エピローグ
長い戦いが終わり解放軍の者達は皆それぞれの故郷へと帰って行った。戦士達はその功績に相応しい道を歩んだ。
ーイザークー
シャナンの帰還をイザークの国民は歓喜の声で迎えた。正式にイザークの国王となった彼はホリン、アイラの後見を受けラナと結ばれたスカサハ、マナと結ばれたロドルバンの補佐も受け国政に尽力しイザークをグランベルに比肩し得る豊かな国にした。セリスの親友としてシャナンは最後までその名優であり続けた。
リフィスもシャナンの臣下となった。サフィを妻とし盗賊稼業から足を洗った彼はユグドラルを去ろうとしていたシヴァ、シャナムを引き留め改めてシャナンに帰参したのである。リフィスはが外交に、サフィは内政に、シヴァは軍事にその才能を発揮させた。またシャナムはシャナンの影武者としてその名を知られた。
マリータとガルザスも故郷イザークへ戻った。ガルザスは娘が美しく成長し良き妻となり母となっていくのを目を細めて見守っていた。
ーレンスターー
長らく分裂状態にあったトラキア半島はキュアンとエスリンの子リーフの下統一された。王となった彼は王妃ナンナ、常に側にあったフィン、そしてレンスターの遺臣であったゼーベイア、グレイド、セルフィナ、カリオン、ケイン、アルバ、ロベルト等と共にトラキア半島を真の意味で素晴らしい国にした。特にトラキアの発展は素晴らしくかってユグドラルで最も貧しい国と言われた面影は何処にも無かった。
リノアンはターラに戻った。やがてディーンの妻となり幸福な一生を送る。ターラ出身の盗賊パーンは遂にティナを妻とし年貢を納めた。そしてレンスターの外交官として働く傍ら妻が開いた修道学校で働くこととなった。その姿はまるで主夫だったという。ふとしたことでラーナと共に暮らすことになったトルードもレンスター王家に仕える一方で妻と共にこの修道学校によく顔を出した。
ーミレトスー
暗黒教団により壊滅的な打撃を受けたミレトスは今までの都市国家群から統一国家を目指すこととなった。国王にはダインの直系であるアリオーンが望まれた。トラキアに隠棲しようとしていた彼は当初これを頑なに拒んだがミレトスの者達の熱い願いを受け入れ王位に就いた。
王位に就くとまず暗黒教団に被害を受けた者達を救済し次に解放軍の者とトラキアからの家臣達、とりわけ竜騎士団を中心としたトラキアの軍人達を呼び寄せ強力な軍を作った。次にミレトスの者達の中から身分出自に関係無く有能な者達を次々に抜擢し登用した。彼等の大胆な政策を採用し、それがミレトスの国力を高めていった。
後にアリオーンはエダを妻に娶る。二人の間に一組の兄妹が生まれる。この兄妹はやがてトラキアに移り住みそこで戦いで知り合ったある若い騎士と結ばれたアルテナの子供達、一組の兄妹と結ばれる。彼等がレンスターとミレトスの、グングニルとゲイボルグの新たな歴史をつくっていくことになるのである。
ーヴェルダンー
森と湖の国ヴェルダンの王には英雄ジャムカの娘パティを妻としたレスターが就いた。従兄妹同士でもある二人は互いに補い合い助け合い国をつくっていった。その二人を古くからの友人であるディムナやディジーが支えエバンスに戻って来たアミッドとその妻フェミナも助けた。二人の努力と友人達の助けにより当初はその行く末が不安視されていたヴェルダンであったがそれを一笑に付すような発展を遂げた。
ヴェルダンのその姿をジャムカとブリギットは心から喜んでいた。ジェノアに隠棲した二人は自分達の娘が明るく溌剌とした性格で国民に愛され夫レスターを支えているのを目を細めて見ていた。
ーアグストリアー
愚王シャガールの悪政とグランベルによる圧政、そして長年の内乱により疲弊したアグストリアとその国民は自分達を導いてくれる英雄を待ち望んでいた。
英雄はいた。主君を諫め非業の死を遂げた獅子王エルトシャンの遺児であり解放軍でその名を馳せた黒騎士アレスである。
王に迎えられたアレスの下に多くの仲間達が集まって来た。
剣騎士デルムッドとその恋人ジャンヌ、トリスタンと妻レイリア、傭兵時代からの仲間マチュアとブライトン、先の大戦の英雄ベオウルフとデュー、エルトシャンの旧臣イーヴ、エヴァ、アルヴァ等がアレスの下に馳せ参じてきたのだ。
アレスは彼等が来たことを心から喜んだ。そして奮い立った。
アレスは家臣達と力を合わせ国家の再建に打ち込んだ。僅か数年で破綻していた財政と民生を立て直すと以後国力の振興と対外関係の親密化に務めた。その姿にアグストリアの国民は亡きエルトシャン王の面影を見ていたのであろうか。
国家の再建に打ち込むアレスに傍らには常にリーンがいた。ユグドラルで初めての踊り子出身の王妃となった彼女は良き妻として夫を支えた。その功績は誰もが認めるところであった。
またデューはマチュアと結婚した。晩婚と言っても良い歳であったが彼はまだ若々しく皆そうは思わなかった。
ーシレジアー
先の大戦で断絶していたシレジアだがレヴィンの息子であるセティにより復活を遂げた。ティニーを妻に迎えた彼は同じくフリージ出身のリンダを妻としたホークを宰相とし国政に挑んだ。
地味だが堅実で無駄のないその市井をカリンとフェルグス、アズベルとミーシャの二組の夫婦の家臣達が盛り立てた。その他にもセティが登用した中堅の人材達が成長しシレジアの礎となっていった。
兄弟間の王位継承争い、軍の中核であった四天馬騎士間の確執等シレジアは人間の心の負の面に悩まされてきた国であった。しかしそれを知るセティはまず人心の安定を心がけた。まず人の心ありき、それはシレジアの政治の根幹をなしていった。
ーエッダー
エッダの当主はクロードが神器を譲ったことによりコープルが就くこととなった。若いが驚異的な法力を持つこの少年をシャルローとスルーフが補佐した。これにコープルの養父ハンニバルが後見する形となった。彼はミレトスの宰相でもあり今までにも増して多忙な身体となった。だが彼等の働きによりエッダ教団は歴史上かってない規模の大改革を成し遂げることとなる。
なおクロードは妻シルヴィアと共にエッダの塔に入った。暫くしてそこへセイラムとサラの二人がやって来る。クロードはこの二人を快く迎え入れる。やがて彼等はエッダへ行きコープルを助けることとなる。
ーユングヴィー
当主スコピオが退いたユングヴィは神器の継承者であるファバルが当主となった。その妻には雷神と称されたイシュタルが迎えられアサエロとヒックスが補佐役となった。
戦場においてはそのあまりもの強さと恐ろしさで知られたイシュタルであるが一度軍服からドレスに着替えると貞淑で心優しい女性となった。
常にファバルを助け陰ながら支えた彼女をユングヴィの国民は愛した。当主ファバルも妻の言葉をよく聞き意外な程見事に国政を執った。彼も小さな事にこだわらない大らかな人柄が人々に愛された。余談であるがこの二人は実に多くの子供をもうけたが皆父親似であった。
ミデェールとエーディンもユングヴィへ戻った。故郷で彼等は居を構えるとそこで静かな余生を過ごした。今までの激しい前半生が嘘のように落ち着いたゆったりとした幸福な後半生であったという。
ードズルー
ランゴバルト、ダナンと二代に渡って悪名高い当主を出したドズル家であるがブリアンはその悪名を完全に消し去った・
高潔で勇猛な武人として知られる彼は叔父レックスを宰相とし自らの補佐役としてヨハン、ヨハルヴァの二人の弟達を側に置いた。
兼ねてより犬猿の仲と言われてきた二人であったが兄の為ドズルの国民の為協力し合って働いた。彼等の妻ラクチェ、ラドネイ、イザーク以来の部下であるダグダ、タニア、ロナン、マーティ、オーシン、ハルヴァン等有能な人材にも恵まれ二人はドズルの両輪とさえ言われるまでになった。
主君である兄弟達に負けず劣らず仲の悪かったオーシンとタニアであったが驚いた事に結婚した。当主ブリアンが仲人となりかっての仲間達が一同に会した式で花嫁の父はオイオイと大きな声を挙げて泣いたという。
ーフリージー
フリージ家の当主には政戦両略で知られる嫡子イシュトーが就いた。以前より恋仲であったライザを妻に迎え名将ラインハルトを軍の総司令とした。その下にオルエン、フレッド、アマルダ、イリオス、ダルシン等が集った。陰険な謀略家として悪名高かったレプトール、厳格な法治主義により圧政を敷いたブルーム等フリージには重苦しい印象が強かったが彼等の手によりそういった暗鬱な影は一掃された。
主であるイシュトーが愛妻家だったせいか家臣達にもそういった話が多い。とりわけ二組のカップルが有名である。
まずはオルエンとフレッドである。二人がレンスターでイシュトーの下にいた頃より噂が絶えなかったがコノートでの戦いでフレッドが自らの危険をも顧みず彼女を沈みゆく船から救出するということが決め手となった。オルエンの親友かつ宿敵であるパティが面白おかしく言い回ったこともあり話は一同が確信するところとなったのである。ちなみにオルエンはフレッドにいつも子猫の様に甘えていたという。
もう一方は喜劇であった。酒癖が極めて悪いアマルダがイリオスに絡みそんなことが続くうち気が付くと二人共酒の勢いで深い仲になっていたのである。式でもそれは同じであった。式の後泥酔した新婦が自分の部屋で高いびきをかいていたのである。ちなみにこの話で特筆すべきことは山の様な料理と湖の如き酒を全て平らげたいつもの面々であろう。
ーヴェルトマーー
二度の大戦とその原因となる一連の謀議の首謀者として永遠に消えぬ罪を背負ってしまったヴェルトマーはアルヴィスも主立った将達も軍も全て失い後に残ったのは拭いきれぬ悪名と完全に崩壊した国家であった。
そのヴェルトマーの新たな主となったのがアーサーであった。四天馬騎士の一人フィーを妻とした彼は帝国の宮廷司祭であったサイアスの助けを借りつつ国家の名誉回復と国力振興に務めた。自らの運命と歴史に最後まで弄ばれ続け炎の中に落ちていったアルヴィスを生んだこの国は見違える程明るくなった。
若き主の下でその才を遺憾なく発揮したサイアスも後に妻を娶った。相手は何と元アルスターの王女ミランダであった。気の強さで知られる彼女であったが夫を支える彼女からはそんなことは微塵も感じられなかった。コノモールもそれを見て安堵の息を漏らした。
ーシアルフィー
二つの大戦の主役となったシアルフィは主セリスがバーハラで大陸を統べるグランベル王に即位した為セリスの軍師として常に側にあったオイフェが当主となった。
セリスは彼をグランベルの宰相に任じ今までと変わらぬ全幅の信頼を寄せ続けオイフェもそれに応えた。ノィッシュ、アレク、アーダン等シグルド以来の家臣達も主君をよく助けシアルフィはグランベル王国の発展にとりわけ大きな働きをした。それはまるで英雄シグルドの志をその子セリスが実現するのを導くようであった。シアルフィの青は正義の証としてユグドラルに知られることとなった。
口髭で知られるオイフェであるがその整った容姿から美髭公と称されるようになった。当然の様に女性の黄色い声を集めたが彼は一人の女性に対してのみその愛情を注ぎ続けた。
その女性とはシグルドとディアドラの子であり主君セリスの妹でもあるユリアであった。
オイフェの妻となった彼女はその穏やかで心優しい人柄と小柄で神秘的な容姿で知られ夫オイフェと兄セリスによく尽くした。意外なことに政治手腕にも長け福祉に大きな業績を残した。尚あののんびりとした性格は地でありこれにも多くの逸話を残している。
ーバーハラー
大陸の盟主であるグランベル王国の国王には先の大戦の英雄シグルドとヘイムの直系ディアドラの子であり解放軍の盟主を務めたセリスが即位した。バーハラ城で今まで苦楽を共にしてきた仲間達が一同に集う中王冠をその頭に戴いた彼をユグドラルの民衆は熱狂的な支持で迎えた。特に即位式が行なわれたバーハラ城でのそれは二週間に渡り宴が開かれる程であった。
シアルフィ=バーハラ家の当主となりグランベル王国の君主となったセリスであったがその人柄はいささかも損なわれることは無かった。
むしろその統治に良き影響を与えた。アルヴィスの法に基づく平等主義を下地にしながらも寛容と慈愛の心を以って挑み帝国の治世下で虐げられていた多くの者達が救われた。また奴隷制度を全廃し身分や出自に関係なく有能な人材を登用し荒地を開拓し大河を治水し道や港を整備し学校を建てた。そして多くの悲劇のもととなった暗黒教団狩りと異端審問を禁止した。外交は各国との勢力均衡及び友好条約の締結といった現実主義を主体にしながらも聖戦で共に戦ってきた仲間達との友情を大切にしかっての関係を重要視した。これが功を奏しセリスの治世は以降数代に渡ってユグドラルに大きな戦乱は起こることがなかった。百五十年にわたる長い黄金時代の幕開けとなった。
セリスの側にはいつもオイフェとユリアがいた。やがてアカネイアから美しい姫を妃に迎える。極めて聡明な彼女は彼の治政を助けた。二人から生まれた子供達がユグドラルの新たな歴史を作っていった。
さてこの聖戦の重要な人物であった。前シレジア王レヴィンとユリウス皇子の二人であるがバーハラの戦いの後姿を消した。一同が気付いた時にはもういなかった。八方手を尽くしたが何処にもいなかった。
ただユグドラルだけでなくアカネイア、バレンシア等各大陸に緑の髪の賢者と紅の髪の賢者の二人の伝承が多く残っている。
泉を掘り起こし魔物を封じ流行り病を治していった話が各地にある。二人の賢者はその素性を明かすことはなく事が終われば風のように去っていった。何時しか彼等は神とまで称えられることとなった。
だがやがてその二人の賢者は姿を現わさなくなった。何処へ行ってしまったのか誰も知らない。唯アカネイアの北かって魔の司祭ガーネフがいた幻の城テーベのさらに北にある氷に覆われた山々に住む未開の部族の中に一つの伝説が残っている。
氷山の中でも最も高いその山の頂で二人の男が多くの竜達を釣れ光と共に天へ昇って行ったと。
その二人の男が何者か誰にもわからない。だが一つだけ言えることがある。彼等は自分達が行くべき世界に行ったのである。
神々の長い戦いの伝承は終わった。人間達の愛の世界の歴史が幕を開けようとしていた。
ファイアーエムブレム 聖戦の系譜
第一夜 光を継ぐ者
第二夜 砂漠を越えて
第三夜 トラキアの竜騎士
第四夜 誰が為に
第五夜 光と闇と
第六夜 最後の聖戦
完
2004・3・24
遂に完結してしまいました。
美姫 「お疲れ様でした」
長い、長い旅を経て、成長したセリスたち。
美姫 「彼らの旅の物語は、一先ずこれにてお終い」
うんうん。面白かったな〜。
美姫 「堪能したわね」
おう。投稿、ありがとうございました。
美姫 「ありがと〜」
それでは。
美姫 「じゃ〜ね〜」