『チェネレントラ』




  第二幕 宮殿にて


 宮殿に案内されたマニフィコ達はダンディーニに食堂に案内されていた。白い白亜の宮殿に無数の煌びやかなシャングリラが輝いている。彼等はその中で艶やかな服に身を包んでいた。そしてテーブルにそれぞれ向かい合って座り何やら話をしている。
 そしてその中で得意気な顔をしている。とりわけマニフィコは上機嫌であった。何やらダンディーニに話をしていた。それはどうやら講義のようなものらしい。
「ふむふむ」
 ダンディーニはそれを聞いて頷いていた。
「貴方は実に博識であられる」
「いやいや」 
 マニフィコは謙遜する素振りを見せながらもやはり有頂天にあった。
「何処でそれだけのワインに関する知識を手に入れられたのですかな」
「いや、これは」
 彼はにたにたと笑いながらダンディーニに対して言う。
「唯の趣味が高じたものでありまして」
「ほう」
 ダンディーニはそれを聞いて興味深げな顔をした。
「好きこそものの上手なれといいますからな」
「そういうわけではないですが」
「それでもそれだけの知識は素晴らしいものです。これ」
 彼はここで側に立っているラミーロに声をかけた。
「男爵を酒の貯蔵庫に案内するように」
「わかりました」
 ラミーロはそれを受けて頷いた。そしてマニフィコのところにやって来た。
「それでは男爵、こちらへ」
「あの、殿下」
 案内されることのなったマニフィコはここでダンディーニに尋ねた。彼が偽の王子であるということは全く気付いてはいないのであった。
「何故貯蔵庫に」
「これから貴方を試させて頂きます」
 彼はにこりと笑ってそう答えた。
「三十回試し飲みをして頂きます」
「三十回の」
「そうです。それでふらつきもせず、しっかりとしておられれば貴方は酒倉役人です。丁度今開いておりまして」
「酒倉役人に」
 マニフィコはそれを聞いて思わず目の色を変えてしまっていた。
「それは本当ですか!?」
「はい」
 ダンディーニは笑顔で頷いた。
「三十回ですよ。宜しいですか」
「勿論です。是非やらせて下さい」
 そして彼はそれを快諾した。そして席を立つ瞬間にそっと娘達に耳打ちした。
「後は頼むぞ」
「お任せ下さいな」
「期待していてね」
「うむ」
 マニフィコはそこで席を立った。だがここでダンディーニはラミーロを再び呼んだ。
「はい」
 ラミーロはすぐに彼の側に来た。そして耳をそばだてた。
「これで宜しいですか」
 ダンディーニはそっと彼にそう尋ねてきた。無論マニフィコ達には悟られないようにして、である。
「ああ、上出来だ」
 ラミーロはそれを聞いて頷いた。
「それでいいぞ」
「有難うございます。あとは」
「わかっている」
 ラミーロはその言葉に応えた。
「ここは御前に任せるぞ。あの二人をよく見てくれ」
「はい」
 そう答えてティズベとクロリンデに目をやる。
「あの二人のことはお任せ下さい」
「うむ」
「全てを見極めてやるつもりです」
「頼むぞ。だが大体はわかっているな」
「そうですね」
 彼はそれに答えた。
「まああの二人の心は見せ掛けだけのメロンです」
「外見だけか」
「そうでしょうね。才能はがらんどうの型押し器、頭の中は空家となっております」
「上手いことを言うな」
「いえいえ」
 にやりと笑った主に対してそう返す。
「それではここは頼んだぞ」
「はい」
 そして二人は仮の関係に戻った。ダンディーニはラミーロに命じる。
「では案内してさしあげるように」
「はい」  
 こうしてマニフィコはラミーロに案内されて酒倉に向かった。そして後にはダンディーニと二人の娘達が残った。彼はここで二人に顔を向けた。
「これでゆっくりとお話ができますな」
「はい」
 二人はそれを受けて頭を垂れた。
「恐れ入ります」
「いやいや」
 そう言われていささか謙遜を覚えながらも話を続ける。
「それでお話ですが」
「はい」
「貴女方はそもそも姉妹であらせられます」
「はい」
「それは愛の轆轤により回され出来上がったものでありますな」
「御言葉ですが」
 ここでティズベが言った。
「私は長女でございます。それをよく御存知下さいませ」
「いえ」
 しかしここでクロリンデも申し出てきた。
「私の方が若いですわよ」
 そう言いつつ姉の方に顔を向けて得意気に笑う。
「若い方が宜しいですわね、殿下も」
「ううむ」
 戸惑うふりをする。それに乗ってティズベがまた動いた。
「殿下」
 そしてダンディーニに対してまた言った。
「子供より大人の方がものを知っております」
「あら、それは」
 だがクロリンデも負けてはいない。
「塩が欠けた水は味がありませんわ。塩も時間が経つと下に沈んで水には味がなくなりますわ」
「ふむ」
「ですから私に」
「いえ」
 しかしティズベも負けてはいない。
「私の塩は永遠です」
「殿下」
 クロリンデが逆襲に出た。
「私の唇を御覧下さい」
「はい」
「よく御覧遊ばせ」
 そう言ってダンディーニに自分の唇を見せる。
「赤いでございましょう」
「ええ」
「口紅なぞつけてはおりませんわよ。そしてこの白い肌も」
「殿下」
 しかしそこをティズベに突っ込まれる。
「それは白粉のせいですわよ」
 そして言葉を続ける。
「この髪を御覧になって下さいまし。女の命は髪」
「はあ」
「髪に勝るものはありませんわ」
「殿下」
 クロリンデも自分の髪を見せる。
「私の髪は如何でして」
「ううむ」
「では私の歯の白さは」
「爪の綺麗さは」
 二人はもう何が何でもダンディーニを自分の虜にするつもりであった。彼はそれを戸惑うふりをして相手をしながら二人に対して恐る恐るの演技をしながら言った。
「あの、二人共」
「はい」
「何でしょうか」
「もう少し落ち着かれて」
「あっ」
「私としたことが」
 二人はそう言われて我に返った。
「宜しいですか」
「はい」 
 二人は頷く。
「私を信用して下さい。いいですね」
「はい」
「ですからここは私にお任せ下さい」
「わかりました」
 王子にそう言われては流石に頷くしかなかった。ダンディーニはそれを確認した後でまた二人に対して語りはじめた。あえてゆっくりと言う。
「まず」
「はい」
「決めるのは私です」
「はい」
「全てが決まったならお話します。いいですね」
「わかりました」 
 こうして二人を黙らせた。こうして三人はとりあえずこの場の騒ぎを終わらせたのであった。

 三人が食事の間で騒いでいた頃マニフィコは酒倉で上機嫌でいた。ワインを次々と飲みながら周りの者に得意気に語りかけている。
「これは」
「はい」
「フランスのマルセイユ産ですな」
「おお」
「正解です」
「ふふふ」
 彼は次には別の樽のワインを飲んだ。それから言う。
「この甘さに発泡性があるところを見ると」
「はい」
「これはイタリアモデナのものですな」
「何と」
「その通りです」
 周りの者は彼に合わせるようにしてそう言う。
「何とまあ」
「三十の樽のワイン全てを言い当てられましたな」
「どうですかな、私のワインへの目利きは」
 彼はやはり得意そうに周りの者に尋ねていた。
「かなりのものでしょう」
「はい、全く」
「しかも全くふらつかれてはおられない。素晴らしいです」
「生憎ワインは私の血でして」
 彼は語る。
「幾ら飲んでも酔わないのです」
「成程」
「将にワインの為に生まれてきたような方だ」
「左様、これで私の実力がわかりましたな」
「はい」
 ラミーロが答える。
「それでは貴方はこれから酒倉係となって頂きます」
「身に余る光栄でございます」
「そして貴方はこれから酒杯管理担当長官になられ」
「はい」
「葡萄収穫担当責任者になられ」
「何と」
「酒宴担当指導者になられるのです。宮中の酒に関することは全て貴方に一任されることとなりました」
「素晴らしい、何という栄誉でしょうか」
「貴方にこそ相応しいものであります」
「いやいや」
 一応謙遜はしているがやはりマニフィコは得意気に笑っていた。
「胸の中で花火があがったようでございます」
「はい」
「それでは皆様」
 ここで彼は周りの者に対して言った。
「これから私が言うことを書き記して下さいませ。そして」
「そして?」
「それをまた写して頂きたい。そうですな」
 彼は勿体ぶって言う。
「六千枚程。いいですかな」
「わかりました」
 皆頷く。彼はそれを確認してから大袈裟に口を開いた。
「それでははじめますぞ」
「はい」
 ペンを手にする。そしてはじまった。
「我がドン=マニフィコ」
「我がドン=マニフィコ」
 書こうとする。しかしここでマニフィコがまた言った。
「おっと、ここは大文字ですぞ」
「おっとっと」
「危ないところでした」
「気を着けて下されよ。そして」
「そして」
「そしてはいりませんぞ」
「わかっております」
 そういうやりとりを続けながら書く。マニフィコは自分の名が大文字で書かれたのを書くにしてから再開した。
「我がドン=マニフィコは極めて由緒あるモンテフィアスコーネの公爵にして男爵」
「おや」
 それを聞いてラミーロが声をあげた。そしてマニフィコに対して問うた。
「公爵であられたのですか」
「ええ、先祖は」
 彼は胸を張ってそう答えた。事実であるがかなり遠い先祖である。ハッタリだと言っても差し支えはない。
「まあ大したことではありませんが」
 そう言いながら胸を張っているところを見てもハッタリであることがすぐにわかる。だが彼はそれを気にも留めず話を続けるのであった。
「大長官にして大指導者、その他二十に余る肩書を有する者として」
「大長官にして大指導者、その他二十に余る肩書を有する者として」
 貴族は何よりも肩書が重要なのである。マニフィコも殊更にそれを強調しているのであった。
「その権限を大いに発揮し、これを読む者は命を受けるものとする」
「その権限を・・・・・・」
 書き続ける。筆記も楽ではなかった。
「十五年に渡り美味なる葡萄の酒に一滴の水も混合せぬこと」
「十五年に渡り・・・・・・」
「左様、これが重要なのです」
「何故でしょうか」
 ラミーロが問う。
「ワインは純粋に楽しむものなのですから。水なぞ混ぜるのは外道なのです」
「外道ですか」
「少なくとも私はそう考えます」
 彼は真剣な顔でそう答えた。
「本来の味を損なうものですからな」
「そうですか」
 他にも理由はある。悪徳業者を防ぐ為であるがマニフィコはどうもそういうことには関心がないようであった。あくまでワインの味について考えているようであった。
「それではまた言いますぞ」
「はい」
 そしてまた言葉を再開した。
「違反せし時は逮捕し絞首刑とする」
「またそれは厳しい」
「それ程せねばなりませんぞ、これは」
 マニフィコはラミーロに対しそう答えた。
「さもなければ違反者は消えません」
「そういうものですか」
「はい」
 そしてまた言葉を続ける。
「理由は・・・・・・」
「理由は・・・・・・」
「それ故・・・・・・年度・・・・・・」
「それ故・・・・・・」
 そして筆記が終わった。それを見届けてマニフィコは満足気に頷いた。
「それではそれを町中に貼り出すようにな」
「わかりました」
「そして後は」
「そうですな」
 マニフィコは悠然と答えた。
「宴といきましょう、酒場にも繰り出して」
「酒場に!?」
 皆それを聞いて喜びの声をあげた。
「そう、皆で」
 マニフィコは満面に笑みを讃えてそう頷いた。
「わしのおごりでな」
「ううむ、流石は男爵」
「太っ腹ですな」
「いやいや」
 どうやら酒で気が大きくなっているらしい。上機嫌でそれに応える。だがそれだけではなかった。
「まだあるぞ」
「それは何でしょうか」
「ビアストラの金貨だ。それも十六枚」
「本当ですか!?」
「男爵家の名にかけて嘘は言わぬ」
「そしてそれはどうして得られるのでしょうか」
「宴の酒はマラガのワインとする。それを最もよく飲んだ者に授ける。それでよいな」
「はい!」
「男爵万歳!新しい長官万歳!」
「貴方に幸せが訪れますように!」
「ほっほっほ、よいよい」
 彼はそれを聞いてさらに機嫌をよくした。そして皆に対して言った。
「ではこれから繰り出すとしようぞ、仕事も終わったしな!」
「はい!」
 皆マニフィコと共にその場を後にした。だがラミーロだけはその場に残った。
「ううむ」
 彼は去って行くマニフィコの背を見ながら考え込んでいた。だが決して深刻な顔ではなかった。
「妙な男だな、つくづく」
 マニフィコのことについて考えているのは言うまでもないことである。彼がどういった者であるか見極めようとしているのであった。
「根っからの悪人ではないようだが。それにしても」
 そう言いながらその場を後にする。
「変わった男だな。どうするべきか」
 そして王子の間に入った。そこにはダンディーニがいた。二人は落ち着いた雰囲気の部屋の中で話をはじめた。
「そっちはどうだった」
 まずはラミーロが問うた。
「あの二人ですね」
「そうだ」
「また変な者達です」
 彼は口元を綻ばせてそう答えた。
「妙に見栄っ張りで勝気で。悪者ではないようですか」
「そうか」
「どちらも似たようなものですな。ただ結婚されるには考えられた方が宜しいかと」
「それはわかっている」
 ラミーロはそれにすぐそう答えた。迷いはなかった。
「あの二人の父親もな。似たようなものだし」
「そうなのですか」
「ああ。今他の者を連れて宴に出ている」
「はあ」
「あれだけ飲んでもまだ飲めるらしい。それはそれで凄い話だが」
「というと三十樽の酒を全て飲んだのですか」
「そうだ」
「それでまだ。まるで化け物ですな」
「東洋では蛇がそれだけ飲むそうだな」
「そうなのですか?」
「大蛇がな。日本ではそうらしいぞ」
「ここは日本ではありませんからな。さしづめ酒の神ディオニュソスといったところでしょうか」
「そういうには品がないがな」
「それはそうですが」
「まあそれはいい。それでだ」
「はい」
「私の妃だが・・・・・・」
 それについて言おうとしたところで例の二人の娘達が部屋に飛び込んで来た。そしてダンディーニの左右に張り付いてきた。
「ねえ王子様」
「はい」
「どちらになさいますか」
「どちらと言われましても」
 やはりここでも戸惑う演技をしていた。
「お一人としか結婚できませんし」
「それはわかっております」
「そして残られた方は」
「はい」
 二人はそれを聞いてゴクリ、と息を飲んだ。緊張が二人の間だけに走った。
「私の従者と結婚されては如何でしょうか」
「どうも」
 ラミーロは紹介されて恭しく頭を垂れてみせた。
「彼も丁度妻となる女性を探している頃でして」
「えっ・・・・・・」
 二人はそれを聞いて言葉を失った。
「彼も貴族ですよ」
 ダンディーニは微笑んでラミーロをそう紹介した。
「由緒正しい。ゆくゆくは私の片腕をなるかも知れません」
「けど・・・・・・」
 二人はここで顔を向け合った。そしてヒソヒソと話をはじめた。
「どう思う、クロリンデ」
「どうって言われても」
「確かにハンサムよね。育ちも良さそうだし」
「それはそうね。けれど王子様じゃないわよ」
「よくて伯爵位かしら」
「そんなところじゃないの」
「私達から見ればそりゃ玉の輿だけれど」
「王子様と比べたらねえ」
「そうよねえ」
 相も変わらず取らぬ狸の皮算用であった。ラミーロとダンディーニはヒソヒソ話をする二人を横目で見ながら自分達も話をはじめた。
「面白いことを言ったな」
「有難うございます」
 ダンディーニはラミーロにそう答えてにこりと笑った。
「また面白いことを考えているようだな、あの二人は」
「ええ。見ていて飽きません」
「全くだ。これは後々まで話の種になる」
「そうですね。しかし話は何時か終わりがあるものですからこの喜劇も終わることでしょう」
「問題はどういう終わり方をするかだな」
「ええ。面白い結末といきたいものです」
「うむ」
「殿下」
 ここで一人の従者が部屋に入って来た。彼はラミーロに向かおうとしたが気付いてダンディーニに向かった。
「どうした」
 ダンディーニはそれを見て鷹揚に応える。
「アリドーロ先生が戻られました」
「そうか」
 彼はそれを受けてラミーロに顔を向けた。
「先生が戻られましたな」
「うむ」
 彼は頷いた。そしてダンディーニにまた何か囁いた。
「わかりました」
 彼は答えると従者に顔を向けた。そして言った。
「すぐにこちらにお連れしてくれ」
「はい」
 従者は頭を下げてそれに従った。そして彼はアリドーロを呼びに向かった。ティズベとクロリンデはそれを見て話を止めてダンディーニに顔を戻した。
「殿下」
「はい」
「そのアリドーロという方はどなたなのでしょうか」
「私の師です」
 彼はそう答えた。
「師」
「そうです。先生です。幼い頃より私を教え導いて下さった方でして」
「はあ」
「私の第一の助言者です。あの方なくして私はないでしょう」
「それ程までに素晴らしい方なのですか」
「その通り。さあ、来られましたぞ」
 そしてアリドーロが部屋に入って来た。貴族の服を着ている。彼はダンディーニの前に来ると恭しく頭を垂れた。それから申し出た。
「殿下」
「うむ」
 ダンディーニは鷹揚に頷く。
「大広間に来られませんか。素晴らしい方が来られまして」
「素晴らしい方が」
「はい」
 アリドーロはここでにこりと笑った。
「さる貴婦人が来られたのです。顔をヴェールで覆われて」
「貴婦人!?」
 それを聞いてティズベとクロリンデが思わず声をあげた。
「ほう」
 ラミーロとダンディーニはそれを横目で見て笑った。
「どうやら気になるようだな」
「ライバル出現とでも思っているのでしょう」
「だろうな」
「そして」
 ティズベとクロリンデは二人のそんな目にも気付くことなくアリドーロに聞いた。
「その貴婦人はどなたですの!?」
「それは言えません」
 彼は素っ気無くそう答えた。
「残念ながら」
「そうなのですか」
「一体誰なのでしょう」
「それはすぐにわかることです」
 彼はそう答えた。
「それでは皆様行かれますか」
「殿下、どうなされます」
「そうだな」
 ラミーロに問われ考える演技をした。それから言った。
「よし、行こう。大広間だな」
「はい」
「それでは行こう。さて」
 彼はここでティズベとクロリンデに顔を向けた。
「貴女方はどうされますか」
「私達ですか?」
「はい。何でしたらこの部屋で休んでおられてもよいのですが」
「いえ」
 だが二人は彼の申し出に首を横に振った。
「私達も御一緒させて下さい」
「よいのですか?」
「構いませんわ」
「そうですわ、どれだけ素晴らしい方なのか是非共御会いしたいですし」
「無理をしているな」
 ラミーロとダンディーニはそれを聞きながらほくそ笑んだ。
「さらに面白いことになりそうだ」
 しかしそれは決して言わない。そしてアリドーロに従い大広間に向かった。ティズベとクロリンデも後について行く。こうして彼等は大広間にやって来た。
「おお、殿下」
 先程の従者がダンディーニ達を迎えた。
「よくぞおいで下さいました」
「うむ。ところで」
「わかっております」
 従者は笑みで彼に応えた。
「あちらにおられますよ」
 そこには白と金の美しいドレスに身を纏った女性がいた。ドレスの上からとはいえかなり素晴らしい容姿の持ち主であることがわかる。そして気品も漂っていた。
 だが顔は見えない。しかしそれでも彼女が素晴らしい貴婦人であるということがわかった。
「彼女が」
「ええ」
 アリドーロは頷いて答えた。
「あの方がです」
「そうか」
 ダンディーニは了承した。ラミーロはそのすぐ後ろでその女性を見ていた。そして胸の鼓動が速くなるのを感じていた。
「これはどういうことだ」
 彼はそれを不思議に感じていた。
「何故彼女を見ただけで胸がこれ程。何かあるというのか」
 だがそれが何故かはまだわからなかった。彼はただその貴婦人を見詰めるだけであった。
「ううむ」
 ダンディーニも見惚れていた。そして彼は貴婦人に対して語り掛けた。
「ヴェールをかけているとはいえ何という美しさだ」
 彼女はそれを受けて頭を下げた。だが一言も発さず、物腰も静かなままであった。
「もし宜しければ」
 ダンディーニはさらに言った。
「そのヴェールを取って頂けぬでしょうか」
「わかりました」
 彼女は一言そう答えた。そしてヴェールを外した。中から金色の髪と青い瞳を持つ麗しい女性が姿を現わした。
「おお・・・・・・」
「何と・・・・・・」
 皆その姿を見て思わず息を飲んだ。想像していたより遥かに素晴らしい顔立ちであったのだ。
 とりわけラミーロの驚きようはすごかった。彼はその女性の顔を一目見るなり完全に心を奪われたようであった。
「何と美しい・・・・・・いや、あれは」
 ここで彼は気付いた。
「彼女か。まさかと思うが」
「ふむ」
 アリドーロはそれを横目で見ながら会心の笑みを浮かべていた。
「私の目に狂いはなかったようだな。殿下はあの娘に心を奪われられている」
 そしてそれは他の者、そうティズベとクロリンデも同じであった。彼女達もその貴婦人から目を離していなかった。
「見た、あの美しさ」
「ええ」
 彼女達はそう言って頷き合う。
「あんな綺麗な人ははじめて見たわ」
「私も。一体誰なのかしら」
 二人は貴婦人を見ながらそう囁いている。そしてふとクロリンデが気付いた。
「ねえ姉さん」
「何?」
「あの貴婦人だけれど」
「うん」
 それから何か言おうとした。しかしここで新たな客がやって来た。
「殿下」
 マニフィコであった。彼は酒に酔いながら上機嫌で部屋に入って来た。一礼してから入るのは忘れないのは流石に守ってはいたがかなり砕けていた。元々の地であろうか。後ろには先程彼が連れて行った者達がついてきている。皆顔が赤いところを見るとかなり飲んでいるようである。
「宴の用意ができておりますが」
 早速仕事に取り掛かっていたようであった。彼にとってはそれが仕事であると共に趣味であるようであった。
「ん!?」
 だが彼はここで気付いた。目の前にいる貴婦人のことに。そして彼女に目を奪われた。
「何と美しい」 
 その顔に見入る。だがここでふと気付いた。
「待てよ」
 その顔を何処かで見たと思ったのだ。そして考え込んだ。
「そんな筈はない。彼女は今家にいる筈だ」
「御父様」
 そこへティズベとクロリンデがやって来た。二人は父に声をかけた。
「どう思う、あの人」
「おそらく御前達と同じだ」
 彼はそれに対してそう答えた。
「あまりにも似ておるな」
「そうよね」
「本当にそっくり」 
 二人もそれに対して頷いた。そしてまた言った。
「けれどここにいる筈はないし」
「そうだ」
 マニフィコはその言葉に同意した。
「しかもあれの服といえばどれも灰まみれでボロボロのものばかりだ」
「間違ってもドレスなんか着れないわ」
「そうよね、何かおかしいわ」
「そうだな」
 三人はヒソヒソとそう話をしていた。貴婦人はそれを気付かれないように横目で見ている。
「半信半疑ね」
 内心そう思うとおかしかった。だがそれは決して顔には出さなかった。ラミーロはやはり彼女から目を離さない。そしてアリドーロにそっと囁いた。
「聞きたいことがある」
「はい」
 アリドーロはにこりと笑ってそれに応えた。
「まさかあの貴婦人は」
「ええ、わかっておりますよ」
 彼はそれに頷いてみせた。
「殿下の思っておられる通りでございます」
「ふむ、そうか」
 彼はそれを聞いて頷いた。
「そうだったのか。先生」
「はい」
「よくぞやって下さいました」
「いえいえ」
「彼女が私の・・・・・・」
「おっと殿下」
 だが彼はここでラミーロの言葉を遮った。
「まだまだ舞台は続きますぞ。全てが終わってからでも宜しいでしょう」
「それもそうか」
「左様です。それまでゆっくりとお楽しみ下さい」
「ではそうさせてもらうよ」
「どうぞ」
 そして彼等は戻った。ダンディーニも乗っていた。
「さて、皆さん」
 彼は一同に語り掛けていた。
「それでは食卓へ参りましょう。そして心ゆくまで楽しみましょう」
「はい」
「是非とも」
 皆それに頷いた。つい先程までマニフィコと一緒に飲んでいた者達もである。顔は赤くなっているがまだまだ飲み足りないようであった。
「そなた達も一緒にな」
「はい」
 ダンディーニはここでその従者達にも声をかけていた。この国では宴は身分を問わず参加してもよいのだ。その方が楽しめるからであると共に王家の懐の広さを宣伝する意味もあった。
「それでは殿下、こちらへ」
「うむ」
 彼は従者に案内されながら頷く。そして歩きながら考えていた。
「今日はたっぷりと楽しませてもらうか」
 これからの食事や酒のことを考えると自然と口元が緩んできた。
「四人分は食べさせてもらうとするか」
 そしてそのまま向かう。後に他の者が従う。
「さて、貴女も」
 ここでアリドーロが貴婦人に声をかけた。
「はい」
 貴婦人はそれに頷く。そしてアリドーロに案内されて宴の場に向かう。
「先生」
 ラミーロはまたアリドーロに声をかけた。アリドーロはそちらに顔を向ける。
「いよいよですね」
「はい」
「これから」
「そう、これから」
 彼はラミーロに言ってそう頷く。
「第二幕の幕開けといったところですかな、ほほほ」
 そう含み笑いをした。そして進む。マニフィコと二人の娘達も当然一緒だる。彼等はまだヒソヒソと話をしていた。
「やはり似ておるな」
「そうよね」
「全くだわ」
 三人はそう話し込んでいる。
「けれどここにはいない筈よ」
「そうそう、家に残っているんだから」
「そうじゃよな」
 三人はそこで頷き合った。
「だからあの貴婦人はチェネレントラではない。しかし」
「引っ掛かるわね」
「全く」
「それに嫌な予感もするのう」
 マニフィコはここで暗い顔をしてそう言った。
 そう言いながらも一行は宴の場へ向かった。そしてとりあえずはその宴を楽しむのであった。だがそれは新たな宴の幕開けに過ぎなかったのだ。





ほうほう。
美姫 「さてさて、一体どんな幕が開くのかしらね」
うーん、楽しみ〜。
美姫 「魔女が出てこないけれど、立派に変身(?)をしたわね〜」
うんうん。さてどうなるかな〜♪
美姫 「次回も楽しみにしてますね〜」
ではでは。



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