらいでいい気にならないでもらいたい』

「その声は……」

 

 聞き覚えがあった。確かあれは補給船を襲撃した宇宙海賊の中に―――――いや、もっと前から知っていたはずだ。そう、エオニアの戦乱中に幾度となく渡り合った……

 

「ヘルハウンズのカミュ・O・ラフロイグ! だが何でお前がこんなことを!」

『何を言っているんだ、タクト・マイヤーズ。私はかつての主の仇を討ちに来ているんだよ。とぼけられても困るなぁ』

「主……エオニアか?」

『違うね。君に殺されたシェリー様さ! 想い人と添い遂げることもできず捨て駒として散っていった、ああ可愛そうなシェリー様! だから私はお前を殺すのさ、タクト・マイヤーズ!』

 

 シェリーはエオニア直属の部下であり、指揮官として前線に立ち、ヘルハウンズ隊を率いてエルシオール追撃の任に就いていた。しかし終盤、エルシオールに総力戦を仕掛けたが敗退。その時に彼女は戦死していたはずである。

 タクトが思考を巡らす間もなくカミュはバズーカを放り捨て、背中から抜き放った棒状のヒートサーベルでタクトに斬りかかった。紙一重のところで凌ぎながらタクトも応戦する。しかしカミュの気迫は凄まじく、思うように流れを掴むことができない。

 

「俺を殺しても彼女は帰ってこない!」

『勘違いしてもらっては困るよ! 私はヘルハウンズ、シェリー様に従う地獄の番犬だ! お前を殺し、彼女の悲願を達することこそが使命なのさ!』

「悲願だって!?」

『そう。エルシオールの破壊とシヴァの捕獲がシェリー様の任務であるならばそれを遂行するのがヘルハウンズの務めだ!』

 

 突き出された刃が純白の装甲を焼く。左腕を肩から切り落とされた機体はバランスを失って身動きが取れない。そしてカミュは今まさに最後の一撃を――――

 

『大佐!』

『逃げてください、タクトさん!』

 

 レーザーの雨がカミュの行く手を阻む。カミュの背後から近づいてくる二つの機影は、間違いなくハーヴェスターとシャープシューター。タクトの頭上を

抜けさらに旋回、ギャラクシーを庇うようにカミュの前に舞い降りてきた。しかしパイロットのテンションが低いためなのか、その動きは明らかに鈍かった。

 

「ヴァニラ、ちとせ!? どうして……」

『ごめん、なさい……』

『でも大佐のことが心配で、それで――――――――』

『アハハハハハハハッ! どうでもいいじゃないか、どうせまとめて死ぬんだからね!』

 

 一瞬でシャープシューターの右の翼をヒートサーベルで切り裂き、背後に回ってハーヴェスターのメインスラスターを貫く。カミュの高笑いだけが耳にへばりつくようで、それを振り払おうとタクトは二人の名前を叫んだ。

 

「ちとせ! ヴァニラ!」

『ハハハハハッ! 仲間が心配? でもそんな出来損ないで何をしようって言うんだ!?』

「くっ……!」

『軍人だからねぇ、敵前逃亡なんてできないんだろうけど。そんな陳腐な理由しか持たない君じゃあ何もできやしないんだよ!』

「―――――――――ふざけるな」

『!?』

 

 頭に血が昇るというのはこういうことを言うのだろう。カミュの一言は効果テキメンだった。一瞬で全身がカッと熱くなって、わきあがる感情には押さえが利かない。

 軍人だからとか、皇国の英雄と褒め称えられるからだとか、そういう理由で今ここにいるわけじゃない。俺がギャラクシー(こいつ)に乗るのは、自分だけが守られる側に居たくないと思ったから。目の前で誰かが死ぬというのに、自分には何もできないという事実を覆したかったから。

 つまるところ、タクト・マイヤーズという人間は、ただ自分の弱さを否定するために―――――――

 

「お前が何者だろうと。俺がどれだけ無力だろうと」

『な、何を……』

 

 コンソールの裏側に隠されていた赤いボタンは最後の切り札。アンスと自分しか知らないギャラクシーに組み込まれた諸刃の剣。この消耗した状態で何分動けるか分からないが、やらないよりはいい。

 

「俺は大切な仲間を守る! 絶対に!」

 

 ボタンを力いっぱい押し込む。途端、コックピットの中が暗くなり、すぐにまた元に戻った。

 OSを再起動。各部モーターの稼働率を再設定。出力は限界を超えてオーバードライブ、推進器の噴射角度をプラス3.2°調整。すべてのセンサーは感度を最大に、HSTLのリミッターを解除する。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉっ!」

『くっ、機体の性能ではこっちが上なんだ! こんなもので――――』

 

 木霊する咆哮。全身が燃えるように熱く、毛という毛が逆立つような放出感さえある。

 急接近するタクトのギャラクシーに向けてサーベルを突き放つ。その切っ先は寸分の狂いも無く敵の胸を貫きに行き、

 

 ザシュッ!

 

『ば、馬鹿なっ?』

 

 だが、漆黒のギャラクシーのサーベルは虚しく空を切って、それを操る機体の右腕は肘の関節で切り落とされていた。命中する直前、タクトは自分の機体をわずかに右へずらし紙一重でカミュの一撃を凌ぐと、続けざまにあらかじめ右手に持たせてあったビームセイバーで相手の腕を斬ったのだ。

 

「おおあああああぁぁぁぁっ!」

 

 タクトの猛攻は止まない。二つのギャラクシーが激しくぶつかり合い、火花を散らす。タクトが最大出力に切り替えて互いに片腕を失った今、同じ機体に乗る二人はほぼ互角と言えた。

 もう一方の手に掴ませた予備のサーベルでタクトの斬撃を防ぎつつ、カミュは相手の豹変に驚きを隠せなかった。先程までとはまるで違うその気迫。機体の動きも本気を出しただけでは説明できないほど鋭い。

 だからといってここで退くわけにはいかない。自分にも果たさねばならぬ使命があり、貫くべき信念がある。

 

『舐めるなっ! この出来損ないがっ!』

 

 タクトのビームセイバーを弾き、マニピュレーターをヒートサーベルの一突きで破壊する。ならばと繰り出された膝蹴りも難なく切り払い、純白の装甲に守られたコックピットにその刃を突きつけた。同時に機体の活動限界を告げるアラームがタクトの耳を叩く。

 

「まだだ、まだ終わっていないっ――――――!」

『無駄だよ。そんななりで何ができるというんだい』

「くっ……」

『あきらめはついたかい? ではさようなら、タクト・マイヤーズ。仲間の前で無様に散るがいい!』

 

 漆黒の腕に力が篭もる。

 もうすべてが手遅れだった。あまりにも速すぎる攻防に追随できず、密着した二機を引き離す術をエンジェル隊は持っていなかった。すぐ側でその光景をみつめるちとせとヴァニラも同じ。ただ何もできず、彼の死に様を見つめるしかない。

 

『タクトさ〜ん! 逃げてくださ〜い!』

『何やってんのよ、あの馬鹿!』

『まずいですわ、ここからでは……』

『ちくしょうっ! 何もできないって冗談じゃないよ!』

『大佐! 脱出を、大佐!』

『いやぁ……いやぁっ!』

 

 一瞬だ。それで耐えようの無い絶望の世界は――――――――

 

 ピピピピピッ!

 新たに接近する存在を二つのギャラクシーの、紋章機のセンサーが感知した。

 

「上!」

『なに?』

 

 タクトとカミュの頭上から迫るそれはまさしく流星の如く、そのプレッシャーに機体が震える。

 

『はああぁぁぁぁぁぁっ!』

『ぐっ、ぐわあっ!?』

 

 気合一閃。迸る光が視界を覆いつくした。炸裂する衝撃が二機を引き離し、その間に巨大な剣が舞い降りた。

 

「こいつは、いったい……?」

 

 否、全員の眼に映るは新たな味方かさらなる敵か。

 紫紺の映える鋼の鎧は屈強。

背には吹き上がる一対の紅きフレア。

 獲物を捉える双眸は気高き獅子のものか。

 唯一つ確かなのは、それが振り下ろした巨大な光の剣は確かにカミュのギャラクシーの左腕を斬り落としたということだ。

 しかしその姿にブリッジでギャラクシーのオペレートをしていたアンスは驚きに声を上げていた。

 

「そんな、あれはEMX02・コスモ……」

「なんだと!?」

「でもあれは本星の工場でフレームを組み上げる段階だったはず。どんなに作業を急いでも、この場に間に合うはずが」

 

 それに、と続けるアンスの声は掠れていく。

 

「あの声は、あの声は彼の―――――――」

 

彼女はただ俯き信じられないと首を振る。心当たりがあるのか、というレスターの問いにも答えない。だが彼女の呟きでレスターとアルモはその胸中を悟った。確かに今の声は二人にも聞き覚えがあった。

 しかしこの予測が正しいなど信じられないのもまた同じだ。なぜならその声の主は一年前に死んだはずなのだから。

 

「生きていたというの?」

『生きてちゃいけなかったかね、俺は』

 

 突然開いた通信回線から聞こえてきたのは紛れもない、一年前のあの時に星屑となったはずの男。白き月に残った小さな墓標は所属不明のRCSに奪われてしまったが、どうやらそれでよかったのかもしれない。

 

「あ、あ、ああ―――――アヴァン!?」

『そのとお〜り。その様子じゃあ元気そうだな』

 

 いかなる奇跡だろうか。だが幻ではない。確かに彼はそこにいて、たった今窮地のタクトを救ったのだから。

 

『さて。再会を祝う前にこいつの相手をしないと』

 

 改めてアヴァンはカミュと相対する。両腕を失ってなおカミュのギャラクシーは戦う姿勢を崩していなかったが、それに割って入る声があった。

 

『そこまでよカミュ、下がりなさい』

 

 聞こえてきたのは背筋が凍るほど冷たい女の声。どうやら全回線で流されているらしく、タクトやエルシオールでも受信できている。ただ撤退の指示を出すだけならこんな真似をする必要はないはずだが。

 すかさずタクトが叫ぶ。

 

「誰だ、宇宙海賊か!」

『私の名前はネフューリア。お前たちの新たなる支配者になるのだから、よく覚えておきなさい』

「なんだって!?」

『まあいいわ。EDENの末裔の力の程度も確認できたし黒き月も手に入れた。また戦場で会いましょう、EDENの末裔』

「黒き月を――――――どういうことだ!」

 

 タクトが言い終わらないうちにカミュのギャラクシーを謎の力場が覆い始めた。それは黒い、まるでブラックホールのような球形で周囲の空間まで歪んでいく。

 

「待て!」

『彼はこんなところでは終わらないわ。ではさようなら、せいぜい足掻くことね』

 

 いやな高笑いと共にカミュのギャラクシーは発生したフィールドと共に消滅した。おそらく空間転移なのだろうが、阻止せんとミルフィーユたちが撃ち込んだレーザーをことごとく弾き返すほどのバリヤーも兼ねているとなると厄介なことこの上ない。

 

「艦長、黒き月の残存艦隊から連絡です。黒き月も同様に消失したと」

「くそっ! 奴らのいいようにやられたってことか!」

 

 アルモの報告にレスターが歯軋りする。

 完全に後手に回ってしまった上に黒き月を奪われたとなると、まるで一年前のエオニアの反乱の二の舞ではないか。少なくとも今分かっているのは、じぶんたちにできることは非常に限られている、ということだけ。

 

「ともかく、エンジェル隊を回収して白き月へ帰還するぞ」

『レスター君、俺はどうすればいいのかなー?』

「アヴァン……お前も来い。艦首収容口を使え。いろいろと聞きたいこともある」

『へいへい』

 

 アヴァンはタクトのギャラクシーの肩を掴んで曳航する。ただその通信回線は閉じたままだった。自分の無力さに打ちひしがれているのか、今は誰とも話したくないのだろう。

 

 

 

 

 通路を駆けるアンスはまさしく疾風であった。並み居るクルーを神速のフットワークでごぼう抜きして飛び込んだのは艦首格納庫。当然狙いはただ一つだ。

 

「アヴァン!」

「呼ばれて飛び出てニョニョニョニョ〜ン」

「わひゃっ!?」

 

 叫ぶ彼女の後ろから登場されて思わず仰け反るアンス。そんな彼女を見てアヴァンはけらけらと笑うばかり。それもまた一年前と変わらない。

 

「まったく、どこから出てくるんですか!」

「いいじゃないか。そんなに怒るとハゲるぞ」

「怒っていませんしハゲません!」

「やっぱり怒っているじゃないか」

「ですから怒って、ない、です……」

 

 言葉を詰まらせるアンスの眼には溢れんばかりの大粒の涙。それを見せまいとアヴァンの胸に顔を押し付けた。その両手はパイロットスーツのビニール地をギュッと掴んで離さない。

 

「勝手に出て行って、いなくなって、私がどんな思いで一年やってきたと思ってるんですか」

「………すまん」

「大変だったん、ですから」

「本当に申し訳ない」

「謝ったって許しません」

「それは厳しいな」

 

 見上げ見下ろす二人の視線が重なった。少しずつその距離が縮まっていく。

 

「えへん!」

 

 後ろからもったいぶった咳が聞こえるまでは。

 

「「え?」」

「二人ともいい雰囲気のところ申し訳ないのですが」

「そろそろ私たちの紹介もしてほしいなぁ」

「こんなところでラブシーンだなんて。恥知らずなのは相変わらずということかしら」

 

 仁王立ちする三人の少女に圧倒されるアヴァンとアンス。

 一人、アヴァンと同じ蒼いロングの髪の大人しそうな少女。

 一人、アヴァンと同じ青い髪をショートにした活発そうな少女。

 一人、金髪で色黒の気の強くてわがままそうな少女。

 

「アヴァン、これはいったい?」

「はっはっは。いろいろあってな、今から説明する」

「説明ですか」

「はっはっは。眼が笑っていないぞ、アンス」

 

 とふざけるアヴァンに食い下がろうとするアンス。そこへ今度はヴァニラとちとせの悲鳴が聞こえてくるではないか。しかもギャラクシーの足元から。

 

「タクトさん、しっかりしてください!」

「フォルテさん、ケーラ先生を呼んでください」

「わ、分かった!」

 

 なにやら騒々しいのはただ事ではないらしい。駆けつけてみると、そこには髪は紫に、肌は青白く変色したタクトがヴァニラの膝の上で横たわっていた。

 

「アヴァンさん、タクトさんが……」

 

 涙を流しながら必死に伝えてくるヴァニラ。横たわったタクトの向かい側ではちとせが錯乱しながらも呼びかけ続けている。

 

「これは……」

「アヴァン、心当たりがあるんですか?」

「ああ。とりあえず医務室へ運ぼう。担架を用意してくれ」

 

 ちょうど都合よくケーラ女医とフォルテが担架を押しながら戻ってきた。すぐさまタクトを乗せて医務室へ。

 

(タクトさん……どうか、どうか)

 

 診察が始まればちとせや他のエンジェル隊は手伝うこともなく蚊帳の外だ。ただヴァニラだけがケーラと共に立ち会っているが、それでもできることなら側についていたいと思う。ちとせも、皆も。

 診断では脳波に若干の乱れがあるものの命に別状はないという。体力さえ回復すれば目を覚ますだろうという話だったが、結局その日タクトが眼を覚ますことはなかった。

 



第十一回・筆者の必死な解説コーナー

 

ゆきっぷう「はい皆様こんにちは。お久方ぶりのゆきっぷうです」

 

ヴァニラ「執筆、遅い」

 

ゆきっぷう「いやはや、もうしわけありません。不徳の致す限りです……って今回は何でヴァニラ? アヴァンでなかったの?」

 

ヴァニラ「いえ。投稿を開始してから一度もあとがきに参加していなかったので、アヴァンさんに代わっていただきました」

 

ゆきっぷう「帰ってきて早々サボりとは、困った息子じゃ」

 

ヴァニラ「親の教育不足」

 

ゆきっぷう「そりゃそうなんだけどね。さて今回はどうするかというとですね、帰ってきたアヴァンが搭乗していた機体ことEMX02COSMO(コスモ)の解説をしていきたいと思います!」

 

ヴァニラ「接近戦仕様の機体のようでした」

 

ゆきっぷう「その通り。本当は別のやつにしようと思ったんだけど、やっぱこっちかな〜と思って。ではいってみよう!(設定資料集を取り出す)

 

 

 

 EMX02COSMO01GALAXYをベースに接近戦および格闘戦を主体とした高機動型EMとして設計・開発が進められていたものだ。エキストラシリーズの二号機であり、最新のロストテクノロジーを駆使して完成した高性能機なのだぁ!」

 

ヴァニラ「それで?」

 

ゆきっぷう「次に機体の細かい仕様について説明しよう。作業中、パーツの損失が多かったため一部ギャラクシーの予備パーツも使用されているんだな。特に左肩の装甲はギャラクシーのものを改造したやつで、正規の部品ではなかったりするのだ。また紋章機に積まれていた重力制御装置『グラビティ・スタピライサー』を試験的に搭載していて、広範囲に稼動する背部のフレキシブル・スラスターシステムと相まって高い機動性と運動性を有しているんだ。

 主武装は金属粒子放射式大型対艦刀『フラッシャーエッジ』。ようするにでかいビームセイバーで、グリップの長さや出力を調整することによって剣と槍の二形態に変形する機能を持ち、さらにビームを遠距離まで放射する『遠当て』も可能だ。最大出力での剣戟は戦艦クラスを一刀両断するほどの威力を持っているぞ。

 ただフラッシャーエッジ自体は稼働時間の短さ(最大十分)が解消できておらず、エネルギー切れ=戦闘不能に陥ってしまう。コスモ本体に接続することで充電することは可能だが、一度エネルギーを使い切るとそのチャージには十分以上かかるため使い勝手が悪く、応急処置として外付けでギャラクシーと同じタイプのビームセイバーを二本携行している。

 使用しているエンジンは改良型クロノ・ツインエンジンということになっている。機体の構造自体がブラックボックス化されているため確認はできないが、これも機密保持という名目上、黙認されている。

 RCSを失ったアヴァンが専用機としてかっぱらっ……もとい受領した、というわけだ」

 

ヴァニラ「対艦刀……シュベルトゲベール……種……」

 

ゆきっぷう「こら、そんなマニアックかつ人気のないネタの連想はやめて」

 

ヴァニラ「分かりました。それにしても」

 

ゆきっぷう「ん?」

 

ヴァニラ「いつも通りに下手な絵」

 

ゆきっぷう「うっさいわい。それもこれもアヴァンが変な注文ばっかりするからだよぅ」

 

ヴァニラ「絵の上手い下手は彼のせいではないと思います。執筆も停滞気味なのですから、もっと効率化を図るべきでは」

 

ゆきっぷう「できれば苦労しないさ。わしの知り合いにメカの描ける人、いないからねー。うんうん、やっぱり自給自足が一番さ」

 

ヴァニラ「できてません」

 

ゆきっぷう「君は俺に恨みとか不満とかあるのか!?」

 

ヴァニラ「不満なら、あります」

 

ゆきっぷう「む、なら聞こうじゃないか。私だって鬼ではない、改善できるのなら取り組もう」

 

ヴァニラ「本当に?」

 

ゆきっぷう「もちろんだとも、さあ言いなさい」

 

ヴァニラ「それでは……まずちとせさんとの関係について」

 

ゆきっぷう「ほうほう」

 

ヴァニラ「ぶっちゃけライバル要らない」

 

ゆきっぷう「わぁ、ストレート……でもその提案は却下。だって話がつまらなくなる」

 

ヴァニラ「では次」

 

ゆきっぷう「淡白だなぁ」

 

ヴァニラ「タクトさんとデートに行きたい」

 

ゆきっぷう「それについては現在俺が98715通りのシチュエーションの中から選考中。ヴァニラはどういうのがいい?」

 

ヴァニラ「タクトさんと決めます。あなたに決定権はありません」」

 

ゆきっぷう「ちょっと待て、一応書いてるのは俺だぞ? その俺になぜ決定権が無いというんだ!」

 

ヴァニラ「日頃の行いが悪いからです」

 

ゆきっぷう「そうかいそうかい。さてそろそろ時間だね」

 

ヴァニラ「その前にもう一つ、タクトさんとの○○なシーンは――――――」

 

ゆきっぷう「わ――――――――――! わ―――――――――――! そんな発言はいけません! っていうかそんなシーンはありません!」

 

ヴァニラ「でも台本に」

 

ゆきっぷう「だ――――――――――! ぎゃ―――――――――! それは言っちゃ駄目――――――――!」

 

アヴァン「ふぅん、いつの間にそんな計画を」

 

アポロ「考えていたんだ? この外道が」

 

アウトロー『ゆきっぷうさん! ボクはそんなこと認めません! 絶対ニ認メマセンッ!』

 

アンス「ああ、アウトローの怒りのあまり口調が元に戻ってる」

 

フォルテ「でも、これはちょっとおしおきしなきゃねぇ」

 

ランファ「宇宙漂流の刑にしましょうよー」

 

ミルフィーユ「ねえねえミント、××って何?」

 

ミント「あらミルフィーさん、それは秘密ですわ」

 

ちとせ「私にはデートイベントだってないのに……ずるいです、ヴァニラ先輩」

 

ノーマッド『そうです! そんな暇があるのなら私を本編に出してくださいよ、いやホント!』

 

ゆきっぷう「あれー? おかしいなー、ちゃ〜んと削除しておいたはずなのにー(棒読み)」

 

レスター「ああ、俺たちのはな。しかしヴァニラの台本だけはできていなかったようだ」

 

タクト「いやー、まいったなー、あはは」

 

ゆきっぷう「待て、落ち着け! 話せば分かる! ってタクト、さりげなく鼻の下伸ばすな! アヴァン、よせ、それは本編に登場する予定のない代物だ! アポロ、正体見せるな正体見せるな! レスター、エンジェル隊を止めろ! 特にヴァニラの好奇心を止めろ!」

 

一同『問答無用! 死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』

 

ゆきっぷう「ぎゃっ! ふぎゃっ! あべばっ!? へぶしっ! げぶふぉっ! へぎぎぎぎぎぎ〜ぃ! がぶぶぶっ! タッチ、タッチ! タッチしてるべぼぁっ!?」

 

タクト「とりあえずヴァニラ、ラウンジでお茶でも飲もう」

 

ヴァニラ「でも、台本の件は――――」

 

タクト「みんなに任せておけば大丈夫だって。では皆さん、また次回までさようなら〜」

 

ゆきっぷう「はぐじゅおうもぬぉうぅ………」(訳:薄情者〜)




アヴァンの復活〜。
美姫 「なかなか美味しい登場ね」
ピンチを救う。
でも、タクトは倒れたぞ。
美姫 「一体、どうなるのかしら」
そして、ヴァニラ、ちとせ、タクトの関係は。
美姫 「続きが非常に気になるわね」
次回も楽しみだぞ〜。
美姫 「次回も待っていまーす」
ではでは。



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